16・ヤマダ(仮)with魔王(仮)
熱を出した乗客を介抱する為、上級駅馬車はそのまま野営をすることになった。
上級駅馬車の運賃は非常に高いが、魔物避けの結界の術式が馬車に施されており、移動中以外にも、夜間も馬車を中心に広範囲に結界を展開し、安全に野営が出来るようになっている。
また、万が一に備え、護衛騎士が同行しているので、安心感も高い。
ヤマダ(仮)達も商人も薬草の礼という事で、野営に混ぜてもらえる事になった。
大きな焚き火が焚かれ、その前にヤマダ(仮)達と小柄な少女は座った。
他の乗客達は、御者が用意したテントで休んでいる。
「あの……その節は……助けていただきありがとうございました。」
「助けた?はて、そんな事ありましたか?」
農場での依頼の時か?と焚き火に薪を放りながら、首を傾げるヤマダ(仮)。
魔王が、ああと気づき、
「ヤマダ(仮)よ。薬草採取の際に、オークに追われていた冒険者の1人だ。」
(※魔王の声はヤマダ(仮)以外には聞こえないようになっている。)
「ああ!オークに襲われて置いて行かれた人ですね!」
「あ、はい……。そうです。私、ナコルって言います。」
薬草採取の依頼で森に入った際、オークに追われていた三人組の冒険者の一人だ。
他の二人に置いて行かれて、オークに殺されそうになった所を、なし崩し的にヤマダ(仮)が助けた。
「あの後、置いて行かれた事がショックで、解散したんです。……オルディンは幼馴染で一緒に故郷から出てきたんですが……オルディンはもう一人の仲間だったルナの言いなりで……。私だけ、故郷に帰る事にしたんです。」
「はぁ。」
「あのオークは、ヤマダ(仮)さんが単独で狩ったんですよね。私と歳も変わらないのに凄いです。……それなのに、オルディン達、貴女の手柄を奪おうとしたって聞きました。本当にごめんなさい。せめてじゃないけど、オルディン達は罰としてランクを下げられたそうです。」
「そうなんですね。」
此奴、全然興味ないな…と魔王はヤマダ(仮)のポケットの中で思った。
ナコルは少し考えてから、荷物の中から洋紙を出しヤマダ(仮)に渡す。
「あの……町を出る事をギルドに報告しに行った時に、渡されたんです。これ……。」
「!、なるほど。」
洋紙にはヤマダ(仮)の似顔絵(と言ってもメガネとマスクで覆われた状態)と特徴、そして少額だが賞金がかけられていた。
魔王が入っているポケットがブルっと振動した。
「ギルド長が、行方不明になったヤマダ(仮)さんを探してるって。それで色々、噂が流れていて……。」
「噂ですか。どんな?」
「あ、私は全然、信じていないんですけど……。そのギルドのお金を盗んだとか…魔王国のスパイとか……。」
「ふんふん(余裕)。」
「実はお忍びのお姫様だったとか。」
「ふんふん(悪い気はしない)。」
ブルブル……。
「あとは……ギルド長と爛れた関係で……愛人だとか。」
「ふんふん(怒)。」
ブルブルブルブルブルブル……。
「その後すぐに、ギルド長が町の外に出る冒険者を集めて……。」
“彼女は……ヤマダ(仮)は、私の大切なヒトなのです。どうか、彼女を見つけたら傷付けず、私の元に連れてきてください……。私は…彼女が居ないと生きていけない……。”
「涙ながらに語っていました。もしかして恋び……や、ヤマダ(仮)さん!?」
ボキンッと太めの薪を、無表情でへし折るヤマダ(仮)。
ポケットの魔王がたまらず吹き出した。
その夜。
駅馬車の乗客は用意されたテントで眠り、ヤマダ(仮)は焚き火の側でいつものように、膝を抱えて休む体勢になる。
しかし今夜のヤマダ(仮)は、すぐには目を閉じず、
「……寝ろ。ヤマダ(仮)……怖い。なんか怖い。」
怒りでメガネの奥の目をギラつかせ、魔王を怯えさせた。
あの後、ナコルから
「ギルド長は、ヤマダ(仮)さんの事で、王都のギルドに行かれるみたいです……あのッ、私ここでヤマダ(仮)さんに会った事は、誰にも言いません!この駅馬車にはギルド関係のヒトはいないし……、護衛の騎士も駅馬車を経営している商会が直接雇ってる騎士だし……だから……」
殺さないで……と、震え泣きそうになりながら教えてくれた。
ヤマダ(仮)は、人間扱いされない事には慣れていたが、今回のような……ネバつくような不快な扱いをされたのは初めてだった。
率直にひたすらに、不快でたまらず呟いた。
「気持ちが悪い……。」
「ま、まぁあれだ。貴様とそういう関係を匂わせて、同情を買って貴様を見つけやすいようにするとか……。それを聞いた貴様が喜んで出てくると踏んでとか……ほれ、あのギルドの長、顔はそこそこ良さそうだったし。貴様もまんざらでは……うん、ごめんなさい。こっち見ないで。」
スクっと立ち上がったヤマダ(仮)は、静かに身支度を始める。
『またこの展開……嫌な予感がする……。』
「おい、ヤマダ(仮)よ、暴れるのなら森に戻ってからにせよ。ここではやめておけ!」
「ふふふふふふふふふ。何を言っているのです。魔王(仮)さん。私はこんな事で取り乱すと?」
「いや、前回……待て、なんだその、魔王(仮)とは??」
「ふふふふふふふふふふふふふふふ。以前、森の中で仰ってじゃないですか。自分はもう名無しだと。でも、名前がないのは不便ですので“魔王(仮)さん”で。因みに(仮)は仮の名前いう意味です。ふふふ。私とお揃いですね。」
「え?偽名とは思っておったが、貴様のヤマダ(仮)の(仮)とはそういう意味だったの?え、怒ってる?怒っているのかヤマダ(仮)!」
喚く魔王(仮)をフリフリしてから、何事かと寄ってきた護衛騎士に、出立する事を伝えるヤマダ(仮)。
「魔王(仮)さん、ちょっとだけ王都に寄っても良いですか?ルート的に、また森に戻る事になりますが……。」
「やめて、(仮)は取って?寄っていいから謝るから、それは取って。なんか……なんかツラい。」
「では、行きましょう。魔王(仮)さん。んふふふ。」
行き先を魔王国から王都に変更し、真夜中に出発するのだった。




