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嵐吹くカルムタ町

嵐吹くカルムタ町


タマロンが引く竜車は、スピードをあげるためにタマルの荷台ではなく、現在は標準サイズの馬車荷台を引いている。

一刻も早い到着を目指して小さなサイズの荷台をアーノック家に用意してもらったのだが、荷台というよりは豪華な御車であり、乗り心地はタマルの荷台より遥かに良いものであったが、四人乗りの御車に三人が乗り、さらに緊急事態に備えたハイポーション20ケースを乗せた乗車席はかなり狭く感じられた。


「くそう、むさい、むさ臭過ぎる......何か気が紛れる話を......そうだ、カルムタ町ってな、どんなとこなんだ?」

座席は二人席が向かい合っていたのだが、エステルの隣はハイポーションのケースで埋まっていたため、カイトは仕方なく筋肉の塊の隣に座していた。

ちなみに、タマルは操者席、小春はタマロンに跨がっており、会話には参加していない。

「カルムタ町はですな、簡単にいえば魔鉱石の発掘で発展した町ですな。」

「ま、マコーセキ?」

「あら?カイト様は魔鉱石を知らないのですか?」

「おう、知らん。」

「まぁ......。」

「......当主様の仰るとおり、カイト様には常識が欠けておられるようですな。」

「アイツ......どこまで人の悪口言ってやがんだ。」

「まぁまぁ、当主様は嘘が付けないご性分でございますからなぁ。」

指の骨を鳴らしてフランツへの怒りを口にするカイトをアルファルドが諫める。

「よろしいでしょう、不肖このアルファルドがご説明差し上げましょう。

魔鉱石というのは簡単に言えば、魔力を宿した鉱石のことをいうのです。魔鉱石は武具の強化だけに収まらず、生活をより豊かに、便利にするためのエネルギー源なのですぞ。」

「あん?どーゆーこった?」

「魔鉱石に秘められた魔力を生活に役立てている、ということなのです。例えば料理に使う火、夜道を照らす灯り、排水や治療。ポーションはその一例ですな。魔鉱石はもはや生活には欠かせないものなのでございますぞ。

ちなみに、この御車も振動緩和のために魔力が使われております。」

「へぇ、そんな便利なもんなんか」

「えぇ。約140年前、魔鉱石に秘められた魔力を抽出・貯蓄・利用する技術をとある錬金術師が発明しましてな。それから目覚ましい技術の発展を繰り返し、現在に至るのでございますな。

そして、約120年前に当時まだ町でなはく村落であったカルムタ近くで、大量の魔鉱石が眠る山が発見されましたのです。

そのカルムタで当時鍛治職人をしていたのがライト家で、鉱山の発見者だったのですぞ。」

「私の夫のお家ですよ?」

エステルが補足してくれた。

「ライト家は鉱山で得た魔鉱石を足掛かりとして、鍛治商から手を引き、鉱石商に手を伸ばして財を成されました。ライト家の発展は村落の発展に繋がり、数十人の村落から町に発展なされ、さらに膨大な量の魔鉱石を発見した功績を讃えられて爵位を授かりましたのですな。」

「ん?そんじゃぁ貴族様ってことかよ?」

「えぇ、その通りでございます。」

「んでも、エステルちゃんの旦那って鍛治やってる的なこと言ってなかったか?」

「はい、私の夫フィリップは三人兄弟の末っ子で、商会には携わらずに本来一族の家業であった鍛治を営んでいますのよ。」

「ふーん、そうなんだ。」

「魔鉱石を武具に組み込む技法が優れるって、夫の技術は結構評判が良いのですよ!うふふ♪」

夫の話を喜んでするあたり、エステルの夫への愛情が表れている。

「ふーん......しかしあれだな、悔しいけどよ、エステルちゃんは随分と旦那に惚れてんだな」

「やだぁ~、カイト様ったら!」

赤い顔をしながらエステルがカイトの腕をビシバシ叩く。その重さは顔とは裏腹にかなり重かった。

「あだだっ!......しかし、これだけべた惚れなんだ、フィリップとやらはさぞカッコいいんだろな!」

美形のエステルが惚れるくらいなのだから、夫は兄のような美形なのだろうとカイトは検討をつけた。

「えへへ!私には勿体ないくらいの旦那様ですよ!でも、まだヤンチャなところがあって......無茶をしてなければいいんですが......」

エステルは笑顔を見せるが、すぐに顔を曇らせた。

「......安心しな。エステルちゃんみたいなカワイコちゃんを悲しませるよーな旦那じゃねーんだろ?」

「......はい。」

カイトの言葉に頷くが、エステルは手をぎゅっと握ったままだった。

「そろそろ町が見えてきますぞ。」

カイトが御車の窓から外を見ると、小高い丘から見下ろす町は、岩山の麓に所狭しと並び立ちながらもきちんと区画が整った町の印象を受けるが、活気がまるで見当たらない。

それもそのはず、町は人の姿が全くないゴーストタウンと化していたのであった。


「こ、これは何があったんすかね!?」

町の異変を感じてタマロンを町の外に止め置き、徒歩で町に向かった一行を待っていたのは、血糊や武具が巻き散らかされた町門であった。

明らかに戦闘の後であり、血糊や武具が散らかる様子から、戦闘は激しいものと予想がついた。

「や、野盗とかっすかね......」

「野盗ごときでこの有り様は考えにくいですな......」

タマルの予想をアルファルドは否定する。

「カルムタ町に押し入ることは村落に押し入るのとはワケが違います。ここにも町の規模に準じた人数の常駐外守がいたはずですから、野盗ごときでこのような事態になり得ることはないのですが......しかし、これは一体......?」

「フィリップ......。」

青い顔をする三人には加わらず、カイトと小春はより状況を把握するため、辺りの様子を伺っていた。

「うげ、血とかかなりグロいな......おい小春、何か分かるか?」

「......ふむ、この臭いは......魔獣じゃな」

「マジュウ?」

「うむ......しかも大量じゃ。」

「その魔獣ってのはヤバい奴、なんだよな?」

「一匹や二匹いたところじゃ凡族が束になれば始末は難しくなかろうがのう。この鼻が曲がりそうな臭いの強さは、かなり多いぞな」

「多いって、どんくらいだよ?」

「百は越えとろうな」

「束にならなきゃやべー奴が百だと!?」

「うむ。しかし、おかしいのぅ?魔獣は理性を失った、もしくはそもそも備わっていない獣のことじゃ。本能のままに喰らい、闘争する。

つまり、群れることは考えられんのじゃ。同族ですら食い合う輩じゃからのぅ...」

「しかし、現に大群でいるんだろ?」

「ふむ、そうなのじゃが......」

小春が顎の下に手を置き考えこむポーズをとる。

「う、うわーっ!!か、カイさん!!こ、こっち来て下さいっす!」

すると、タマルが慌てた声をしてカイトを呼び立てた。

「何だ何だ!?」

急いで声の方に向かうと、町門の内側にいたタマルが腰を抜かしていた。

「おい、どーした!?」

「か、カイさん、そこ!門の陰に......」

門の内側の陰をタマルが指を指しす。

「何だよ、一体何が......こ、こりゃあ......」

指し示した場所には、騎士だったと思われる死体が転がっていたのだが、死体にはほとんど肉が残っておらず、骨と血糊だけの無残な姿がそこにあった。

「グ、グロ過ぎんぜ!なんだよこの死体は!?まるで食ったみてーな......まさか......」

「食っとるな、間違いなく。」

あまりの光景に口元を押さえていたカイトの脇から、平然と死体を見下ろす小春が結論を口にした。

「食ったって、やっぱり魔獣かよ?」

「うむ、そう考えるのが妥当じゃろうな。

......ここは危険じゃぞ?どうするんじゃ?」

「どーするって......」

危険は避けたいところではあったが、ここまで来てこの惨状を見て、何もせずに戻ることはカイトには躊躇われた。

「......そうだな、オッサンとエステルちゃんは一旦戻って助け呼んでもらって、俺らで生存者探すってとこかな」

「戦力を分断するのは好まぬが仕方なしじゃ......む?臭いが強くなる!来るぞな!」

「な、何ぃ!?魔獣か!?くっ!お前ら、集まれ!!」

カイトが他の三人を呼び掛けるが、それと同時にドドドと地響きのような音が聞こえてきた。

「な、何すか、この音は!?」

「魔獣だ!魔獣が来る!」

「えっ!?ま、魔獣っすか!!」

「魔獣ですと!?魔獣が町を襲ったということですかな!?」

「す、すごい音ですわよ!?」

「いーから、早く来い!!」

五人は町門から鉱山へ向けて走り出した。

初めて訪れた町でどこを目指して逃げて良いのか分からず、とにかく高い場所があれば避難したいところであった。


しかし、音はどんどん大きくなり、さらに獣の声も聞こえてくるようになってきた。

「カイさん、どこに逃げるんすか!?」

「バカヤロー、俺だって分かんねーよ!とにかく走って高いとこ探せ!」

「わ、私、駆けっこ苦手なんです!」

「何だとーっ!?えーい、下心はねーからな!」

「きゃ!か、カイト様!?」

否セクハラ宣言をしたカイトはエステルをお姫様抱っこして駆け出した。

「カイさん、合法セクハラとは考えたっすね!」

「カイト様、不埒な真似が過ぎますぞ!」

「最低じゃの......」

「こら、てめーら!セクハラと決めこんでんじゃねー!!」

カイトを追い掛けるように、三人は駆け出しながらも、カイトへの糾弾はしっかりとしていた。

ちなみに、小春は宙に浮かんで移動している。

「小春ちゃん!魔法使っちゃダメって!」

「おい小春!ズルっこしてんじゃねー!」

「ふん、こんな初級は魔法にも入らんわ」

「いや、現代人は飛べないっすから!目立ちまくりっすから!!」

「カイト様......小春ちゃん、浮かんでません?」

「え?い、いや~、浮かんでも、飛んでもいねーよ。トリック的なもんがあってだな、うん、あ、そうそう、魔女っ娘ですらねーから!」

「え?魔女?」

「お嬢ちゃんが魔女ですと!?」

「カイさん、地雷踏みまくりっすー!!」

「......アホじゃな」

「うるせー!とにかく走れー!」

大騒ぎする一行は、噴水がある広場にたどり着いた。

噴水は直径10メートルくらいありそうな大きなもので、中心にツルハシを握る全身石像が立っていた。石像は高さ3メートルくらいの台座に立ち、ツルハシを虚空に向けて振り下ろそうとしている場面のようだが、その大きさが5メートルはありそうな巨大なものだった。

そして、噴水広場に着くと同時に、後方から迫り来る獣の声や足音が間近に感じれるほど、魔獣の群れが迫ってきた。


「まずい、もはや追い付かれるぞよ!」

「ちっ、仕方ねー!タマルとオッサン、エステルちゃんは石像の台座に登れ!下は俺と小春で何とかする!上から援護してくれ!!」

「畏まりましたぞ!」

「分かりました!」

「了解!って、俺は一体何を......?」

外法を使えるエステルとアルファルドは援護できるであろうが、タマルは遠隔攻撃どころか直接攻撃すらできない。

「お前は台座に登ろうとする魔獣を対応しろ!オッサンはどーでもいーが、エステルちゃんには魔獣に指一本触れさせんな!」

「どうでもとは......シクシク。」

「りょ、了解っす!!あ、アルファルドさんも余裕あれば守るっすから!えーと、武器武器......はっと......」

アルファルドをフォローしつつ、タマルは落ちている武具のなかから、迷った末にリーチの長い槍を選んで台座によじ登った。

「来たぞ!」

エステルがアルファルドに抱えられて台座に足を着くと同時に、町門方面から四つ足の獣の大群が殺到してくる。

獣は、大型犬よりやや大きく、灰色や黒色などくすんだ毛並みをしており、獰猛さを示すような大きく鋭い牙と爪を備えている。

しかし、驚くべきは個体の獰猛さではなく、圧倒的なその数であった。

殺到する魔獣たちは噴水を囲むようにカイトら一行を包囲するが、一定の距離を挟んだ魔獣の群れはほとんど広場を埋め尽くしている。


「くっ、どんだけいやがんだ、このワン公どもは!」

「ふむ?これは些か想像と違っておるのぅ......」

いつでも右目に集中できるように意識しながらカイトが魔獣を一瞥するが、小春は何か違和感を感じていた。

「あぁん?違うとは、どーゆーこった?」

小春と背中合わせになりながら魔獣を警戒するが、魔獣は唸るばかりで今のところ襲いかかってこない。

「魔獣というには違和感がある、というということじゃ。」

「だから、その内容は!?」

「話は後じゃ。とにかく、今はこ奴らを追っ払うことが先決じゃ。......舐められるなよ、こ奴らは所詮ケダモノじゃ。目を反らしたら一気に来るぞな!」

「ちっ、分かったぜ、要はガンのくれ合い飛ばし合いだな!」

小春の言った意味は気になるところであったが、それどころでない状況であることも間違いなかったため、カイトは気合いを込めた目線を野獣の群れに向ける。

「......!?キャインキャイン!!」

「あぁ?」

カイトの目線に気付いた数匹がビクンとしたと思ったら、怯えた声を上げて逃げて行った。

「何だ何だ?ビビって逃げてんのか?」

「ケダモノをビビらせるとは、主、ケダモノ以上じゃの」

「おい!それ褒めてねーだろ絶対!!」

「とにかくこ奴らにガンを飛ばしまくるのじゃ!真のケダモノ王よ!!」

「どんだけ数いると思ってんだ!?あと変な称号いらねー!!」

そう言いながらも、カイトは群れのあらゆる方向にガンを飛ばしていく。

するとやはり、目が合った魔獣が悲鳴のような鳴き声を上げて逃げて行った。

しかしそれでも群れの数は膨大であり、いくらケダモノ王の称号を得たカイトの目線といえども圧倒的な数には追い付くものではなかった。

「分かっておろうが、この膠着が崩れたら、こ奴らは来るぞな!」

「わーってるよ、ガンガン飛ばしていくぜ!

おらおらぁ!やんのか、てめーら!!」

ズボンのポケットに手を入れながらガンを飛ばすその姿は、動物を虐めるチンピラにしか見えなかったが、小春は突っ込まないでおいた。

「す、すごい迫力ですね......さすが、お兄様のご友人です!」

「感心するところかどうか些か疑問ではありますが、この緊張状態のうちに打開策を考えねば......。」

「ぅわぁぁあ、か、カイさん!こ、こっちに魔獣がー!!」

カイトとは逆の方角にあたる台座で槍を構えていたタマルの方に魔獣が殺到し、体を重ねて台座に登ろうとしており、タマルがそれを槍で突っついて阻止するが、数に追い付かない状態であった。

「バカヤロー!んな情けねー声出してんじゃねー!ワン公がそっちに固まっちまうぞ!!」

「そんなこと言ってもっすねー!!うわぁ!この!このーっ!!」

タマルが防衛陣の綻びと悟られたのか、タマルの方に魔獣がどんどん増えていく。

「ちっ!小春!タマルを援護しろ!」

「仕方ないの!......しかし、解せぬ......。」

タマルの援護に向かいながらも、やはり小春には違和感が拭えないでいたが、とにかくタマルの元に集まる魔獣の排除が最優先であった。

「全く、ケダモノ相手に小春日和のデビューとは些か不満ではあるが、仕方なし。......ケダモノ共よ、刮目せい。古の魔女の力をな!」

タマルの元に群がる魔獣の真上に飛来した小春は、虚空から小春日和を手にし、呪文を唱え始める。

「Ёξ、ξ、......БΠΚ......λ?」

「あ、あの呪文は!?」

「聞いたことのない言語ですな......」

禍々しいオーラが小春を包み始めるが、詠唱が止まってしまう。

「......」

「そして、あの禍々しいオーラは、純粋魔力では!?」

「あれが、純粋魔力......!じゃあ、やっぱり小春ちゃんは魔女ちゃんってこと?!まさか、お伽噺の魔法が!?」

期待度がうなぎ登りの二人であったが、

「......ダメじゃ、やはり思い出せぬ。」

ズコー!

頭をトントンする小春に、エステルとアルファルドがずっこけた。

「小春!おめー認知症だからって、この緊急事態にリハビリしてんじゃねー!!

小春日和に殺意注入するアレやれ!」

「う、うるさいのう!分かっとるわい!」

赤い顔をしながら小春は小春日和に力を注入すると、小春日和が禍々しいオーラを放ち始めた。

しかし、以前の『常夜の兆し』の時と比べてかなり出力が弱いように感じられた。

「おい小春!モヤモヤが少なくねーか!?」

「むむ、仕方ないのじゃ!小春日和はデビュー戦で緊張したるのじゃ!」

「なんだそりゃ!?たかが枝だろーが!」

「ただの枝じゃないわい、小春日和じゃ!

それにこ奴らケダモノにはこれで十分じゃわい!!」

そう言って不適な笑みを漏らす小春が小春日和を眼下の魔獣に向けて振り下ろすと、数匹の魔獣が吹っ飛んでいった。

「どーりゃぁー!」

「ギャゥウゥン!!」

「おいおい、すげーな・・・っつーか、よくもあんなの俺に向けてくれたなアイツ......っと、こっちもかよ!」

出力が下がっているようには全く見えない小春の攻撃に冷や汗を流していると、カイトの元にも魔獣が殺到してくる。

カイトは右目に集中し、魔獣の牙や爪をかわしながら、魔獣の体に拳や蹴りを放つ。

目まぐるしく襲い掛かる魔獣の攻撃は、寸分の油断を許さないほど、苛烈なものであった。

「アルファルド!私達も援護するわよ!」

「畏まりましたぞ!」

「光の精霊よ、この私にあなたの力を与え賜え!ライトアロー!!」

「水の精霊よ、このアルファルドめにあたなのお力を与え賜え!氷塊レイン!!」

「ギャウゥウン!」

「エステルさんもアルファルドさんもすごいっす!」

数多の光の矢が、氷の礫が魔獣に降り注ぎ、魔獣の悲鳴が広場に広がった。

こうして、一行と魔獣軍団の緒戦が始まった。


「おらぁ!はぁ、はぁ、くそ!キリがねーぞ!」

魔獣を蹴り飛ばしながら、カイトが息を漏らす。魔獣を殴り過ぎて拳の骨が痛み始めてきたことから、先ほどから蹴り中心の攻撃となっている。

しかし、蹴りは威力が高く自己ダメージが少ない分、動作が大きく疲労も激しい。

「......やはり、おかしいのぅ!」

眼下の魔獣を小春日和で叩きながら、小春が疑問を口にする。

「何が......うわ!おかしい......うへっ!んすか?!うひゃぁ!」

台座にのぼろうとする魔獣を叩き落としながらタマルが小春に疑問を投げかける。タマルの足元は傷だらけになっているが、弱音を吐かながらも善戦していた。

「ダメージを負った魔獣を仲間が後方へ連れて行っとる......そりゃ!それに......どっせい!こ奴らの動き......どぅおりゃ!理性を失っとるケダモノの動きではない!」

「おらぁ!確かに、こいつらは統率された動きを......どらぁ!してやがる......でぇえい!それにこいつらの目は狂ってなんかいねー。感情さえ......おらぁ!感じるぜ」

止まない攻撃を迎撃しながら、三人は会話を成している姿にエステルが称賛する。

「皆さん、すごい!戦いながら......ライトアロー!お話をされるなんて......ライトアロー!!私には真似できないことだわ・・・ライトアロー!ね、アルファルド?」

「戦闘中に天然ぶりを発揮させるお嬢様も大したものですぞ!......氷塊嵐!!しかし、じり貧ですかな......」

外法を使う二人にも疲れが見え始めてきたが、

「......さすがに向こうさんもビビってきたかよ!」

広場を埋め尽くす魔獣の数は減る気配がないが、波状攻撃の勢いが削がれてきた感があった。

しかし、その時、

「グァオォオオーン!!」

群れの奥から、一際大きく太い咆哮が広場一面に響き渡った。

「う、うわぁ!?何すか今のヤバい遠吠えは!」

耳を塞ぐタマルをよそに、魔獣が攻撃を止め、一斉に町門に向かって整列を始めた。

「この動き......やはり理性は失っておらぬな。」

「あぁ、そんで統率する親玉がいるってことだな......おい、その親玉のご登場みてーだぞ」

整列する魔獣のど真ん中に、幅3メートルくらいの道が開いている。

そして、その道の果てにそれはいた。


他の魔獣と比較にならないほどの大きな体躯、真っ白な毛並みとたてがみ、そして、黄金に輝く瞳。

真っ白な巨獣に他の魔獣はひれ伏し頭を垂れる。

「おいおい、親玉はホワイトライオンかよ!」

「め、メチャメチャ強そーなのが出てきたっすよ!」

「ふむ?あ奴は!?」

巨獣は脇目も振れず、真っ直ぐに前を向いたまま悠然と噴水に近付いてくる。それは正に王の佇まいに感じられた。

「や、やるっすか!?」

「真っ白だって容赦しないんですから!」

「統率者を倒せば、この戦、我々の勝利ですぞ!」

「......待て!」

タマルたちが戦闘態勢に入るが、カイトがそれを制した。

「な、何すか!?」

「......あいつは俺に任せろ」

「な、何と!?統率者さえ倒せば、他の魔獣も去るやもしれんのですぞ!一気呵成に総攻撃を仕掛けるべきでは?」

「カイト様、何かお考えが?」

カイトにその真意を問うが、カイトは無言のまま巨獣を見据えたままであった。

「......ケダモノの王座でも賭けるつもりかの?」

「......へっ、違ーよ。ただ、あいつの目が気になんだよ」

そう言うと、巨獣を見据えたままカイトは魔獣が開けている一本道を静かに歩き始めた。

「小春ちゃん、カイト様を一人で行かせて良かったの?」

「あれは止めても止まらぬ。それに何か考えがあるんじゃろ。」

「カイさんなら何とかしてくれるっすよ!」

「その根拠は?」

「「ない!」」

「「えぇ?!」」

「まぁ、任せようではないか」

「大丈夫っす、あの人はカイさんっすから!」

「はぁ......」

信頼なのかタマルと小春はもはやカイトに運命を委ねているようだった。確たる根拠もなく命を預けられるその信頼の厚さに、エステルとアルファルドもその命運を乗せるしかなかった。


巨獣と歩み合って、互いまでの距離が3メートルほどの位置で、一人と一匹は歩みを止める。

巨獣は間近で見ると、その大きさに圧倒的な圧力を感じてしまう。

ただでさえ大きいのに、ふっさりとした毛並みに真っ白なたてがみが存在感をより一層大きなものにしているようだった。

しかし間近でよく見ても、巨獣の黄金の瞳は実に穏やかなものであった。

強いて言うなれば、憂いや悲しみに満ちているかのようにさえカイトは思えた。

戦場とも呼べるこの場所において、その不釣り合いな瞳が、カイトにはどうしても気になったのだった。

「よぉ」

見詰め合って数秒後、カイトは片手を上げて自ら声を掛けた。言葉が通じるかどうかはこの際関係なく、声を掛けたくなってしまったのだ。

緊張した場面を壊すかのように、カイトの声は朗らかなものだったが、声を掛けられた巨獣は、訝しい表情をする。

敵から親しげに声を掛けられて、やや困惑し、警戒をしているようであった。

「おめーの仲間めっちゃ多いし、強ぇーから参っちまったよ。すげー疲れたしさ、終わりにしねーか?」

「......」

カイトは停戦・終結を提案するが、巨獣は訝しい目を向けたまま無言だった。

「......通じねーよな。だが、これだけは分かって欲しい。俺らは誰も傷つけたくねーんだ。襲われりゃ抵抗はするけどよ。」

「ガゥウァゥア」

半分独り言のように言った台詞に、巨獣が同調するかのように頷きながら返事をした。

「へ?俺の言ってること分かんのかよ?」

「ガゥアアゥア」

巨獣はまたもや頷きながら返事をする。

「は、ははっ!ビバ、ファンタジーだな......

よし、なら話は早ぇ!もう争いは終わりだ!それでいーだろ!?」

しかし、巨獣は黄金の瞳を俯かせ、静かに首を振った。

「あぁ?何でだよ!?ムダに傷付け合う必要はねーだろ?」

「ガウゥ!」

巨獣が一吠えすると、町門の方向から十数匹の魔獣が巨獣の後ろに集まってきた。


「ふむ、こ奴らの正体が分かったぞな。」

小春が、ポンと手を叩く。

「しょ、正体って、こいつら魔獣じゃないんすか?」

タマルの言葉に小春は首を振った。

「本能を抑えた理性を持ち、統率されたこの動き、そしてあの巨獣。

こ奴らは、神狼族じゃ。」

「シンロー族、ですか?」

「はて、聞いたことのない種族ですな......」

小春の結論に、エステルとアルファルドは頭を傾げた。

「五千年前は最も偉大な獣人族といわれておったのじゃがな。これも時代の流れかのぅ。

まぁ、わしも、こ奴らがこんな状態になっとるのは初めて見たわい。」

「獣人族って、でもこいつらは四足歩行で完全に動物っぽいすよ?」

タマルが今まで知り合った獣人族は、見た目が獣なだけで、あとは人族と何ら変わりがなかった。しかし、ここにいる魔獣はまるっきり動物であり、獣人と呼べるものではなかった。

「......魔神ゼルファン様に仕えし七大魔王は五千年前、ある者は粒子レベルまで分解され、ある者は一族全ての力を封印され、ある者は姿を変えられたのじゃ。

七大魔王の一柱、獣王は神狼族での。獣帰りされておった、ということじゃの......」

「えぇ!つ、つまり、あの大きい白い奴がその獣王だっていうんすか!?」

「いや、獣人族の寿命は人族と大差ないくらい短命なはずじゃから、獣王の子孫ということじゃろの。色が違うもんじゃから、なかなか気付かなんだが、あの白い奴のたてがみを見て思い出したわい。」

「獣王も、あのような立派なたてがみがあったのですか?」

「うむ、色は金色じゃったがの。」

「......しかし、その話が本当だとして、お伽噺の子孫が何故この町を襲っているのでしょうな?」

「それは分からん。しかし少なくとも、知性がある神狼族が理由もなしに町を襲うとは考えられぬがのぅ......むむ?白い奴の後ろから、仲間が来るぞい」

「何すかね?加勢っすか?......?うん?何か咥えてるっすね。......!あれは!」


巨獣の後ろに集まった魔獣改め神狼族は、他の者と比べて体格が一回り小さく、毛並みも少なかったことから、カイトは雌であろうと検討をつけた。

雌たちは、咥えていたものをそっと地面に下ろすと、いとおしむように、そして涙を流してそれに頭を寄せた。

「それは......お前らの子供たちか?」

よく見ると、雌が咥えてきたのは、子犬くらいの大きさの神狼族であった。

しかし、神狼族の子供はぐったりとして息をしていないようであった。

「......死んでんのか?」

カイトが疑問を口にすると、巨獣が雌に目配りをする。

すると、雌が子供の死体を鼻で押し、一歩下がった。

そして、巨獣は顔で子供を指示する。

「......あんだよ?見ろっていうのか?」

そのように理解したカイトが子供に近付くと、雌がカイトに唸り声を上げる。

「......大丈夫だ、何にもしねーから安心しろ」

唸り声を上げる雌に声をかけ、子供の死体の傍らまで近付くと、子供の体が良く見えた。

「......こ、こりゃあ、ひでーな......」

子供はやはり息をしておらず死体であったが、それはどうやら衰弱死などではないことが分かった。

子供の死体は、斬られた跡がついていたのだ。

他の子供の死体を見ると、焼けただれた者や全身の骨が折れている者、矢が刺さった者がいた。

どう見ても人為的な攻撃による被害だと分かる。

その数は一目見ただけでも20くらいになりそうなものだった。

親と思われる雌はもちろんのこと、隊列を組む者からもすすり泣く声が聞こえてくる。

「......これをやったのが町の連中だって言いてーのか?」

「......」

カイトの質問に巨獣は無言で頷いた。

「復讐、ってことか......」

カイトの言葉に今度は頷くことはなく、巨獣はカイトの目を見据える。

その瞳は、静かに、それでいて激しい激情を発していた。

「くそ、ひでーことしやがるな......しかしよ、復讐なんぞしても子供は帰ってこねーんだぞ」

「ガゥアアゥア!」

カイトの言葉に、周りの神狼族が反応する。

歯を剥き出しにして、今にも噛みつかんとしている。

「......気持ちは分からんでもないがな。でも、やり返したところでどうなる?憎しみの連鎖が続いていくんだぞ?

だが、んなことより、今傷を負ってる子供はいねーのか?」

「......?」

「いるんだったら早く連れて来い!めっちゃ効く薬持ってきてっからよ!」

「ガゥウ?」

さすがの巨獣もカイトのテンポに着いていけず、戸惑いの声を漏らす。

「呆けてねーで、とっとと怪我してる子供連れて来いって!!早く!!

小春!タマロン連れて来てきてくれ!」

「へ?わし?」

「白ワン公も小春も早くしろ!!」

「わ、分かったわい!」

「ば、バウゥ!ギャワゥウワン!」

カイトの指示で、小春は急いでタマロンの元に飛んでいき、巨獣は仲間に指示を始めた。


結果的に、怪我をした子供は100匹近くにのぼった。

カイト一行は手分けして、ハイポーションを子供に振り掛ける作業を行った。

危篤状態の子供もいたのたのだが、さすがはハイポーションといったところで、振り掛けられた子供はすぐに元気を取り戻し、走り回る子もいれば親に抱き締められている子もいる。

「ふぅ、これで終わりか?」

「えぇ、そのようですね!」

汗を拭きながらエステルが答える。

「アーノック家貯蔵のハイポーションを、まさか獣に使ってしまうとは......」

「アルファルド!命には替えられないのよ!こんなにも多くの子供を助けることができたんだから胸を張りなさい!」

「さすが、王家のお家は太っ腹っすね~俺だったら失神ものっすよ!」

「失神できるなら、今したいものですぞ......」

「それにしても、カイさん良かったっすね!」

「......あぁ、そうだな」

元気に走り回る子供たちを、目を細めて見るカイトの眼差しは今までになかったほど優しいものにタマルは感じた。


そして、同じような眼差しで子供たちを見つめる者がもう一匹、カイトの近くで佇んでいた。

「......で、主はどうするんじゃ?」

巨獣の後ろから、小春が声を掛ける。

「神狼族の長よ、貴様はどうするつもりなんじゃ?」

「!?」

小春が神狼族と言うと、巨獣が驚いた顔をする。

「......わしは、貴様の祖先と共に、あるお方に仕えていた者。故に貴様らが獣王の子孫だと分かったのじゃ。まぁ、それは良い。もはや五千年前の埋もれた歴史の一部に過ぎん。子孫の主には関係のない話じゃろうしのぅ。」

「......」

「で、貴様はこの戦をどうするつもりなのじゃと聞いておるのじゃ。

言っておくが、わしらはこの町と何ら由縁はないのじゃぞ。」

「!?」

「知人の知人がこの町を訪れ消息を断ったと聞いて節介を焼きに来ただけなのじゃ。

貴様らはこの町の輩から攻撃を受け、子供を傷付けられて怒り心頭なのじゃろうが、わしらを当て付けにするのは道理が通らんのではないかの?」

「......」

「それでいて、あ奴、名をカイトというが、カイトは謂われのない攻撃を受けたにも関わらず、貴様らの子供の助命を決断した。

何ら関係のない貴様たちの子供を、しかも敵の子供を、じゃ。全く、考えられんことをするもんじゃわい。節介も過ぎれば馬鹿を見るんじゃというのにの。

で、貴様らはどうするつもりなのかの?」

状況を話す小春の声はあくまでも静かなものであったが、巨獣はその言葉に怒りを感じ取った。

「ガゥウ......」

巨獣は怒りの矛先を間違えていたことが理解できたのか、尻尾が垂れ下がっていた。

「ふむっ、自分たちの愚かな行動がようやく理解できたようじゃの!」

尻尾が垂れ下がった巨獣の前で小春が腕を組んでお冠なその光景は、飼い主と飼い犬の関係に見えなくもないが、幼女と巨獣ではかなり異質なものであった。

「気持ちは分からんでもないが、そんなことでは......」

ーシュッ

「ギャワゥ!?」

風を切る音がした瞬間、白い毛並みに棒状のものが刺さった。



「よーし!ボスに刺さったのだ、他の雑魚にも効くはずだ!射手一斉に構えー!!」

声のした方を見ると、民家という民家の屋根に鎧を着けた兵士たちが、一斉に弓を構える。

兵士の数はざっと見ても100人以上はいた。

「な、何じゃこ奴らは!?」

「あ、あれは我が王国の騎士たちですぞ!」

「い、いつの間にいたのじゃ!?」

「くそ!こいつらを射殺すつもりだ!おい、白もじゃ!早く仲間を退避させろー!」

しかし、巨獣は戸惑っているようで、なかなか仲間に指示を出せないでいた。

ー 突然湧いた兵士はどこから来たのか?いつから町にいたのか?魔女の仲間なのか?誰を信じて良いのか?どうすれば良いのか?

射ぬかれた腕の痛みよりも状況把握ができないでいたのだった。

しかし、

「バカヤロー!!このままだと全滅すんぞ!親玉のてめーがテンパってどーすんだ!ビッとしやがれ!!」

カイトの声でハッとする。

「せっかく助かった子供も、死なせるつもりかよ!!お前が呆けたまんまなら、俺が逃がすぞ!」

そう言いながら、カイトは巨獣の腕に刺さる矢を握る。

「ちと痛ぇーだろが、我慢しろよ!」

「グゥウォ!」

「あと、これで大丈夫だろ!」

カイトが遠慮なく矢を抜き、ハイポーションを振り掛ける。

「目ぇ覚めたなら、早く退避させろ!」

「......ガゥウ?」

「質問とか後にしろ!早く行け!」

「......ガゥウ!ガォォオゥ!!」

巨獣が一吠えすると、雌と子供たちを庇うように雄たちが囲み、移動を始める。

「隊長、魔獣どもが逃げます!」

「えーい、だったらやることは決まっておるだろう!さっさと攻撃を始めろ!」

「しかし、獣のなかに民間人がおります!」

「貴様らは素人か!民間人に当たらぬように狙え!」

「はっ!民間人に当たらぬように狙えー!」

屋根の上の射手たちが弓を構える。

「おい!あいつらまた射ってくんぞ!」

焦るカイトとは反対に、巨獣は目を瞑って集中を始める。

「ギャワゥギャワワギャウギャウ!」

目を開くと同時に、何事か巨獣が叫ぶと、神狼族たちを包むように光の壁ができる。

「こ、こいつは......!?」

「こ、これはホーリーウォール!!」

「まさか、あの白い狼さんが!?」

「えぇ!?あのワンコ、外法使えるんすか!」

「ふむ、さすがは獣王の子孫じゃの。」

「感心するのは後にして、エステルちゃんとオッサンはタマロン連れてワン公どもの撤退を手伝ってくれ!」

「は、はい!分かりました!」

「了解ですぞ!」

返事をする二人は、タマロンの竜車に乗り込み神狼族を追い立てて撤退を促す。

「タマルは落ちてるデカい盾拾って、白もじゃワン公のカバー!小春は俺と矢を叩き落とすぞ!!」

「アイアイサーっす!」

「良かろう!」

撤退する神狼族を守る光の壁の維持に集中する巨獣をカイト、タマル、小春が守るが、散っていた矢が巨獣に狙いを定めたせいで、矢の数が雨のように膨大なものとなる。

「ひ、ひぃいい!」

大楯といえど、巨獣はもちろんタマルの体ですらカバーしきれるものではなく、放たれる矢は容赦なくタマルの体に降り注がんとする。

「か、カイさん!ムリ!無理っすー!」

「口閉じて集中しろ!口ん中に矢が入ってくんぞ!」

飛び交う矢を叩き落としながらカイトが注意するが、涙目のタマルの叫びは止まらなかった。

「死ぬー!死んじゃうっすー!」

「ワン公どもが引けるまで耐えろ!矢だって無限じゃねーんだ、辛抱しろ!」

「泣き言ばかり言っておると、小僧のカバーしてやらんぞ!!」

「そ、それは勘弁っすー!」

泣きながらもタマルは懸命に、外法を維持する巨獣のカバーに徹する。

雨の如く飛来する矢であったが、兵士に包囲されていないことが幸いし、全面の防御に徹してさえいれば針鼠にされることはなかった。


「隊長!民間人が魔獣を守っているようですが、攻撃を停止するでありますか!?」

「何だと?......いや、奴らは魔獣の飼い主やもしれぬ。奴らが魔獣をけしかけて、町を襲わせたのだ!」

「何と!そうでありましたか!」

「故に、奴らを殺せば魔獣も倒せるはずだ!どんどん矢を放て!」

「了解しました!」

「......あの者ども、魔鉱石が狙いか......?」


果たして、カルムタ町の騒動は、魔獣との戦いから軍との戦いにシフトすることとなった。


「ちっ!狙いが白もじゃワン公から俺らに絞られてきやがった!」

「当たり前じゃ、わしらが邪魔なんじゃろう!」

「ひぃいい!盾が矢に刺さって重いっすー!」

ただでさえ重量のある大楯に無数の矢が刺さり、タマルの筋力が耐え得る重さをオーバーしていることに加え、スタミナも限界にきていた。

「盾は刺さる方だろ!しっかりしろ!!」

タマルを鼓舞しながら矢を叩き落とすカイトにも若干の疲れが出始めていた。

「じゃから、それも逆じゃ!主こそしっかりせい!!」

突っ込みながら小春日和で矢を消し去っていく小春にも焦りが見え始めていた。

「おいワン公!復活はまだか!?」

神狼族の撤退は完了していたが、膨大な外法を使用したため、巨獣はダウンしていまっていた。

「ガ、ガゥウ......?」

カイトの声に巨獣はうっすらと目を開けると同時に矢の雨が止んだ。


「どーうした!?何故攻撃を止めた!?」

「隊長!矢が......もうありません!」

「射ち尽くしたというのか!?くっ、奴らは化け物か!ええい、攻撃は弓だけではないだろう!奴らを包囲して直接攻撃を展開せよ!」

「は!」


「こ、攻撃が止んだっすね......助かったんすか?」

「矢を射ち尽くしたんじゃろうが、まだ油断はできぬぞ。」

「あぁ、これであいつらが引くとは思えねぇ。早ぇところズラかるぞ!

おい白もじゃ!しんどいだろーが動けるか!?」

「ワウゥウ、ウォン!」

カイトの言葉に応えるかのように巨獣がのそりと立ち上がる。

「ぃよぉし!さすがジャングルの王者だけあるぜ!ズラかんぞ!」

「......手遅れのようじゃな。」

「え?」

「......包囲されておる。」

「ちっ!早ぇ!!」

「奴らは訓練された騎士ども......ということじゃの。......直接来るぞ、どうするんじゃ?」

「くそ......隙見て抜けるしか......」

「か、カイさん!き、騎士たちが!」

ふと周りを見ると、騎士たちが槍と盾を手に包囲網を狭めつつあることが見えてきた。

槍をカイトたちに向けながら狭まる包囲網は、寸分の隙もない。


「お前たちー!無駄な抵抗は止めて大人なしく投降せーい!!」

騎士たちの後方から投降を呼び掛ける声が聞こえるが、声の主は見当たらなかった。

「んん?おいタマル、今声聞こえたよな?」

「えぇ、確かに聞こえたっすよ。でも誰の声だか分からないっすね。」

「おーい、誰だよ?話し合うなら、ちゃんとツラ見せろってんだ」

「ここだここだ!俺はここだ!!」

声は聞こえるが、見回しても微動だにしない鎧姿の騎士がいるだけで、声の主は見つからない。

「うん?どこだ!姿を現せ!!」

「おい!お前舐めてるのか!ここだと言っているだろう!」

何度見返してみても、やはり見つからない。

「タマル、声出してる奴は透明になってやがんぞ......」

「透明って、そんな奴どうすればいいんすか!?」

焦る二人を差し置いて、目を細めた小春がチョンチョンとカイトをつつく。

「おっ!小春は見えんのか!?」

「んん」

言葉少なに人差し指が指した先は、騎士たちの膝元であり、そこには鎧を着けた兎顔の獣人族が腰に手を当てて憤慨していた。

特筆すべきは、その身長が騎士の膝くらいまでしかないことではなく、騎士団隊長にしか着けることが許されないマントをつけていることだった。

「ようやく私を見つけたか、失礼極まりない連中だ!」

兎隊長は、赤い目をさらに赤くさせてぷりぷり怒っている。

「......あの動くぬいぐるみは何だ?」

「......マントを着けてるんで、恐らく騎士の隊長格の人なんだと思うっす。」

「マスコットキャラじゃねーのか?」

「いえ、多分騎士にそんな役職ないと思うっす」

「こらー!何をごちゃごちゃ言ってるんだー!」

「何か、怒る姿すら愛らしいな」

「ふむ、嗅ぎごたえありそうじゃのぅ。」

小春がじゅるりと舌舐めずりする。

「......前々から思ってたけどよ、お前臭いフェチの変態だろ?」

「何をぅ!高尚な嗜好と改めい!」

「あー、だからタマロンちゃんの臭いばっか嗅いでたんすね!?」

「ふん、貴様ら凡族には理解し難い世界じゃろうの!」

プイッと頬を膨らませる小春であるが、

「おい、お前ら、状況分かってるのか?」

兎隊長はすっかり置いてきぼりであった。


「バ、バウゥ......」

巨獣がやや呆れた顔で声を出し、鼻で兎隊長を指示する。

「んん?あ、おうおう、悪かった、話が脱線しちまったな」

「いやいや、思い出してくれたんだから良かった......って、違ーう!お前たちは今この状況分かって、そんな無駄話をしていたのか!?」

カイトの謝罪に危うく流されそうになった兎隊長であったが、怒りを思い出して怒鳴り散らす。

「えーと、あ、そうそう、仲良くなって今からバイバイすっとこだったよな?」

「うん、そうそう!じゃあ、気を付けてな~、次は良いパブ連れてってやるからな~!って違ーう!!」

「お、なかなか良い技持ってやがんぞ!タマル、ライバル出現だぜ!」

「くっ!ノッてからの突っ込みとは......しかもナイスなテンポっす!!」

「え、何何?君も突っ込み職人?いや~、うちの隊には良いボケがいなくてさ、俺の突っ込みが錆びて......ってコラー!ノせるなー!」

「......いや、ノせてねーし」

「一人でボケて突っ込むとは!こりゃあ、うかうかしてらんないっすね!」

「......主ら......話が進まんぞ。続けるならわしとワン公は帰るぞな......」

「バウゥ......」

小春と巨獣、そして包囲する騎士たちもその時だけは同じ気分になってしまった。



「んで?兎が何だっつーの?」

「兎ではない!フィ・クサリァ王国北東地区第五外守隊100人隊長リッツ・リステルである!!抵抗を止めて大人しく投降せいと言っているのだ!」

「のだ!っつっても、今抵抗してねーだろ、俺ら」

不毛なやりとりを経た今、カイト一行は戦闘態勢と解いており、包囲する騎士たちにもどこか緊張感が失われていた。

「だ、黙れ!お前たち魔獣使いがそこのボスを始めとする魔獣をこの町にけしかけたのであろう!神妙に縛につけぃ!」

リッツの怒鳴り声とともに、騎士たちに再び緊張感が走る。

「あぁ?魔獣使いだぁ?このワン公どもとはさっき初めましてだったんだぜ?」

「何を言い逃れを!魔獣の幼子どもと戯れていたところを見ているのだぞ!」

「その前に、こいつらの大群と戦ってたのは見てないのかよ?」

「お前がそこのデカいのと話しているところで到着したのでな」

「だったら、勘違いっすよ!」

「何を言う!現にお前らは魔獣どもを守り、逃がしたではないか!」

「そ、それは流れっていうっすか、そもそもがワン公たちの勘違いっていうか......」

「えーい!うるさい!話は尋問で聞いてやる!騎士たちよ、構えー!」

タマルの言い分を聞こうとはせず、リッツは部下に命令を下す。

「......ちっ!聞く耳持たずじゃな。やるか!?」

小春が虚空から小春日和を取り出し、臨戦態勢となる。

「......やるしかねーか......」

「しかないんすか!?」

「バウゥ......」

カイトも臨戦態勢となりタマルが逃げ腰とんなるなか、何事か呟いた巨獣がズイっと三人の前に出た。

「お、おい、お前......」

「......バウゥ」

カイトを一瞬振り向くと、巨獣がリッツに向かって歩き出す。

「任せろって言ってるみたいっすね......」

「あいつ......どうするつもりなんだ?」

「どーするんじゃ?」

「・・・事の次第によって、強行すんぞ」

「了解っす!」

「仕方ないのぅ......」

カイトたちは臨戦態勢を解かずに巨獣の出方を見守ることになった。


「お、おい!騎士たちよ、守れー!」

リッツの前に騎士たちが集まり、槍の矛先を近付く巨獣に一斉に向けられる。

しかし、巨獣は静かに歩みを進め、槍の目と鼻の先で体を地に伏せた。

「こ、これは......?」

「何だ何だ!何があった!って見えないー!俺にも見せろー!」

騎士の股ぐらを掻き分けてリッツが見たのは、騎士たちに囲まれ、伏せた状態の巨獣の姿であった。

「......ほう、これはボス魔獣が投降した、ということか?」

「バウゥ......」

リッツの推測に巨獣は静かに頷いた。

「うん?今、頷いたよな?」

「は、はい、そのように見受けましたが......」

「おい、俺の言っていることが分かるのか?」

「バウゥ......」

またもや巨獣は静かに頷く。

「な、何と!言葉が通じる魔獣なんぞ初めてだぞ!」

「そ、そうですね。それで、いかがなされますか?」

リッツが巨獣を一瞥する。

「お前、大人しく投降するんだな?」

「バウゥ......」

「よし。騎士たちよ、こいつを捕縛せよ。魔獣使いどもも一緒にな。」

「バ、バウゥ!?」

「魔獣使いどもを見逃すと思っていたのか?

しかし、投降するならむやみやたらに傷付けるつもりはない。

聡いお前なら、どうすべきか理解できるだろう?」

「......」

巨獣はリッツの言葉を聞くと、観念したかのように目を閉じた。

「おいコラ、バカワン公!!勝手に覚悟決めて諦めてんじゃねーよ!」

ハッとした巨獣は腕を組むカイトを振り返る。

「そんなのカッコ良くねーよ、ばーか!

残されたてめーの仲間はどーすんだ!?ったく、先のことまで考えて行動しろっつーの!」

「......」

「諦めるくれーなら、とことん足掻いてみやがれ!獣王とかゆー御先祖様も泣いてんぞ!」

「グゥウォ......」

ぐうの音も出ないとばかりに巨獣が唸り声をあげる。

「獣王?おい、お前今、獣王様と言ったのか!?」

リッツが焦ったようにカイトに質問する。

「あぁ?そーだけど」

「それは真のことなのか!!」

「そこまでは知らねーよ。そこの熟れた幼女に聞きやがれ」

「おい娘!魔獣が神狼族とは真のことか!?」

「......真じゃ。」

「ななんとー!!」

スザッっとリッツが平伏すると、それに従い半数の騎士が巨獣に平伏する。

「何だ何だ!?こいつら急にどーしたんだ!?」

「ふむ、獣王信仰というやつじゃのぅ。」

「なるほどっすね~。」

「こら!勝手に納得してんじゃねー!俺にも分かるように説明しやがれ!」

「あいだ!殴ることないじゃないっすか~、もう......えーと、獣人族は五千年前の戦争の時に魔神側についたんすよ。でも、魔神側が負けちゃってその咎を受けそうになったみたいなんすけど、それを獣王を始めとする神狼族が一手に咎を受けたんす。そのお陰で、神狼族以外の種族は咎を受けることなく生き続けることができたってお伽噺があって、それで獣王を偲んで獣人族の獣王信仰ができたってわけっす。分かったっすか?」

「つまり、このワン公を獣人族が崇めてるってことになるのか?」

「本物なら、そんなんでしょうけど......。」

「十中八九本物じゃ。」

「だそうっす!」

「小春のお墨付きもらってもなぁ......」

「何をぅ!この古の魔女を愚弄するのか!」

「まぁまぁ、小春ちゃん、カイさんは口が悪いだけっすから。」

「ふん!頭もじゃろうが!!」

「誰の顔が悪いだとぅ!!」

「カイさん、安心して下さいっす、小春ちゃんは頭って言ったんす!顔じゃないっすから!」

「なーんだ良かった、顔じゃなく頭......っておい!!」

「何じゃ?文句あるんかの?」

「あ、あのう~......。」

「「何だ(じゃ)!?」

顔と付き合わせて睨み合っていたカイトと小春に、リッツが恐る恐る声を掛ける。

「ひゃぁ!お、お取り込み中、スミマセン!確認したいことがあってデスね......。」

「確認だぁ(じゃぁ)?」

「まぁまぁ、カイさんと小春ちゃんは、どうどう!で、確認したいことって何すか?」

カイトと小春を宥めつつ、タマルがリッツを促す。

「えーと、神狼様方は何故に町を襲ったのでしょうか?」

「え?」

「いや、私たちの隊はカルムタ町在駐の小隊からの応援要請があってイーノルド砦から馳せ参じたんだが、我ら獣族が神と崇める神狼族がこのような凶行をするとは考えられない、というより考えたくないというか......」

「本人に聞いてみろ」

カイトが巨獣を指示すると、巨獣は目を伏せた。

「......言葉が通じても話せないんじゃ......。」

「......」

「......」

「......そーだったな。」

ガクッ

リッツがずっこけた。


「こいつらは町の連中に襲われたみてーだぞ?」

「いやいや、逆!町が襲われたからうちの隊がって説明したではないか!」

「だーかーらー、それには原因があるって話だよ。こいつらの子どもたちは人為的に傷付けられてた。それが町の連中の仕業だったんじゃねーのか?」

「町の住民が襲ったって何故に?」

「知らねーよ。町の連中に聞きゃ分かんだろ?町はもぬけの殻だが、どっかに避難でもしてんのか?」

「あぁ、集会所の地下に避難所があって、そこに避難している。」

そこまで聞くとカイトは巨獣を見る。

巨獣は静かにカイトを見返している。

「よし、じゃあそいつらに聞いてみよーじゃねーか?」

「な、何ぃ?」

「俺らは逃げも隠れもしねー。真相聞いてやろうじゃねーかって言ってんだよ」

「し、しかし、あんたらや神狼様の容疑が晴れてないというのに......」

「だから、それを確かめよーってんだよ。うだうだしねーで、行くぞ!」

踵を返すカイトに慌ててリッツが声を掛ける。

「ちょ、ちょっと待て!......あんた、神狼様とはさっき会ったばかりだと言っていたよな。何故にそんな信用を?」

そう聞かれてカイトは逡巡する。

「うーん、別に理由はねーよ。何となく。うん、そう、なーんとなく。

いーから、行くぞ!」

「理由はないって、ちょっと!!」

「まだ何かあんのか!?」

「いや、教会はそちらではなない。」

「......あ、そう」


「カイト様ー!」

教会に向かおうとすると、タマロン竜車に乗ったエステルとアルファルドがこちらに向かってくる。

「あれは、先程神狼族を逃がした竜車......お前たちの仲間だな?」

「あ?そーだけど。」

「ふむ、仲間はカルムタ町民ではないのか?」

「ちげーよ。王都から一緒に来たんだよ」

「ほう。ならば、あの者たちも同行願うか。」

「エステルちゃんとアルファルドのオッサンもかよ?あぁ、そーだ、エステルちゃんの旦那がここから戻ってこねーみたいなんだけど、お前何か知って......っておい、んだよ、その顔は?」

カイトの話を聞くリッツの顔が大口を開いてあんぐりしていた。

「い、今、何と言った?」

「あん?えーと、『タマル、ライバル出現だぞ!』だっけ?」

「違ーう!どこまで話を遡っているんだ!?名前言っただろ、名前!!」

「名前?あぁ、俺の『スーパーエキセントリックメガパンチアーンドキック』のことか?」

「違うわ!っつーか、だっさ!ダッセーネーミング!!」

「な、何だとぅ!!」

「そうではなくてだな、あの仲間の名前だ!」

「あぁん?エステルちゃんとアルファルドがどーしたって?」

カイトの返答に冷や汗が流れる。

「そ、それって、アーノック家の?」

「あぁ、フランツん家って、そんなんだったよーな......」

「お、お前、いや、あなたはフッ、フランツ様のご友人でいらっしゃるので?」

「あぁ?っざけんな、別にダチじゃねーわ!」

ぽかっとリッツは頭を叩かれる。

「神狼族は無事、町の外へ退避しましたぞっ......と、カイト殿、小動物虐待とは感心しませんな。」

「まぁ!カイト様、そんな小さいコを......」

竜車を降りた二人がカイトをたしなめる。

「いや、コイツ騎士なんだって!」

「あら......こんな可愛らしい騎士様がいらっしゃるのね!イメージキャラがお仕事内容かしら?」

「お嬢様、受け取りようによっては酷いこと言ってますぞ」

「そうかしら?」

アルファルドがエステルの天然に突っ込みを入れるが、効果はなかった。

「あ、あのぅ~、お二人はアーノック家のお方と伺ったのですが、本当でございましょうか?」

リッツが恐る恐るといった感じで手揉みをしながら尋ねた。

「いえ?私はライト家に嫁いでますので、今は違いますが?」

「お嬢様、混乱しますので私めが。

失礼、私はアーノック家で執事を務めるアルファルドと申します。そして、こちらがエステルお嬢様でございます。ご本人から申し上げたとおり、現在はライト家に嫁いでらっしゃいますが、流れる血筋は王家のもので間違いありません。」

「な、何と......わ、私は......」

「手違い間違い勘違い。いずれにしろ、王家の血筋が流れる者に弓引いた事実は変わりませぬな。」

リッツの顔色が真っ青になる。

無罪の王家血筋の者を攻撃したとなれば、即刻死罪となってもおかしくはない。

「も、申し訳ございません!し、しかし、それには理由が!」

「ほぅ、それは命を賭した理由でございましょうな?」

狙ったわけではないにしろ、エステルの身に危険があったことは間違いない。しかも、それが王国騎士団の手によってとなると、アルファルドとしては許せるものではなかった。

「そ、そ、それは......」

「さて、どうされますかな、カイト殿。」

「は?俺?何で俺に振んだよ」

「この者どもを煮るのも焼くのも貴殿次第ですぞ!」

「こらこら!変な決定権よこして責任おっつけんじゃねー!」

「では、貴殿はこの者らをどうすべきと?」

「人の話聞けっつーの!」

顔色には見せないが、アルファルドはかなり怒っているようで、騎士団を許すつもりがないようだった。

しかし、その判断を優しいエステルに任せてしまうと手放しで無罪放免にしてしまうと予想がつくことから、カイトにその判断を仰いだのであった。

「まぁ、こいつらも悪意があってやったわけじゃねーんだろーしよ。こっちも被害はなかったんだ。別にいーんじゃねーの?」

「か、神様!!」

「ハイポーション500本くらいで許してやろーぜ」

「悪魔か!?隊員全員の生涯給金合わせても足らんわ!!」

「カイト様、それはいくら何でも......せめて700本にしてあげたらどうです?」

「お嬢様、エグい本数が増えてますぞ。」

「あら?」

「はぁ、とりあえずこいつらのことはどうでもいいぜ。エステルちゃん、このウサギが町民の退避場所知ってんだとよ。そこに旦那がいるかもしんねーぜ?」

「まぁ!そこに案内して下さい!」

「よ、喜んで!!」

リッツが敬礼をしたその瞬間だった。


「あれは何だ!?」

カイトたちを大きな影が覆う。

影の正体は空にあった。

「......ありゃ何だ!?」

「あれは、ワイバーンじゃ。」

「お前らの仲間か!?」

「ギャウワワン!」

「ちがーわ!」

ぶんぶんと首を振る巨獣とカイトであったが、右手がジンジンと痛み出し、

「あ~ら~、奇遇ね~、こーんなとこでまた会えるなんて!」

知った声が上空から聞こえてきた。

「あの声は......!」

声を聞いたカイトの首筋に汗が流れる。

「お、御姉様♥️」

声を聞いたタマルは頬を赤く染めた。


ズシャっと赤い鎧が地に降り立った。

「これはもう、運命というより宿命、いえ、必然ね~!」

クネクネしながら赤い顔を両手で隠す。

「そ、その鎧は!き、き、貴様、まさか!」

「うふふ♪あなたもそう思わない?」

長い金髪をなびかせながら、女は微笑む。

「何じゃ、あの女は?」

「うーん、でも今日は前回に増して邪魔が多いわねぇ......」

人差し指を唇に当てて、女は困り顔をする。

「全員逃げろ......」

「まぁ、良いわ。今日こそは、お姉さんゆーっくりお相手したいからぁ。

ゴミは早ーく片付けるわね♪」

「全員逃げろー!!」

「ちょっとだけ待っててね、カ・イ・ト♪」

ウインクをする赤嵐ことクラウディア・フォーナイトにカイトは戦慄しながらも、撤退を叫んだ。

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