29・ヤマダ(仮)はかんがえる
初代魔王のこの研究所に転移してから、3日程過ぎた頃。
「ふぅ、何とか再構築できたな……」しかし、今の我の魔力では、起動させるにギリギリと言った所か。まぁ、何とかなるであろう。」
「や、やりましたね!魔王様。」
「お疲れ様です。魔王(仮)さん。」
瘴気を集める術式の再構築に、成功した三人は、疲れ果てぐったりと座り込んだ。
壁に寄りかかって座っていた側近が、机の上に鎮座している魔王(仮)に確認する。
「あとはこの術式を起動させれば、ここに世界中の瘴気を集めることができるのですね。」
「うむ、そしてヤマダ(仮)も持つ神珠で、吸い込めば封印される。一時的ではあるが、瘴気の問題は解決される。……だが、今の我の魔力量では、ギリギリ起動させられるかと言った所か。」
「ギリギリですか……差し出がましいですが、私の魔力を使って頂く事はできませんか?」
「……初代様の作った術式は、我の魔力でしか起動させられぬ。まぁ一度、起動させてしまえば、魔力を注ぎ続けなくとも、よい作りになっている。何とかなるであろう。」
神珠を持って、待機するヤマダ(仮)。
そのヤマダ(仮)の持つ神珠を見て、考え込む側近。
「………。」
「今頃、魔王城は突然の侵入者に、てんやわんやしている頃でしょう。面倒になる前に、とっとと封印してズラかりましょう。」
「あの……それなのですが!瘴気を封印に封じる前に、集めた瘴気を“使う”ことは出来ませんか?」
いざ、術式を発動させようと魔王(仮)が、魔力を込めようといた時、側近が言い出した。
ヤマダ(仮)は小首を傾げ、魔王(仮)は呆れたように側近を見た。
「何を言っているのだ。トールよ。」
「魔王様……。瘴気の元は魔力です。上手く利用すれば、魔王様をその神珠からお出しする事ができるかもしれません。それ所か、魔王に返り咲く事も……私は…そのように弱った魔王様を見るのが辛いのです……」
必死の側近の発言に、はぁ〜〜〜と、魔王は大きくため息を吐いた。
「瘴気は“毒”だ、トール。あの初代様でさえ、瘴気を卸しきれずに聖女やヒト族に瘴気ごと、神珠に封じられたのだ。我々ごときが、卸し切れると思っているのか?トールよ、お前の献身には、感謝している。だが、我はもう魔王に戻るつもりはない。……そもそも我のような者は、もう生まれてはならぬ。初代様の呪縛から、魔王国は解き放たれるべきである。我の言いたい事はわかるな?」
「ま、魔王様……!……そんな……とうとう、ご決心されたのですね……」
「ああ、新たな魔王がまだ選別されていない……いや、選別すべき候補がいない今こそが、好機である。ふふ、候補を作ろうとする、老害どもを邪魔した甲斐があったというものよ。……まぁ、老害と言っても我より若いがな。」
「よくわかりませんが、逆に魔王(仮)さんの方が、老害と思われていた説ありますね。」
やかましいわ!と、ヤマダ(仮)に言い返し、術式に魔力を込め始める魔王(仮)。
魔王(仮)の魔力に反応して、床一面に描かれた術式が輝き出す。
「いつ見ても、この魔法という物は、華やかですね。」
「ヤマダ(仮)の世界には、魔力も魔法もないのだったな。私達には想像も出来ない世界だ。」
「はい。その代わり、科学力などが超越して、ドエラい事になっていますよ。ぜひ、皆さんに見学にきていただきたい。」
「それは見てみたいものだ。魔力がなければ瘴気は生まれない。夢のような世界だ。」
それはそれで問題山積みの世界ですけどねと、内心で思つつ頷くヤマダ(仮)。
机上の魔王(仮)は、ありったけの魔力を込めているのか、黄金に強く光り出す。
「魔王(仮)さん、頑張っていますね。」
「呑気な……。おそらく生命力も使っておられるのだろう。ヤマダ(仮)よ、頼みがある。……魔王様を、どうか頼む。私の口からは詳しくは言えぬが、あの方もまたお辛い生き方をされたのだ。」
「はぁ。」
「“はぁ”ではない!……全く。お前の強さは認めるが、魔王様をあの様な姿にした事は許さんからな。少しでも、申し訳ないと思っているのなら、魔王様の事を考えてだな……」
「考えていますよ。」
必要分だけ魔力が込められたのか、術式が更に輝き、室内が嵐の中のように吹き荒れる。
本や書類、器具が風に吹き飛ばされ、窓ガラスを割っていく。
立っていられなくなる程の風圧に、這いつくばりながらヤマダ(仮)は、魔王(仮)の状態を確認する。
魔王(仮)は魔力が尽きたのか、しょぼしょぼと光が小さくなっていき、風にコロコロと転がされていく。
「どうなっている!?術式が暴走しているのか?……ぐあ、魔王様……っっ!」
柱にしがみついていた側近は、倒れてきた本棚に挟まれて動く事が出来なくなった。
ヤマダ(仮)は、転がる魔王(仮)に、這うように近づいていく。
「考えています。……こう見えて、私は。」
魔王(仮)に向かって、手を伸ばす。
術式の中央に、急激に魔力が集結していき、一瞬だけ室内の風が収まる。
その隙を逃さず、一気に魔王(仮)との距離を詰めるヤマダ(仮)。
「桜子さんと同じ位、大切に!」
ヤマダ(仮)の声と同時に、ドンっと術式から真っ黒な瘴気が噴き出し、室内、屋敷中に一気に溢れかえった。
咄嗟に、片手に持っていた神珠を瘴気に向けて差し出すが、肝心の神珠は反応しない。
三人は、溢れかえる瘴気の渦に巻き込まれ、視界と動きを奪われ、飲み込まれていく。
ヤマダ(仮)の伸ばされた手は、魔王(仮)に届かず、別々に吹き飛ばされた。
「まお……さ……!」
大量に噴き出す瘴気の勢いに、屋根が吹き飛び、屋敷全体が破裂するように崩壊した。




