第七話 ― 事情聴取③ ジェイド・イーデルシュタイン
ジェイド・イーデルシュタインは息を整えるとソファに深々と座り直した。
「昨日は、昼頃からパーティに参加した。参加時にチェックインをしたので招待客のリストを参照すれば分かるかと」
「【昼頃にチェックイン】ですね……。その後はどうでしたか?」
「どうと言われても、普通にパーティに参加した程度だ。他の参加者やメイドに聞けば私がいた事もわかるだろう」
「パーティでは具体的に何を?」
クロウの質問にジェイドはわざとらしい大きなため息をつく。クロウはむっとしたが、なんとか言葉を飲み込んだ。
「具体的にと言われても、パーティに来たら挨拶と食事、それと音楽や王室主催の催しに参加するぐらい。その程度の想像もつかんかね?」
「そうではなくて、そのー、もっと具体的にこの時間はここに居た、とか……」
「じゃあ君は昨日何時何分にどこで何をしていたか、詳細に書き記せるとでも言いたいわけか」
「それは、そのー……すみません」
「分かればいい」
助けを求めるようにクロウはセバスチャンに視線を送った。「ふむ……」と少し唸った後、セバスチャンはジェイドの方に視線をやった。
「時にイーデルシュタイン殿、パーティの際に怪しい人物は見たりしておりませんかな?」
「それは……セバスチャン殿の方が詳しいのでは?」
「そうではなく、貴君から見た時の印象を聞きたいのです」
ようやくジェイドが真剣そうな表情で考えだした。
なお、これは決してジェイド氏の性格が特別悪辣なわけではなく、ジゴビアの貴族というものは基本的に皆こうである。低い身分からの依頼に対してはまず問答無用で断り、おべっかや正当な対価や手続きがない限り協力はしない。これは身分制度を守るための《《癖》》のようなものであり、イーデルシュタインも短い間にジゴビアの貴族社会に適応した証拠ともいえるのである。
「ヴァング・ヴィンセントが喧嘩をしているのを見たぐらいだな。【相手はあのソーン・グレイ】だ。大方金の無心でもされたんだろうさ」
「ソーン・グレイ?」
「ジゴビアでは有名な 盗人です。元々は将来を有望視されていたソードマンなのですが、なぜかいつの間にかシーフ堕ちしてしまったのです」
「シーフ……」
シーフとは、女神に認められし 職業の中で唯一、戦闘に関する女神の加護を受けられない職業である。魔物と戦うこともできず、あるのは盗みに関する加護と復活の加護ぐらいで、当然そんな職業を選ぶ人は《《そういうこと》》を狙っている人だけだ。そのため勇者の中でも就くこと自体が不名誉とまで言われており、シーフになった人を《シーフ堕ち》と呼ぶ勇者も少なくない。
クロウもジェイドと同じように、シーフと今回の窃盗事件を結びつけてしまった。しかし頭を小さく振ってすぐにそれを棄却した。偏見の色眼鏡を付けていては真実を見失う。師匠に口酸っぱく言われていたことだ。
「それで、そのソーン・グレイさんとヴァングさんはどのような喧嘩をしていたのですか?」
「さぁ。粗暴な平民同士のいざこざなぞ関わりたくも無い。さっさと距離を置いたから何がどうなっていたかなんて知る由もないに決まっているだろう」
「何か盗品を持っていた様子とか、暴力沙汰だったのかなど、そういったことも覚えてらっしゃりませんかな?」
「それで言うと……【ソーン・グレイは何かを持っていた】ような気もするが、ハッキリと覚えてはおらん」
「かしこまりました。クロウ殿、十分聞きたいことは聞けたことですし、ここは退散しましょう」
「え……、わ、わかりました」
セバスチャンはすっくと立ち上がるとツバキとクロウにも立ち上がるよう促した。ジェイドは待機していたメイドに顎でサインを送ると、セバスは拒絶するように手のひらを軽く前に向けた。
「お見送りはお気遣いなく」
「そうか。しかしそれで後にイーデルシュタイン家は見送りもしなかったと噂を広められてはこちらも困る。せめて玄関までは案内させてくれんかね?」
「承知いたしました」
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邸宅から少し離れ人の気配も無くなったところで、ツバキは地団駄を踏みながら叫んだ。
「なんだあのジェイドとかいう奴は!明確にクロウ君を無視してくれて!!ジゴビアの貴族とは皆あんなものなのか!?」
「アポイントメント無しで押しかけたのに部屋に案内していただいただけでも、寛容な部類です」
「身分が違うからといってそこまで扱いが変わっていいものか!?」
ツバキは今にも剣を引き抜きそうなほどに激昂していた。しかしクロウはそれが有難かった。代わりに怒ってくれる人がいるとその分だけ自分は冷静になれる。
「でも、セバスチャンさんはどうしてあそこで帰っちゃったんですか?」
「セバスで構いませんよ。ジェイド氏はジゴビアの貴族社会に馴染むためか、非常に分かりやすいジゴビア流の貴族仕草をします。確かな証拠を示すか向こうが納得するほどのメリットを与えない限り、あれ以上の証言を得るのは難しいでしょう」
「なるほど……」
「だからといって、同じ人間ではないか!なんだあの扱いは!!」
「貴族からすれば身分の低い人間よりも家の番犬の方が格が高いのですよ。違う生き物だと思って接するのがコツですよ」
セバスの言葉にもこれまでにないような棘が見られて、クロウはいけないと思いつつも少しだけ口角が上がってしまった。
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● クロウの手帳⑤
■ いざこざについて
【ヴァング・ヴィンセント氏とソーン・グレイとの間で起こった】
【ヴァング氏は宝物殿について言及】
【ソーン・グレイは何かを持っていた】




