15・ヤマダ(仮)は進むよ、どこまでも
翌朝、ヤマダ(仮)は野営の痕跡を消し、森の中を移動する。
草木を掻き分け、道なき道を迷うことなく進んでいく。
「このまま、冒険者ギルドを避けるとなると……そうだな。魔王国に今一度、行くのはどうだろうか。」
出発前に魔王からそう提案された。
「魔王国には“冒険者ギルド”が無い。何故なら、魔族は全世界、全種族から嫌われているからな。そんな魔族しかおらぬ国に誘致しても、乗ってはこない。まぁ、似たような組織があるから構わんがな。ワハハ。」
最後の笑いはちょっと悲しげだった。
そんな事で、二人は再び、魔王国を目指すことになったのだった。
ヤマダ(仮)はガッサガサと魔王国がある北方面に進んでいく。
途中、魔物に出くわすと、襲い掛かってくるものだけ仕留めていった。
「む、ゴブリンか……。コイツらはとにかく数が多い。しかも弱いくせに無駄に好戦的なのだ。仕留めても特に金になる部位もない。ふむ、コイツらは見張りか?……近くに巣があるのだろう、気付かれないように通り過ぎた方がいい。」
「受付の方の話だと、ゴブリンの巣は発見次第、必ず報告するようにと言われていましたが。そうですね、今は、あのギルド長のせいで無理ですもんね。もうギルドカードもありませんし、仕方ない仕方ない。」
町や村の近くにゴブリンの巣を見つけた場合、農作物や人を襲う危険性がある為、必ずギルドに報告する義務があったのだが、二人はそそくさとゴブリンの巣を通り過ぎていく。
「お、クロケサニダケだ。あっちにはチチルの実がなっている。ヤマダ(仮)、袋の代わりになる物を持っていないか?できれば2つ。クロケサニダケは猛毒を持つ茸だが、上手く煎じれば心臓の薬になる。チチルの実は毒性はないが潰すと強烈な悪臭を出す。だが、その匂いは魔物避けの香になるので、旅人に重宝されるぞ。」
「でも採った所で私達は町には入れませんよ。売るのは難しいのでは?」
「何、森を抜ければ、旅人か行商に出会うだろう。町ほど高くはないだろうが、買ってくれる。金はあって困る物ではない。」
なるほどと、ヤマダ(仮)は、蔓や丈夫そうな草を編み込んで、器用にナップサックのような物を二つ作った。
「器用な物だな。」
「そこら辺に落ちている物でも、武器や道具に出来るように訓練していましたからね。因みに私が愛用しているこの武器、実はBBQ用の鉄串を参考に作った物なんですよ。」
「ばーべきゅー?」
「カタギの方々が家族や友人とで、肉や野菜をこの串に刺して焼いて食べる風習?の事ですよ。育った施設の裏がたまたま大規模な不法投棄場になっていまして。そこで訓練していた時に、ゴミの中から見つけたのです。ふふ、使ってみたら、どの武器よりもしっくり馴染みました。運命という物ですね。」
材質の強度を上げて、私専用に作ってもらいましたと、うっとりと鉄串を見るヤマダ(仮)。
そっと視線を逸らす魔王。
そんなこんなで、一週間かけて存分に採取と狩りを満喫し、森を抜けたヤマダ(仮)達は、広い草原に出た。
少し歩くと、人工的に整えられた道を見つけ、行商達が通るのを期待して進む。
ヤマダ(仮)の後方から、ガラガラと荷馬車の車輪の音が聞こえてくる。
「あれは……行商の馬車だな。声をかけて馬車を止めよ。」
「分かりました。ヘイ!ヘイヘイヘイ!えっくすきゅうずみぃーーーー!!!」
「何なになに???待て待て「え?」え?じゃない、キョトるな。おかしな言葉を急に叫ぶな。何故、親指を立てるんだ!?」
二人の前を少し通り過ぎて、荷馬車が停まる。
「何だ〜〜〜?変な格好の嬢ちゃん、なんか用かい?」
個人経営の行商の商人は、馬車から降りずにヤマダ(仮)に声をかけてくる。
ヤマダ(仮)は敵意がない事を表す意味で、両手を上げながら
「この近くの森で、採取した薬草などを買い取っていただきたく、声をかけました。近寄ってもよろしいですか?」
「買取か……いいだろう、見せてくれ。」
ヤマダ(仮)は頷いて商人の元に行き、森で収穫した物を広げる。
『ふむ、行商の帰りか?それにしては、荷馬車に荷が乗っていないようだが……。』
魔王はちらっと商人の荷台を見て、疑問に思う。
行商は、行く先々の街で商品を卸し、また買い付ける為、荷物を満載にさせて移動することが多い。
出会った商人の荷馬車には、これと言った荷物が乗っておらず、隅に小さな木箱が数個転がっているだけだった。
「え?おおおッ……これはチチルの実、こっちはカプロスボアの牙か!クロケサニダケにギョウゴダケまで。猛毒茸と高級茸まであるのか……コイツはすごいな。まだあるのか……グリムスネックの皮と角か。皮は少し処理が甘いが……傷が少ない、……お嬢ちゃんが狩ったのかい?」
「はい。持ち運びづらい部位は、置いてきてしまいましたが。買い取っていただけますか?」
「ああ、むしろ助かるよ……。行商で色んな街に村にと回ったが、どこも瘴気の穢れが酷くて商売にならなくてね。お嬢ちゃんのこれらは瘴気の穢れがほとんどない。はぁ〜、こんな上等な物、久しぶりに見たよ。」
興奮した様子で、ヤマダ(仮)が収穫した物を吟味していく。
その後ろに別な馬車が停まった。
長距離移動用の上級駅馬車で、商人とヤマダ(仮)が道を塞いでしまっている為、停まったようだった。
「何をしている!こっちは急いでいるんだ!道を塞ぐな。」
「ああ、すまない。珍しい薬草などを売っているのでついな。」
「薬草?熱冷ましの薬草はあるか?乗客がひどい熱を出していて……。」
「ありますよ。」
ヤマダ(仮)が答えると、駅馬車の御者もこれ幸いと馬車に声をかける。
馬車から身なりの良い老紳士が降りてくる。
「こちらです。」
「ありがとう。妻が急に体調を崩してしまってね……。」
「よかったら、アタシが薬を煎じましょうか?こう見えて、調薬の資格を持っているんですよ。」
ただ薬草を食むより、別な薬草同士と配合して、薬に調合した方が効果は高い。
商人は愛想良く老紳士に申し出て、薬草を受け取ると自分の荷馬車に向かい、薬を調合し始める。
駅馬車の他の乗客達も、休憩時間となり、外に出てきて体を解し休んだり、ヤマダ(仮)の収穫物を購入したりと動き出す。
ヤマダ(仮)の収穫した物は、商人と乗客に買い占められ無くなった。
「ヤマダ(仮)よ。これとギルドの報酬を合わせれば、しばらくは金に困らんな。」
「とは言っても、使わないんですよね。お金って。」
「自由ライフとやらで、必要になる。貯めておけ。」
「あのッッ!」
後片付けをしているヤマダ(仮)達に、小柄な少女が震えながら声をかけてきた。




