第十八話 ― 解決編②
「本題だな。期待しているぞ、クロウ・ロックフォール」
リンクス王子が言う。彼の期待という言葉に皆が反応し、ピクリと反応する。その中で唯一、クロウだけがまっすぐにリンクス王子を見つめ返していた。
「まずはっきりさせておきたいことが一つあります。今回の事件において、《秘匿剣》を持ち去った者と連続殺人事件の犯人、その両者には強い関係があるということです」
「強い関係?」
リンクス王子が問う。クロウは間髪入れずに答えた。
「ええ。被害者のセバスさん、イーデルシュタインさん、モニカさん――そして師匠のリィエンは、全て今回の事件の関係者です。特に師匠はジゴビアは初めてきたこともあり、殺害される動機はこの事件しか考えられません」
「妥当だな」
ジェイドが頷く。皆も彼に続き納得する様子を見せた。
「そして、この犯人の狙いは事件の妨害です。僕らの関係者を殺したのは、これ以上調べるなという警告でしょう」
「つまり、リ=エン殿は見せしめとして殺されたのですな」
セバスが答える。しかしクロウはそれを即座に否定した。
「違います。今回の事件において、師匠を殺す必要性は全くないんです。なぜなら宝物殿で殺すということは、つまり容疑者が宝物殿に入れる人物に限られるからです。そのようなリスクを犯人が無理に取る理由がありません」
「なるほど。一理ありますね」
「ではなぜ殺したのだ」
「そこです。今回の事件において犯人のした最大のミス。それが師匠を殺したことなんです」
「ええい、勿体ぶらずに言わんか」
ゴードン王が指で自分の腕を何度も叩きながら言う。その様子を見てクロウは、師匠の残した巨大なフラスコを持ち上げた。
「ゴードン陛下。それを言うには一つお願いがあります」
「なんじゃ、言うてみい」
「これから僕がする事に目をつぶっていただきたいんです」
「何をするというのか」
「これを、あの穴に流し込みます」
クロウはフラスコを両手で支え、ゴードン王の前に掲げる。すかさずセバスがクロウの肩に手をやる。
「クロウ君!いくらなんでもそれは」
「ダメですか?所詮は台座でしょう?」
「しかし歴史的に重要なものでして、」
「良いではないか。伝説の剣の台座であれば、そう滅多なことでは傷つかないだろうて」
セバスを遮ったのは、クロウの予想に反してリンクス王子だった。
「――しかし、それはあまりにも」
「礼を失すると言いたげだな。だが余が許すのだ、今更誰に失礼もあるまいて。祖父上もそれでよろしいか?」
「むぅ……。まぁ、良いだろう」
「……感謝します」
クロウは二人に向かって深く礼をする。顔を上げたクロウは振り返ると、ジェイド・イーデルシュタインに目をやった。彼の視線に気づいたジェイドが「私に?」と言いたげな様子で顎を動かす。クロウは小さく頷くと、彼に立つように促した。
「い、いかがした。クロウく――クロウ殿」
「このフラスコをゆっくり温めていただけませんか。細かな温度調整はニガテでして」
「分かった。すぐに温める」
ジェイドがフラスコに手をかざし、赤く光る魔法陣を出現させた。その手は小さく震えていた。それは緊張か、それとも歴史の遺物へ鑑賞することへの背徳感からなのか。
ジェイドの魔法陣から熱をもったマナが少しずつ出てくると、それはフラスコの周りへと集結していった。すぐにフラスコの中の半液体は透明な液体へと変化していった。フラスコを振り全体が液体になったのを確認すると、クロウはそれを台座の前に掲げた。その様子をみたマエストロが驚いた様子で立ち上がった。
「お前さんもしかして、それは樹脂か……!?」
無言で頷く。クロウには既にその目的が――師匠が何を暴こうとしていたのかが分かっていた。注がれた樹脂はとぽとぽと間の抜けた音を奏でながら、台座の奥の暗闇へと吸い込まれていく。しかし、溶けた樹脂は台座を満たすことはなかった。クロウはそれに驚きもせず、箒を逆向きにもって柄の部分をそこに突っ込んだ。
「おい!!」
マエストロが叫んだ。クロウも同じぐらいの声量でジェイドに向かって声を張り上げた。
「ジェイドさん!今度は台座をゆっくり冷やして!」
「は、はい!」
追い立てられるようにジェイドが青色の魔法陣を展開する。マエストロはそれを止めようと一歩前に出たが、すぐにグレイが近寄ってナイフを首元に当てると、諦めたように両手を挙げた。
他の面々は静かに見守っていた。騒ぐこともなく、狼狽えることもなく、ただ静かに。そんな中でリンクス王子だけが、大きく、ゆっくりと頷いた。
「改めて事件を振り返りましょう。まず、この事件の容疑者は【長剣の加護】を持つソードマン・パラディン・バーバリアンの3職に限られるという話でしたね」
「ええ。この中で言うと、私とグレイ殿とモニカ殿・そしてマエストロ殿の4人ですね」
答えたのはセバスだった。
「しかし、師匠はその前提を疑うことにしたんです」
「……女神を疑うだと?」
「いえ、疑っているのは人であり、物です。伝承が作り出した《秘匿剣》という呼称そのものを」
「疑うといっても、その剣がない以上確かめようが無いではないか」
ゴードン王が言う。クロウは箒の柄を両手で握ると、皆を一瞥した。
「この樹脂が確かめるための道具なんです。熱を与えると液体のようになり、逆に熱を奪うと固体のようになる。これを使って、伝説の剣の型を取りました」
「な、なんと!?」
「抜きます」
驚く王が落ち着くのを待つこともなく、クロウは箒を持つ手に力を入れる。固まった樹脂の摩擦がわずかな抵抗をしたが、クロウは容赦なくそれを引き抜いた。
「えっ」
グレイが声を漏らす。クロウが抜いた箒の柄の先についていた――ニルズスレイヴの先は、鋭くとがった三又の矛で、およそ剣の物とは思えなかった。
「これって、槍……?」
モニカがぽつりとつぶやいた。クロウはその槍をしっかりと握りしめ、グレイに向かって叫んだ。
「グレイさん!ディオニソスの寵愛を!」
「承知」
返事の言葉を置き去りにして、 気配遮断を解除した彼女は王の首元に刃を走らせた。




