23・ヤマダ(仮)よ、それを早く言え
四人は、王城の地下にある古い書庫の前にいる。
その時代の王のみが入る事を許された、王家の秘密の書庫である。
秘匿されている歴史や禁忌の書物などが、ぎっしりと保管されているという。
「……殿下、俺までこんな所に入って……バレたらどうなります?」
「私もまだ入る権限さえないのだ。私は、王太子の座を剥奪、子種断絶、生涯離宮へ幽閉後、ひっそり暗殺。エンラクは一族郎党、拷問の末、打ち首辺りかな?」
「……………………マジか。すまねぇ、コーラク。」
ギルド総長は、唯一の身内である弟のコーラクに、心の中で合掌した。
そんな二人を他所に、ヤマダ(仮)は書庫の厳重な錠前を、黙々と秘密道具で開錠中である。
「はい、開きました。」
「は?いかなる破壊行為も防ぐ結界術式が付与されている扉と開錠不可能と言われる書庫の錠前を……いや、もう…うん。ヤマダ(仮)だもの。入ろうか……。」
過去の行動と、この地下に辿り着くまでのヤマダ(仮)を見て、悟りを開いたような、諦めの表情をする王太子。
王以外入る事の出来ない書庫は、湿っていてカビの臭いが充満していた。
ヤマダ(仮)達は、瘴気を消す為のヒントを求めて、片っ端から文献を読み漁る事にした。
「けほっ……。王城の私の権限で閲覧できる書庫は全て調べたが、有益な情報は何もなかった。後はここだけだ。」
「なるほどな。しかし……書物の保存状態が悪すぎる。持ち上げただけでも崩れそうではないか。」
ヒトが入ったような様子はない。
唯一、権利を持つ歴代の王達は、この書庫には入っていないのだろうと思われた。
ふと、ヤマダ(仮)は本棚の隅に隠すようにある小さな書物を見つける。
「なんだ、その書物は……?ツルツルした表紙……全く朽ちていないな。見た事のない素材だ。」
「プラスチックですね。なるほど、A 6サイズ。これは私の世界で作られたノートです。」
紛れもなく、ヤマダ(仮)の世界産のノートであり、ヤマダ(仮)の物でないのなら、500年前に召喚された聖女の私物以外にあり得ない。
よく見た所、デザインは古く、レトロなイラストが薄らと見える。
表紙と背表紙だけがプラスチック製で出来ており、中は紙製で黄ばみとカビ、虫食いがひどい状態だった。
「日本語。と言ってもの劣化が酷くて、内容があまり読めない。500年前に召喚された聖女は日本の女の子だったのですね。ノートのデザイン、あまり詳しくないですが、私のいた時代から20年前の物のように思います。この世界と私の世界ではかなりのタイムラグがあるようですね。」
感心したように、ノートを撫でるヤマダ(仮)。
魔王(仮)達に促され、読める部分だけノートを読む。
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(※●は虫食いなどで、読めない部分)
20●1年8月●6日
私は、鈴● ●子。●●川中●●、14才。
ト●●クにはねられて、気がつい●ら神様に●●られて、この●界に来た。
怖●●たけど、皆ん●優し●てよかった。
この玉でしょうき●封印す●んだよって、神●●言われた●を教えた。
私は神様に、届けるだけでい●って言わ●●たのに、旅にもつ●●行く事に●った。
怖い●●、皆●なのためにがんばる。
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「伝承の聖女は14才だったのか……。この国じゃ、成人は16からだ。……まだ子供だったんだな。」
「神珠は、瘴気を封印する為に、授けて下さった物だったんだね。ヤマダ(仮)もそうなのか?」
「私は特に。神様には届けるだけでいいと言われただけです。利用用途はご自由にという感じでしたね。おや、魔王討伐後の内容も書いてあるようですよ。」
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2●●●年●●月●●●
魔●●の王様を、神様から●●った玉にしょ●きごと、封印●た。
でも魔王●が言ってた。
し●うきは、これからも出●●る。皆ん●に魔力が●るかぎり、ずっとだって。
王子●も、国●様も皆んな、この事は口外しちゃ●めだって。
魔力は便利●●ら、無くなる●たいへん●●ね。
全部、魔族の人が悪いって事に●たんだって。
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201●年●●18日
一緒に、魔王●に行った●がどんどんいな●なっていく。
皆ん●、お金を●しとった●か、悪い事して●ったんだって。
●なのウソだ。
しょうきの秘●を知った●ら、殺さ●てるんだ。
どうしょう、怖●。
お家に●●りたい。
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「これ以上の、更新はありませんね。」
「そんな、魔王封印後の聖女は、教会で幸せに暮らしたと……。」
「この頃から、瘴気の被害は魔族が負う事になったのだな。……そもそも、魔族の成り立ちも、多種族の中で醜い者や異形の形の者が迫害され、北の過酷な大地に捨てられたのが始まりよ。全くやるせないの。……して、どうする。ここにも手掛かりは無さそうだが。」
う〜〜んと、頭を悩ます一同。
「魔王国には、世の瘴気を根こそぎ集める専用の術式がある。初代の負の遺産よ。古い上に、壊れておるから使えるかはわからんが……だが肝心の瘴気を封印する神珠には、我がすでに入っているからなぁ。」
「魔王殿の力で、その神珠から出る事は出来ないのですか?」
「……流石は神の造った封印よ。あと100年位あれば、半分位は出れるかもしれんが、難しいだろうな。我が入ったままで、瘴気を吸えるか試しもしたが、無理であった。我、封印される直前、メチャクチャ抵抗したからな。バグったのかもしれん。」
「いつの間に試したんですか?魔王(仮)さん。そんな面白そうな事……。」
遊びではないわ!とツッ込む魔王(仮)。
「魔王国の瘴気を集める術式は使えそうですね……。後は集まった瘴気を吸って封印できるモノさえあれば。」
「もう一度、聖女を召喚して、新しく神珠を賜るってのは無理ですかねぇ?」
「無理だよ。召喚に必要な資金はともかく、魔力が全然足りない。魔王殿ではないですが、出来ても100年後だろうね。」
聖女召喚用の魔力は、王家をはじめ王宮魔術師達から少しずつ集め、長い年月をかけて必要量まで貯めている。
その為、おいそれとは召喚する事が出来ないのだ。
完全に手詰まりかと、頭を抱えた時、
「ありますよ。」
ポツンと、ヤマダ(仮)が言った。
一斉に、ヤマダ(仮)を見る。
「なんだ、早く言ってくれればよかったのに。もうひとつ、持ってますよ。はい。」
ポケットから、ヒョイっと封印の神珠を出したのだった。




