第三話 ― 事情聴取① セバスチャン
「すみません、形式上このような形にしなきゃいけなくて」
「いえ、何事にも作法というものがありますから」
宝物殿のそばにある『離れ』と呼ばれる来客用の建物の一室で、クロウとリィエンはセバスと対面する形で座っていた。クロウとリィエンは聴取内容を筆記するために目の前に机があるのに対し、簡素な椅子一つに座らされているセバスチャンはまるで容疑者みたいな扱いだ。
「それじゃ、セバス殿の事情聴取を始めるね」
リィエンは手にしたペンを指でまわしながら話しはじめた。こちらの余裕を見せて暴力に訴えずとも聴取相手より立場を高くする彼女なりのやり方である。
「よろしくお願いいたします。では、何から話せばよろしいでしょうか?」
「えーと、まずはアリバイを確かめたいね。秘匿剣が盗まれた時は【王立記念パーティ】があったと思うから、その時の動向を教えてくれるかな」
セバスは少し目を逸らして思い出すような仕草をすると、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。クロウも慌ててペンを構える。
「昨日は大きく分けて四段階に分かれておりました。最初は朝のパーティの準備ですね。この時はまだ一般の方も入っておらず、私は配膳の指示などをメイドにしておりました。在庫のチェックもその際していて問題ないことを確認しております」
「ふむふむ。【早朝の時点では何も盗まれていなかった】ということだね?」
「仰る通りです。そうしてパーティが始まったのですが、すぐに王と王子の挨拶がありまして、その時は警護で王子の傍に付きっ切りでした。パーティの開始が10時ごろ、そこから約2時間程私は王子の傍におりました」
「【朝~昼は王子のそば】と。その後は?」
リィエンの言葉に反応するように、セバスチャンは再び目を逸らした。
クロウは時々入るその仕草が少し引っかかった。まるで嘘をつくときのような――もちろん憶測・邪推の域を出ないが。クロウはその違和感は頭に残しつつ、彼の言葉を聞き逃さないよう耳に集中した。
「その後は客の対応やメイド達への指示をしながらパーティの運営を進めておりました。そのため各所を点々としておりました。……ただ、宝物殿に行くことはありませんでした」
「なぜですか?」
「準備段階で必要なものは宝物殿から出しているためです。ワインや宝石・宝飾物などはあらかじめ在庫管理時点で宝物殿からだしており、特別な要望がない限り入る必要はないのです」
「なるほどねー。それじゃその時も宝物殿のことは分からないと。てことは秘匿剣が無いのに気づいたのはパーティの後ということかな」
「ええ。片づけの最中にローレルから報告がありまして、その時に知りました」
「なーるほーどね~……」
リィエンは腕を組んだままふんすと鼻を鳴らした。クロウは師匠とセバスチャンを交互に見ながら思う。
――今のところ怪しいところはない。容疑者リストからセバスチャンを外しても良いかもしれない。しかしあの目を逸らす仕草は?。セバスさんの癖というだけの話かもしれないが、歴戦の戦士然とした彼の落ち着いた態度を考えると少しだけ変に感じる。
そこまで考えて、クロウはすぐにその考えを振り払った。まだ調査を始めてすぐの段階で細かい仕草を一つ一つメモしていってもキリがないと考えたからだ。
「クロウ君は何か聞きたいことはある?」
「え!?あ、ちょっとまって下さい」
師匠の声でクロウは我に返った。リィエンとセバスチャン、二人の視線がクロウに集中する。クロウは慌てて思考をめぐらせた。
「えーと、まとめると【パーティの開催中~終了までのどこかのタイミングで盗まれた】ことになりますが、その間に何か不審な点やメイドさんたちから報告はありましたか?」
クロウは慌てて振られたせいもあり、たどたどしく余所余所しい言い方になってしまった。恥ずかしさから顔が熱くなってくる。セバスチャンは困ったように破顔すると、ゆっくりと話し始めた。
「いくつか気になることはローレルから聞いております。たとえばパーティで【いざこざ】があった事や、宝物殿から【奇妙な光】を見たとも。……しかしそれは、ローレルから直接聞く方が良いでしょう」
「そ、そうですよね、すみません……」
「いえ、私こそ報告を怠っていましたので、申し訳ありません」
「それじゃ、聞きたいことも聞けたし、セバス殿はローレルさんを呼んできてくれるかな」
「かしこまりました。ではこれにて失礼いたします」
セバスチャンは立ち上がり部屋を後にした。クロウは師匠を見た。彼女はわずかだが不機嫌そうな様子で、ペンをくるくるとまわしながら自身のメモ書きを読み直しているようだった。
「師匠がいると、聴取がスムーズに進みますね」
「急にご機嫌取りしようとしてどしたの?」
「素直な感想ですよ。師匠から見てセバスチャンさんはどうでした?」
ペンの回る速度が加速する。しかしペンはバランスを崩し彼女の親指から転げ落ちた。それをぶっきらぼうにひろいながら、彼女は続けた。
「最後のクロウ君に言われてから吐き出したことがちょーっと引っかかるねぇ」
「パーティのいざこざと奇妙な光のことですか?」
「特に奇妙な光の方。なんで宝物殿の調査の時は隠してたんだろうね。いくらローレルさんから聞いた方が正確だといっても、現場にいるときに共有しないのは変じゃない?」
「……でも隠すってわりにはあっさり喋りましたし、どういう狙いがあったんでしょうか?」
リィエンは天井を見た。『離れ』だけあって控えめではあるが、それでも小さくはあるがシャンデリアがつるされており、その周囲には海をモチーフにした天井画があった――よく見ると小さな宝石も埋め込んである。
「現状では何とも言えないな。まぁでもこの程度、調査をしていけばすぐにわかるだろうね」
「了解です」
「あっ」
師匠のその声に、クロウは思わず彼女の顔を見た。リィエンはパチンと指を鳴らすと、クロウの方をみた。
「ローレルさんの聞き込みは私がしておくから、クロウ君にはちょっとお使いを頼もうかな」
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● クロウの手帳③
■ セバスチャン:ソードマスターLv.51
早朝:パーティの準備 【何も盗まれていなかった】
朝 :王子のそばで警護【状況不明】
午後:パーティの運営。ただし宝物殿に入っていない【状況不明】
夜 :パーティの片づけ。秘匿剣が無いことに気づく
■ その他気になること
【客同士のいざこざ】
【宝物殿の光】
【なぜセバスチャンさんはそれらを黙っていたのか?】




