36・ヤマダ(仮)、これにてお開きです。
神はそれらしい事を語ってから、一方的に神託を終わらせ、消えていった。
その数日後、無事に全ての瘴気を吸い終えた神珠も、役目を終えて消えた。
そしてその後のヤマダ(仮)達はというと……。
「……ヤマダ(仮)よ。戴冠式でもその格好なのか?」
「何度も言いますが、この服装は、私位の年齢の女の子にとって、正装なのですよ。本当にわかってませんねぇ。聖アプリコット女子学園の制服ですよ!……まぁ、もう本物ではありませんが。せっかく作り直してもらったとはいえ、着心地がちょっと……」
「わかったわかった。せめてその顔の物を外せ。今日ぐらい、顔を出しておかねば、後世で何を言われるか……。」
何とか、愛用のメガネとマスクを外させる魔王(仮)。
ここは魔王城の玉座の間の控え室。
いつもの制服に、真っ白なファーがついた漆黒の長いマントを羽織り、魔王(仮)を片手に待機しているヤマダ(仮)がいた。
あれから、色々あった。
全ては、この一言に尽きる。
神が去ったあの後、耳を真っ赤にしたヤマダ(仮)が、困惑する魔王(仮)を怒涛の勢いで説得していた。
「いいですか?魔王(仮)さん。貴方はどうも押しに弱すぎる。このままでは、あの宰相さんを始め、魔王城の人達にまた、魔王にされていい様に利用されるのが目に見えます。しかも、今は以前と違い、最弱金◯なんですよ。使われるだけ使われて、最後の一滴まで絞られ、後は永遠に倉庫の埃まみれの隅っこで、忘れ去られる孤独な人生になりますよ!」
「わ、若い娘が言っていい言葉ではない……。それに我は、もう魔王には戻らぬと決めている故、問題ない!」
痛い所を突かれ、苦し紛れにツッコミを入れ、強がってみせる。
このお人よし魔王(仮)が、魔族達を見捨てる事など出来ないと、見抜いているヤマダ(仮)は更に説得を続ける。
「その点、私が魔王になれば、私の生きている限りになりますが、そういった者達から貴方を守れる。死後は信頼を置ける者に、貴方を託す事もできる。そして貴方は私を通じて、私の片腕として魔王国を護れる。更に言うと、これから魔力が使えない世の中になるんですよ。魔力のない世界から来た私は、相当な重宝されると思いますが?」
「う…しかし、それでは……貴様の幸せキラキラ自由ライフとやらはどうなる?魔王となっては、外に出るのもままならんのだぞ。」
その言葉にヤマダ(仮)の細い目が、更にギュッと細まり、殆ど閉じている状態になる。
そして、深〜いため息を吐かれる魔王(仮)。
「……女性にここまで言わせて、そんなセリフしか出てこないとは……これだから根暗朴念仁は。」
そこに、カエル宰相が参戦してきた。
おっと思ったヤマダ(仮)は、すかさず自分を魔王にすべく、プレゼンをする。
すると、意外にも理解を示した宰相は、あっさりとヤマダ(仮)の陣営に加わった。
それもそうだろう、最強だった四代目魔王を、騙し討ちとはいえ制し、更に“聖女”であり、何よりバックにとんでもない大物が控えている。
こんな上等な神輿に、乗らない馬鹿はいない。
そんな訳で、宰相の後押しと更に側近のトールまで加わり、一名の反対を押し切る形で、あれよあれよという間に月日が経ち、ヤマダ(仮)の魔王への就任戴冠式が行われる事になった。
そして今、元側近のトールに案内され、玉座の間に続く扉の前に立つ。
「本当にいいのか?ヤマダ(仮)よ。今なら引き返せるぞ。」
「まだ言いますか。私の覚悟はバッチリ決まっていますよ。自由ライフは、魔王業を引退してからでも遅くはありません。それとも、魔王(仮)さんこそ逃げたいのですか?私を見捨てて?」
「はぁ〜、まったく。今更、貴様を見捨てるとか貴様こそ、我をそのような薄情者と思っておったのか。仕方なし、ここまできたら地獄の底まで、面倒見てやるわ。相棒であろう。我らは。」
「……まぁいいか、それでも。その言葉に二言はありませんね?魔王(仮)さん。」
にんまりと笑ってみせるヤマダ(仮)。
扉が開く。
広間には国内の要人や貴族、城に仕える重鎮達が、ヤマダ(仮)達の登場を待っている。
その中には、見知った顔がちらほら見えた。
ヤマダ(仮)は、怯む事なく玉座に続くカーペットを、スタスタと歩いていく。
本来、ゆっくりと踏みしめて歩くものなのだが、ヤマダ(仮)の尋常ではない歩く速度に、扉の側に立つトールと玉座のサイドに立つ宰相に、速度を落とせとジェスチャーされてしまう。
おっととばかりに、多少は速度を緩めつつも、物怖じしないヤマダ(仮)は、最速で玉座の前に立った。
そこには、魔王国の友好国として、カーデン王国の王太子が立っていた。
この王太子はヤマダ(仮)から、魔王になるという知らせを受けるなり、電光石火で現王を引退に追い込み、ヤマダ(仮)の許可を得て、聖女召喚の儀式の真相を公表。王国と魔王になった聖女の繋がりを強調し、速攻で魔王国と同盟関係を結んだ。
今回、魔王国とカーデン王国の友好関係を示す意味で、王冠を手渡す役を買って出たのだ。
(余談だが、ヤマダ(仮)が魔王になる事を、反対する勢をちょっと黙らせすぎて、この役目を出来る地位の者が、魔王国にいなくなってしまったという理由もある。)
いつもの王子様スマイルで、ヤマダ(仮)に王冠を掲げ渡す。
「ふふ、頑張ったけど先を越されちゃったね。私も国に戻ったら、すぐに戴冠式だよ。」
「友情出演というヤツですね。ありがとうございます。あとでちゃんと、魔力の無い世界について、文書にまとめてお渡しします。」
「コラ、そう簡単に渡すでない。力の限りデカい貸しとせよ。……おっと、遠くからご苦労であったな。若き王よ。」
「相変わらずだね。貴方達は……。」
王冠を受け取ると、自ら頭に乗せる。
実力主義の魔族ならではの、独自の作法である。
そして、玉座の前に立ち、クルッと向きを変えると、静かに着席した。
スウっと息を吸い、ハリのある声で高らかに宣言をする。
「私、ヤマダ(仮)が第5代魔王として、この魔王国に安寧をもたらす事を、ここに宣言します。」
ヤマダ(仮)らしい、シンプルな宣言が終わるや否や、大歓声と拍手が広間に轟いた。
新魔王万歳という喝采の中、ヤマダ(仮)の前に、一筋の白金の光が降りる。
「5代目様!」
慌てて叫ぶ宰相。突然の光に、広間は一瞬で静まり返った。
その光から、かつて全ての人々が浴びた神力を感じ取る。
光は、虹色の髪と薄紫色の肌のヒト型になった。
「お久しぶりですね、神様。」
「うふふ、魔王就任おめでとう。こんな時にごめんね?ちょっと忘れ物をしちゃったから、取りに来たの。」
誰もが言葉を失い、動く事が出来ずにいる中、神はヤマダ(仮)から、神珠をヒョイと取る。
「これはもういらないね。返してもらうよ。」
「なっ!」
神から奪い返そうと手を伸ばすが、すり抜ける。
顔を歪めて焦るヤマダ(仮)を見て、神は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
そして、神珠の中を眺めながら……
「おっと、余計なモノが入っているね。これはいらない。」
ぷいぷいっと追い出すように、神珠をふった。
すると、黒と金の光の玉が溢れ落ちる。その玉が輝きを放ち、弾けた瞬間。
ヤマダ(仮)の目の前に、腰まである長い黒髪、逞しい褐色の肌。頭上には片方が欠けた二本の角。印象的な黄金の瞳を持った青年が立っていた。
ポツリと、宰相がつぶやいた。
「よ…4代目様?」
ヤマダ(仮)に封印された時の、シンプルな格好の第四代目魔王が、ポカンと間抜けな顔で立ち尽くしている。
沈黙する広間。
「じゃあね、5代目魔王ちゃん、お幸せに〜〜⭐︎また遊びに来るよ〜。」
神が消えても、静まり返ったまま、四代目と五代目の成り行きを見守る。
「えっと……魔王(仮)さんで、よろしいですか?」
ヤマダ(仮)の問いに、壊れた人形の様にコクコクッと、何度も頷く魔王(仮)。
「あれ、300歳のヨボヨボのお爺ちゃん、じゃなかったでしたっけ?」
「誰が、ヨボヨボのお爺ちゃんだ!魔力が強い魔族は、肉体の老いが遅いのだ!どう見てもピチピチじゃろがい!」
体が戻り、体力魔力もしっかり戻ったのか、ツッコミのキレがいい。
思わず、吹き出すヤマダ(仮)。
これは、神からの“魔王就任祝い”だと、気付いたからだ。
「何を笑って……ハッ、しまった!我が神珠から出てしまっては、寿命が……!二つ目の呪縛が……!」
「あはははっ、おっかしい……ふふ、そんなの簡単解決ですよ。魔王(仮)さん。」
ひとしきり笑ったヤマダ(仮)は、オロオロする魔王(仮)をニンマリと見る。
固唾を飲んで、様子を見ていた広間の全員が、ヤマダ(仮)の思惑に気付き、あ〜と頭を抱える。
唯一、わからずキョトンとしている魔王(仮)の胸ぐらを掴み、自分に寄せる。
「相棒はおしまいです。魔王(仮)さん。いえ、マイダーリンとでも言っておきますか。」
「は?おい、ど、」
戸惑う魔王(仮)の唇を、思いっきり塞いだ。
こうして、魔王国に新たな、魔王(夫婦)が爆誕したのだった。




