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最後の英雄は森に棲む  作者: 東雲


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9/15

第九話 それまでは、孤独を楽しむとしよう

「GYAOOOOOOON」


竜王が吠える。

心の臓を直接握りつぶされるかと思う程の威圧。


「うるせぇ!」


同じ圧で応じる。

筋肉達磨が走るのが見える。


「一番槍は頂きますぞ…!」


相変わらず筋肉でパンパンになった可哀想な法衣の腕が振り被られる。

掌に聖気なのか殺意なのか分からんけど込められた拳で竜王のその大きな足に叩き込まれる。

地を割る轟音。

竜王の山の様な体が、ほんの僅かだが沈む。


「……出遅れた」


フォルツの背後からレブルが飛び出す。

構えた短槍を投射。それと同時に走り出し長槍と共に突撃《チャージ》の姿勢を取る。

一本の槍となり、投げた槍に追い付く。


「お前ら!俺の出番取るんじゃねぇ!!!」


俺も負けじと駆ける。

フォルツが殴り、レブルが穿った。

今だ―――下がった竜王の脳天に一撃をお見舞いする。


―――ダメだ、硬い。


キィンと甲高い音を立てて剣が弾かれる。

全くダメージは通っていないだろう。


「なるほど、ヒトの英雄よ。

 貴君らの武威、称賛に値する」


よく言うぜ


フォルツの腕が丸太のようなら、竜王の腕は巨木のようだ。

その巨木が薙ぎ払われる。


まずい、当たる…!!


地面を抉る轟音が響く。

両の足で踏ん張り、身長ほどの大楯(タワーシールド)を構えるマグナが竜の腕を止めた。


「三人して気持ちよく飛び込まないでくださいよ!!!ひぃ……!」


この攻撃を止めているのに何にそんなビビってんだこいつ…

聖天連合どころか人間でこれを止めるヤツ五人もいないぞ多分


「お前もギリギリ人間離れしてるよな…」

「僕は!まっとうな!人間ですよ!!」


いや、そんな事ないだろ…

「あの盾兵…王の一撃を止めた。だと…?」

「馬鹿な、見たことないぞそんなもの」


右龍、左龍が驚き慌てている。

ほらな?


「よし、防御はお前に全部やる。攻撃は任せろ」

「何がよしなんですか!」

「お前がさっき言っただろ?半分荷物もて!」

「あー言わなきゃよかった!!!」


体制を立て直し、再度対峙する。

さて、どうしたもんか


「……フェルド。

 俺が囮になる、彼奴の隙をつけ」


レブルが淡々と告げる


「却下」


レブルは「なっ…」と息を呑む。


「では、拙僧が」

「それも却下だ」

「ふむ、では?」

「俺が……」


「ここは僕ですね。

 レブルさんじゃ軽すぎるし軽装すぎる

 フォルツさんじゃ重すぎるし回復の要です

 フェルドさん、貴方は決定打ですよ?囮になってどうすんですか?」


「ダメだ、お前みたいな腰抜けビビリ野郎には出来ない」

「何言ってんですか…僕みたい腰抜けビビりだから囮になるんですよ」


「ダメだダメだ!こんなの死ににいくようなモンだ」


「フェルド・アイゼン!!!何をそんな恐れているのですか!!」


んだと小僧この野郎…と言う前に覚悟を決めたマグナの顔が目に映った。


こいつも強い―――。

あぁ自分の弱さを実感する。


「その役割は僕です!!

 貴方は猪みたいに突っ込んで、

 笑いながら、軽口叩きながら、自分の命で博打打つじゃないですか!」


やめろ


「恐れない兵士なんて居ませんよ!

 でも貴方は決して恐れない!だから僕はいつだって貴方の前に立てるんです!

 いいですか!僕は”貴(・)方(・)に(・)な(・)り(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)”!一度しか言わないですよ!

 その貴方が仲(・)間(・)を(・)失(・)う(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)程(・)度(・)の(・)事(・)に恐れないでくださいよ!

 憧れた僕が馬鹿みたいじゃないですか!!

 貴方は、笑って「いけクソボケ」って言えばいいんです!僕は仕事をこなして

 ”みたかクソ野郎!次はお前の番だぞ”って言うんです」


肩で息をしてる。

戦闘中に何を疲れてんだこのクソ馬鹿野郎…


「だからフェルド・アイゼン。

 見ててください……!僕が、やってみせますよ!」


ガシャンと盾を構え直し竜王に向き直る。


「お待たせしました竜王陛下。

 将軍に変わり僕がお相手致します」


「見事よ、盾の若人。

 では朕の全力を受けきってもらおう―――か」


竜王の胸が大きく膨らむ。


―――竜の息吹(ドラゴン・ブレス)


竜族最大にして最強の攻撃。

これがあるが故に、竜族は少数でも人間《おれたち》と戦ってこれた。

下級の竜ですら隊を壊滅させる。


最上級の、最強の竜の竜の息吹(ドラゴン・ブレス)……


「耐えきれよクソボケ!!」

「わかってますよ!!!」


それは地獄の業火も生温い、煉獄の炎だった。

マグナを中心に二又に分かれた熱線は壁を炭化させ、一部は溶けて粘性を帯びている。

「こ、のぉ…」


両の足を踏ん張り、盾に気を通し、金城鉄壁と成す。

耐えるマグナ、吹き付ける竜王。

互いに一歩も譲らない。

永遠とも思える時間が流れる。


盾の端から赤熱化し、マグナの足元がぐらりと揺らぐ。

まだか…まだ終わらんのかこの攻撃は…


点ではなく面の殲滅力の恐ろしさ、それを点で受け続けるマグナ。

すると、コォォと言う音とともに徐々に炎の勢いが失われる。

肉の焦げる匂いがする。


「マグナ!!」

「まだ…生きてますよぉ…!」


腕と顔の一部が炭化している。

フォルツが慌てて駆け寄り回復の秘術を施す。


かふっと血を吐くマグナ。

まだ生きている。ならばあとはフォルツに任せるしか無い。


「レブル!」

「……応さ」


竜の息吹(ドラゴン・ブレス)は竜の命を削って撃っている。と言われている。

命を削るまでいかなくとも、消耗はしているはずだ。

好機は今っ!!


風の如き速度で駆ける。

レブルも着いてきている。


「おぉぉぉぉぉっ!」

思わず猿叫《バトル・クライ》が漏れる。


頸に剣が届く。

反対側には目を貫くレブル。


ーーーが、浅い


目を貫かれた竜王は爪でレブルを薙ぐ。

レブルの左腕が宙を舞う。


「……まだ!」


残った右手で槍を掴み、再度の突撃《チャージ》

石床の割れる音が響く。

足跡の形に石床が砕ける。


「……感謝する、竜の王。

 本気を出してむかえた事に喜びを。

 極楽への土産にこの右手も捧げよう!」


短く持った槍で竜王の眉間を穿つ。

一点集中のその力に、耐え切れなかったのは、レブルの右手であった。


ぶしゅっと言う生々しい音と共に五指全てがあらぬ方向に曲がる


「見事なり、武人よ」


レブルに向かって満身創痍で微笑む竜王。

先の左腕を飛ばした爪がレブルを襲う


「っざっけんな!!」


レブルに向かい飛び込み、その爪を剣で受け流す。


「無事か!?」

「……問題無い

 いや、コーヒーが飲みにくくなったな」


よかった。

一瞬、ほんの一瞬の油断。

仲間の死を再度体験しなくて済んだ。と油断をした。


反対の手による爪が、俺たちを襲う。


ーーーキィン


甲高い音が響き、俺たちを庇う。

遠くでフォルツが叫んでいる。


「見たか……クソやろう…次はー」


盾は竜の息吹で限界だったのだろう。

爪が盾を貫き、マグナの胸を穿つ。


「がふっ……貴(・)方(・)の(・)番(・)、ですよーーー」


「うぉぉぉぉぉ!!!!」

剣に力を込める。

大きく振り被り、頸をーーー


「見事なり、人の英雄」


両断した。


ゴロンと竜王の頭が転がり、数瞬遅れて、山のような体が、倒れ落ちた。

こうして、俺たちは竜王の首を獲った。

―――その代償が何だったのか。

あの時の俺は、まだ分かっていなかった。


「はぁ……はぁ……

 竜王の首、この!フェルド・アイゼンが獲ったぞ!!!!」


剣を天に掲げ、そう宣言した。



*****


静寂が部屋を包む。

あまりにも壮絶。

あまりにも偉大。

恐怖さえ覚えるその英雄譚に僕は一言も発せられない。


「んで、竜族が大人しくなって…あとはお前も知ってるだろ」

懐から煙管を取り出し、火を落とす。

紫煙が部屋をゆらりと満たす。


「それで———終わりですか?」

「あぁ、終わりだ。

 戦争は終わった。

 俺は生き残った。


 皆が憧れる英雄の誕生だ。


 めでたし、めでたし…でいいだろ」


違う、そう思ってる顔じゃあない。


「思ってないことを口にするような方じゃないでしょう貴方は」


思わず口に出た。

大概俺も思った事を口にしてしまうようだ。


「……言うねぇ」

「ありがとうございます…?」

「だから何で疑問形なんだよ…」


しゃあねぇな…と師は続きをポツポツと語り始めた。


*****


竜王を討ってから三日後

”隠者の森”を出て、王都に向かう道中


レブルの左腕は元には戻らなかった。

損傷が激しく、フォルツの回復の秘術では繋げる事が出来なかったのだ。

右手の完全破壊の方は見た目だけならば元に戻っている。

あくまで見た目だけ。神経?とか言うのは繋げきれなかったそうだ。

レブルは「…これで充分だ」等と言っていた。


フォルツは戦闘終了後からレブルの左腕を治し、俺の傷を治し、マグナを聖天送りの儀で弔い……とにかくずっと動き回っていた。

「拙僧は戦闘時に役に立てなかったので、このくらいは…」とか抜かしている。

充分役に立っていただろうが。


マグナとズマの遺体は右龍と左龍がホンドゥール王国へ送り届けてくれると約を交わした。

また、竜王討ち死にの報もその日の内に竜族全体に知らされたようだ。

黒竜群とか言う跳ねっ返り共の処理は左右に任せる。俺は知らん。


「……俺は国に戻らん」

突然、レブルが言い出した。

「は?何でだよ」

「……戻る事によって貴公の枷になる可能性が高い」

意味深長過ぎて良く分からん。

「……それに俺は今は槍が握れん。

 ここより南の海の先に、魔導に秀でた国があると竜共に聞いた。

 そこを目指す」

「いや、国に戻ってからそこ行けばいいだろうが」

「それは、恐らく出来ん」

「意味わかんねぇぞ?」

「……フッ

 将軍、俺は貴兄の槍だ。槍は、再び貴兄の元へ戻る」

「だから意味わかんねぇって」

ぶっ飛ばすぞこの野郎。

「……帰りの道中で死んだことにでもしてくれ。では、去らばだ」

答えも聞かずにレブルは立ち去る。

いや、やっぱり一発殴らせろ。


「拙僧も…ここらが限界ですかな」

坊主までなんか言い出した。

良く分からんなこいつ等は…

「フォルツ、お前まで何を…」

「ズマ殿、マグナ殿を救えなかっただけに留まらず

 レブル殿の手さえ治せなかった拙僧に何の価値がございましょうか」

手が震えている。

これは———怒りか。

自身に対する大きな怒り。

「……それは、俺もそうだ」

「分かっております。フェルド殿、貴公が最も厳しく自身を責めている事も重々承知」

別に責めてねぇよ

「ですが、申し訳ない……信仰は捨てられませぬ、が…疲れ申した」

はらはらと涙を流すフォルツ。

「フォルツ……」

二の句が継げない。

あのフォルツが、涙を流している。

さすがの俺もこれは茶化せないし、してはいけない事くらい分かる。


「拙僧は…私は、このまま流浪の旅に出ます。

 諸国を巡り、世界を見てみます……商人の真似事でもしてみましょう」

意を決した様に、フォルツはフェルドに握手を求める。

丸太のようなデカく太い手が差し出される。

「……助かったよ。色々と」

「えぇ、大変でした。色々と」

「元気でな」

「……!ありがとう、ございます…何か良いものがあれば貴兄に売りつけに行きます」

「まっぴらごめんだな」


ははは…と二人で笑い、次の分岐路でフォルツと別れた。


独り———か。


王都に到着まで、あと二日くらいだろう。

それまでは、孤独を楽しむとしよう。


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