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第十一話 ― ブリーフィング

「この世界には通称【五光剣】と呼ばれる伝説の剣が5つあります。そこまではご存知ですね?」

「ええ、まぁ」

「その剣は武器ながらそれぞれ独自の『女神の加護』を受けており、選ばれし勇者が手にした時にその真の力を発揮します。たとえば極東で見つかった《妖刀》斬心丸は選ばれし勇者が手にしたときに防御無視の加護がつきます」

「防御無視って、なんでも消えるってことですか……?」

「いえ、選ばれし勇者が持つと刀身が消えるのです。そして剣を振るともともと刀身があったところに斬った時の痛みだけを与えるのです」

「そんな魔法みたいな事があるんですね……」

「魔法でもまだ再現できない領域だネ」


 セバスチャンも「その通りですな」と頷いた。


「つまり《秘匿剣》にもそういった特性があり、その特性によって殺害された可能性もある、というわけですね」

「はい。仰る通りでございます」


 リィエンがクロウの目の前で伸びをしながら続けた。


「ひとまずはソーン・グレイかな。彼女は第一容疑者だし、ともすれば一石二鳥だからね」

「ですな。ソーン・グレイの居場所については私に心当たりがあります。地図を書きますので後ほどお送りしましょう」

「りょーかい。マオツバの二人にも声かけておくよ。……ってクロウくんなんでそんな真っ赤になってるの」

「気のせいです!!」

「ははーん、また私の身体を見て発情したなぁ〜?」

「違います!!」


 恥ずかしさから飛び出たクロウの大きな声は、それが図星なのだと二人に伝えるばかりだった。




拠点としている宿屋で二人は食事をとることにした。食卓にはパンやスープなど簡素なものが並んでいる。リィエンは大きな紙を食器の横に敷いて、クロウの方を見た。


「マオツバとの集合時間までちょっと暇だし、複雑化してきたこれまでの事件を振り返ってみようか」

「了解です」


 リィエンはペンでさらさらと書き進めていく。クロウはパンをオリーブオイルにつけながらその様子を見守った。


「まず大きく分けて3つの事件が起きてるよね。

 ①《秘匿剣》ニルズスレイヴ窃盗事件

 ②高級ワイン『ディオニソスの寵愛』窃盗事件

 ③セバスチャン殺人事件」

「はい。①と②はいずれも宝物殿にあったものが盗まれたんですよね」

「そう。そして宝物殿には大きく2つの証拠があったよね」


 クロウはパンを頬張りながら手帳を見る。


「台座についていた小さな手形と魔法戦の痕跡でしたっけ」

「それらはおそらく①と②に関連していると思われるね。容疑者は誰だったっけ?」

「手形の大きさ的にはモニカさん、ソーン・グレイさんの二人、加えて瞬間転移の使えるイーデルシュタインさんです」

「うん、良く覚えてるね」


 クロウは玉ねぎのスープをすする。玉ねぎのうまみが身体をあたためていく。リィエンはセバスの似顔絵をさらさらと書くと、彼の頭の上に小さく×を記載した。イーデルシュタイン・モニカの人物絵と、ソーン・グレイと選ばれし勇者の絵も記載していく。


「そしてセバスチャン殺人事件の方はというと……」

「考えられる容疑者はソーン・グレイと伝説の剣を盗んだ人物の二人ですが、詳細はわかりません」

「そうだね。要するにこうだ」


 リィエンは①・②の円と③の2つの円でそれぞれの人物を囲った。二つの円が重なる場所にはソーン・グレイと選ばれし勇者の二人がいた。


「①②③全ての容疑者にソーン・グレイがいる。もちろんだからといって丸っと犯人だと決めつけるつもりはないけど、重要な手掛かりにつながっている可能性はあるよネ」


 そう言ってリィエンがパンをちぎり、塩の浮かんだオリーブオイルにくぐらせる。クロウも頬張ったパンを飲み込むと、師匠の方を見た。


「そういえば選ばれし勇者について、ちょっと気になることがあるんですが」

「なんだい?」

「この伝説の剣のシステムって欠陥がありませんか?選ばれし勇者がちゃんと伝説の剣にたどり着く保証なんてないじゃないですか」


 師匠はゆっくりとコーヒーを楽しんでいる。彼女の動向をクロウはじっと見守った。


「まず、クロウ君はどうして人々が五光剣が伝説の剣だと判明したんだと思う?」

「えっ?」


 予想外の疑問にクロウは次の言葉につまった。


「誰も抜けなかった……から?」

「引っかかってるだけなのかもしれないよ?それに引き抜いてないのになんで凄い剣だってわかるのサ」

「えー、確かに……えーと、スミマセン、降参です」

「ふふーん。まだまだだねぇ。答えはその存在が予知されていたからなんだよ」

「予知?」


 リィエンが紙に4つの異なる絵を描いた。


「これ……鏡と石碑に壺……最後のは絵画ですか?」

「そう。世界各地にあるこれらには五光剣が描かれているんだ。しかしそのどれもが100年以上前、五光剣が天からもたらされた50年前よりもずっと前に作られているんだ」

「えっ……?」

「だからみんな五光剣が現れた時に伝説の剣だとすぐに分かったんだ。だから伝説の剣の持ち主も予め引き抜く運命にあると決められているんだよ」


 予言という未知の存在にクロウは思わず興奮する。しかしそうすると疑問がさらに湧いてくる。


「《秘匿剣》はどう予言されてたんです?」

「……それは、王家の秘密らしい。だから《秘匿剣》なんだよネ」

「な、なるほど……」

「だから実は四光剣なんじゃないか、とも言われてはいたんだけど、ツバキが抜けなかった剣が抜かれてしまったってことを考えると、まあしっかり伝説の剣だったんだろうね」

「なんだかちょっとワクワクしてきました」

「少年だねぇ」


 お腹いっぱいで元気になったクロウは、勢いよく立ち上がった。


「じゃあお昼食べ終わったら行きましょう。セバスさんのくれた地図の場所へ!」

「おうとも!」




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● クロウの手帳⑦


■ 三つの事件について

①《秘匿剣》ニルズスレイヴ窃盗事件

 ②高級ワイン『ディオニソスの寵愛』窃盗事件

 ③セバスチャン殺人事件


■ ソーン・グレイについて

・『影の組織』の一員

・暗殺稼業


■ 五光剣について

・各種歴史遺産に予言されていた剣たち

・《秘匿剣》も予言されていたのかもしれないが、詳しくは分からない。


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