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最後の英雄は森に棲む  作者: 東雲


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6/15

第六話 聖竜戦争

「ふぅ……」

今日はもう遅いから続きは明日にすっか…とフェルド師は早々に自室に行ってしまった。

僕はと言うと師が淹れてくれたコーヒーの残りを飲みながら夜風に触れている。


「かなり…興味深い話だった…だったのだが」


続きを聞いて良いのか悩むところだ。

伝承通りだとすればロードゥ川の血戦の後は竜王城の戦い…つまり師の友人たちが死んでいく戦いだ。

あんな化け物じみた師でも弱い部分はあるだろう。きっと。多分。


その当時を知らない、弟子入りして数週しか経たない俺が聞いて良いのだろうか…


「すべては師次第って事―――だよな」


この日に飲んだコーヒーは、特に苦く感じた。


********


さて、坊主にはどこまで話したもんか…

自室に戻り、寝る前にコーヒーを飲みながら煙草を吸う。

あの寡黙なレブルがよくやってたルーティンだ。

この森にきてからそんな事で悩んだことは無かった。

話すか話さねぇとかそんなん知ったこっちゃねぇ

だが、後継を決めなきゃならんことは確かだ。

奴らの記憶が風化していくのは、納得いかない。

それに―――アイツの面倒も見れるやつがいなくなるのは困る。

前に弟子入りしてきた小僧はあっという間にめげて逃げてしまった。

しかし、俺とまで言わないが、ズマ程度は強くなきゃやってられん仕事だ。

ゼフのヤツもそれを見越してベスラの坊主を差し向けたんだろうけどな


「後継とかなんとか…そんなん決めるガラじゃないんだけどな」


ふぅと吐いた煙は夜の冷えた空気に混じって消えていった。


******


翌朝、まだ日も昇りきっていない早朝に目が覚めたベスラは、眠気覚ましに薪を割る。

昨夜いろいろ考えているうちに眠れなくなり、寝付いたのは空が白み始めてからだった。

今日の焚き木に使う分くらいの薪割りを終えると

眠たげな師が顔を洗いに井戸へとやって来る。

「ひどい顔ですね…」

「お前も中々だけどな」

二人して目の下に薄っすらクマがある。

どうやら師も寝てないようだ。

今なら不意を打てば……いや、無理だな。隙がない。


「色々考えたが、続きを話してやる」

ゴクリと唾を飲む。

聞いて良いのか迷ったが、師がいいと言うなら断る理由はない。

「ありがとうございます…?」

「だからなんで疑問形なんだよ……ツラ洗ったら居間に来い。飯食いながら話してやる」

そんなにひどい顔しているのだろうか?

水鏡に写った自分の姿は予想を遥かにこえてひどい顔だった。


「さて、どこまで話したっけかな…あぁ、そうだ。川渡ったトコか」

簡単な朝食を食べて食後にコーヒーを淹れながら師がポツポツと話し始める。

余談だが、この一週間、師は絶対にコーヒーを淹れろと命じてこなかった。

食事を作れとか火を起こせとかは命じるのだが、コーヒーだけは何か譲れないものがあるのだろう

「そうだ。コーヒーの話もしなきゃだったな―――」


******


三十年前

ロードゥ川を渡河した後の野営地にて―――


「お前そんな真っ黒のモン飲んでるのか!?」

思わずとレブルに声を掛けてしまう。

「……コーヒーだ。美味いぞ」

普段ムスッとしている槍兵のレブルが野営の焚き火で謎の黒い液体を淹れている。

香ばしいような独特な香りが辺りに漂う。

「おぉ、これは珍しい……豆茶ですか。拙僧も一杯頂きたく」

「……構わん」

スッと慣れた手つきでカップを用意し、黒い液体を注ぐ


「なんか変な匂いすっけど何飲んでんの?」

周囲の警戒と感知罠を設置しにいったズマが戻ってくる

「コーヒーですか?うわぁ懐かしいなぁ…」

マグナまで会話に参加してくる。

「……全員飲むか?」

「おう!気になる!」

「え?いいんですか!?いただきます!」


どいつもこいつもこんな得体のしれないモンよく飲めるな……

思わず顰め面になる。

「あれ?旦那は飲まないのか?……意外と気が小さいんだな」

ププッと嗤いながらズマが煽りやがる

「んだと!?」

「いやぁ……勇猛果敢で怖いもの知らずのフェルド・アイゼン将軍ともあろうお方がまさか黒い液体に恐れをなすとは……いやはや」

このクソ娘……

「飲んでやろうじゃねぇか!!おい、レブル!!一杯寄越せ!」

「……苦いぞ?」

「おう!かかってこい」

「……熱いから気をつけろ。あと美味いぞ」

カップに注がれる黒い液体。

結構なインパクトだな

ごくりと生唾を呑み込む。

ラプターの群れよりよっぽど恐ろしいぞ…こんなの泥水じゃねぇか…

意を決して口に含む

口の中に香りが漂い鼻に抜けていく。

お?意外と……


油断をした直後に猛烈な苦味が襲ってくる。

不意打ちか!やるな!……何を相手にしてるんだ俺は。


「にがっ……」


ブハッとズマのヤツが吹き出してやがる。

あのクソ娘……

マグナは懐かしむ様に香りを楽しんだあとに蜜を垂らしてから飲んでいる。

フォルツのやつはそのまま飲み目を閉じて余韻を楽しんでいる。

レブルは空になったカップを見て、小さく笑っていた。

あんな表情は初めて見た。


「アイゼン将軍はおこちゃまだなぁ~この苦味がいいんじゃないか!」

「にげぇもんはにげぇんだからしょうがないだろうが!」

「あ、花蜜いります?入れると苦味が減って甘味増しますよ!」

「うむ、やはり豆茶はいいですな!頭がすっきりします」

「……まだある。好きに飲め」


死地に赴くにしては賑やかに、楽し気な夜は更けていった。


*******


話をしながらフェルド師は何度もコーヒーを飲み直していた。

懐かしむと言うより―――何かを飲み込むように。

「では、師のコーヒー好きは……」

「あぁ、レブルへの手向け…みたいなもんだな」

カップに目を落とす。

「最期までコイツの美味さはわからんかった」

まだ温かいコーヒーの湯気が揺れる。

「ま、今ではこれが無きゃやってられんがな!」

暗い雰囲気を嫌ってかひと際明るく言うフェルド師。

「そう、ですか…」

なんと言葉を続ければいいのか分からなくなってしまう。

「それでな―――」

話を急転させる様にフェルド師は続けた


******


ロードゥ川を渡り、竜の縄張りに入ってから二日が過ぎた。

その間昼夜問わず竜族《トカゲ》共はやってきた。

だいたいがズマが先に感知し、フォルツが殴り飛ばし、レブルが止めを刺していた。

マグナと俺はと言えば、出番が無い。盾を構える間に、剣を抜く間に終わっているのだ。

予想を遥かに上回る強さだった。

ズマの感知能力のおかげで夜番に立つ必要も無いのが助かる。

そうしてロードゥを渡り三日目の昼、王都を発って丁度七日くらいか

深い森に辿り着いた。

”隠者の森”と呼ばれている、竜族《トカゲ》の本拠地だ。


「うへ……陰気な森だなぁ…気配が読みにくいったらありゃしない」

ズマがなにかブツブツと呟いている。

何やら瘴気と魔素が入り交じり、気配が読みにくいとか言ってたが

俺にはまったくわからん。


「む……拙僧の肌も粟立っております。

 この先は―――危険ですな」


そりゃそうだろ……


「か、帰りませんか?」


バカか?

ここまで来て手ぶらで帰れるかってんだ。

マグナの盾をガンと殴り


「行くぞ」


そう言って歩き出した俺を


「旦那、違う」

ズマが肩を掴む。

「旦那は後ろ、あたいが先頭だ」

「……お、おう。そうだな」


竜王城と呼ばれている場所は”隠者の森”の最奥にあると言われている。

出発前にゼフのヤツに教えてもらった情報が正しければ、だが

実際問題としてこの森に入ってから竜族《トカゲ》共の姿をよく見かける。

ズマの見事な感知で今の所見つかっちゃあいないが、時間の問題だろう。


「旦那、南東八百歩先…大型。四つ足が三頭だ」

「三頭か、多分だが人竜一体《ドラゴンライダー》じゃないだろうな」

大抵の人竜一体《ドラゴンライド》は多くて二組だ。

「って事は野生の竜ですかね?」

マグナが隣に並ぶレブルに小声で尋ねる

「……四つ足だ。獣の可能性もある」

レブルは短く応じる。

「殴ってみれば分かるのですけどね」

殴らなくても分かるだろ…

「あーちょっと待ってくれ……」

ズマはおもむろに地面に耳を付ける。

「この足音だと……セイバータイガー…かな?」

うげっとマグナが顔をしかめる。

「剣虎単体なら…なんとかなりますが…」

問題は群れで襲ってくることだけだ。

「だけど、この道を進むのが一番確実だよ」

「やるしか…ねぇか」

「やるんですかぁ……?」

そりゃやるだろ。さっさといかねぇと


数百歩進んだ所に小さな泉が湧いていた。

三匹のセイバータイガーがその畔で水を飲んでいる。

「まずいぜ旦那…あの真ん中のヤツ、妊娠してる」

頭を抱えたくなる衝動を気合で抑える。

「そりゃ、最悪だな…」

魔物だろうが獣だろうが子を抱えてる時期が一番危ない

「個人的な意見だけど…妊娠中の個体は退散させてやりてぇなぁ…」

ズマが遠眼鏡で確認しながら零す

「……同意だ」

レブルがコクリと頷く。お優しいこった

「まぁ、無駄に殺す必要もねぇだろ…おい、マグナ」

「嫌ですよ!」

「まだなんも言ってねぇよ…」

「フェルドさんの事だから食われてこいとか噛みつかれてこいとか言うんでしょ!?分かってますよ!!」

なんだこいつぶん殴ろうかな…

「多分、多分なんだけど旦那は香の事言いたいんじゃねぇか?あの便利な"虫除け"」

どうやって殴ろうか悩んでいたらズマが俺の言いたい事を言ってくれた。

さすが斥候。やるな

「そうだよ、分かんねーかな…あの兵士をダメにする香もう無いのか?」

「微妙に評価が悪いんですな…拙僧は便利だと思いますが」

「ダメだあんなの。鼻がダメになって危険感知が遅れる」

「フェルドさんが魔物並みって意味じゃ…」

お?喧嘩売ってるのか?買うぞ?

「あ?で、あるのかよ」

「ありますけど……この距離じゃあ厳しいですよ?」

ふむ、確かに風下だしここで焚いても厳しいだろうな

「そしたらあたいがギリギリまで近寄って焚いてくるか?」

言い出しっぺの責任感かズマが提案してくる

「火付けに時食ってしゃーないだろ…火付けの間誰かがズマを守るしかねぇな」

全員がマグナの顔を見る

「え、嫌です…無理です…」

顔を青ざめさせてマグナが拒否する。

「嫌とか無理とか聞いてないんだわ…やれよ」

「怖…」

ズマが後ろで溜息を付く。

呆れていると言うか嘆いていると言うか…

「いいよ、あたい一人でなんとかする」

「……俺が前衛に付くか?」

レブルも同意した手前何もしない訳にはいかないのだろうか?

律儀な男だ。

「あぁ!もう!!分かりましたよ!やります!僕が前に立ちますよ!もう!」

マグナが何か吹っ切れた様に手を上げる。

フォルツが微笑みながら拍手している。

若干煽ってンなこの坊主…


「よし、じゃあ作戦は群れの真ん中に香を投げ込む。逃げる。以上」

「作戦じゃないですよねそれ…」

「マグナの役割は盾な!」

「それいつも通りですよね…」

ズマめ…なかなか緻密な作戦を立てるじゃねぇか…

俺もうかうかしてられないな…

「何かあれば即応出来るようにしておきましょう。

 なに、死ななければ何とかなりますとも!」

フォルツが二カッと笑う。

その隣でレブルは何も言わず、槍を握り直した。

「じゃ、行くぞ」

マグナの返事も聞かずにズマは走り出す。

「ひぃ…」と返事なのか鳴き声なのかマグナも答えて走り出す。


******


”魔物除けの香”

―――現在の冒険者の必須アイテムの一つである。

オオバアシとクルミ茸の乾燥させたものを獣脂で練りこんだもの

子供でも採取出来る素材で出来ている割に絶大な効果を起こす

聖竜戦争時の発明の一つである。


「待ってください…今すごい事実を聞いた気がします…」

思わず話を止めてしまった。

「んだよ…」

「”香”って”魔物除けの香”って事ですよね?なんで盾聖マグナが?」

コーヒーを飲みながら師は疑問に答える

「あいつが作ったものだからなぁ…なんでって言われても」

「え!?”魔物避けの香”ですよ!!数万人の冒険者の命を救ったと言われている道具ですよ?なんで盾聖が!?」

「あぁ、言ってなかったか…あいつ趣味で薬学やってたんだよ」

「趣味…ですか…」

「おう、しょっちゅう薬草やら毒草やら集めてたぞ」

そうなんだ……


*******


「気付くなよ…いい子だから…頼むぞぉ…」

そろりと忍び足で剣虎の感知範囲ギリギリを見極めつつ進むズマ。

物音一つ立てないのはあのバカ娘が一流の狩人である証明だろうか

「流石ですな…」

フォルツも思わずと言ったふうに驚いた声を上げる

常人ならとっくに剣虎に気が付かれて下手すりゃ今頃腹の中だろう。

距離にして五十歩くらいだろうか?

ズマは事前にマグナに渡されている”香”に火を付ける。

薄っすらと煙が上がり始め嫌な臭いが立ち込め始めた。


ぴくりと剣虎の一匹が鼻を鳴らし、辺りを警戒し始める。

ぐるぅと喉が鳴り、柄を持つ手に汗が流れる。

ズマの位置が絶妙だ。

妊娠している個体とそれに付き添う二匹…その攻撃範囲の二歩外側。

その時不意にズマがハンドサインを送ってきた。


《作戦続行不可、撤退準備》


そのハンドサインと同時にゆっくりと群れから離れるズマ

一歩ずつ、確実に地を這うように。

気配を殺し、蛇のように慎重に―――


「―――バカ娘が撤退指示を出した…なんだ?何があった…?」

剣虎の群れ…特に周囲を警戒していた二匹の様子が徐々に警戒が強くなる。

妊娠中と思われた個体に何か異変か?とそちらに遠眼鏡を向ける。


「既に仔が居る…だと!?」

まずい!と思うよりも前に身体が動く。

後退するズマの方に既に一匹近寄りつつある。

距離にして四十歩。

届くか…!?


「GAOOOOOON」


不意に剣虎が吠える。

ズマの前に二匹、奥に妊娠中の一匹。


―――木の上に一匹。


「くそっ!」


咄嗟に走り出す。

レブルとフォルツも同時に走った。

その姿に妊娠個体を護衛していた剣虎がこちらを向く

相手にしてる余裕は無い。


樹上からズマに剣虎が襲い掛かる。

「ズマさん!!!」

セイバータイガーの爪がズマに食い込む

さらに名の由来となった剣のような角がズマに襲いかかる。

その鋭い攻撃を、間に入ったマグナの盾に食い止められた

「ズマさん、無事ですか!?」

「わ、わりぃ……しくった」

「しくってないですよ!……って怖い怖い怖い!なにこいつ!!」

反射なのか反応なのか、どうやら考える前に間に入ってたマグナが騒ぐ

ズマはと言えば、爪に千切られた肩口からは止めどなく血が流れている

クソが猫如きが調子に乗りやがって…!!

頭に血が昇る。

視界が真っ赤に染まる、このクソ猫ぶっ殺して……

「旦那、あたいは大丈夫だ…大丈夫」

栓が抜けるように怒りが引いていく

脂汗でひどいことになっているが、バカ娘は無事のようだ。


よかった


は?なんだ今の

俺が?誰かが無事で?安心した??


「と、とにかくなんとかしてくださぁぁい!!」

大型の盾(タワーシールド)で剣虎の攻撃を防ぎ続けているマグナが半ベソで騒ぐ。

「主よ、祈りに祝福を!」

筋肉でパンパンに膨れ上がった法衣の袖が振り抜かれる。

盾に殺到していた剣虎を殴(・)り(・)飛(・)ば(・)す(・)

「ズマ殿の治療は拙僧が―――」

吹っ飛んだ剣虎が獣の瞬発力で今度はフォルツに飛び掛かる。

ズマと同じ様に肩口に爪が―――


刺さらない。


ぬんっと気合の声を上げてその爪ごと弾き返す


どういう理屈だ…


「はっはっはっはっ!虎といえど大したことはないですなぁ!!」


呵々大笑と大笑いしている。

こいつ本当に僧兵なんだろうか


「……フェルド。呆けている暇はない。指示を」

槍の石突を使い巧みにレブルが牽制している。


「フェルドさん!!早く何とかしてくださぁぁぁい!!」

「フェルド殿!」

「だ、旦那」


あーもううっせぇなぁ!!!


「全員下がれ!俺がやる!!!」


ずいっと一歩前に出る。

剣は…鞘から抜かないでいいか…と鞘ごと構える。

棒状の鉄塊。斬撃は発生しない。これなら猫も死ぬことぁねぇだろ。

切っ先…棒先に殺意と闘志を込める。


グルルルと喉を鳴らして剣虎が唸る。


「下がれ、猫。殺すのは本意じゃねぇ」

威圧を込めてそう呟く。

これで引いてくれたら良いんだが…

殺意むき出しで剣虎がこちらを見据える

そりゃ引けねえよな

多分だが、コイツらはあのメスの近衛みてぇなもんだろうな

引けない理由は互いにある…か。


「まぁ、仕方ねぇか」


「GAOOON」


右側に侍る剣虎が吠える

左側に侍る剣虎は身を低くし飛び掛かろうと四肢に力を込める


「来いよドラ猫、格の違いを見せつけてやる」


その言葉を皮切りに剣虎が飛び掛かってくる。

するりと避けると右にいたヤツが地を這うように脚に向かってくる

猫風情が、なかなかやる

それも飛び上がり避けるとズマを襲ったヤツが飛び掛かってくる

「フェルド!」

誰かが叫ぶ。

なんだよ今忙しいんだよ

えーっと戦意を折るには…とりあえず、角折っとくか


「っしょっと」


軽く振るう。

ただ、それだけ。

斬ろう等という色気は出さない


———パキン


乾いた音を響かせ剣虎の角が根元から折れる。


「っと———まだやるか?」


切っ先…棒先を剣虎に向ける。

ウゥ…と小さく唸り、ジリジリと後ずさる。


引くなら早く引けよ。

こっちは色々忙しいんだよ。


やがて、剣虎は背を向けて森の奥へと消えていった。

腹の仔には悪いことしたが…まぁ、強く生きろよって事で


遠くで三人が呆けている。

「……フェルドさんは鬼の生まれ変わり?」

「いやいや、悪鬼羅刹と言うよりも修羅の一種かと?」

「……流石にあの角は、折れんな」


何だよまったく……お前らだって大したことないって言ってたじゃねぇかよ


*******


「セイバータイガーの…?つ、角を折った?」

「おう、パキってな」


【剣虎】セイバータイガーと言えば前述した通りに

発見された時点で、周辺の村は放棄が検討されるS級危険生物。

その角はミスリルと合金にすることで手入れ不要の超硬度を生み出す。

入手はほぼ不可能と言われているSS級素材だ。


「その角はどうしたんですか…?」

「ん?捨てた。邪魔だからな」


王都で金貨六百枚で取引されてましたよその邪魔になった素材…


師の異常さをひしひしと実感することになったのであった。


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