第五話 ― 現場調査③
クロウはセバスチャン付き添いという条件の元、マオとツバキの二人と宝物殿へと向かった。宝物殿の扉を前にして、クロウは言った。
「セバスチャンさんの証言によると、昨日のお昼ごろ、宝物殿で謎の光を見たという報告があったらしいんです。でもここってそんなに眩しいライトってないじゃないですか。だから魔法が使われた可能性があるんじゃないかと思うんです」
扉の前で待っていたセバスチャンも、それにうなずき肯定した。しかしマオは顎に手を当てながら考える仕草を取った。
「魔法の痕跡と言ったって、こんな海風の強い場所じゃ昨日の痕跡などあっちゅうまに風に吹かれて消えてしまうぞ。あんまり期待せん方がいいと思うが……」
クロウは宝物殿の扉を開きながらそれに答える。
「この宝物殿は海風から中の貯蔵品を守るために、扉も海から反対向きにつけられていて、窓もほとんどないんです。だから魔法の痕跡も、中に貯蔵されている可能性があると思いまして」
「なるほど、それで高位のウィザードのマオ殿をお呼びしたわけですな」
「ええ。マオさんのレベルはまだ55。瞬間転移も使えないし、それでいて彼女の実力はラスター・ホークの保証付きです。証人にはもってこいかと」
「まぁ、余に任せい」
マオはツバキの制止も聞かずにズカズカと中に入って行った。慌てて三人が後を追いかけるも、入ってすぐの所でマオは制止していた。心配そうな表情でツバキが彼女に問いかける。
「マオ、何かあったのか?」
「何かあったもどうも、なんじゃこれは……」
「もう少し、具体的に教えていただけませんか」
マオは振り返った。眉間には皺が寄り恐怖と困惑の混じった彼女の瞳を見た三人は、思わず緊張から硬直した。
「瞬間転移の風属性だけじゃない。火属性・水属性……四元素すべてのマナが渦巻いておる。高位の 魔術師が貯蔵品に一切傷をつけずに魔法戦を行っていたのじゃ……」
「貯蔵庫で魔法戦が……!?」
セバスチャンの表情に明らかな動揺が見られた。クロウも同じように困惑していたが、それは別の方向での発想だった。
「魔法戦があったってことは、【複数人が貯蔵庫に居た】ってことですよね……」
マオが静かにうなずいた。ツバキがそれに続く。
「事実として、ウィザードが剣を抜ける可能性は低いはずだ。剣を抜いた人物とウィザードが戦いを行ったというのが妥当だろうな」
「ええ。そして二人とも貯蔵品に傷はつけないまま秘匿剣とワインを盗んでいった、と」
皆が困惑の表情を見せた。マオが頭を抱えながら叫ぶ。
「あーもうわからんっ!そんな芸当、示し合わせでもしないと説明がつかん!」
「でも示し合わせるなら戦う理由がないですよね?」
「瞬間転移の痕跡をかき消そうとした可能性は?」
「ありえん。これだけ高度な魔法戦をしておいて瞬間転移を使っておらんなどという言い訳、通るわけがなかろう!!」
「じゃあ……選ばれし勇者とLv60を超えたアークウィザードの二人が戦い、【魔法も物理攻撃も傷跡を残さぬまま戦って撤退した】ということか?」
「そんなことありえん!!」
マオが再び叫んだ。ツバキも困惑しながらもうなずく。その時入口の方から聞きなれた女性の声が聞こえてきた。
「おやおや、何か面白そうな話をしているね」
「おお、《ご意見番》か!」
ツバキが嬉しそうな声を上げる。リィエンも小気味いいステップで近づくと、二人はガシっと握手をした。
「久しぶり、《四天王殺し》」
「その呼び名はやめてくれと言ったろう」
「にへへ。直接会うのは前の事件以来だよね。久しぶり」
「通信魔法で話しているとあんまり久しぶりとは思えないがな」
マオも彼女に近づくとハイタッチをする。リィエンはそのままマオに向かって話しかけた。
「それで、転移魔法の痕跡はあったんだよね?」
「それが……」
三人は彼女にこれまでのいきさつを話した。ふむーと彼女は唸った後、腕を組んで下を向いた。
「ローレルさんへの聴取内容の共有もあるし、一旦これまでの事をまとめてみようか」
「了解です」
「よろしく頼む」
クロウも手帳の準備をしながら、彼女の動向を見守った。
「まずは、ローレルさんへの聴取の共有からしようかな。まずメイドさんが見た【奇妙な光】について。時刻は昼頃。光は一度光ったわけではなく、何度かぴかぴかと点滅していたらしい。これもマオの検証結果と一致するね」
「ええ。【宝物殿で戦いがあった】のは確定と見てよさそうです」
「それと【いざこざ】について。こちらも時刻は昼頃……前後関係については別々のメイドの対応だったため、不明。ヴァング・ヴィンセント氏と身元不明の冒険者との間で起こっていたらしい。その中でヴァング氏が【宝物殿について言及していた】らしく、誰とどんな喧嘩をしていたのかは結構気になるよね」
宝物殿――。ありとあらゆる問題がすべてこの部屋に集まってきている。昨日、この宝物殿で一体何があったのか。誰が盗み、誰が戦ったのか――。クロウはペンを片手にその謎に挑んでいた。
「これまでの状況をまとめると、昼頃に宝物殿にかかわっていたのは三人。一人はヴァング氏、ただしあくまで言及のみ。残りの二人は実際に宝物殿に入って戦闘をしていたとみられる。目的はおそらく秘匿剣ニルズスレイヴおよび高級ワイン『ディオニソスの寵愛』」
「二つを総取りしようとして戦ったんでしょうか?」
「何とも言えないね。たとえば『ディオニソスの寵愛』を手に入れようとした侵入者がたまたま秘匿剣を引き抜いて、それを欲しがったウィザードが彼に戦闘を挑んだ、という見方もできる。……まぁ憶測の域を出ないから、現時点で話しても仕方ないかな」
セバスチャンは二人に深々と頭を下げた。
「御見それいたしました。やはりお二人に頼んだのは間違いではなかったようです」
「ただ聞いた話をまとめただけだヨ。こんなので褒められたらご意見番の名折れだって。あと依頼を受けたのはこのリィエン・スタッシュホールド一人だから。クロウ君はあくまで手伝いだから、そこんとこヨロシク」
クロウはすぐに彼女が失敗したときの保険でクロウのことをかばっているのだと気がついた。言い返せない悔しさからペンを握る手に力が入る。セバスもその様子を見逃さなかったのか、一度にこりと笑った。
「左様でしたか、申し訳ありません。あくまで依頼者は《ご意見番》リィエン・スタッシュホールド殿ただ一人ということですね」
「そう。だから報酬も私ひとりに頼むよ」
「かしこまりました」
言い返したい。僕だって《ご意見番》の一番弟子なんだ。依頼を必ずやり遂げてみせる。そう言えたらどれだけ気が楽になるだろうか。でも師匠は海縁国ジゴビアの身分制度についても共有しなかった。それは僕を委縮させないためだろう。この依頼にタイムリミットがあることも隠していた。それも僕を不用意に焦らせないためだろう。
王立記念パーティの最終日、ニルズスレイヴの公開まであと3日間。それまでにクロウは犯人を見つけ秘匿剣のありかを探し出さなければならない。
胃がキリキリと痛む。しかしクロウはその痛みを我慢して再びまっすぐ正面を見た。
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● クロウの手帳④
■ パーティの動向について
早朝:何も盗まれていなかった
朝 :何も盗まれていなかった? ←未確定だが濃厚
午後:【いざこざ】【宝物殿の奇妙な光】 ←この時に盗まれた?
夜 :秘匿剣が無いことに気づく
■ いざこざについて
【ヴァング・ヴィンセント氏と身元不明の冒険者との間で起こった】
【ヴァング氏は宝物殿について言及】
■ 奇妙な光について
【何度も点滅していた】
【複数人が宝物殿にいた】
【宝物殿で戦いがあった】
【魔法も物理攻撃も傷跡を残さぬまま戦って撤退した】




