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最後の英雄は森に棲む  作者: 東雲


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第十話 最後の英雄

王都の巨大な門扉の前に辿り着くと、どっと疲れが押し寄せてきた。

”あぁ、帰ってきたんだ”と”あぁ、帰ってきてしまった”が同時に押し寄せてくる。

衛兵に身分証と名前を告げると妙にしっかりとした敬礼をされた。


変なやつだなと思い街への門を潜ると、大歓声が出迎えた。


「我らが英雄!」とか「偉大なる将軍万歳!」とか大騒ぎしてやがる。

誰のことだ…あ、俺のことか。

手を上げ歓声に応える。

将軍だからな、一応な。


メインストリートに異常に豪奢な馬車が止まっている。

王家の紋章が入っているから乗っているのは王族の誰かだろう。

と言うか、確実にゼフだろう…

この頓痴気騒ぎもゼフの仕込み、か。


馬車に乗り込むと思った通りにゼフが居た。


「ご苦労であった。アイゼン将軍」

「は、この様なお出迎え恐悦至極にございます」


一応ね。

臣下だからね。

侍従長《じじぃ》が笑いを堪えながら涙目になってる。

年寄りは涙腺が弱いねぇ

メインストリートを馬車がゆったりと進む。

ゼフは窓の外に顔を向け笑顔で手を振る。

「お前もやっておけ」と俺を窓際に座らせる。

尻の納まりがわりぃなほんと…

大通りを抜けて貴族街に入ると頓痴気騒ぎも収まり、静かになった。


城内に入り、会話らしい会話をせず。

王太子の私室に通される。

王への謁見までの調整らしい。

侍従長《じじぃ》も気を利かせて部屋から出ていく。


「……単独での凱旋だからこれを聞くのは憚られる。

 だが、この国の王太子として、聖天連合総司令として聞かねばならん」

「おう」

「他の皆は?」

「ズマ、マグナの二人は…知っているのだろう?死んだ。戦死だ。

 レブルも同じく死(・)ん(・)だ(・)。フォルツもそうだな死(・)ん(・)だ(・)。

 生き残ったのはこの俺独りよ」

「……そうか。

 レブルとフォルツも死(・)ん(・)だ(・)か」

「あぁ、全員いっちまった」

そのタイミングで女中が飲み物を運んでくる。

ワインか?良い趣味してる

「勇士達に」

「仲間たちに」


二人で杯に満たされたワインを飲む。

うむ、美味いな。


「で、だ。いくさはどうなった?」

「英雄フェルド・アイゼンが竜王を討った、という報が竜族全体に広まってな。奴らはさっさと山へ撤退していった」

「では?」

「あぁ、我らの勝利だ」

「そうか」

「フェル。俺はこのいくさの功績を認められ”王”に成る事が決まった」

「おうそうか、おめでとさん」

俺はワインの残りを飲みながら適当に相槌を打つ

「俺の…余の右腕となり、共に国の為になる気はないか?」

「ないね」

「どうしてもか?」

「どうしてもだ」

「そうか…理由を聞いても?」

「最初から言っているだろ…俺はスローライフを希望してんだよ」

「……そう、だったな」

何を今更言ってんだ全くこいつは、昔からそうだ。

「で、あれば…領地を持て」

「やだよ面倒くせぇ」

「此度のいくさで切り取った領地がある」

「だから面倒くせぇって」

「お前が求めるスローライフにぴったりの領地でな」

「お前ほんと話聞かないよな…」

「既に先住民は”山に移動している”」

「……」

”山”にねぇ…奴らか

「数名は残っているようだが、まぁお(・)前(・)な(・)ら(・)大(・)丈(・)夫(・)だ(・)ろ(・)う(・)」

「お前な…」

多分だけどゼフは全部知っている。

託されたものも、全てをだ。

「領都はこっちで勝手に準備する。

 それにそうだな、代官も余の臣を送る。

 お前は何もしないで良い。

 好きに暮らせ…それだけのことをお前は成し遂げた」

「そうかい、じゃあ有り難く」

「この後戦勝の宴には?」

「出なきゃ駄目なのか」

「駄目ではないが…駄目ではないな」

「俺は街の酒屋に行ってくらぁ…お前も来るか?」

「そうだな……後で合流するよ」

「よっと……じゃあ、またなゼフ」

ふかふかのソファから降り、ワイングラス片手に扉に向かう

「今後人前でその名で呼ぶなよ、フェル」

「おう、気をつけるわ」

「じゃあな」

「じゃあ、な」


扉はパタン、と小さく音を立てて閉じた。


*****


「っと……こんなもんか?」

大きく伸びをして師は腰を伸ばす。

歴史の真実を聞いてしまった。

悪しき竜王を打倒せしめた英雄は、苦悩と離別を背負った男だったのだ。

「槍聖レブル、聖人フォルツは生きておられるのですね」

「いーや、レブルは兎も角"聖人"フォルツは死んでるよ。

 今頃うちで仕入れた薬草やらコーヒーやらを儲け度外視で売り歩いてるだろうさ」

「は?」

「ほれ、三日前くらいだったか?買付に来たじゃねぇか」

「あのデカい商人さんですか…?」

「あれフォルツだぞ」


えぇ…衝撃過ぎて何も考えられなくなった。


*******


伝説の真相を聞いてから二日が経った。

師は相変わらずコーヒーを飲んで、森を散歩して、時折狩りをし、石碑に赴いている。


フェルド師が森から出ない理由は、仲間の供養なのだろうか?

そこで共に暮らす僕は場違いじゃ無いかと尋ねてみると「んー、まぁ、いいんじゃね?」と軽く流されてしまう。


薪を割り、水を汲み、火を熾す。

たまに剣術を師が見てくれ、こてんぱんにのされる。

そんな生活をひと月程度過ごしていたある日


「フェルドはいるか?」

青年が”森の方から”やってきた。

髪は目が覚めるような青で瞳の色は金。

瞳孔に爬虫類の様に縦線が走っている。

「師は…現在お出かけされていますが…?」

「ふむ、左様か…少し待たせてもらおう」

そう言って、薪割りをしている僕の隣に座る。

なんだろうこの人は…非常に高貴な雰囲気がある。

前に父に連れられ参加した夜会にいた他国の高位貴族よりよっぽど高貴さを感じる

「余に構わず続けたまえ。フェルドもよくやっていた遊びであろ?」

呆けてしまった僕に青年は促す。

あ、はい…と薪割りを続ける。

乾いた音を立て薪はどんどんと割られる。

この一か月ほぼ毎日薪を割っていれば硬さにも慣れる。

最近では川の支流くらいまでなら山菜取りに赴く事も出来るようになっている。

少しずつ、だが確実に自身が強くなっていると実感する。


「少年よ、その割り方は効率悪くないか?」

見ていた青年がふと口を挟んでくる

「効率…ですか?」

「うむ、ひと振りに時間を掛け過ぎだと余は感じる。

 人の構造で言えば、背中と言ったか?そこを使えばもう少し短くなるであろう?」

なんだろう…この人の言っている意味は分からないけれど、妙に納得してしまう。

えっと…背中だったか…

振り被る際、振り下ろす際に背中を意識して行ってみる。

すると


―――スカァン


今までの音よりもよっぽど響く、乾いた音。


「お前なぁ……人ん家の弟子を勝手に育てるな 」

のそりとフェルド師が薪割り場に現れる。

僕はと言えばその衝撃に圧倒されている。

こんなにも斬った感触の無い薪割りは初めてだ。


「呼んだのに居ないのは不敬であろうが痴れ者」

青年が妙に偉そうに、しかし嫌味なく師に言う。

「お前な……呼んだのはもうひと月も前の話だ。

 遅れてる癖に偉そうにすんなボケ!痴れ者はお前だお前」

師が拳骨を青年の頭に落として告げる

「む、ひと月も経っておったか…いやはや時間はわからぬものよな」

……いや、全く言い訳になっていない。

しかし、師の拳骨で全く動じないとは……何者だろう。

この間グレーターシェルの殻を拳骨で砕いてたぞ…?


「お前を呼んだのはこいつを紹介しようと思ってたんだよ。

 ベスラ、こいつは竜王の子だ。名は……なんだっけ?」


「相変わらず不敬であるな……余は偉大なる先王"ジストン・ガド・ドラグハート"の子、"ダンロ・バゼ・ドラグハート"である。ダンと呼ぶ事を許す」


は?


はぁ???


世界が静止した気がした。


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