27・ヤマダ(仮)、城内へ潜入する
「この小娘が、神が選んだ聖女と!?……こんな明らかにカタギではない殺気を放つ癖に、微塵も魔力を感じさせない訳のわからない小娘が?」
「信じられぬ事にな、ヤマダ(仮)は神より魔力も神力も授かっていないのだ。中身は…異世界の娘が皆、こんな感じなのかはわからぬが……。正真正銘、カーデン王国が召喚した聖女よ。」
「喧嘩ですか、殺し合いですか?いいでしょう、どちらも言い値で買いますよ。」
手に持つ魔王(仮)を、ミシミシと握りしめ、側近を見据えるヤマダ(仮)。
ヤマダ(仮)達と同行を願い出た側近に、これまでの状況とこれから行う瘴気除去作戦について、簡潔に説明した。
側近が一番、驚いたのはヤマダ(仮)の正体である。
「魔王様の大切な御身ぞ!丁重に扱え、この聖女(似非)!」
「やめよ、トール。ヤマダ(仮)。すぐに険悪になるな。()を使いこなすな。魔王城の敷地内だぞ!引き締めよ。」
全く……と、ため息をつく魔王(仮)。
そうこうしながらも、三人は魔王城の敷地内の隅にある、使われていない古い倉庫の中。
そこにまるで隠される様にあった、下水道の出口から這い出てきた。
「こんな所に、出入り口があるとは……。城に長く勤めておりましたが、知りませんでした。」
「ふふん、ここは130年程前に下水の拡張工事させた際、秘密裏に作った出入り口よ。こっそり城の外にあそ……視察に行く為にな。うん、今回役に立ったのだから、そんな目で見るなトール。」
黒い笑顔の側近の視線に耐えきれず、モゴモゴと言い訳を並べる魔王(仮)。
戸の隙間から、外の様子を伺っていたヤマダ(仮)が、残念そうに言う。
「やはり、見張りや警備の数が前回より多いですね。この様子だと、魔法的な対策も厳しくなっているかもしれません。探知されるような行動は慎むべきかと思います。正攻法の潜入の仕方では、難しいかと思うので、私流で行った方がよろしいかと。」
「そうだな!トールよ、魔力探知される故、液状になるなよ。ヤマダ(仮)に従って行動でせよ。……頑張れよ。とにかく頑張れよ。」
「はい?か、かしこまりました。」
「仕方がありませんね。ちゃんと遅れずについてきてください。あ、側近さんは壁どの位、登れますか?」
「は?、おい、どういう意味だ?」
数十分後、側近はヤマダ(仮)達の言葉の意味を、身を持って知る事となる。
「ああああああああッッッ……!無理ムリむり!」
「声を出さないで、手を動かしてください。静かに、まだ登り始めたばかりですよ。」
ヤマダ(仮)達は、城の壁を素手で登っていた。
側近は魔族であるが、従来の者達より体力面が劣る為、早くも限界が来ていた。
ちなみに、三人が登っている位置は、空や地面から死角となっており、前回ヤマダ(仮)が侵入した際に見つけた“穴場”である。
「城のこんな場所に、この様な隙があったとは……。不覚である。」
「お、落ちる……。手に力が入らない……もう無理。」
「ふう、隠密の潜入だと言うのに……、仕方がありませんね。」
側近を先に登らせ、後から追いかける形で登っていたヤマダ(仮)。
渋々と追いつき、片腕で側近の腰を抱えると、残ったもう片腕だけで壁をリズミカルに登っていく。
「側近さん、握力が戻ったら私の背中に移動して、首にしがみついて下さい。片手では、スピードが出ないので。」
「…………。この娘、本当に脆弱なヒト族なのか……?」
恐怖を感じながらも、側近は大人しくヤマダ(仮)の背に周り、背負われる形になった。
両手が自由になったヤマダ(仮)は、ズンズンと登っていき、最上階に近い城壁の、少し広めの縁で側近を下ろした。
「ここで少々、お待ちを。」
そう言うと、縁の近くにあった小窓を少しイジると、カコっと音を立てて窓枠を取り外した。
ポキポキと体を鳴らすと、全身を小さな窓枠の中に捩じ込ませて、丁寧に窓枠を戻した。
しばらくすると、側近がへばりついている壁の側の、開き窓が開きヤマダ(仮)が顔を出した。
ヤマダ(仮)に支えてもらいながら、城内に入るとそこが最上階の厠のある廊下だと気付いた。
「はぁ〜、ここに入ったのか。登るのに必死過ぎて気づかなかった……。聖女(似非)が入った小窓は厠の換気窓か。」
「一応、この辺りにいた見回りの方々には、気絶してもらってトイレに隠しました。これで多少の時間は稼げますが、見つかったら面倒ですので、急ぎましょう。」
「……わかった。おい、もう少し先のカドを曲がって、3番目の部屋の中に隠し通路がある。そこを通ると魔王様の執務室の隣にある寝室に最短で行けるぞ。」
「えっ?何それ、我の寝室に?我、知らないんだけどそれ……」
ヤマダ(仮)の手の上でギョッとする魔王(仮)に、ニコッと微笑んで側近は先を急いだ。
謎にお互い隠し事を持つ主従と、ヤマダ(仮)は隠し通路を通り、魔王(仮)の寝室に入る。
寝室の扉から廊下を確認すると、執務室の前には見張りが二人ほど立っていた。
ヤマダ(仮)はまだ動揺している魔王(仮)を、彼らの足元に思いっきり転がした。
足元まで転がって、我に返った魔王(仮)が思わず声を上げる。
「こらぁ、ヤマダ(仮)!!」
ギョッとする見張りに素早く近づくと、一人の懐に飛び込み、胸に鉄串を深く突き刺した。
刺した鉄串をそのままに、2本目の鉄串を上着の袖から抜き、二人目に向かう寸前で、
「小指程度なら、魔力探知にかからないでしょう。」
側近が液状化させた小指を長く伸ばし、最後の見張りの眉間に突き刺していた。
「…………。」
無言で見つめ合うヤマダ(仮)と側近。
ヤマダ(仮)の手の中で、オロオロと見守る魔王(仮)。
「……やるな。その機転、一切の無駄のない動き、感嘆に値する。聖女(似非)、いや、ヤマダ(仮)。」
「ええ、あなたも。身体粘液化、使い勝手が良さそうで実に素晴らしい。」
「え?待って。我、今かなりヒドい不敬を喰らったのだが……おい、側近よ、不敬を機転とか言うな。」
戸惑う魔王(仮)を他所に、ガシッと握手する二人。
「いつか手合わせを。」
「ああ、必ず。」
魔族は実力主義。言い換えれば、強者と認めた者を何よりも尊敬する種族である。
またヤマダ(仮)も、派手さはないがシンプルで、実用的な側近の体質を素直に切望した。
つまり、この短時間でお互いの実力を目の当たりにし、認め合ったのである。
「……いいからとっとと中に入れ!脳筋ども!」
そうツッ込んだ魔王(仮)だが、仲間はずれになった様な、ちょっぴり切ない気持ちになったのだった。




