第二十一話 ― エピローグ
「なら結局はお咎めなしで済んだということなのか?」
ツバキが赤い葡萄酒を飲んで話す。たんまりと膨らんだ財布をうっとりと見つめながら、リィエンはニッコリと笑った。
「うん。聡明なリンクス王子の口添えでね」
「では、リンクス王子は勇者として旅立つのか?」
マオが漆の禿げたテーブルの上に置かれた皿の上のラズベリーパイをナイフで切り分けながら言う。弟子お手製の麻婆茄子を頬張るリィエンの代わりに、クロウが答えた。
「統治自体はゴードン陛下が行えるのと、リンクス王子はこれを機に王政の圧力を弱めて議会の権力へと分散する腹積もりだそうで」
「なるほど。彼にとってもメリットなわけか」
「グレイとやらも宝物殿侵入に際して罰はなかったのか?」
「無い」
麻婆茄子を頬一杯に溜めながら、グレイは短く簡潔に答えた。すぐに「ん」と空いた皿をクロウに突き付ける。困ったように笑いながら、クロウはお代わりをさらに盛る。
「では陛下と我らの競争じゃの」
「へ?」
クロウが素っ頓狂な声を上げる。
「この付近に魔王の拠点が見つかったのでな、軽く話をしに行こうと他の連中も呼び寄せたんじゃ」
「じゃあ、レオさんもローさんもこっちに来るんですか?」
「ああ。流石にリーダーがいなければ向こうの礼を失するのでな」
クロウは心の中でほっとため息をついた。リンクス王子が危ない目に合わないのなら、それに越したことはない。それにリンクス王子が直接政治に関与すればジゴビアはもっと良くになるだろう。そしたらグレイにとってもプラスになるはずだ。
「ところでクロウは何か褒美をもらったのか?」
ツバキの質問に、クロウはふふんと笑って一枚のスクロールを取り出した。
「ジゴビアの《ご意見番》の称号と、転移魔法のスクロールです。ほら、ここにリンクス王子のサインもあるでしょ」
「おお!ではジゴビアからの依頼も来るかもしれんな」
マオが自分のことのように嬉しそうに言う。クロウも師匠と同じ称号を得られ、少しだけ鼻が高くなる気分だった。一方のリィエンは少しだけふーんと鼻を鳴らす。
「クロウ君にはまだまだ早いと思うんだけどネー。だって今回の真相に気づいたときももう手遅れだったじゃん」
「少なくとも今回の事件においては、教会で寝ておったお主よりかは活躍しておったんじゃ。素直に認めんか」
「ぶーぶー」
そう言いつつも、リィエンは弟子お手製の麻婆茄子をしっかりと食べている。不意にグレイが立ち上がった。「おかわりなら僕が」と声をかけるクロウをよそに、グレイは玄関へと向かっていった。
「なんじゃアイツ、礼も言わずに出かけるんか?」
今度はマオがぶーぶーと声を出す。しかしグレイはすぐに帰ってきて、クロウに向かって何かを差し出した。
「これ」
「ん?なにこれ」
クロウが受け取る。ちゃりん、と軽い金属音が手の中で鳴った。
「ウチの鍵。ジゴビアに来るときはいつでも寄って」
「ばっ……!」
「勝手に入っていいから。私がいなかったら料理作っておいて」
そう言ったグレイの頬は少しだけ赤くなっていた。
「ふむ」
「ほーぅ」
「ふーん」
三人がにやにやと笑い、それぞれ感嘆の声を漏らす。クロウは自分を揶揄おうとしている人が三名に増えたことに気づくと、大きくため息をついた。
《おわり》




