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第二十話 ― 最終話

「し、しかし王子」


 戸惑うセバスを押しのけて、リンクス王子がクロウの前に立つ。


「それとも余にこれ以上嘘吐きになれと申すのか、セバスチャン・ジークフリート」

「ですが……」


 口では否定しつつも、セバスは既に剣を下ろしていた。抜き身のままなのは彼の精一杯の抵抗だろうか。リンクス王子は両手を広げながら軽く上げると、クロウに向かって言う。


「許す。好きに調べると良い。――刃で手を傷つけないように慎重にな」

「……はい」


 それは証拠の確認というよりは、ただの儀式だった。クロウは樹脂の槍をグレイに預けると、足、腹、胸……クロウが次々手を当てていく。背中へ手を回した瞬間、クロウの手に奇妙な感触が走った。


 直後、わずかな閃光と共に一本の槍が姿を現した。蒼と金の鋼が捻ったように組み合わさり一本の柄を形作っている。そしてその槍の刃先には、グレイが手にしている樹脂の槍と同じ三又の矛がついていた。驚く一行をよそにリンクス王子が手を下ろす。


「よく真相にたどり着いた、クロウ・ロックフォール。貴様の言う通り、余がニルズスレイヴを引き抜き、ジェイド・イーデルシュタインを殺害した。セバスには自害するように命令し、その後ヴァング=モニカ=マエストロを殺させた。あえて言わせてもらおう、天晴あっぱれである」

「違います、全て私が計画したこと……!」

「臣下の助言を余が承認したのだ。それはつまり余の計略といえようて」

「そうか……!」


 セバスの言葉でクロウは気づく。


「計画したのはリンクス王子でもセバスさんでもない。ゴードン王なんですね」

「は……?」


 リンクス王子が意外そうな様子で声を漏らした。待ち構えるように腕を組むゴードン王へしっかりと目を据え、クロウは唇に拳を当てた。


「計画が始まったのはニルズスレイヴを隠した時から。それは統治者たる王が勇者として旅立たねばならなくなるのを防ぐためです。絶対王政の国において、勇者となった王が玉座に座ったままだと王の権威は失墜する。しかし王がいなければ統治ができなくなってしまう。だから槍を剣に変えてしまうことで、ジゴビアルク一族が勇者になる可能性そのものを隠そうとした」

「……」

「待てよ、裏を返せば師匠を呼んだのは『影の組織がある』と明確に嘘をついているセバスさんに犯人をなすり付けるのが目的……。いや、師匠の評判も調べたはず。とすればそこまで把握した師匠にセバスさんが犯人だと言ってもらう手筈だった……?」


 ゴードン王の目が大きく開く。


「そこまでたどり着くとは、見事也」

「つまり選ばれし勇者とは王でも王子でもなく、ジゴビアルク家ということ。考えてみれば選ばれし勇者が一人なわけないですもんね。老衰した場合に困ってしまいますから」

「でも、臆病な王様ってことに変わりはないよね」


 グレイが刺すような言葉を王に投げかける。ゴードン王もそれに過度に反応する事はなく、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始めた。


「……余が神託を受けた時、この国にはまだ魔王の軍勢へ対抗する戦力がなかった。『五光剣の一本がジゴビアにあるが、詳細はわからない』――この言説を広めることこそが、最少の被害で最大の効果を得る策だったのだ」

「王が選ばれし勇者とわかってしまえば、魔王は国を滅ぼしにくる、と考えたのですか」

「左様。事実として秘匿剣の公開以降、魔王軍がジゴビアへ侵略することはピタリと止んだ。レプリカが市場に回り始め、魔王からすればあの剣を持っている誰もが選ばれし勇者に見えただろう」

「なるほど、魔王からすれば勇者候補がそこら中にいる、と」

「そういうわけだ」

「――――――でも!!」


 クロウが宝物殿の棚をドンと叩く。周囲の視線がクロウに集まった。


「それでも、だとしても、なぜ今回の事件になるまで隠していたんですか!!なぜ、師匠は殺されなければいけなかったんですか!!」

「で、でも、冒険者だから復活できるし」


 軽口をたたくモニカをキッと見つめた後、クロウは続ける。


「良いですか、冒険者だから死んでもいい、そうじゃないから死んじゃいけない、そんな理論はどこにもないんです。死んだら記憶が失われる、人格の一部が欠如する危険性だってある。人生の連続性に疑問を唱える哲学者だっているっ!!」

「…………孫を、」

「孫を?」

「孫を、死地に向かわせたくないと思うことは、それほどまでに罪なのだろうか」


 彼の意外な言葉に、クロウは続く言葉を見失った。


「クロウよ、今回の犠牲者は4人だ。それぞれ1回ずつの死。仮にリンクスが魔王討伐に出かけた場合、合計何回死ぬことになるだろうか」

「っ……!それは、護衛を付ければ良い話で」

「ならぬ。ジゴビアの王がそのような振る舞いをしてみろ。次代の王の権威まで失墜するぞ。あくまで矢面に立ち、その身で魔王と対峙することが求められようぞ」


 返す言葉も無かった。これまで自分が行ってきた指摘が、全てクロウへと跳ね返って来たのだった。


「想像するのだ、クロウ。リンクス・フォン。ジゴビアルクは何回死ぬ。我が息子のように廃人となるまで、一体どれだけ耐えられると思う?」


 この問いに対しても、クロウは何も言うことが出来なかった。もし師匠が同じ立場になったら――自分は師匠を送り出せるだろうか。もし回避できる可能性があったとして、その可能性に賭けないのだろうか。


 答えが出ないまま、リンクス王子が静かに言った。


「良い、クロウ。余はそこもとより良い暮らしをしている。欲しい物は何でも手に入るし、食にも困らん。そのような立場の人間がいざという時尻尾を巻いて逃げるわけにはいかんのだ。貴様や貴様の師匠とは、そもそも生まれから違うのだ」

「……でも、そんな身分制度が嫌いだと言ったのは貴方ではないですか!」

「良い。余は既に覚悟ができている。セバスにも苦労を掛けたな。もう無理に余を庇わんでいい」

「で、ですが……」


 そう言って、リンクス王子は槍を振り回し始めた。狭い宝物殿の中でも、ニルズスレイヴは彼の身体の一部のように彼の身体の周りをぐるぐると回り、したっと腕に収まる。


「どうだ、余の腕も悪くなかろう?」


 直後、宝物殿の扉が勢いよく開いた。一行の視線が入口へと向かう。立っていたのはリィエン・マオ・ツバキの三人だった。師匠が走りながら大声で叫ぶ。


「ちょーーっと待ったぁ!!今回の事件はセバス殿が犯人で選ばれし勇者!それで問題ないよねーーーーっ!!」



「「あっ」」



 クロウとリンクス王子が同時に間抜けな声を出した。


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