34・ヤマダ(仮)、高らかに
魔王(仮)は見た。
閉じ込めていた塀が崩れ、兄弟達と暮らしたあの家屋を、真っ赤な炎が焼き尽くす様を。
魔王(仮)は聞いた。
甲高い悲鳴だ。ヒトのものではない、生き物の物でもない。
己の胸に何百年と棲みつき、民から魔力を貪っていた金の術式の消滅した声だ。
『ああ、やっと消えたのか。初代様が残した呪いの1つが……』
これでもう、民が魔力の枯渇で死ぬことはない。
魔王も不死ではなくなった。
残る呪いはあと二つ。
一つ目は、刻が解決してくれる。
初代様の作品が、使われず自然に朽ちていく事は、呪いの範疇に含まれていない。
二つ目は、自分がこの神珠に封じられている限り、守られる。
この神珠は神が作りし物であり、全人類が力を合わせたとて、破壊することは不可能。
何より300年以上生きた魔王(仮)は、その寿命が尽きかけていた。だか、ここに体や魂が封じられている限り、これ以上、老いることも朽ちることもない。
「ふふふ……ハハハハハ!やった……やったぞ!僕は最高の形で、兄弟達の仇を討った!」
込み上げる笑いが止まらない。
優しかった兄弟達の顔を思い出す。
きっと体があったら、泣いているだろう。
胸を苦しめていた、全てが今、崩壊したのだ。
「あははははははっ!見たか、初代!ザマァみろ!ザマァみろぉ!!!」
ヤマダ(仮)のポケットから、転がり落ちた魔王(仮)は、叫びながら爆風に吹き飛ばされて木々の中に消えていった。
「……さん、どこですかぁ?魔王(仮)さ〜ん?お〜い、生きてますかぁ?」
「………ヤマダ(仮)か……ここだ……。」
自身を探す声に気づいた魔王(仮)が、残ったわずかな魔力で音声を出す。
爆風で吹き飛ばされ、メガネが割れ、マスクを無くし、大切に着ていた制服もボロボロのヤマダ(仮)が、草をかき分けて魔王(仮)を拾い上げる。
「……怪我はないか?」
「怪我はないですが、メガネが割れて制服もボロボロです。はぁ……聖アプリコット女子学園の貴重な制服だったのに。」
珍しくしょんぼりするヤマダ(仮)。
その様子につい、ふふっと笑ってしまう。
「ヤマダ(仮)よ、状況は。どうなったのだ?」
「はい、例の祭壇は地下と家屋ごと、見事に木っ端微塵になりました。そして今……」
チャキッと金属音と、二人を取り囲む殺気。
「魔王城の方々に見つかり、めっちゃ囲まれています。危機的状況というヤツです。」
「早くそれを言えっーーーーーー!!!」
木々や草が爆風で薙ぎ倒され、隠れる所を失ったヤマダ(仮)達は、白衣を着たカエルの様な姿の男を中心に、十数人の武器を構えた兵士達に囲まれていた。
「おや、あそこのいるのは、地下で見逃した人ですかね。」
「オーサーか。あやつは魔王国の宰相を務める男よ。ヤマダ(仮)よ、ヤツに見えるように我を掲げてくれ。」
言われた通り、両手で魔王(仮)が宰相に見えるように持ち上げた。
ヤマダ(仮)の不審な行動に、動こうとする兵士を手を挙げて止め、カエル宰相が前に出る。
「……久しいな、オーサーよ。」
「やはり、そのお声……4代目様でございましたか。」
「やはりも何も。あの地下の扉を開けれるのは、4代目の魔力のみ。その様に作り替えたからな。声を聞くまでもなかろうに。」
「ははは、まさかあの4代目魔王様が、そのような見窄らしいお姿になっているなど、思いもせず……つい、確認してしまったまで。たいへん申し訳ございません。」
睨み合う二人。
宰相の背後、複製工場があった付近からは、未だ炎が収まらず、モクモクと黒煙が見える。
「まったく、何という事をなされたのですか……4代目様!本当に金の術式と一緒に、複製工場まで破壊してしまうとは……。これで全ての魔族達が、初代様の呪縛で絶滅することになるでしょう!ええ、ご満足ですか?復讐ですか?」
「はん、何度も言っているだろうが!金の術式さえ壊せば呪縛など、どうにでもなると!これだから頭デッカチはッッ!」
「机上の論で、民を危険に晒す訳にはいかないでしょう!これだから、根暗引き籠りはッッ!」
ギャンギャンと魔王(仮)と宰相が、お互いを激しく罵り合う。
いつもの事なのか、取り囲む兵士達もやれやれといった雰囲気になった。
しばらく罵り合ってから、息を切らした宰相が憎々しげに言う。
「はぁ〜〜、こうなってはもう仕方がありません。4代目様、今一度、魔王の座にお付き下さい。なんだかんだとありましたが、今の魔王国で魔力量、強さ、どれを取っても魔王に相応しいのは貴方様以外にはいない。たいへん遺憾ではありますが、除籍の件は私の方でなんとかいたします。」
「……!」
宰相が、魔王(仮)に向かって膝を付いて礼を取ると、背後に控えていた兵士達も同じ様に、一斉に膝をついた。
「4代目様、今一度我ら魔族の為に、どうか王位にお戻り下さい。」
「わ、我は……。」
「あの〜、ちょっといいですかね?」
そのシリアスな雰囲気を壊す、呑気なヤマダ(仮)の声。
宰相が、汚らわしいモノを見るかの様に、挙手をするヤマダ(仮)を見る。
「そういえば何ですか、そのヒト族の娘は?」
「オーサー。この娘は……。」
「魔族の人って、何でしたっけ?確か……負けた敗北者は、全てを失うんじゃなかったでしたっけ?ねぇ、魔王(仮)さん?」
馴れ馴れしく魔王(仮)に、話しかけるヤマダ(仮)に、一斉に殺気が集まる。
それをそよ風の様に、受け流しながら、コテンと小首を傾げて見せるヤマダ(仮)。
「皆さんは、魔王(仮)さんのこの状況、わかっていますか?これ、神様から授かった“神珠”に、封印されているんです。これに封じられている以上、魔王(仮)さんは最弱なんですよ。ちなみにこの玉から出す方法はわかりません。その為、今の魔王(仮)さんは、口だけ達者な金◯に成り下がっているんです。」
「若い娘が言っていい言葉ではない!」
コラっと叱る魔王(仮)を撫でつつ、ニンマリと口元だけ笑って見せるヤマダ(仮)。
怒りに拳を震わせながらも、宰相は務めて冷静に問う。
「……何が言いたい?小娘……。」
「では、その魔族最強だった魔王(仮)さんを封印したのって、誰だと思いますか?そう、それはこの私です。あの雷の夜に、魔王城に完全隠密侵入し、魔王(仮)さんの背後を取り、見事封印してみせた。このナイスガールのヤマダ(仮)ちゃんです。あ、一応、とある王国に召喚された、異世界産の聖女です。」
ヤマダ(仮)は得意げに、人差し指を立てて説明をした。
嫌な予感を感じた魔王(仮)は、意識を可能な限り遠くは飛ばした。
「魔王という職種に就く為には、その時代の最も強い者が勝ち上がって継ぐべきです。それが魔族さん達の常識……いえ、ルールのはず。」
立てた人差し指を、こちらを唖然と見つめる宰相と兵士達を、順に指していく。
「ならば今、魔王になるべきなのは、誰なのか明白です。そう!最強だった魔王(仮)さんの、虚をつき封印という敗北を味合わせ、今回もお城の魔族さん達をバッタバッタと薙ぎ倒し、更に爆発物を作製し、あの不健全な工場を木っ端微塵と大活躍だった……。」
最後、クイッと人差し指を自分に向けて、高らかに言い放つ。
「このヤマダ(仮)ちゃん以外、いないでしょう!!」




