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Auto 嘔吐 王都へ

Auto 嘔吐 王都へ



喉が渇いていたカイトは、ジョッキの中身を一気に流し込んだ。


「っかー!!効くなー!」

「カイさん、飛ばし過ぎじゃないすか?」

「なーに言ってんだよ、こいつは勢いそのままに飲むのが旨ぇーもんだろ!」

「......泥酔しないように頼むよ、カイト君」

「折角気持ち良く飲んでんのに、水差すんじゃねーよ。だいだい、俺が泥酔なんて......」


そこまで言うと、カイトは自分が泥酔して昏倒したせいでこの世界に来てしまったことを思い出した。


「......やっぱり、大人な飲み方だよな~」

「む?何だね急に。素直なキミは気持ち悪いもんだね。」

「ははっ、そうすね!カイさん、次は何飲みます?」

「そうだな~、さっぱりしたのが良いけど、そういうのあんのか?」

「それなら、シロサ村特産のサルア......」

「サルアリサワーなんて、おあつらえ向きだぜ!」


厨房の奥からデルガドの声が届いてくる。

どうやら、尚も老婆心からくる盗聴は続いていたようだ。


「ウチで出すサルアリサワーは新鮮そのもので」

──ゴスン!

「ぐぇえ!?」


ついでに鈍器で何かを殴る音も聞こえてきた。


「オホホホ、うちのがスミマセンね~。いえ、たまたま次のオーダーを迷ってる声が聞こえたものだから、ついついオススメしたくなっちゃったみたいで~、ホホホホ......」


聞き耳を立てていたのはほぼ間違いないだろうが、血糊がべっとり着いたビンを片手に奥から現れたケリュネイアを見ると、デルガドの犠牲を無駄にしないためにも突っ込まない方が良いとカイトは判断した。


「じゃあ、そのオススメ貰うぜ。......凶器は隠せよ」


そう言われて、ビンを持ったままだということに気付いたケリュネイアは、慌ててビンを後ろに隠す。


「あ、あらやだ......オホホホ......サルアリサワー少々お待ち下さーい」


ビンを隠すようにしてケリュネイアが奥へ引っ込んだ。


「......す、すまないな、慌ただしい二人で」


親しい二人があまり見せない姿に、フランツは恥ずかしさを覚えて謝る。


「なーに謝ってんだ?良いじゃねーか、賑やかでよ!」

「ははっ、そうすよ!仲の良いご夫婦じゃないすか!」

「そう言ってもらえると助かるよ」


そんなことを話しているうちに、サルアリサワーが運ばれてきた。


「ほぅ、これがサルアリサワーか。透明で柑橘系の匂い、シュワシュワ感。レモンサワーみてーだな。」

「甘酸っぱくて、美味しいすよ!」

「ふん、どれどれ......お、旨い」


サルアリサワーを飲んでみると、確かに甘酸っぱくて美味しいが、女子向けな飲み物だとカイトは思った。


「さて、カイト君。キミの話を聞かせてもらえるかな?」

「......よし分かった。それが、かくかく......」

「便利なシステムとやらはないすからね、カイさん!」


カイトはお決まりを試みたが、あえなくタマルに阻止されてしまった。


「くっ、機先を制するとは、腕上げたじゃねーか」

「あざーっす!俺も成長してるんすよ!」

「あとはだな、突っ込みのバリエーションを増やすとかしねーと飽きられちまうぞ」

「えぇ、それが悩み所なんすよね~」

「かと言って、奇抜なことしても、持て囃されるのは最初だけだからな。やっぱり間を大事にしつつ練度を上げるって基本をだな......」

「......キミたちのペースに慣れている自分がいることに正直驚いているよ」


もはやフランツは突っ込むことすら馬鹿馬鹿しくなっていた。


「あんだよ?ノリ悪ぃな。

そんなんだから、おめーはダイヤモンドヘッドとか言われちまうんだぞ」

「それは、キミが初めてで最後なのだが......いや、この話は終わろう。

はぁ、キミの話を僕は聞きたいのだが?」

「はいはいはいはい、分かってるって。話すよ。ただ、ヘンテコな話になるぜ?」


ようやくちゃんと話をする気配を感じ、ホッとしたフランツは髪を掻き上げる。


「ふっ、それはキミを見ていれば分かるさ」

「......何だかこのやり取りがパターン化しつつあるな

よし、タマル頼んだ!」


ドンとタマルの背中を叩く。


「へ?お、俺っすか!?」

「あぁ、そーだ。おめーは俺の話聞いてんだから話せるだろ?俺は腹が減ってる。故に飯を食う。あんだーすたんど?」

「そりゃ話は聞いたすけど......自分で話して下さいっす!」

「バカヤロー、理解ってのは他人に説明できて初めて出来たことになんだよ。それを証明してみやがれ」

「くっ!屁理屈こねて......絶対面倒臭いだけっすね!!」

「むぐむぐ......やっぱ旨ぇなこの肉!」

「タマル君、心中察するが、今この男に期待は無駄だよ。済まないが、話してくれたまえ」

「はぁ、了解っす。

えーと、泥酔したダメ男が目を覚ますと......」

「おいコラてめー!不必要な脚色してんじゃねー!」

「あいだ!んもぅ、だったら自分で話して下さいっす!!」

「タマル君、真剣に頼むよ」

「は、はいっす。すんませんっす......」


カイトに小突かれ、フランツに冷静に怒られ、散々なタマルは淡々とカイトのこれまでをフランツに聞かせた。


※※※


「......てことで、川辺で俺とカイさんは出会ったんす。あとは、さっき話したところに繋がるっす」

「......カイト君が魔神、か」


タマルの話を聞き終えると、フランツは考え込むように呟いた。


「でも俺は信じられなくってっすね。お伽噺の登場人物がカイさんだなんて」

「あぁ、にわかには信じ難い話だね。しかし......状況証拠が揃ってしまっていることも事実のようだ。」

「......確かにそうすね」


二人はカイトの顔を見つめるが、当の本人は腹を膨らませてご満悦にしている。


「ゲプ!......いやぁ~満足満足!ようやくこの世界の恩恵を受けた気がするぜ。

あ、話終わった?シーッ!」


そのゲップを吐いてつまようじをする姿に、タマルはため息を漏らす。


「こんな人が、本当に魔神なんすかね......」

「ふむ、僕もちょうど同じことを考えていたよ、タマル君。

......しかし、このままキミたちを帝国に行かせるわけにはいかないし、野放しにもできかねるね。」

「それってどういうことっすか?」

「キミたちには危険がつきまとう、ということだよ。

赤嵐がまたキミたちを狙いかねないし、カイト君に魔神と深い関係があると聞けば他にも狙う輩がいるかもしれない。キミたちはかなり危うい状況にあるということなのさ。

カイト君が認めようが認めまいが、ね。」

「そ、そんな......」


事の深刻さにタマルはようやく気付いた。


「そこで、キミたちに提案がある。

......王都へ来ないか?」

「王都へ、すか?」

「何だその、『嫁に来ないか?』的なやつは!気持ち悪っ!!」

「ま、真面目に聞きたまえ!!」


フランツは顔を赤くして怒鳴るが、咳払いして落ち着きを戻した。


「......コホン。

王都でとりあえず僕が保護するかたちをとる。

保護する以上は可能な限り、キミたちの支援と身の安全の保障をさせてもらう。

その対価に、キミたちは必要があった際に赤嵐のことや魔神のことを僕の上官に話してもらう。

上官への報告が不必要かもしれないし、それ以外の時間は、帝国に関する情報収集や準備に割り当てて構わない。

勿論、帝国に関する事についても協力は惜しまないよ。

......どうだい?」

「それって、俺たちにとっては渡りに船ですけど、そんな世話になって良いんすか?」

「それだけキミたちの話は我が国にとっても重要事項ってことなのさ......それに嫌な予感がするんだ」

「嫌な予感、すか?」

「あぁ。真偽の程は置いておくとして、魔神の復活と戦女神の降臨が計ったように同じタイミングとは都合が良過ぎるとは思わないかい?

それが無関係だと、僕はとても思えないね」

「あっ......」


魔神と戦女神はお伽噺によれば戦い合った二人であり、関係があるどころか二人の間柄は因縁とすら呼べるであろう。


「国の中枢がどれだけこの話をまともに聞き入れるか分からないが、僕は警鐘を鳴らすべきだと考えているんだ。

そこで僕に協力して欲しい、ということなんだ。」

「協力っていっても、俺もカイさんも何をしたら良いのか......」

「もし、キミたちに意見を求められることがあった場合にキミたちが見聞きしたことを話してくれれば良いのさ。」

「そ、それだけっすか?」

「あぁ、それで十分さ」

「カイさん、かなりの厚待遇っすよ?」


進むべき道が全く見えてなかったタマルにとってフランツの申し出は正に光明が差したような提案であった。

しかし、カイトは腕を組んだまま難しい表情をしている。


「キミは何か不服かい?」

「......確かに良い話ではあるが、俺、人体実験とかされたくねーぞ」

「......怒るよ、カイト君。僕がそんなことを許すはずないだろ?」

「お前はそうかもしれんが、他はどうだ?俺やタマルが政治利用されるのもごめんだぜ」

「......正義に誓ってそんなことは絶対にさせない。絶対にな。」


カイトとて、フランツを信用している。

カイトとタマルが不利益になるようなことは決してフランツはしないだろうことは分かってはいるが、上官の命令や国の利益などと天秤をした場合、果たしてフランツがそれらをはね除けられるのか。

フランツまでもが国に排除されてしまわないのか。

そういった不安をカイトは拭えないでいたが、フランツを頼る他に手はないことも事実であった。


「カイさん、フランツさんがこんなに言ってくれてるんすから、甘えちゃって良いんじゃないすか?」

「......」

しかし、カイトは腕を組んで考え込んだままだ。

「......信用できない、かな?」

「......お前の国ってエルフが多いんだっけ?」

「な、何を急に?だが、そうだね。我が国はエルフが治めるエルフ中心の国だからね。他の国と比べれば割合は圧倒的に多いが......それが?」


不意を突く発言に、フランツは戸惑いを隠せなかった。全くカイトの発言に込められた意味が理解できない。


「なぁ、タマル。エルフって見た目整いがちじゃねーか?」

「まぁ、容姿端麗な人が多いっすね」


戸惑うフランツをよそに、タマルはカイトの邪な思惑が読めた。


「そうか......」

「カイト君、一体何を考えて......?」

「よし、行ってやろうじゃねーか」

「何?」

「お前の国に行ってやるっつってんだよ」

「!?」


会話の流れについていけてないフランツであったが、カイトが王都行きを断る可能性を予想していたため、突然のその意思表明に言葉が出ず、泡を食った顔になってしまった。


「んだよ、その顔?お前の望みどーりにしてやるってんだぞ」

「しかし、良いのかい?」

「あぁ、仕方ねー。

俺やタマルだけじゃ荒波に平泳ぎで立ち向かうよーなもんだが、お前の船なら楽園に辿り着けるかもしれねー。

......お前の船に乗ってやるよ」


その言葉は、カイトがフランツへの信頼を示すものであり、フランツもタマルもそのことに気が付いた。


「......感謝する」


フランツがカイトに頭を下げるが、そういったことをカイトが好まないことを肌で感じているタマルは、自分流にそれを止めることにした。

そもそも、カイトが素直に行くと言えないだけであるとこもお見通しなのだ。


「フランツさん、恐らくっすけど感謝は必要ないと思うっすよ。

この人、多分エルフのお姉さん目当てっすから」

「いや、まさか、僕がこんなに誠心誠意話をしているというのに、そんなことは......いやカイト君なら......」

「こらこら、本人目の前にして失礼な!」


雰囲気が軽いものになってカイトはホッとしながら抗議する。

そもそも、素直にフランツの提案に乗れなかったのだ。


「こんな話の流れでそんな不埒なことをこの俺が......」

「......そういう台詞は伸びた鼻の下を戻してからにしてくれ」


カイトとタマルの軽い雰囲気に自分も入れていることに心地好く感じながら、フランツは厳しい突っ込みを入れた。


「......」

「......」

「......」

「王都ってどんなとこなんだ?」

「なかったことにした!強引だよ!せめてさりげなくやって下さいっす!」

「っせーな、流れ止めんじゃねーよ。」

「......キミへの監視は強化するとしよう。」

「監視って言ったぞコイツ!支援とか協力とか保護とか言ってたくせに!」

「では、せっかくだから王都について説明しよう」

「出た!お得意のシカトで説明パターン!」



「フィ・クサリァ王国は、21の領地を有する国であることは、説明したね?

領地とは別に王国の中枢となる場所が王都であり、その起源は約五千年前と言われている。

五千年前の聖戦後、筆頭勇者に従った13名の勇者のうちの一人で僕の始祖である、レムナント・フィ・クサリァ様がその実績の褒賞として筆頭勇者から授けられた領地が、現在の王都である、と言い伝えられているんだ。

盛枯の波はあったろうが、これほど長い歴史を持つ都は王国とガン帝国くらいしかない。」


そう言うフランツはどこか誇らしげである。


「ふーん。」

「歴史の流れとともに、王都は拡大していてね。現在では王城を中心として四方に20キロメートル程の面積となっているんだ。

そして、王都は五層構造となっていてね。

第五層が農村地帯、第四層が平民区、第三層が軍部関係施設や行政施設がある公的機関区、第二層が富裕層や貴族達が生活するセレブ区、そして第一層が王城となっている。

層の境にはそれぞれ層壁が設けられ、通行するには門番の検問を受けねば通れない。

第三層までは概ね自由に往来が可能だが、第二層からは許可が必要となる。

ここまでは理解したかな?」

「けっ、二層以上は特権階級様かよ?」


あって当たり前なのだろうが、この世界にも明らさまな差別があると分かりゲンナリしてしまう。

文明がある以上は多少なりとも差別はあって仕方ないとカイトは考えてはいるが、勿論差別を好んでいるわけでもない。


「余計ないざこざを防ぐためさ。」

「貧乏人をセレブな第二層に入れなけりゃ泥棒が減るってことかよ?」

「正直なところ、それは認めるが、その逆も然りなのさ。」

「あん?どーゆーことだ?」

「平民は許可なく第二層には入れないが、貴族などの第二層居住者は許可なく第四層には入れないのさ。」

「えぇ~、そーだったんすね!俺も知らなかったっすよ。第四層に貴族がいないのは、単に庶民的な場所が嫌いだからなんだと思ってたっす!」

「平民を規制すんのはよく聞く話だけどよ、貴族まで規制するなんて変わってんな......貴族とかには気を使ったりおべんちゃら使わなきゃならねーのがお決まりパターンなんだがな~」

「どこでのお決まりなのか分からないが、我が王国は貴族くらいが国の政にちょっかい出せる程甘くはないのさ。

特に僕の叔母である女王陛下に敵う者はこの国には存在しないよ。」

「へぇ~、ここは女王様体制なんだな」


カイトが煙草に火を着けながら感心した声を出す。


「スカーレット・ヨハス・レ=フィ・クサリァ女王陛下は、控え目に言っても王国史上最も偉大な王の一人だよ」

「随分と評価高いじゃねーか。親族贔屓か?」

「馬鹿を言ってはいけない。

18歳という若さで即位して、当時崩壊寸前だった王国を20年で『楽園の都』にまで再生したのは女王陛下の辣腕があったお陰なんだよ。

腐敗した貴族政治の浄化に徴用制度改革、街道整備に第二層までしかなかった王都構造改革。

陛下の業績は推挙したらキリがないくらいだよ。」

「辣腕って言い方するってことは、女王様はかなりのやり手なんだな。」

「あぁ、激し過ぎる程にね。」

「そんなんじゃ、敵も多いんじゃないんすか?」


政治に疎いタマルは王国での事件などについては、ほとんどというか全く知識がなかった。


「即位後は言うまでもなく貴族を始め、かなり政敵がいたらしいが、女王陛下を敵に回して生き残れた者は現在皆無のようだよ。」

「うえ~、おっかねー!」

「厳しいところはあるが、慈愛に満ちた女性だよ。」

「だからそれって親族贔屓なんじゃねーの?」

「僕は女王陛下の親族ではあるけど、直接お会いできる機会なんてめったにないよ。血の繋がりが若干ある程度で、話したことすらほとんどないくらいの他人さ。」

「おめー王子様だろーが?」

「王位継承権を有しているといっても僕は13位で決して高くはないんだ。継承権保持者だからといって、おいそれとお会いできるものではないのさ」

「ふーん、そんなもんか」


王族なんて身内贔屓の最たるものだという認識であったが、この国ではそんな簡単なものではないようだ。



「ふむ、軍部のことについても若干触れておこう。」


終わらない講義にカイトはウンザリしていた。

知らない国の情報を教えてくれることはありがたいことではあるが、詰め込み過ぎて頭がパンク寸前であった。


「まーだ授業続けんのかよ......」

「なんか、フランツさんノッてきてるっすね」

「知恵熱出たらどーしてくれんだよ?」

「王国の素晴らしさを理解して欲しいし、やはり軍のことは知っておいて損はないからね。」

「単に気持ち良く喋りてーだけなんじゃねーのか?」


カイトの突っ込みに一瞬フランツが固まるが、それでも口の動きは止まらなかった。


「......軍部は武大臣をトップとして、約5万人の兵士を抱えているんだ。」

「だから、シカトは止めろ!図星なんだろ!?なぁ、図星なんだろ!?」

「兵士の仕事は、戦争だけではなく、王都を守る『内守』、領地全域を守る『外守』に二分されている。

内守は、王都内の見回りや犯罪の防止・鎮圧、層壁の守備にあたる。

外守は、王都外の見回りや外敵対応にあたる。

内外守以外では、王城や王族を守る近衛があるね。」

「ふーん。おめーはどれなんだ?こうして王都から出てんだから、ソトモリってやつか?」

「いや......違うんだが......詳しくは言えないんだ、済まない」

「事情がある感じなんすね」


気まずく話すフランツだが、カイトはフランツが一般兵士とは趣が異なる役割なのだろうと検討がついた。


「ふーん。情報収集とか秘密裏にミッションこなすとかの特殊部隊だったりしてな。」

「......」


的を得ていたのか、フランツが唖然として返事に困ってしまった。


「お前さ、もーちっと分かりずれー反応した方がいーぞ。そんなんでよく特殊部隊できてんな?」

「えー!何かカッコいい仕事してるんすね!」

「......他言無用に頼む」

「はい、勿論すよ!」

「バラす相手がいねーっつーの」

「墓穴を掘りそうな気がする、王国の説明は以上にしたいが良いかな?

何か質問があれば、その都度言ってくれ。答えられる範囲で教えるとしよう」

「よーやく授業終わったぜ!」

「勉強になったっす、ありがとうございましたっす!」


フランツの王国講義が終わり、カイトは伸びをして煙草に火を着けた。



「で、これからのことなんだが。

僕は出来れば急いで王都に戻り、今回のことを上官へ報告するつもりだ。

だから、キミたちと一緒に王都へ行くことができないんだが、部下を護衛に付けようと思うが良いかい?」

「それは助かるっす!ね、カイさん!」

「美人なボディーガードって何か萌えるな」

「済まないが、護衛は男だよ」

「じゃいらねー」


嫌らしい笑みを消して、カイトは一刀両断にフランツの提案を断った。


「ちょ、ちょっと!カイさん!!俺たち危ないんすよ!?」

「これ以上ムサイのはご免だっつーの」

「そんなワガママやめて下さいっす!」

「それに、変に目立ちたくねー」

「シロサ村から王都までは整備された街道はあるし、外守もいるにはいるが、確実な守りとは言えないよ?」

「構わねーよ」

「僕としては護衛に守られて欲しいんだがね。キミがそう言うなら仕方ないが。」

「ガキの使いじゃねーんだから、んなに心配すんなって」

「俺はとびきり心配なんすけど!」


街道近くで強盗に襲われた記憶が鮮明なタマルは、フランツの好意にどっぷり甘えたい気分であったが、カイトの意思は固かった。


「では、僕が書いた書状を渡しておく。外守や内守にそれを見せればキミたちが国の協力者だと分かるようにしておくよ。

第二層まで入れるようにもしておく。」

「え!?俺が第二層まで入れるんすか!!」


何度か王都に出入りしているタマルであったが、入れたのは第三層までであった。


「僕の自宅が第二層にあるからね。」

「うわー!初めてっす!!どんな所なんすかね~。楽しみっす~!!」


未知のテリトリーにタマルは夢を膨らませるが、カイトはそんなタマルを白い目で見る。


「ガキみてーにはしゃいでんじゃねーよ。たかが街だろがよ」

「何言ってんすか!そうとうレアな体験ができるんすよ!普通だったら俺やカイさんが逆立ちしたって入れない場所なんすから!」

「はいはい、分かりました、すげーすげー」


確かにレアな体験かもしれないが、その場所が特権階級者の住み処と考えると、どうしても浮かれた気分にはなれないカイトであった。


「さて、そろそろ行かねばならないが、本当に護衛はいらないのかい?」


念押しするように、フランツはカイトに再確認をする。


「あぁ、いらねー。」

「......何故そこまで固辞するんだい?キミが遠慮するようなタチには見えないが。理由を教えてはくれないか?」

「......護衛はアイツらって決まってるんだ」


そこでタマルはハッと気が付いた。

そして、タマルもカイトと同じ気持ちになる。


「すんませんす、そうでした。

俺の護衛はシャルクレさんとヨリメルさんに頼んであるんす。なので、他の人の護衛は必要ないんす」

「しかし、その二人は......」

「あの二人以外に、俺の護衛は頼まないんす!スミマセンっす!」


先ほどとはうって変わって、タマルの眼差しに強い意思が感じられる。

それほど、二人がオーク族の二人を求め、信頼しているのだろうと検討をつけ、フランツは護衛をつけることは断念した。


「......やれやれ、頑固なもんだね。

いや、不粋なことはしないさ。キミたちの気持ちは解ったよ。

ただ、本当に気を付けてくれ。無茶なこともしないでくれよ。危ないと思ったら逃げるか大声を上げて......」

「おめーはお母さんかバカヤロー!......わーってるよ、向こうで会おうぜ」

「すぐに追い付くっす!」

「頼んだよ。向こうで待っている」


そう言ってフランツは勘定をする。

席にはデルガド・ケリュネイア夫婦も加わった。


「フランツ坊っちゃん、また来て下さいよ」

「気を付けて下さいね。無茶なことはダメですからね。危ないと思ったら急所に一撃食らわして逃げるんですよ」

「ふっ、分かってるさ」

「こっちは、ガチのお母さんだよ!しかもかなり物騒なお母さんだ!」

「そちらの二人もまた来なさいよ」

「たっぷりサービスするぜ!」


デルガド・ケリュネイア夫婦がカイトとタマルにも声を掛ける。


「はい!必ず来るっす!」

「あぁ、またド突き夫婦漫才見に来るぜ」


デルガド・ケリュネイア夫婦に見送られ、三人は店を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。


※※※


「じゃあ、僕は行くよ」


フラケンの前でフランツが二人にしばしの別れを告げる。


「おう。ところで、おめーの馬は?まさか歩きじゃねーよな?」

「ふっ、今呼ぶさ!」


そう言うと、フランツは指笛を吹く。

すると、空から翼の生えた白馬が降りてきて、フランツに頭を寄せる。


「ペガサスかよ!?その見た目でペガサスに跨がるなんざ、絶対狙ってるだろ!」

「僕の相棒、フラぺさ」

「ふ、フラぺっすか?」

「フランツのペガサスでフラぺ。勇ましく優雅な名前だろ?」


得意気にフラぺを紹介するフランツには、恥ずかしさなど微塵もない。


「い、いえ、いや、あの......素敵な名前っすね」

「センスねーな、こいつ」

「何か言ったかい?」

「いや、何でもねー。おめーのセンスに万歳ってとこだ。」

「ふっ、解ってくれて嬉しいよ。

そうだ、タマル君、失念していたが僕がカイト君と因縁があるようなことを言っていたと思うが?」


去り際であったが、思い出した以上は確認だけはしておこうと、フランツがタマルに尋ねた。


「あ、はい、それはカイさんの身体のことなんす。カイさんの身体は何かしらの呪いとか封印がされているようなんすけど、それを解く鍵がカイさんに関係する人なんじゃないかと思ってっすね。」


カイト君の右目が開封された状況をタマルはざっとフランツに説明した。


「ふむ、キミの気持ちがカイト君の力を解放したと、ね。そして、それが僕にも可能であると......」

「えぇ、それ以外考えられないんすよ」


二人の会話を聞いて、カイトは股間が痛む錯覚を覚えた。


「おい、股間のことは置いとこーぜ。あんな痛みは金輪際お断りだ」

「しかし、開封によってキミが新たな力を得るかもしれないんだ。やる価値はあると思うが?」

「てめーはあの痛みが分からんから、そんなことが言えるんだ!」

「タマル君、右目が開封された時、キミはどうしたんだい?」

「おい!シカトすんな!これだけは俺の意思を尊重しろ!不能になったらどう責任とるんだ!!」

「えーとっすね、俺に力があれば、とか、カイさんの力になりたい、とかっすね」

「だから無視は止めろ!それに、俺の力になりたいなら、そっとしとけ!」

「ふむ、どれ......」


そう言うとフランツは目を閉じて意識を集中する。これからの旅路で力になってやれないこと、できることなら自分の力を分けたいほどにカイトを心配していることなどをイメージする。


すると、


「こ、これは!」


フランツの前に光の法陣が現れる。

それはタマルが発したものと模様の違いはあれども、状況は同じであった。


ということは、

「や、やべぇ。あっさり成功して......あ......あだだだだだだだだだだ!!」


カイトが股間を押さえてうずくまった。


「や、やったっす!フランツさん!成功っすよ!」

「ふっ、まさか本当にやれるなんて......」


喜んでいた二人であったが、騒ぎを聞き付けた村人が遠目に集まってきた。


「お?なんだなんだ?」

「何だか真っ黒い格好したあんちゃんが股間押さえて倒れてんだよ」

「何だそりゃ?あれか?ホモの痴話喧嘩か?」

「あれ騎士様だろ?騎士様がそれって......」

「あの小さい奴取り合ってんじゃねーのか?」

「ホモの三角関係かよ?」


などと噂されているが、当の本人たちには聞こえていない。


うずくまるカイトの股間から光の粒子が発生し、やがてそれは光の法陣を組む。


「あだだだだだだだだだだ!ギブ、ギブー!!!」


しかし、カイトの願い空しく、フランツから発生した法陣が光の粒子と化し、カイトの法陣にぶつかるように吸い込まれ、ガラスが割れるような甲高い音とともに、法陣が粒子と化して消えていった。

そしてカイトの意識も消えた。


「......これは成功と呼べるのかい、タマル君?」

「えと......とりあえずポーションお願いしても良いっすか?」

「......そうだね。」


フランツがカイトにポーションを掛けると、カイトはガバッと起きてフランツの胸ぐらを掴んだ。


「てんめー!!殺す気か!!悶絶死するかと思ったぞ!!」

「ふっ、キミの力になりたいと思っただけさ。」

「てめー、いけしゃあしゃあと!!」

「まぁまぁカイさん!もう大丈夫なんすから!それより、新しい力はどんなんすか?」


タマルに言われ、カイトはフランツを離してズボンの中身を確かめる。


「いや、これといって我が息子に変化はないが......」

「仕方ないことだが、ここは外だということを忘れないでくれたまえ、カイト君」


そう言われて周りを見回すと、何やら野次馬が集まってきている。


「なんだ?ケンカか?」

「どうも、騎士様とあの真っ黒い兄ちゃんがあの小さい奴を取り合っている三角関係のもつれらしいぞ」

「どうやら騎士様が真っ黒い兄ちゃんの股間に外法をかけて勝ったみたいだな」


野次馬の声は今度こそ、当事者たちの耳に届いた。


「何だか変なことになってるっすね......」

「よりによって、何でおめーをこんな奴と取り合わねばならねーんだ!」

「それはこちらの台詞だよ!......くっ、こんな屈辱は人生で初めてだ!」


戸惑う三人をよそに、野次馬の熱は上がる一方だった。


「おっ、また始まりそうだぞ!」

「騎士様、頑張れー!」

「真っ黒い兄ちゃんも頑張れ!愛を取り戻せー!」

「あの騎士様、フランツ王子じゃ......?」


もはや、フランツの正体までバレてしまっているようだった。


「......とりあえず逃げません?」

「だな、賛成」

「いや、待ちたまえ!誤解を解いておかねば僕のイメージが!」

「やかましい!逃げるぞ!」


盛り上がる大衆を尻目に、三人は止まり木の方へ逃げた。


「はぁはぁはぁ、ここまで来れば大丈夫っすかね......」

「くそ、どエレー目に遭ったぜ」

「何故、僕がこんな目に......」


五分近く全力疾走すると、人気のない場所で三人は息をついた。


「で、カイさん、新しい力はどうなんすか?」

「いや、これといって実感は何もねーな」

「ふっ、在らぬ屈辱を与えられ、その上得るものがないとは......」


遠い目をするフランツではあったが、タマルはある違和感を覚えていた。


「しかし、フランツさんはまだ分かるっすけど、カイさん意外に体力あるんすね」

「ん?おぉ、そーだな。......結構走ったんだがな......。息切れてないし、そーいや疲れてねーな......」


カイトはそう言うと、ストレッチをしたりジャンプを繰り返した。


「あれ?身体が軽いな。自分の身体じゃねーみたいな。っとぉ!うわぁ~」


二三度軽くジャンプしてから脚に力を込めジャンプすると、カイトの身体が10メートル近く飛び上がった。


「......ぁぁああぁー!っとぅ!!」


思いがけない飛躍にカイトは度肝を抜いたが、着地をヒーロー着地で決めることは忘れない。


「何だよこれ?身体に力が湧いてくるのが分かるぜ」

「これが新たな力ってことなんすかね?」

「あぁ、そーかもな。」

「でも、身体能力向上と股間ってどんな関係が?」

「これは、精力がみなぎっている、ということなのかもしれないね」


少々ゲンナリした顔でフランツが推測を述べる。


「せ、精力っすか?」

「あぁ、精力は馬鹿にしたものじゃない。生命の源だからね。

しかし、何故僕が......この僕がよりによって、股間担当なんだ......屈辱だ!」

「おめー一人だけ被害者面してんじゃねー!俺だって、男に股間を解かれるって、どんだけの辱しめか分かってんのかバカヤロー!!」

「まぁまぁまぁ、とにかく無事開封できたんすから、良しとしましょうよ!」

「「何も良くねー(ないよ)!」」


二人の激しい突っ込みを受けながら、

(この二人は何だかんだ息がぴったりっすね)

などと思うのであった。


※※※


「今度こそ、王都に帰らせてもらうよ!」


若干怒り気味に告げると、フラぺこと白色ペガサスにフランツは跨がった。

フラぺに跨がるフランツは、正に絵になるほどペガサスにお似合いであった。


「しつこいようだが、くれぐれも気を付けてくれたまえ。

それでは王都で会おう!」


そう言うと、羽ばたくフラぺを駆るフランツはあっという間に空に消えていった。


「・・・何か、逃げるように去って行きましたね、フランツさん」

「へっ、いー気味だぜ。巻き込まれてた方はたまったもんじゃねーがな」

「それは多分、フランツさんの台詞っすね」

「あぁん?何か言ったか?」

「いえ、何でもないっす!

しかし、イケメン騎士に白いペガサスって、凄い絵面っすね」

「あのペガサス、ひでー名前で可哀想だったな。」


(センスについては、カイさんも似たよーなもんだと思うんすけど)


見る人が見ればうっとりしてしまうであろうフランツの勇姿は、カイトとタマルには全く通じていなかった。


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