14・ヤマダ(仮)の望む事
ヤマダ(仮)は、集めた枯れ木に火を付けてもらい、焚き火を作って濡れた衣服を乾かした。
服が乾いた頃にはすっかり日が暮れてしまい、ヤマダ(仮)達はそのまま、野宿をする事になった。
焚き火を中心に、ヤマダ(仮)は自身が叩き折った丸太に座り、魔王はその隣にある岩の上に置かれている。
「……して、これからどうする?ヤマダ(仮)よ。恐らくあのアシュトンとかいうギルドの長は、カードを壊した位では貴様を諦めまい……。」
「そうですね。私とした事がつい感情的になって、軽率な行動をとってしまいました。もう少し穏便に事を進めるべきだったと反省しています。若さゆえの過ちです。」
「それは自分で言う言葉ではない。」
冒険者ギルドはこの世界にとって、大きな組織の一つである。
全ての国の王都や街、小さな町にさえギルドは存在し、その繋がりと組織力は随一である。
「今頃、ギルドというギルドに掛け合って、貴様を探そうと躍起になっている所であろうな。そうなると安易に町にも入れんぞ。ギルドが管理していない、そこらの小さな農村位なら、入れるかもしれんが……、そういう村はよそ者を嫌うであろう。」
「ふむ、厄介ですね。私のドキドキキラキラ自由ライフが遠のく。」
「……その“自由ライフ”とは、そもそもどんなモノと貴様は考えている?漠然としていては、優秀な我とて良い助言ができん。もっと分かりやすく具体的に、貴様の考えと望みを言ってみよ。」
魔王の問いに、グッと固まるヤマダ(仮)。
そのまま、沈黙する。
……。
…………。
………………。
「………おい、貴様……。まさか…」
「いえ、違います。桜子さんがいうには、スローライフをですね。こう、木製の、ほんわか?した家に住み、田畑を耕したり?時には村人と関わったり?たまにお店に買い物をしたり?自分で作った作物や物を売ったり?するらしいです。」
「全てに“?”を付けるでない!何だほんわかとは……。全てサクラコという娘の受け売りではないか!」
「受け売りと言われましても。私にはそういう知識もあまりないのです。ただ、桜子さんとこの話をした時は、とても心惹かれたモノがあり、やってみたいと思っていました。」
桜子さんと一緒に。
言外に、そう言ったように聞こえた。
「私はもう、誰かの手先になって、いいように使われるのは嫌です。確かに、私のこの技術や身体能力は、そういう人達に使われるために身に付けさせられたモノ。それでも命懸けで得たのは私です。最後の瞬間まで、私の意思で私のしたい事のために使いたい。」
魔王はため息を吐き、項垂れるヤマダ(仮)に助言する。
「……あい分かった。つまり、当たり前の生き方をしたいという事だな。」
「?」
「貴様の今言った希望は、この世界の大体の者が当たり前にしている“日常生活”である。貴様の世界の者が、どんな生活をしているかは我にはよくわからんが……何だ?」
焚き火の灯りの反射で、メガネの奥の目は見えないが、雰囲気で驚いているのを感じた。
『サクラコという娘は、ヤマダ(仮)に、まともな……普通の生活をさせたかったという事かな。』
最早、故人となった者の真意など、魔王にはわからない。
どんな生き方にも、それ相応の苦労や憤り、理不尽が必ずある。容易くはいかないだろう。
だが、方向性が決まったのなら、そこにどう進み、どう辿り着くかを考える事ができる。
その後のことは、辿り着いてから考えればいい。
『此奴の場合、冒険者ギルドに喧嘩売っとるからなぁ。さてさて、どうしたものか……。』
うんうんと考える玉を、不思議そうに見つめるヤマダ(仮)。
視線に気づいた魔王。
「何だ?」
「いえ、魔王さんは何故、そんな真面目に私の事を考えているのだろうと思いまして。」
ふんと、鼻は無いが鼻を鳴らす魔王。
その態度が気に入らなかったのか、ヤマダ(仮)は指の腹でコロコロと魔王を転がす。
「やめよ、転がすでない!……全く、精神ピヨピヨのひよこを放っておけるほど、我は鬼畜ではない。そもそも、貴様を1人にしては何をやらかすか、この世の平和のために同行してやっているのだ!ありがたく思うがいい。」
「そういうものですか。忘れていましたが、私は魔王さんを封印して誘拐した人間ですよ。その際、側近のような人の命も奪いましたし。もし魔族の人が、魔王さんを探しにきたらお返ししますか?」
「忘れるでないわ!謝罪は不要だ。……魔族は実力主義、油断した側近が悪い。それにあの側近なら問題ない。あの状況では、“何者か”が我を暗殺に来たとわかるだろう。そして我のことも、神珠に封じられている以上、魔力探知で探すことは出来まい。今頃、何者かに敗北し行方知れずとなった弱者と、魔王の地位を剥奪されているだろう。まぁ、我の代わりはいくらでも……な。」
「代わりですか、不死の魔王に?」
魔王は感情こもらない口調で答えた。
「魔王は魔王だから不死なのではない。魔王として“魔王国”にいるから不死なのだよ。今の我は魔王国から遠く離れてしまった。故に不死の特権はない。消えた。」
「?」
「先に言った通り、魔族は実力主義。強い個体が魔王に選ばれる。更に強い個体が生まれれば、あっさりとその権限も奪われる。まぁ、我はかなり強かったからな、在位期間は初代に続いて2番目に長い300年よ。凄かろう?」
「300年?」
あり得ない在位期間に、戸惑うヤマダ(仮)。
「む、知らぬのか?魔族の寿命は、まぁその個体にもよるが、だいたい300年〜400年位だぞ。我はこう見えて、300年以上は生きている。ふふん、敬って良いぞ。」
「めちゃくちゃお爺ちゃんだったんですね。」
「お爺ちゃん、言うな!……そろそろ新しい魔王を作るために、白衣のカエル共が重い腰を上げる頃であろう。ふふっ、我の嫌がらせが効いている頃かな?しばらくは新しい魔王が即位することは出来まい……。」
「??」
「まぁ、つまり我はもう魔王ではない。」
魔王は自嘲気味に笑った。
「貴様と同じ“名無し”よ。」




