21・ヤマダ(仮)の真意と成長
「ふぅ、スッキリしました。」
すっかり化粧を落とし、衣服も元の制服に着替えたヤマダ(仮)が、洗面室から出てくる。
妖精のように儚げでありながらも、バリバリナイスバディ美少女だった面影は最早なく、シンプルisベストなヤマダ(仮)に戻った事で、王太子達は言いようのない絶望と虚無感に襲われる。
「エンラクよ……、世の女性とは皆、ああなのか?あのように化ける生き物なのか……?」
「いや、ヤマダ(仮)が特別なのでしょう……。そう思いたい。そうであってくれ……。女性不信になりそうで怖い。」
あれから三人は、王太子専用のプライベートエリアにある、書斎に移動した。
この書斎は、仮眠室と洗面室も完備され、更に防音の術式も張られており、外部に中の声や音が漏れることはない。
ヤマダ(仮)は、その洗面室を使わせてもらい、元の姿に戻ったのだった。
「聖女ヤマダ(仮)よ。そんな所に立っていないで、好きな所に座るといい。侍女を離れさせているので、紅茶は私が淹れた。味は保証しない。まぁ、君のことだから、いらないとは思うが。」
「ありがとうございます。」
ペコッと頭を下げて、近くのソファーに腰掛ける。
王太子は、ソファー前のテーブルに紅茶を置くが、ヤマダ(仮)は見向きもしなかった。
その様子にため息を吐きつつ、自身のデスク用の革張りの椅子に腰を掛ける。
ギルド総長は、デスク近くにある簡易の椅子に座り、王太子の入れた紅茶を啜りながら、ヤマダ(仮)を繁々と観察した。
「……コイツがアシュトンギルド長が探していたヤマダ(仮)で、しかも聖女として召喚された異世界人……。消滅したってのは王家のでっち上げで、自ら出奔して行方をくらませたと……情報過多すぎねぇか。」
「聖女としての依頼は、ちゃんと達成したので今はフリーのヤマダ(仮)です。ですが、せっかく自由に身になったのに、アシュトンギルド長さんに、面倒な仕事を押し付けられそうになったり、ストーカーされたりと迷惑行為を受けました。ならばと思い、私の持つ最大の王家を使わせて頂こうかと思った所存です。お陰様で、ギルド長の頭の中から、ヤマダ(仮)は消え、王子様の存在が独占されました。めでたし!」
「しれっと一国の王子に押し付けるな!ったく、コレが本当に聖女様なんですかぃ?殿下。」
「信じがたい事だが、事実だ。しかも聖女ヤマダ(仮)は、単独で魔王を封印した報告してきた。これを魔王封印の証拠として、私に提出してきた。……父である現国王や宰相にも見せたが、誰も信じなかったがな。」
トンと、デスクにヤマダ(仮)が証拠として出した、魔王(仮)の黒い角の先を置いた。
微量だが、角からは禍々しい魔族特有の魔力を感じるが、魔王の物であるという決定的な証拠とは言いづらい。
「召喚した際、聖女ヤマダ(仮)は、肝心の神から賜る封印の神珠を持っていなかった。それに女性1人で、魔王国に辿り着くなど不可能だ。魔王国が混乱しているなどという情報もない。何より、魔王を封じたのに瘴気は無くならず、それどころか増えていく一方だ。私だって信じられるか。」
「なるほど。あれだけでは証拠不十分でしたか。申し訳ありません。私の落ち度です。」
ふむふむと、ヤマダ(仮)は立ち上がると、懐から水晶玉の文鎮を出して王太子のデスクに置く。
キョトンとしている王太子。置かれた文鎮の隣には、王家の紋章が入った例の箱が置かれていた。
ヤマダ(仮)は、失礼しますと一声かけ、その箱を開けた。
箱の中には、金色の玉が入っていた。
玉から発せられる、神々しいこの力は“神力”。
王太子は、この玉が本物の“封印の神珠”と瞬時に察した。
そして……
「……よくぞ、我を封じたな。ヒト族の王の子よ。我は魔王国第4代魔王である。まぁ最早、元魔王ではあるがな。」
金色の玉から、聞く者を平伏させるような威厳ある声が発せられた。
咄嗟にギルド総長が駆け寄り、王太子を自分の後ろに庇い隠す。
神力に抑え込まれているが、他の魔族とは一線を画す、重く震え上がるような強烈な魔力の波動。
息をハクハクさせながら、王太子はヤマダ(仮)と金色の玉を交互に見た。
「確たる証拠、魔王(仮)さんご本人です。どうぞ、お納めください。」
王太子はあまりの展開に、一瞬意識が飛んだのだった。
「ふははは、そのように構えずともよい。今の我には、貴様らを害する力はない。それらしく見えるよう、魔力を絞り出したが、殆どの力はこの神珠に封じられている!」
「そうですよ。この金◯は、人畜無害な金◯です。ご安心ください。」
「若い娘が言っていい言葉ではない!2度も言うでないわ!」
ギルド総長は警戒は解かないものの、呆れたように魔王(仮)とヤマダ(仮)を見る。
王太子は、ヘナヘナと椅子に座り込み、デスクに両肘をついて顔を覆った。
疲れたように深〜〜〜〜く、ため息を吐く。
「聖女ヤマダ(仮)。君は本当に魔王を……そもそも、本物の封印の神珠を持っていたのか……。何故、持っていないなどと……」
召喚の儀の日、王太子はそれとなくヤマダ(仮)に、神から何か授かっていないか、賜っていないかと聞いた。
その度にヤマダ(仮)は、ただ不思議そうに首を傾げるばかりだった。
ヤマダ(仮)は着の身着のままの姿であり、荷物を一つも持っておらず、また隠し持っている様子も感じられなかった。その為、神珠さえ賜らなかった“ハズレの聖女”の烙印を押されたのだった。
あの時、身ぐるみ全てひん剥いてでも、調べるべきだったと、恨みがましく見つめる王太子に、ヤマダ(仮)はキッパリと答えた。
「この神珠を届ける大役は、私の大切な友人の来世の幸福と引き換えに、受けた依頼でした。友人の人生がかかっている以上、責任を持って、良からぬ輩に渡さないようにと考えました。なので、初手から私を見るなり、見下し侮るような人達に、渡す道理はありません。」
目を丸くして、固まる王太子。
堪えきれずに、ギルド総長は吹き出した。
「ブッ、ハハハハハハハッ!コイツはやられたな!殿下、俺は常日頃、アンタに言ってたじゃあないですか。ヒトを見た目や身分で侮ると痛い目に合うと。はぁ〜〜〜〜、いいね、ヤマダ(仮)面白い!気に入ったッ!」
バシバシと、ヤマダ(仮)の背を叩くギルド総長。
ガタイの良いギルド総長にドツかれても、一切ブレないヤマダ(仮)の体幹に更に大喜びする。
楽しげな二人とは対照的に、王太子は思考の中に追い詰められて行った。
徐々に瘴気に侵され、追い詰められていく自国の内情、藁を掴むように聖女召喚に縋り、それに利用した膨大な魔力と莫大な血税、ハズレ聖女を引いた失望と怒り。聖女死亡の公表により、低迷した王家の信用と他国からの嘲笑。押し付けられた不始末への責任。揺らぐ王太子の座。信用回復の為に寝る間も惜しみ、外交に力を入れ、政務に取り組んだ労力……。
グルグル、グルグルと、頭を周り、何故こうなった?どうしてこうなった?と考える。
何度、考えても、どう考えても、全てはあの日、ヤマダ(仮)に対する、身勝手で最悪な対応と態度に行き着く。
しかし、期待を裏切った聖女が悪い……。
いや、そうであっても、あの対応はヒトとして、王族としてどうなのか……。
それだけ必死だったのだ……。
いや、あの時、真摯にヤマダ(仮)に向き合っていたのなら……。
「はは……、そうか、そうだね。最初から……。ああ、本当に情けない。私は……」
はぁ〜〜〜〜〜〜と、何度目かわからないため息が出た。
まず、謝罪を。誠心誠意、ヤマダ(仮)に謝罪の言葉を伝えなくては。
許す、許さないの前に、これはケジメである。
自分に非があったのだと認めなくては。
王太子が椅子から立ち上がり、ヤマダ(仮)を見た時、ふと思い立った。
何かがおかしい。
「そういえば、魔王が封じられたというのに、……何故、瘴気が無くならない?」
その素朴な疑問に、魔王(仮)が笑った。




