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最後の英雄は森に棲む  作者: 東雲


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第五話 五人の勇士

五人の勇士と言えば

剣聖 フェルド・アイゼン

槍聖 レブル・ランツ

盾聖 マグナ・ガルド

聖人 フォルツ

弓聖 ズマ

この五人を表す。


剣聖フェルドの元に宿星に導かれし五人の英傑。

子供の頃に芝居で見た五人の集結シーンは最高だった。

子供心に感動もした。

それが―――


******


「無理です! ムリムリムリムリ!! 絶対無理です!!」


うるせぇなこいつ……。

バカでかいタワーシールド背負って立派な鎧着て、

“無理です”“出来ません”しか言わねぇ。


そろそろ殴って止めようかなと思ったその時、背後から巨大な腕が伸びてきた。


「いけません。殴って止めるのは最終手段ですよ」


僧兵フォルツだ。

法衣を着ているが全部デカい。

身の丈は一八〇を超えているだろうし、何より法衣が筋肉でパンパンだ。

なんか法衣が可哀想だな……


「うるせぇ、坊主の説教は聞き飽きてるんだよ……って最終手段?」


殴るのも辞さない坊主を初めて見た。


「旦那ぁ……あたいココに居るの場違いじゃね?」


今度は赤毛の短髪の娘が椅子に座りながら脚をぶらぶらさせて言う。


「ズマ、我慢しろ。あとでたらふく食わせてやる」


「へーい」


未だにギャーギャー騒いでいるのが盾兵マグナ。

部屋の隅で槍を抱え眼を瞑っているのが、最後に招聘されたレブル。


自分で集めたのに言うのもなんだが……大丈夫かこいつ等。


「大体何考えてるんですか!! 竜王の城に五人だけで乗り込むだなんて!!」


盾兵マグナの悲鳴のような声が天幕に響く。


「あぁ? 何考えてるかって?」


一呼吸置いて、言う。


「平和だ」


天幕が静まり返る。


「平和にすることしか考えてねぇよ。

 ……俺はなぁ!

 田舎でのんびり暮らしてぇんだよ」


全く、さっさと田舎に引いてスローライフを送りてぇんだよ。

そのためには竜族をなんとかしなきゃならん。


「さて、諸君。そろそろ良いだろうか? 侍従長《じいや》の血管が心配だ」


ゼフが手を叩き注目を集める。

おぉ、侍従長《じじぃ》の頭が舐瓜みたいになってる……


「諸君はここに居るアイゼン将軍に見定められた優秀な将兵達だ。

 だが……

 先ほどのマグナの言い分も最もだ。なので、ここで降りても私も将軍も文句はない」


ぐるりと見渡すゼフ。

俺は文句があるぞ?と言う言葉を飲み込む。


「しかし、残念ながら……将軍を竜王にぶつけるのが最も勝率が高く、最も被害が少ない」


ゼフは頭を下げる。


「ここで諸君らの命をくれとしか言えない無能な将で申し訳ない……

 しかし、必ず……必ずこの世界を良きものにすると誓おう」


かーっ、役者だねぇこいつも……

ここで王太子に頭を下げられて「ごめんなさい無理です」なんて言えるのは俺くらいしかいねぇだろ。


「無理です……怖いです」


お、断るか? しょうがねぇ、死ぬ気のない盾なんて頼りにならんからな……


「でも……でもこんな怖い思いするのは僕だけで十分です……だから殿下、お顔を上げてください」


目に力がこもる。

やはり見立て通りだ。

こいつは“いい”。


「僕は……私は国の盾」


ガシャン、と音を立てて盾を構える。


「貴方はただ命じてください。

 死ね、と。

 死んで父祖に自慢しろ、と」


「あたいはどっちでもいい。

 どっちでもいいけど、一人で食う飯は味気ないんだ」


「………承知」


「死なせなければ、死なないのです。

 拙僧の息さえあれば……拙僧が治してみせましょう」


……よし。


「決まりだな。明朝立つ。各自準備を怠るな」


すまない、とゼフの声が聞こえた気がしたが気の所為ということにしておこう。


******


「え、その情けない感じの人が盾聖マグナなんですか……?」


「ん? マグナの小僧はこんなもんだぞ?」


伝説と事実の差で風邪をひきそうだ……

盾聖マグナと言えば、自らの身を顧みず仲間の為に前に立ち、

優しく勇敢で、強靭な精神の持ち主……というイメージだった。


まさかその英雄が「怖いから行きたくない」と駄々をこねてるとは……


フェルド師は昔を懐かしむ様に、少し寂しげに煙管の灰を落とす。


「なんつったっけかな……あぁ、プロパガンダだ。

 戦後の復興には英雄が必要だから、余計なことは言うなってゼフに釘刺されてな」


陛下を愛称で呼び、英雄を懐かしむ師はどこか誇らしげで、そして悲しそうだった。


*****


「旦那。一四〇歩先、四つ足……数一」

ズマが声を潜めて報告する。

「こっちが風下だ。まだ気付かれてない」

やるなこいつ…一四〇歩先は流石の俺も曖昧にしかわからん

「総員戦闘態勢……感知される前に仕留めんぞ」

さやから長剣を抜く、ゼフに貰った一級品だ。

「ひぃ……」

半ベソになりながらマグナが盾を構える

右手に握っているのは短槍か……

よく考えたらコイツらの得物しらねぇや

まぁいい、戦いを見れば分かる。

レブルは背負っていた長槍を手に持ち

フォルツは手甲を嵌めている


……まて、僧兵なのに手甲…?


「おい……」


「ん?あぁ、ご安心を」

フォルツはニカッと笑う


「殺しても構いません。

 息があれば治せます 」


……正気じゃないみたいだな

今更ながらゼフや侍従長《じじぃ》の苦労がわかる気がする


距離百歩。

ここまでくれば俺にも分かる。

典型的な人竜一体《ドラゴンライド》だ。

「どうやら飛翔タイプは居ないようですね…」

フォルツが腕まくりをしながら耳打ちしてくる。

うお、腕ふっと……丸太みてぇだな

「ここは隊長どの抜きでいってみましょう……マグナ殿、レブル殿」

「えぇ…僕ですか…」

「前線確保は盾の役目ですぞ?」

「うぅ…」

涙目になりつつもマグナは前に進む。

短槍と盾を鳴らし、注意を引きつける。


「GYAOOOOON」


大音声で地を這う竜が突っ込んでくる。


「マグナっ!伏せっ」

ズマが弓を引き絞り、矢が流れ星の様に地竜の右目に刺さる。

「い、イヌじゃないですよ!」

叫びながらマグナは盾を構え、短槍を竜の反対の眼に突き刺す。


「貴様らッ」


竜上から兵士が槍を片手に突き刺す。

丸太のような腕が穂(・)先(・)を掴み、兵士を地面に叩き落とす。


「……ッ!」


落ちた兵士をレブルが喉を一突き。

ゴポリと嫌な音を立てて兵士の目から生気が消える。


「おっと…これは拙僧にも治せませんな」

フォルツは兵士の胸元で印を切る

「戦士に祝福を」


時間にして1分も戦闘していないだろう…

なるほど、ゼフが四人と言うわけだ。


******


「ちょっと待ってください!!」

「なんだよ、こっから俺の大活躍が始まるのに……」

フェルド師が不貞腐れている

「フォルツって聖人フォルツですよね!?

 慈悲の心で竜に停戦を持ち掛けたが、反故にされた…」

「は?なにそれ…」

えぇ……

それよりも、だ。

「穂(・)先(・)掴んだって言ってましたよね?刃が付いてなかったんですか!?」

「付いてるに決まってるだろ…槍だぞ?」

「それは……そうなんですが……」

あれ?おかしいのは自分なのか…?

「変なヤツだな……それでなーーー」


******


最初に遭遇した地竜の人竜一体(ドラゴンライダー)はどうやら斥候だったようだ。

人竜境界線と言われている”ロードゥ川”に差し掛かった時はもう辺りが囲まれていた。


「旦那。

 これはやべぇ……

 周囲一帯におびただしい数の亜竜がいる。

 恐らくラプターが二〜三〇匹……」


周辺感知に徹底していたズマが唾を飲み込む。

怯えは無い。無いのだが焦りは感じる。


「聞け、お前ら…

 お前らの実力は分かった。今度は俺の実力を見せる番だ」


先ほどは振るう機会の無かった長剣をさやから抜く。


「どうやら相手は大層な歓迎会を予定してくれているみてぇだ

 喜べ、食い放題だ。

 俺が全部平らげても良いんだが……お前らも食いたいだろ?」


全員の顔を見渡す。

ズマは先程までの焦りを胸中に落とし込み、狩人の目になっている。

レブルは槍の穂先に戦意を込め、腰を落とす。

フォルツは印を切り、拳を打ち鳴らし戦意を高揚させている。

マグナだけは「ひぃっ」と情けない声を出している。


「よし…作戦を伝える

 俺が切り込む。

 お前らは好きにやれ…以上」


言い終わる前に長剣を担いで走り出す。


あ、ずりぃ!!とズマが即応して並走してきた。

無言でレブルも着いてきている。こころなしか口元が緩んでいる。

こいつも”いい”な…この場で嗤えるヤツはいい。実にいい。


突然走り出した三人に場の空気が一変した。

周りを囲んでいたラプター共が一斉にこちらに向かってくるのだ。

指揮官か調教師か分からんが、駆け抜けると思い込んだのか包囲網を縮めてくる。


馬鹿めそれが狙いよ


後ろを振り返らずに走る。

「旦那ぁ!十五!いや、二十!!」

「黙ってろ!後少しっ」

「……っ!」

フェルドの行動を理解したレブルが息を呑む。


その瞬間———


俺はくるりと反転する。


「突撃ィ!!」


追い掛けてきているラプター凡そ二十体。

全力で追い掛けてきた連中は速度を落としきれず、体制を崩した。


一瞬崩れればこっちのものだ。


俺は長剣を横薙ぎに振るい、一閃で先頭を走っていた三体の首を刎ねる。

着地と同時に背後から鋭い突きと矢が数本ラプターの額に穴を穿つ。

これで五体。


「そぉれ!!」


着地の慣性を利用して再度加速。

その後ろに居た二体の首を刎ねる。

その頃にはフォルツとマグナも合流しマグナのシールドバッシュで一体。

フォルツの拳で更に一体…と着実にその数を減らしていた。


「走るなら最初にそう伝えてほしいものですな。

 拙僧走るのは少々苦手でしてね」


嘘つけ。

息一つ切らせてねぇじゃねぇか……


「隊長っ!どうやっても逃げられませんよぉ!?どうするんですか!!」


涙目でキレ気味にマグナが抗議してくる。


「うわキレた!……って何でお前嗤ってんだ?」

ズマが肩で息をしながらマグナを軽く煽る。

「嗤ってないって!怖いんだよっ」

「お前……それずっと言ってるけど本気で怖がってないよなぁ」


確かに。

そうなのだ。

こいつ口では怖い怖い言っているんだが、本気で恐怖していない。

自身の盾で止めきれると確信している目をしているんだよな。


なんかムカついてきたな…


「マグナ…お前次怖いって言ったら罰ゲームな」

「えぇ!?理不尽すぎるッ!」

「人生ってのはよ…」

飛び掛かってきたラプターの首に剣を突き刺す。


「理不尽の連続よ」


いい終えるより先に更に三体飛び込んでくる。


「知ってますよぉう!!!」


ガンと金属をぶつける音が響き、三体纏めてマグナのタワーシールドが止める。


「———良し」


盾の隙間から長槍が伸びる。

レブルがマグナの後からラプターを仕留める。

と、同時に”物凄い速度”で法衣を纏った肉塊がラプターに突撃した。


走るの苦手って絶対嘘だろあの親父…


フォルツが低空のタックルでラプターを吹き飛ばしていた。


「獣にも祝福を———」と胸元で印を切る。


さて、と…そろそろかな?と考えながら更に二匹の首を刎ねる。

ズマの矢も的確にラプターの額を撃ち抜いている。

残り十体くらいになった頃に叫び声が聞こえた。


「貴様らッ!この川から先は竜族の領土だぞ!!!わかっているのか!!!」


川の向こうに男が見える。

よし、釣れた。


「おう、分かってるからきているんだ。

 お前らの大将に伝えろ!」


思いっきり殺気を込めて叫ぶ。


「今から遊びに行くってなぁ!!!」


遠くと近くでひぃっ!と小さく悲鳴が聞こえる。


なんでマグナが悲鳴上げてんだ……?

よくわかんねぇなこいつ……


*******


「”ロードゥ川の血戦”ですね」

「何だそれ…」


伝承と若干違う所はあるが、事実は伝承より濃かった。

伝承ではロードゥ川の【牙獣】デスリゲーターとの死闘だったが……

実際のラプター三十匹の方が恐ろしい。


「あの川での戦いで連中の動きがなんとなく分かるようになったんだ」


昔を懐かしむ様にフェルド師はコーヒーを口に運ぶ。


「あぁ、そうだ。

 あの後だったな…こいつを初めて飲んだのも」


そう言ってフェルド師は黒い液体が浮かぶカップに目を落とした。


遠くで何かの獣が雄叫びを上げ、暖炉の薪がパチリと爆ぜた。


フェルド師は静かにコーヒーを口へ運ぶ。

この先に待っているのは、悲劇だけ。

それは伝承が、この人がここに居ると言う事実が、何より雄弁に物語っていた。

…それでも。


もう、少しだけ———。


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