25・ヤマダ(仮)、魔王国へ
ザザンッと、波をかき分けて、木製の船が滑るように海を渡っていく。
「すごい風ですね。いやはや、密航ではないと堂々と甲板に出られていいですね。」
「そうだな。前回、魔王国を出る時は、船の貨物の中にずっと隠れておったからな。はしゃいで海に落ちるなよ。」
ギルド総長、オススメの密輸船に乗った二人は、魔王国までの船旅を楽しんでいた。
密輸船はギルド総長を通じて、王太子からガッポリと資金をもらい、一見木製のボロ船だが、最新の術式を施したおかげで、最速で魔王国まで進んでいく。
「船を前進させる風の術式、海と空からの魔物避けの術式、他の船から見えなくする透過の術式、船全体の強化の術式……どれも最新の術式だな。ヘタな戦艦よりヤバい船になっているぞコレ。一体、いくら支払ったのだ……」
「荷物になるのでいらないと、言ったのですが。持ち歩き出来る術式?、“術符”という物もたくさん持たされました。」
ヤマダ(仮)の背に斜め掛けされている荷物には、様々な魔法効果の術式が描かれた“術符”が大量に入っていた。
魔力の強い魔物の皮を鞣して作った皮紙に、高価な上級魔石を練り込んだ特殊なインクで術式を描いたモノで、その一枚で魔力が弱い者でも、最大級の魔法が放てる使い捨ての“魔法”である。作るのが難しく、一枚の金額が高価すぎて、王族か上級貴族しか所持できない貴重な物である。
「それは我が用意するよう、王の子に頼んだのだ。……魔王城で貴様にひとつ、頼みたい事があってな。」
「頼みたい事ですか?」
キョトンと手のひらの魔王(仮)を見る。
「その時が来たら話す。それより、ヤマダ(仮)よ。瘴気を集める術式がある場所へは、魔王城の我の執務室に隠されている転移術式からでないと行けぬ。貴様なら、城の者に気付かれぬよう、我の執務室まで潜入できるな?」
「それなのですが。魔王(仮)さんの件で、前回のように簡単に侵入できるかどうか…。警備が強化されていたら少々、面倒ですね。ここは魔王(仮)さんの人望で、お城の魔族の人達に協力してもらえるよう、お願いは出来ないんですか?」
「はん!無理だな。前にも言ったが、魔族は実力主義。魔族達にとって今の我は、城に侵入した“何者か”に敗北し、姿を消した負け犬よ。そんな者が皆の前に出てみよ。使えんゴミと速やかに消されるわ。……おい、そんな目で見るな。人望はあった!無くなったのは威厳と魔王の座だけだ!」
何となくこの喚く玉が、憐れに思えてきたヤマダ(仮)は、優しく撫でてあげることにした。
そんなこんなで、船は順調に進み、すんなりと真王国の海域に入った。
魔族の地を荒らす困った存在の密輸船ではあるが、魔法障壁などで拒まれる事は殆どない。
他国と交易を拒否されている魔王国にとって、密輸船は貴重な物資を輸入してくれる存在である為だ。
そもそも魔王国は、不毛な北の大陸にある。天候は常に荒れ、碌な作物が育たない痩せた大地が広がっている。
魔族という種族も、他種族に比べて圧倒的に人口が少ない。
故に国も小規模で、大きな都市は魔王城のある王都位であり、その周辺に百人程度の小さな村が点在している程度である。
ただ、魔族という種族は、ずば抜けて高い魔力と強靭な肉体を持つ為に、多種族に恐れられ、またこの荒れ果てた土地でも生きていけるのである。
そうして、密輸船は小さな港に着いた。
「後は手筈通りにな。それじゃあ、お嬢ちゃん達も気をつけて行けよ!」
そう言うと、右目に眼帯を付けた密輸船の船長達は、慣れた様子で船を降りていき、港に集まってきた魔族達と密輸品の交渉に入る。
ヤマダ(仮)は、フードの付いた黒いマントを羽織ると、交渉に集まった人々の間をすり抜け、港を出る。
港を囲む、大木を並べただけの塀の上に飛び乗ると、遠くに魔王城の小さなシルエットが見えた。
「ふぅ、もう2度と戻る事はないだろうと思っていたが、あっさりと戻ってきてしまったな。」
ヒラリと地に入るヤマダ(仮)。
暗く重い空から、ゴロゴロと雷鳴が鳴り出した。
ヤマダ(仮)はフードを目深に被り、魔王城がそびえ立つ王都を目指し、移動を開始する。
「体力を残したいので、少しゆっくりと行きましょう。3日位はかかりますかね。」
「普通はどんなに急いでも、徒歩で一週間以上はかかるが……。魔物もいるし。また休まずに進み続けるつもりか。まぁ、よいか……ヤマダ(仮)よ。王都に着いたら、得意の城壁登りではなく、地下下水道の入り口を探せ。」
「地下下水道ですか?下水は嫌ですね。制服が汚れたり臭いが付きそうで。それにそんな、あからさまな侵入経路では、警備の目が厳しいのでは?出入り口に出待ちされていたら困りますよ。」
ヤマダ(仮)の言葉に、フフンと得意げに無い鼻を鳴らした。
「王都と王城に張り巡らされている地下下水道は、長年の増設と修繕、改修により、ダンジョン並みの巨大迷路と化している。そのあまりに複雑な造りに、一度入れば二度と地上には戻れん程である。そんな所に、好き好んで入る馬鹿も、無駄に警備する馬鹿もおるまい。まぁ、下水道の設定設備を指示した我ならば、全ての道順を隅々まで把握している故、迷う事なく王城に辿り着けるがな!」
「それ、ドヤッて言っていい事なんですか?」
ドヤる魔王(仮)に、呆れるヤマダ(仮)。
予定通り、3日後に王都の城壁前に辿り着き、地下下水道に侵入した二人だが、意外な人物が待ち構えているのであった。




