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ギャップ萌え

ギャップ萌え



フランツを見送ったカイトとタマルは、止まり木に足を向けた。

可能であれば止まり木で一夜を過ごし、朝方に王都へ向かうつもりでいたのだが、殺人現場である止まり木で宿泊が可能かどうか微妙なところではあった。

せめて、タマロンを回収して、野宿も辞さないつもりでいた。


「自分たちが殺されかけた場所に戻るってのも不思議な気分すね」

「まーな。しかし、あの宿屋には迷惑かけちまったな」

「え!?」

「あんだよ?」

「いえ、カイさんがそんなマトモなこと言うなんて思ってもみなかったもんすから。あだっ!」


カイトの心配を意外と言ったタマルは、無言で頭を小突かれた。


「あたたたた......と、とりあえずタマロンちゃんは連れて行かなきゃ、っすね」

「あぁ、そーだな......っておい、宿屋に人だかりがてきてんぞ!野次馬か?」


雑談をしているうちに止まり木近くに着いたのだが、当の宿屋に人が押し寄せていた。

殺人現場を見に来た野次馬だと検討をつけてよく見ると、列を成していない人の集団のなかで、エリンが大きな声を出している。

どうも、宿屋に集まった人々を並ばせようとしている様子だった。


「何の騒ぎなんだ?野次馬にしちゃ群がる連中の目が血走ってやがんな。」

「何か怖いっすね......エリンさんに聞いてみましょう。エリンさーん!!」


タマルが声を掛けると、こちらに気付いたエリンが近付いてきた。エリンの顔は元が赤ら顔だが大声を出していたせいか、いつもより赤く見える。


「あー!タマル君!!無事だったのね!」

「あ、はい、何とか無事だったっす。」

「タマル君たちが店内で襲われたって聞いてビックリしちゃったわ!」

「えぇ、そうなんす。俺たちのせいで止まり木に迷惑かけちゃって......」

「悪かったな、迷惑かけちまって」


カイトとタマルが申し訳ない顔をすると、エリンは首を振った。


「いいの、タマル君たちが無事で何よりだし。一人重傷の人がいたみたいだけどね。ほら、いつもタマル君に絡む口が臭いあの人!」


それはホルスのことを言っているのだろうが、首から血を吹き出す姿を見ていたタマルは無事だったとは到底思えなかった。


「あんなに血が出てたのに......よく助かったすね」

「犯人が出て行った後で、カウンターに隠れてた店長が急いでポーション掛けたみたいよ。出血が激しくて全回復はできなかったみたいだけど、急いで診療所に担いでって命はとりとめたみたい。」

「そうだったんすか......良かったっす」


苦手な人物とはいえ、自分たちのせいで殺されてしまっては目覚めが悪かっただろうが、生きていることが分かり、タマルは一安心した。


「んで、この賑わいは何なんだ?事件発生を祝う祭りでもやってんのかよ?」


カイトにとっては口の臭い性悪なネズミ男より人だかりの原因が気になった。


「これはね、騎士様のお計らいなのよ。」

「オハカライ?」

「えぇ、止まり木や村に迷惑をかけたってことで、今日1日飲み放題食べ放題!お金はなんと、王国持ち!

それで話を聞いた村人が寄ってたかって殺到してるとこなの。止まり木始まって以来の大繁盛ね!」

「フランツの野郎か?」

「フランツって、王国の閃光様のこと?いえ、外守の騎士様だったわよ。」

「ふーん、そっか」

「おい、ねーちゃん!さっさと店に入れろやぁ!」


止まり木の前で並ぶ集団のうちの一人がエリンを大声で呼んだ。


「はーい、ただいまー!ごめん、私行くわね。今日は泊まって行くのよね?」

「はい、できるんなら、そのつもりっす!」

「了解、問題ないわ、ゆっくりしてってね。

あ、ロンロリアルちゃんは問題なく納屋で休んでるわよ!じゃあね!」


早口に言って、エリンは待つ客の元へ走って行った。


「王国も粋な計らいするもんすね~」

「いや、口止めみてーなもんだろ?」


感心したタマルとは正反対の意見をカイトが言う。


「え~、そういうもんすかね~」

「さーな、実際のところは分かんねーし、どーでもいーな。

さっさと部屋に戻って寝よーぜ」

「あ、俺はタマロンの様子見てから戻るっす。カイさんは先に休んで下さいっす!」

「おう、そーするよ。」

「ゆっくりしてて下さいっす!」

「あいよ、そーする。裏から入るか......」


これ以上騒動に巻き込まれたくないカイトは、裏からそっと宿屋に入るのであった。


※※※※※※※※


──翌日


ドーン!ゴトゴトゴトゴトドーン!


「だー!うるせー!気持ち悪ー!」


タマロンが引く竜車の荷台で横になっていたカイトであったが、やはり1日では激しい揺れに慣れることも耐性がつくこともなく、気持ち悪さと一人戦っていた。


「おい!タマル!もーちっとソフトに走れねーのかよ!?」

「すんませんけど、それはムリっすよ。スピードとパワーに特化したタマロンちゃんは、乗り心地だけ犠牲にしてますから!」

「もーちっとだけ、スピード落とせば良いだろがよ!」

「タマロンちゃんは、そんな器用なコじゃないんす!早く慣れて下さいっす!」

「く、他人事だと思いやがって......後で絶対シメてや......来た北着た来たー!!な、波が......うっぷ」


シロサ村を出てから3時間ほど経過したところで、カイトには限界が来ていた。


「カイさん外に出して下さいっす!」


タマルが後ろの荷台に向かって叫んだ瞬間、


「キュ、ギュウゥウン!」


ズガガガガ!

タマロンの悲痛な叫び声とともに、竜車が急停車した。


「う、うわぁあああ!」

「ほげー!!」


タマルは辛うじて踏ん張ることができたが、荷台から顔を出していたカイトは、あえなく外に放り出された。


「か、カイさん!」


カイトは竜車の5メートル程先まで吹っ飛んで、頭から地面に突っ込んだ。


「一体どうしたんす、タマロンちゃん?」

「キュ、キュウン、キュウウンキュキュ!」


タマルの問いに答えるように、タマロンは鳴きながら首と頭で前方を指示した。


「うん?先に何かあるんすか?」


タマロンが差した方を見ると、顔面から地面と汚物に突っ伏しているカイトの更に先に、人が転がっていた。


「え?し、死体っすか!?」


突っ伏すカイトを無視して、先に転がる人物に近寄ってみると、その人物は、うつ伏せで倒れているために顔は見えないが、背格好から人族の少女に思えた。


「女の子っすかね......それも10歳くらいの?おっと、こうしちゃいられないっすね!」


介抱のため、倒れている少女を抱き上げると、その顔はやはり人族の少女の顔であった。

見たところ外傷はないが、こうして抱き上げても目を覚まさないことから、見えない傷を負っているのかもしれない、とタマルは判断し、少女にポーションを振り掛けた。

すると、少女がうっすらと目を開けた。


「う......な、何じゃ?」

「だ、大丈夫っすか?」


少女の話し言葉に違和感を覚えつつ、タマルはそっと少女を起き上がらせる。


「応急処置でポーションかけたっすけど、痛むとこらないすか?」

「ポーション?貴様がか?」


まだ意識がはっきりしないのか、少女はおかしな口調のままだった。


「えぇ、そうっす。

道のど真ん中で倒れてたんすよ、お嬢ちゃんは」

「......貴様、勝手にわしを起こしといて、こんなにずぶ濡れにしといて、なんじゃそのドヤ顔は。」


少女の顔が、みるみる不機嫌な顔つきになる。


「......へ?寝てた?道のど真ん中で?」

「わしがどこで寝ようとわしの勝手じゃ!」

「いや、ダメでしょ絶対!邪魔だし危ないっすから!」

「何じゃと?わしが美しく危険な奴と見破ったとな!?」

「何言ってんすかこの娘!ヤバいのと遭遇した予感半端ないっす!」


途中から会話が成立しなくなり、タマルは危険人物だと判断した。


「おい、うるせーぞ!天下の往来で何やってやがる!」


口の周りをボカシのかかった液体だらけにしたカイトが口を拭いながら近付いた。


「あ、カイさん!この娘が道のど真ん中で寝てて、それで言ってることがめちゃくちゃで」

「あぁん?」


タマルが指示する方を見ると、濃い紫色の袴に薄い紫色の着物を着た年齢10歳くらいで銀色セミロングヘアーの少女が、眉間に眉を寄せてタマルにガンをくれていた。


「ぷぷっ!おいタマル!んな女の子ちゃんに絡まれてんのかよ!?」

「わ、笑ってないで助けて下さいっす!この娘、会話が通じないんすよ」

「何だそりゃ?」


訝しむカイトが少女を見ると、少女と目が合う。

よく見るまでもなく、その娘は間違いなく美少女の部類に入る見た目であったが、カイトはロリコンの気は皆無であったため、特に感動はなかった。ただ、いわゆる泣き黒子が印象的で、あと10年後には男泣かせの美人に成長するだろうとは思った。

すると、少女はカイトにガンを飛ばしたその瞬間、鼻をヒクヒクさせて何かを嗅ぎ始めた。


「お、おい、コイツ、何か嗅いでるぞ」

「だから、変な娘だって言ったじゃないすか」

「トラブルはゴメンだぞ。放っといて良いんじゃねーのか?......っておい!おめー何だ!?止めろ!変態かてめーも!」


タマルと耳打ちして相談している間に、少女は間合いを詰めてカイトに密着し、身体を嗅ぎ始めていた。


「な、何なんだ!止めろ!離せー!」


必死に少女を離そうとするが、馬鹿力なのか一向に離れようとしない。


「おい、タマル!手ぇ貸せ!」

「で、でも......俺、女の子触れないっす」

「さっき抱き上げてただろがバカヤロー!!ここで童貞ぶり発揮してんじゃねーよ!相手は子供なんだから、変なとこ触んなきゃPTAに文句言われねーから!」


しかし、それでもタマルは赤い顔をしながらもじもじしてて近付いてこない。


「......やっぱムリっす」

「コラ、タマルー!」


しかし、タマルが助けを拒んだところで少女が身体を離した。


「ほっ、やっと離したか。ったく、何なんだおめーは!」


カイトが厳しく詰問するが、少女は目に涙を溜めてうっとりした表情をしている。

そのあまりに異質な表情に、カイトはドン引きした。


「おいおい、こいつマジでヤバい奴なんじゃ......」

「やっと......ようやくお会いできましたのう!ゼルファン様!」

「「はい?」」


少女はカイトが絶賛疑われ中の魔神の名前を口にして膝を着いた。


「......おいタマル。今コイツ、魔神の名前言ったよな?」

「はい、俺もそー聞こえたっす」



膝を着いた少女は、涙を流しながらカイトを見詰めている。

これはかなり頭がイッているとカイトは判断した。


「タマル......逃げるぞ?」

「え?あんな顔して喜んでる女の子置いて逃げるんすか!?」

「おめーもヤバい奴だって言ってたじゃねーか!」

「そーっすけど......あんな顔した女の子を、置いて行くなんて良心が痛むというか......」

「だったらどーすんだよ、おい」

「とりあえず話してみるっすよ」

「お、おぉ、そーかそーか。よし、お前に任せた!」


涙を流して膝を着いたままの少女にタマルが近付き、会話を試みる。


「あ、あのぅ、すね。君は魔神のことを何か知ってるんすかね?」


タマルに声を掛けられた少女は、一瞬で涙を止め、殺気を込めた目でタマルを睨み付けた。


「おい、貴様。わしと主様の感動の再会に水を差すでない。居ぬれ、凡族めが!」

「はい、すんませんした!」


脅されたタマルは回れ右をして、高速でカイトの後ろに隠れた。


「か、カイさん、俺もうムリっす、マジ怖いっす、あの娘」

「おい、情けなさ過ぎんぞ......」


ため息を吐くが、びびったタマルは交渉に使えなくなってしまった。

仕方なく、カイトは自ら交渉を試みることにした。


「え、えーと。お前は俺が魔神だと思ってるわけでいーんだな?」


カイトは直球を避け、まずは様子見の一球目を投げてみた。

すると、少女はキョトンと不思議な顔をする。


「何を仰いますやら......わしが主様を見間違えようがごさいませぬぞ。見た目を変えなすっても、匂いは誤魔化せませんからのぅ」

「その口調は何なんだ。ギャップ萌え狙いかよ?......匂い?」

「えぇ、主様の香しい匂いは五千年経っても変わりませぬぞ」

「五千年......?」

「はい、確か、今は我らが貴奴めらに謀られてから、五千年が経ってるのでごさいますぞ。」

「ん?じゃあ、お前は?」

「はい。粒子レベルまでバラバラにされましたが、活動が可能な状態にまで収集・再生を繰り返し、この姿になるまで五千年掛かってしまいましたのじゃ、お恥ずかしい限りですがのぅ」

「......ちょっと、そのままで待っとけ。いや、楽にして良いから」

「はい、畏まりましたじゃ」


会話を中断し、タマルと相談をすることにしてカイトは一旦下がった。


「おい、タマル。アイツ重症だぞ」

「はい、聞こえてたっす。壮大な妄想っすね」

「もういーんじゃねーのか?通院先聞いて捨ててこよーぜ」

「言い方はアレっすけど、その方が良いっすね。もし病院に行ってないようなら、自宅聞いて下さいっす!」

「おう、分かった!って何で俺が......」


愚痴るが、少女はタマルと話す意思はないため、カイトが話すしか選択はなかった。

そこで面倒になってきたカイトは、二球目の後は直球勝負に出ることにした。


「悪いな、待たせて」

「このくらい、五千年と比べれば一瞬でござますじゃ」

「そ、そーだよな、了解。

......ところで、お前の病院かお家はどこなんだ?」


できる限り優しく問うたつもりであったが、響かなかったのか、少女は首を傾げる。


「病院は必要ないですぞ。

家......わしが帰る場所は、主様のいらっしゃる場所で、わしがいるべき場所ですぞ!」

「お前、家なき娘かよ?......仕方ねーな」


二球目も効かなかったため、カイトは奥の手を使うことにした。


「......よし、お前に良いこと聞かせてやる」


事実を話して妄想を断ち切ってやるのだ。


「ほう、何でございましょう?」

「俺は銀色骸骨の術とかで、この世界に来ちまったんだが」

「ほう、復活はやはりラーズめが......あ奴め、やりおるわい」

「だがしかし。骸骨は魔神を復活させようとしたみてーだが、それ失敗したんだ」

「はて?失敗ですと?それではあなた様は?」

「俺は魔神じゃねー、一般人だ。

間違えてこの世界にお呼ばれしたか何かだと思うが、細かいことは俺にも分からん」

「何を仰いますやら......久方ぶりのわしをからかってらっしゃるので?」

「いーや、大マジだ。

俺今は、目と運動神経が良いだけのただの人間だぜ?確かめられるなら証明してやりてーよ」

「いやはや、お戯れが過ぎますぞ......うん?この匂いは?......ちょいと失礼」


そう言うと、女の子は再度カイトの身体を嗅ぎはじめる。


「これは確かに主様の匂い......む?むむむむむ?主様に混じるこの臭いは何じゃ!?」


何か思い当たったのか、顔をしかめるとザザッとカイトとの間合いをとる。


「貴様ぁぁああぁー!主様をどうしたんじや!?」


先ほどとはうってかわって、カイトを殺気が込もった目で睨み付ける。


「どーしたもこーしたもねーよ。逆に俺をどーしたんだよってんだ」

「何を訳の分からぬことを......殺す!いや、死なぬ程度に痛め付け、愚行を吐き出させてやるぞい!」


そう言って女の子が、空間から短い杖を出して集中すると、カイトは今まで感じたことのない力を女の子から感じ取った。

しかも少女の身体にはドス黒いオーラのようなものが漂っている。


「展開が急過ぎんぞ!

おい、タマル!?アイツ何やらかすつもりなんだ!?」

「あ、あれは多分、外法みたいな、でも違うよーな......」

「ふん、そんな紛い物と一緒にするでないぞ。我が魔法は純粋な魔力を源としておるのじゃ!」

「ま、魔法って、そんなお伽噺みたいっす!!そんなの使えるなんて、魔女くらいしか......」

「何を抜かす。わしが正真正銘唯一無二の魔女、そのものであるぞ!」

「そ、そんな馬鹿な......」

「おいタマル!やべーのか!?」

「ヤバいっす!本物だとしたら、かなりヤバイっすー!!」

「まだ、事実を受け止めきれぬのか、凡族めが。であれば、その目にしかと焼き付けるが良いぞ!」

「くっ!?」

「ま、魔法なんて憧れはあれども自分が食らいたくないっすー!」


おののく二人に向かって、少女が杖を構えて聞いたことのない言語を口にする。


「ΨΦΡΠΚλ......」

「伏せろタマル!!」

「ξФДψωЁБШ............?」

「「......」」


しかし、カイトたちが目を瞑り防御姿勢をとっても脅威が襲ってくる気配がない。


「あ、あれ?」

「な、何だよ、不発か?」


少女を見ると、杖を前にかざした状態で固まったままだった。


「何だ何だ?何が起きた?」

「......呪文、何じゃったっけ?」


ズコー!!

カイトとタマルは大いにずっこけた。


「おい、あんだけ引っ張って、忘れたとかアリかよ?」

「はて......えーと、火がだめなら水は......だめじゃ、思い出せん......」


額をトントンしているが、何も浮かばないようであった。


「他のもダメっぽいすね」

「火と水以外なら他の......他のって何じゃったかの?」

「知らんわ!」

「妄想魔女、すかね」

「あぁ、そう思いてーが、さっきコイツから感じたワケ分かんねー力はホンモンな気がしたぜ。背筋がゾッとした感じは、あの変態ドSトーカー女とドッコイか、それ以上だったぞ」

「じゃあ、リアルに詠唱を忘れてるってことなんすかね?......魔女が」

「魔女が呪文を忘れる、ね......」


呆れて少女を見ると、忘れていることがショックだったのか肩を落としている。


「おい、魔法使えねーんなら、どーしよーもねーだろ?もう大人しく帰れよ」

「そ、そうすよ、家の人が心配してるすよ」

「......」


同情する二人の言葉を聞くと、俯いている少女の肩がプルプル震え始めた。


「あ......か、カイさん泣かしたっすねー!」

「お、俺かよ!!帰る家がないっつってんのに、家の人とか言ったお前がトドメ差したんじゃねーのか!?」

「そうやって人のせいにするんすか!?」

「こっちの台詞だっつーの!」

「だいたい、この娘はカイさんを求めてるみたいじゃないすか!カイさんが何とかしてあげて下さいっす!」

「なんで俺が、んなガキ育てなきゃならんのだ!?」

「そこまでは言ってないっすよ!」

「魔女とか言ってるイタいガキなんてお断りだ!!」

「......貴様ら」

「でも、可哀想じゃないすか!」

「だったら、おめーが貰ってやれ!」

「おい、貴様ら......」

「ちょ、ちょっとカイさん!そ、そんなんムリに決まってるじゃないすか!」

「そーだよな、童貞だし」

「おいコラー!!童貞関係ないでしょが!!

っつーか、そんな大きな声で言わないで下さいっす!」

「いや、おめーの声の方がデカいぞ」

「......殺す」

「キュウウン!!!」

「「あ」」


タマロンが首を振りながら、必死に何かを伝えようとする雰囲気を感じて前を向くと、禍々しい巨大なオーラを放つ女の子がユラリと立っていた。

しかも、その手に握られていた杖にはオーラと同じ禍々しいものが纏われ、

「ヴヴヴヴヴ」

と歪な音を発している。


「あれ、ヤバくない?」

「えぇ、多分ヤバいすね」



「ちっ!!」


冷や汗を流しながらも、舌打ちするカイトは右目に集中した。

少女は、禍々しいものを纏った杖を振りかざそうとしているが、頭上に上げられた杖の禍々しいものがどんどん膨れ上がっている。

振り下ろされたら、恐らくタマルもタマロンも無事では済まない、そう感じたカイトは少女の腰にタックルを入れた。

運動神経が飛躍的に向上しているカイトのスピードは少女の想定を超えていたのか、少女の顔が驚愕の色に染まったが、タックルを食らい、カイトの腕に組しかれながらも、少女は杖をカイトの背中に向ける。

カイトがそれをかわしながら、横へ飛び退くと、禍々しいものを纏った杖が地面に穿たれた。


ドゴォーン!!


杖は地面を大きく穿ち、その跡は隕石が落ちたかのようなクレーターを成した。


「へ?」


そのあまりの威力にカイトの目が点になる。


「......ちっ、外したかの。すばしっこい奴じゃの貴様。大人しくしておれ。抵抗すると余計痛むぞよ」

「ま、待て待て!!ちょーっちタンマ!!」


再度、杖に禍々しいものを纏わせようとする少女に、カイトは両手でタイムの『T』を作って見せる。


「む?何じゃ?」

「その武器、反則だろ!」

「この『常夜の兆し』かの?魔法が使えなんだから、魔力を纏わせとるのじゃが?」

「それ食らったら、死んじまうだろ!お前さっきは『死なん程度に』とか言ってただろよ!?」

「はぁん?こんなんで死ぬるなんぞ、人族は相変わらず脆弱よのぅ。」

「人じゃなくても死ねるわ、バカタレ!」


ピクンと少女の眉毛が上がり、眉間にシワが寄る。


「......貴様、口が過ぎるの。死ね。」


瞬時に杖に禍々しいものを込め、またもや少女がカイトに襲いかかる。

カイトも右目に集中するが、先ほどよりスピードが上がった少女はあっという間に間合いを詰めて突きを放ってくる。


(食らうわけにはいかねーが、このままじゃじり貧だな。くそ、一か八かやってやらぁ!)


カイトは突きを捌き、禍々しい杖を両手で掴んだ。


「な、何ぃ?!掴むじゃと!?」

「からの、ていっ!!」

「あーっ!!」


そして、掴んだ両手に力を込めて杖に膝を当てると


パキン!


と渇いた音を立てて、杖はへし折れた。


「あっ......」

「お、何だよ、意外に脆いな」


両手に杖だった枝を持って、カイトが感想を漏らすと、少女はヘナヘナと座り込んだ。


「よーし、これで大人しくしやがれ!」

「......常夜の兆しが......」

「うん?」

「主様から頂いた常夜の兆しがーっ!!うわーん!!」


少女が大泣きしながら突っ伏した。


「あーあ、今度こそカイさんが泣かしたっすね」


腕を組みながら、ジと目のタマルが近付く。


「え?何?俺悪者?」

「どう見てもカイさんが泣かしたんじゃないすか」

「いや、俺、今殺されかけてたんですけど?」

「それはそれ、これはこれっす」

「どーゆー理論だ!?」

「うえーん!!わしの、主様からの、大事な杖

~!!うわーん!!」


少女の嗚咽はどんどん強くなるばかりで、収まる気配がない。


「......どーすんすか、これ」

「どーするって、何、それも俺かよ?」

「うえーん!!」

「このまま捨て置けば......」

「うわ......最低っすよ」

「うわーん!!」

「だったら、おめーが何とかしやがれ!」

「折ったのはカイさんじゃないすか!自分で何とかして下さいっす!」

「うわわわわーん!」

「わーかった!分かったから!とりあえず落ち着け!はぁ、くそ、どーしたもんだか」



───数分後。


「......」


少女の手には杖、のようでただの枝が握られている。


「カイさん?それはちょっと......」

「何だよ、同じ木材だろーが?さっきの枝より立派な枝見つけてやったんだぞ!」

「だって、さっきの枝は何とかって立派な名前がついてたんすよ?ただの枝じゃないんじゃ......」

「あん?名前だぁ?おい、ガキんちょ!さっきのは何て名前だったっけ?」

「・・・グス・・・常夜の兆し・・・」

「トコヨね......うーん、そーだな~......よし、決めた!

小春日和ってのはどーだ?」

「コハルビヨリっすか?」

「あぁ。夜の兆しとかって不吉なもんより、春のぽかぽかした日差しのような女になれってことだ。どーだ?」

「せ、正反対に攻めたっすね......」

「コハルビヨリ......」


少女は、カイトが命名した名前を呟く。


「闇とかに憧れる年頃かもしんねーけどよ、男ってのは最終的には安心できる女の元に落ち着くもんだ。お前もよ、そんな女目指したらどーよ?」


少女の頭にポンポンしながら、カイトが笑う。


「......」


一瞬だけカイトの顔を見るが、またすぐに俯いてしまった。


「んじゃ解決したってことで、俺たちは行くぜ」


少女に手を上げてカイトは別れを告げ、タマロンの元へ歩き始めた。


「解決、したんすかね?」

「ズバッと解決したろーがよ。枝だってバージョンアップしたんだ......ん?」


引っ張られる感じがして振り向くと、少女がカイトのマントをちまっと摘まんでいた。


「......あんだよ?まーだ文句あんのか?」


少女は俯いたままで、表情までは見えない。


「これは常夜の兆しじゃない......

(ぬし)は主様じゃない......」


俯いたままの少女がぶつぶつ呟く。


「......あぁ、違う。

だけどよ......過去に捕らわれんな。たまに振り返るのは構わねーが、失ったもんに縛られたまんまじゃお前はそこまでだ、何も進まねー。しんどくても、前向いてろ。そーすりゃ、お前にもぽかぽかした春が来るだろーぜ」


少女が顔を上げてカイトを見上げるが、カイトの表情は見えない。

しかし、何故か台詞とは裏腹にカイトが苦しんでいるかのように感じる。


「それは、わしに言っとるのか?......それとも、主自身にか?」

「......」


カイトの表情は見えないままだが、肯定も否定もしないことが、言葉を肯定しているように少女には思えた。


「まぁ、良いじゃろう。......これから一緒じゃしな」

「?」

「わしを連れて行け」

「......」

「主が......わしに......春を見せるんじゃ」

「......」


言葉こそ命名調であるが、眼差しは懇願の意を含んでいる。ちまっとマントを摘まんでいた小さな手は、今は強く握られている。


「カイさん......」


不安になったタマルはカイトを見詰めるが、やはり表情までは見えなかった。

何が不安なのか、タマルはよく理解できていなかったが、カイトの声にタマルの知らない何かを感じ取ってしまったような気がしたのだ。


「......お前の名前は?」


沈黙を破った声は、いつものカイトの声よりかすれていた。


「わしの、名前......何じゃったかの?」


ズコー!


シリアスな雰囲気をぶち壊してタマルは大きくずっこけた。


「じ、自分の名前を忘れちゃったんすか!?どんだけボケてんすか!認知症かよ!」

「む......仕方ないのじゃ。復活してまだ身体が完全ではないし、わしは五千八百歳なんじゃぞ!」

「どんだけご長寿さん!!」

「誰がババァじゃと!?この童貞めが!」

「ちゃんと婉曲して表現したじゃないすか!ってか童貞言うなっすー!!」


二人が口喧嘩を始めて、雰囲気が軽くなる。

その騒がしい雰囲気をうるさく思いながらも、カイトはそれが心地よく感じてしまい、口元に笑みがこぼれた。


「ったく......まぁ、マジメよりこの方が俺には合ってんな.....おーい、名前ねーと不便だぞ、何て呼べばいーんだ?」

「カイさん......うん、確かに不便すね~」


頭を掻くカイトはいつもの調子に戻ったように見えて、タマルはホッと心で安堵の息を漏らす。

名無しの少女はというと、カイトから受け取った枝改め杖をぎゅっと握っている。


「......この杖の名前、気に入っているのじゃ」

「そうかよ。......じゃ、お前は小春だ。」

「コハル......」

「どーよ?」


名前を呟いた少女は、口元を緩めた。


「......ふん......良いじゃろう。わしは今日から小春じゃ!」

「よーしよし、気に入ってもらって良かった。じゃ俺らはここらで、そんじゃな」


シュタっと逃げようとするカイトのマントを小春が強く握る。

そして、右手の小春日和は歪なオーラを放っている。


「おいコラ、逃がさんぞ。主には色々と責任を取ってもらわねばならぬ。」

「せ、責任て何のだ!俺は潔白だ!弁護士を通せ!!」

「主様の匂いを出してわしを謀った責任じや!......それとも、小春日和の威力を肌で感じたいとな?」

「分かりました、ご一緒させて頂きます!」


シュタっとカイトが頭を下げると、それを見下す小春はニヤリと笑う。


「ふむ、良いじゃろう。

主が見せてくれる春を楽しみにしとるぞよ。

して、主様の匂いを放つ主の名前は何じゃ?」

「はぁ......俺はカイトだ。」



こうして、カイトとタマルの旅に、小春が加わったのだった。







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