表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/22

第九話 ― 事情聴取⑤ ヴァング・ヴィンセント

「えーと、自己紹介をお願いできるかな」


 三人で火の消えた暖炉を囲みながら、リィエンは自分の手帳を手にした。モニカはソファーの上にあぐらをかき、恥ずかしそうに頬をかいた。


「自己紹介なんてやったことないんだけど……。えーと、オレはヴァング=モニカ=ヴィンセント。おやっさんの代わりに王室なんとかの鍛冶師やってる……ってそれは知ってるか。自己紹介ってなに話せばいいの?あっ、好きな食べ物はイチゴ。ミルクと混ぜてよく食べてるぜ」


「……」


 これは長くなりそうだ、と二人は思った。


「繰り返しになるんだけど、モニカちゃんは王室お抱えの鍛冶師でいいんだよね?」

「あたぼうよ。見習い兵士の練習槍から王子のガントレットまでなんでもこさえてるぜ」

「それは凄いね」

「だろー?これでもハンマーの振り方にはちょっと自信があるんだよ……じゃなくて!」


少し頬を赤らめながらモニカは手を振り回した。


「オ、、オレが言ったんだから次はお前らな!まずお前!」


 モニカはマオの方を指さした。


「え、余?」

「そうだ余だよ!」


 マオは立ち上がり、モニカの方に手のひらをかざした。モニカは驚きつつも彼女がただのポーズを取ったことに気づくとほっと胸をなでおろした。


「こほん。ラスター・ホークが一角にて最強(に将来なる予定)の魔術師である、マオ・アフィーリアじゃ。好きなものはラズベリーパイと葡萄酒、それと綺麗な魔法陣!」

「おう、よろしく。じゃ次はお前!」


 モニカがリィエンを指さす。


「私はヴィーノの街の《ご意見番》の錬金術師、リィエン・スタッシュホールド。とある事情によって昨日の王立記念パーティに来た人に事情聴取をしている。ちなみに好物はパイナップルね」

「ほーん、よろしく。事情ねぇ……」


 怪訝そうな表情でモニカは彼女を見た。リィエンは彼女の性格を鑑みて細かい事情を話さなかったが、それはどうやら正しい選択だったらしい。


「じゃあ進めるね。まず確認なんだけど、王立記念パーティに参加してたのってモニカちゃんで合ってる?」

「あってるぜ。おやっさんに美味い飯が食えるからって勧められたんだけど、全然面白くなくてすぐ帰っちまったけどな」

「具体的にどのくらいの時間に何してたかとかって分かる?」

「具体的……ってあれか、細かく言えってこと?」

「そう」

「えーと、その日は朝の7時に起きてー、そっから14分と32秒ベッドで唸ってたんだけど、そっから――」

「もっとざっくりでいいから。パーティに行った時のことを教えて?」


 マオは小さくため息をついた、自分もクロウに事情聴取されるときにこんな気分だったのかと考えると、少し気恥ずかしい。


「ざっくり?注文が多いなー。整理するからちょっと待ってろ」


 そう言うとモニカは左右のこめかみに人差し指を当ててウンウンと唸りだした。マオがリィエンに身をよせて話す。


「ありゃなんじゃ?」

「完全記憶保持者ってのかな。自分が見聞きしたものを完全に思い出すことが出来るんだ。時間まで細かく覚えているのは初めて見たけど」

「すご……!魔法陣の記憶が重要なウィザードの世界なら頂点狙えますよそれ」

「でも人間の機能ってのはそこまで万能に出来てないんだ。覚えていることが多い分、引き出すのに普通の人よりも時間がかかる場合もある。彼女のようにね」


 「そうだ!」と彼女は叫んで拳をもう片方の手のひらにぽんと当てた。


「昼頃――えっと、12時と32分が過ぎたごろにチェックインして、そっからはひたすらメシ食べながら、親父の言ってた通り色んな人が話しかけてきたからその応対?ってやつをしたんだ」

「うんうん。何か気になったことはあるかい?怪しい人物がいたとか、何か大きな荷物を抱えてる人がいたとか」

「いんや?いなかったぜ?といっても大体挨拶するぐらいだったから、怪しいも何もなかったな。……あ!」

「なにか思い出した?」

「白身魚のムニエルが美味くて!!レシピ聞くの忘れてたぁ~~」


 モニカは「うあ〜」と叫びながら頭を抱える。間の抜けた彼女の声に二人が聴取前に抱いていた気力はどんどんと削られていった。


「ムニエルはともかくとして」


 リィエンはテーブルに頬杖をつきながら、苦笑いを隠すのを早々に諦めた。


「昨日のパーティ、何か気になった人を見なかったかな。怪しい荷物を持ってた人とか」

「んー……」


 モニカは再びこめかみに指を当てた。マオはその様子をじっと観察しながら、再び小声でリィエンに話しかけた。


「……本当にこの娘っ子、大丈夫なのか?」

「まあ待ちたまえ、もう少しで分かるさ」


 十秒ほどは経っただろうか、モニカは嬉しそうな表情でパッと顔を上げた。


「そうだ!なんかやたらキョロキョロしてるやつがいたんだ!」

「キョロキョロ?」

「そう!見てくれ自体はちゃんとしてたんだけど、貴族のパーティであんなに周囲に視線ふりまいてたら目立つったらありゃしなくて」

「ふむふむ。どんな見た目だった?性別は?身長は?」

「えーと、女性で、身長は私よりちょっと高いぐらい。マオと同じぐらいかな。種族はヒューマンだったぞ」

「ふむ……」


 リィエンが唇に人差し指を当てる。


「ねーねーモニカちゃん、覚えてたらでいいんだけどさ」

「んだよ」

「そのこの手のひら、このぐらいのサイズじゃなかった?」


 リィエンが手帳を見せた。そこには台座についた指紋を写したものが書いてあった。モニカはそれをじーっと見た後、再びこめかみに指を当てて唸りだした。


「うーん……ちょっと思い出すから待ってろ……」

「ゆっくりでいいから、ちゃんと思い出して」

「わーった」


20秒、いや30秒だろうか。おおよそそのぐらいの時間が経った後、「お!」とモニカは声を出した。


「多分ぴったし!そんぐらいのサイズだったぜ!それにあの時は周りは大人ばっかりだったし、他に同じサイズなのはオレくらいだと思う!」

「……なるほど、手形の大きさが一致していて他にそのぐらいの人はいないと考えると、そのキョロキョロしていた人物は宝物殿に侵入している可能性があるかもしれないね」

「宝物殿に?話しがよく分かんないけど……」

「ああ、モニカちゃんは気にしなくて大丈夫。それでモニカちゃんはその子とは何も話してないんだよね?」

「ああ。アイツとはなんにも話してないぜ。気持ち悪いったらありゃしないんだから」

「そ、分かった」

「え?」


 驚くマオを放っておきながら、リィエンはパタリと手帳を閉じると、すっと立ち上がった。


「じゃ、私たちはお暇するよ。色々押しかけて悪かったね」

「いいや、どうせ暇だったし良いよ。なんかあったらまた言ってくれ」

「え、え?」

「そこのマオってやつは困ってそうだけど、いいのか?」

「うん。問題なし。じゃ行くよ」


 リィエンはマオの手を引っ張ると、困惑する彼女を引っ張って立ち上がらせた。


「あ、それとモニカちゃん最後に一ついいかい?」

「なんだ?」

「モニカちゃんってヴァング・ヴィンセントの名前を継いだのって最近?」

「おやっさんが腰をやってちょっとだからー……2か月と4日前だぜ。それがどうかしたのか?」

「いや大丈夫、ありがとネ。あとマエストロ殿に腰をお大事にって伝えといて」

「おやっさんの腰、そんな悪いのか?」

「安静にしてればすぐ良くなるよ」

「……そっか。ありがと」



------------------------------------------------------------------------------------------------



 門を出たところで不満たっぷりな様子のマオが口を開いた。


「リィエンよ、どうしてあのときモニカを指摘しなかった!ローレル殿というメイドが【ヴァングと身元不明の冒険者との間で起こった】と言っておったのではないのか!」

「うん。言ってたね。それがどうしたの?」

「あ、あいつは嘘をついとったんじゃぞ!」


 生暖かいそよ風が二人の間をゆっくりと通り抜ける。困惑するマオをよそに、リィエンはさも当然だというように質問を続けた。


「どうしてマオはモニカちゃんが嘘をついてたって思ったの?」

「それは先ほど言ったじゃろ、ローレル殿がそう証言していたと言っていたのは他ならぬおぬし自身ではないか!」

「じゃあ、マオはさっき会ったモニカちゃんの方じゃなく、見ず知らずのローレル殿の証言の方を信じてるんだ」

「へ……?ほ、ほえ?」


 マオが間の抜けた声を上げる。


「まぁ、人は先に聞いたことを信じたくなっちゃうものだよね。でも起きた事実だけ抜き出すと、【モニカちゃんとローレル殿の証言に食い違いがあった】ということだけ。誤解があったのかもしれないし、勘違いがあったのかもしれないし、もしかしたら片方が嘘をついているのかもしれない。でもそのどれかはまだ確定していないじゃんか?」

「た、確かに……!」

「それに私はあの子が嘘をつくようには見えなくてね。マオもそう思わない?」

「ウ、ウム……」

「だから私はローレル殿が嘘をついているか、そこに誤解があるかのどちらかだと思ってるってワケ。今のところはね」

「ムゥ……」


 キィキィと海鳥の鳴く声が頭上に響く。二人はジゴビア城下町の繁華街に向かった。数々の商店やレストランが華やかに輝き、そこを様々な恰好の人が歩く。観光業で成り立っているこの国特有の景色だ。


 マオは楽し気に人々を観察するリィエンの方を見る。


「この後はどうするのじゃ?」

「陽も傾いてきたし、クロウ君に情報共有して終わりかな」

「ほーい」


 そう言ってクロウに伝える内容をまとめながら、二人は黄昏の町を歩んだ。


 しかし翌朝彼らに待ち受けていたのは、セバスチャンが殺害されたというローレルの報告だった。




------------------------------------------------------------------------------------------------




● クロウの手帳⑥(リィエンから共有された情報のまとめ)


■ ヴァング・ヴィンセント氏について

・元々はマエストロ氏、今はモニカ氏が引き継いでいる

・モニカ氏は引き継いでから2か月ちょっとしかたっていない


■ モニカ氏のパーティの動向

・基本的には挨拶をした程度

・怪しい人物を見かけた。女性で身長はマオぐらい(150cm弱)のヒューマン

・モニカ氏はソーン・グレイといざこざを起こしていない

  → 他の証言と矛盾


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ