35・ヤマダ(仮)と神託
そう高らかに、ヤマダ(仮)が言い切った直後、
「ぶはっ」
ヤマダ(仮)以外、全員がポカーンとしている中、唐突に誰かが吹き出した。
手元の魔王(仮)ではなく、宰相でも兵士達でもない。
「あはははははははは!やっぱり、君は面白いね!」
手叩きをしながら、大笑いする声が響く。
ヤマダ(仮)が振り返ると、そこには虹色の髪を振り乱し、爆笑する神様がいた。
「おや、これは……またお会いしましたね。」
「いやぁ、まだ出てくるつもりはなかったんだけどね。君がおかしな事を言うからつい……くふっくくくっ、本当君って子は飽きないなぁ。」
「……誰だ?ヤマダ(仮)、知り合いか?」
警戒する魔王(仮)に、おや?と首を傾げるヤマダ(仮)。
魔王(仮)以外にも、そこにいる全員が、その神を不審者のように警戒している。
『自分の世界の神様がわからない?……まぁ、そんなものか。私も、自分の世界の神様なんて、見た事ないし。』
「やだなぁ、君までそんな悲しい事、思わないでよぉ〜。僕、泣いちゃう!」
大袈裟に泣き真似をする神を、呆れた目で見るヤマダ(仮)。
淡い白金色の光を纏い、薄紫色の肌と虹色の髪を持ち、魔力では無い、不思議な力を感じさせる。どう見ても只者では無い人物。
魔王(仮)は、これはまさか神力か?と確認すべく、ヤマダ(仮)を見る。
「あの、人の思考を読むのはやめて下さい。プライバシーの侵害ですよ。神様。」
「!?」
ギョッとする魔王(仮)。
そんな魔王(仮)を守るように、両手で包んだ。
神はニヤニヤしながら、ヤマダ(仮)と魔王(仮)を交互に見る。
「ふ〜ん、そんなに大事なんだぁ、それ。妬けちゃうなぁ。」
「……。それよりも、出てくるのが早すぎませんか?まだ瘴気は吸い取り中で、完全に終わるまで数日はかかりますよ。」
「まぁ、そうなんだけどねぇ。ちょっと、用事があってね。それにもう今回の瘴気問題は、ほぼほぼ解決って感じでしょ?じゃあもう、例の君のお願い事、叶えちゃおうかなって思って。」
「相変わらず、雑ですね。色々と。」
「や、ヤマダ(仮)!」
手元の魔王(仮)が、慌てた様子で確認する。
「おい、あの、まさかと聞くが……、あそこに御座すお方は……?」
「はい、この世界を創造した“神様”ですよ。私をこの世界に呼んだ人でもあります。」
「〜〜ッッ!オーサー!跪いて、深く頭を垂れよ!神の御前である!!」
魔王(仮)の号令に、その場にいた全員が地に這いつくばる勢いで、ひれ伏した。
『そうであった!忘れていたが、ヤマダ(仮)は聖女であった。神を知っているのも道理。』
全員が震え上がりながらひれ伏す様を、おお〜と感心したように眺めるヤマダ(仮)。
神は相変わらず、ケラケラと笑っている。
「創造神様の御前と気づかず、大変ご無礼をいたしました。このお詫びは私の命で……。」
「にゃはは、そうお堅いのは僕の好みじゃないんだよぉ。流石に無礼は許さないけどね。まぁ、君に何かしたら、その聖女ちゃんに嫌われちゃうからね。今回は多めに見てあげる〜。」
口元は微笑んでいるのに、笑っていない真っ白な瞳で、魔王(仮)を見つめる神。
魔王(仮)は、訳がわからず戸惑う。
神がふっと視線を逸らし、ヤマダ(仮)を見る。
「君のお願いを聞くに当たって、いきなり実行するには、流石にウチの子達には酷かなっと思って。まず神託をするね。それでまぁ、50年位かけてって事でいいよね?」
「はい。長い猶予を与えるとダラけますから。私の育った国も大体その位で、大発展してますし。なんとかなります。」
神の問いかけに、うんうんと頷きながら答えるヤマダ(仮)。
そんなヤマダ(仮)を、優しい目で見つめる神。
その手元の魔王(仮)は、生きた心地がしない。
「りょ〜〜か〜〜い⭐︎じゃあ、神託しま〜す!」
神がパッと両腕を広げると、白金の閃光が走る。
光の柱が真っ直ぐに空へと伸びると、魔王国の重い雨雲を掻き消し、一瞬で青空が広がる。
その青空全体に白金の光が広がると、それを追いかける様に、神の髪色と同じ虹色が広がっていく。
「神様の髪色……ダジャレですかね。」
「す、すごい、神力が一帯に広がっていく。おそらく、全世界を包んでいる……。」
“聞け、我が子達よ。”
先ほどの神と同じ声なのに、感情のない平坦な声が頭に響く。
ここにいる全員、否、全世界の人々の脳内に、直接語りかけている。
“我が声を聞き、ひれ伏せ。これは神託なり。”
全ての種族、身分、年齢、性別を問わず、語りかける神の声に人々は驚き、外に転がり出ると、神力が溢れる虹色の空を仰いだ。
異常現象とも取れる虹色の空を、怖がる事なくただポカンと見つめ、誰も疑う事なく神の御技と感じとり、神託を受け止める。
“お前達の進化が、停滞している事を私は憂いている。よって、ここに試練を与える事とした。”
誰ともなく、息を呑んだ。
“進化を停滞させる、原因である魔力を返してもらう。この日より、徐々にお前達から魔力は消えるであろう。”
ザワつく人々。所々で絶望の悲鳴が上がる。
唯一、瘴気の正体を知る、カーデン王国の王太子とギルド総長だけが、安堵のため息をついた。
「魔力が……。しかし、なぜ今……」
「私が、神様にお願いしたので。あの金の術式について、知らないタイミングで頼んでしまったので、内心焦りましたが、解決してよかった……ん?あのタイミングで神様が来たという事は、もしかしたら知っていた?まぁ、いいか。」
「よくないわ!一体いつの間に……あ、もしや保管庫を見つけた辺りか!なんでまた……。」
「言ったじゃないですか。瘴気のない世界を見たくないかと。」
ふふんと笑うヤマダ(仮)。
「しかし、神に願いを聞いてもらうならば、もっとあったであろう!元の世界に帰るとか……。」
「特に帰る理由もないですし、桜子さんも幸せな生まれ変わりが約束されていますし。それに……。」
「?」
ペシペシと、デコピンの要領で魔王(仮)を指で弾きまくるヤマダ(仮)。
「こら、やめよ!なんなのだ……ん?」
「喜ぶと思ったからですよ。……あなたが。」
ぷいっとそっぽを向くヤマダ(仮)であった。




