10・ヤマダ(仮)は仕事に忠実である③
「悪いな、雇い主を逃してたら遅くなちまった。」
真っ二つになった最後のワーウルフは、燃え上がりあっという間に黒炭になった。
赤い鎧の冒険者は、足元に落ちていた金色の玉を拾い、ヤマダ(仮)に投げ渡す。
両手で受け止めるヤマダ(仮)を、しげしげと観察する。
「お前、確か鉄ランクだったろ?ワーウルフ、2体討伐なんてそうそう出来ることじゃねーよ。本当に鉄ランクか?」
「はい。今朝方、冒険者登録させていただきました。」
「うっわ、マジの新人かよ。あ、じゃあ俺の名前わかんねーよな。俺は、コーラクってんだ。」
「なんと。この世界の笑◯師匠はピンクの衣装ではなく、赤い衣装を……。いえ、こちらの話です。私はヤマダ(仮)と申します。全く、不思議なご縁ですね。あいにく座布団の持ち合わせはありません。」
「……?変なやつだなぁ、まぁいいか。もう夜が明ける。ぼちぼち町に引き上げる準備に入ってくれ。」
赤い鎧の冒険者コーラクは、他の冒険者達にも声をかけ、ワーウルフの屍を燃やし、山に埋めるよう指示をしてく。
「燃やすのですね。」
「瘴気に侵された生き物は、そのままにしておくと更なる瘴気の発生源になる。灰になるまで焼いて、地中深くに埋めるのだ。生身のまま埋めるよりは、はるかに瘴気が抑えられる。」
炎系の魔法が使える者達が集まり、ワーウルフ達を燃やしていく。
「魔法は“こういう時”便利でいいですね。機械や薬品を使わずに、あっという間にあの火力。後始末が楽で、実に素晴らしい。」
うんうんと感心しているヤマダ(仮)。
魔王は朝日が沁みるなぁと、聞こえないふりをした。
「ヤマダ(仮)さん、お疲れ様〜。聞いたわよ、大活躍だったんですってね!おねーさん、びっくり〜」
その日の昼過ぎ。
一度、滞在している宿に戻り、身支度を整えてからギルドにやってきたヤマダ(仮)を、茶髪の受付嬢が嬉しそうに出迎えた。
「ありがとうございます。」
ペコリと一礼して、報酬を受け取るために受付に並ぶ。
そんなヤマダ(仮)を、ギルドに集う冒険者達が訝しげにジロジロと見ていた。
「?」
「ヤマダ(仮)さん、報酬を渡す前にギルド長がちょっとお話したいんですって。一緒に来てちょうだい〜」
茶髪の受付嬢に連れられ、、ギルドの二階にあるギルド長の執務室に入る。
「ギルド長〜、ヤマダ(仮)さんをお連れしました。」
「ああ、よく来たね。そこに座ってくれ。」
部屋は八畳ほどの広さで、乱雑に物が置かれている。
大きな窓を背にする形で、ギルド長の執務用デスクが置かれ、そこに長い黒髪を緩く三つ編みにした三十代後半の整った容姿の男が座っており、その隣には朝まで一緒に依頼をこなしていたコーラクが、ヤマダ(仮)に向かって小さく手を振って立っていた。
デスクの正面に、簡易の応接用のテーブルとソファが置かれており、ヤマダ(仮)はペコリと頭を下げてから、大人しくソファに腰をかけた。
「ヤマダ(仮)さんだったかな。はじめまして、私はこの町のギルドの代表をしているアシュトンという者だ。昨晩の農場の依頼、お疲れ様。この銀ランクのコーラク君から聞いたよ、大活躍だったそうだね。」
「ありがとうございます。」
「それと森でオークを拾った件もね。今日の朝にね、オーク目撃を報告してきた若い冒険者の子達が、実は自分達が命懸けで討伐したオークなのに、君に横取りされたと騒いでね、オークの買取料ほしさにだろうけど……全く嘆かわしい話だよ。まぁ、でまかせだってすぐに分かったし、たとえ、そうであっても討伐証拠をギルドに持ってこなかった時点で、横取りされても文句は言えない。そういう規則だからね。」
それで受付に並んだ時に、疑わしく見られていたのかと納得したヤマダ(仮)。
やはり、獲物の横取りはどこの世界でもタブーだったなと、懐の魔王をペシペシする。
荒くれ者が多い冒険者ギルドを束ねるにしては、穏やかな雰囲気を持つギルド長は、困ったように微笑んでヤマダ(仮)を見た。
「そこにいる受付嬢のアナからも、色々と聞いているよ。スキルや属性無しどころか、君は魔力すらも無いんだってね。魔力がないヒトなんて前代未聞だし、魔力がないと本来はカードが発行出来ないはずなんだけど。……それについても、一部の冒険者から偽造じゃないかって苦情が入ってる。いやはや、色々あり過ぎて頭が痛いよ。」
扉の前の茶髪の受付嬢が、てへっ⭐︎と笑い、ギルド長はお手上げ〜とばかりに両腕を上げた。
ふむふむと話を聞いていたヤマダ(仮)は、コテンっと首を傾げながら聞いた。
「では、カードは取り消しですか?せめて働いた分の報酬は頂きたいのですが。」
「……すごいな……この子……(小声)いいや、それはないから安心して。」
ギルド長はニコニコと笑顔で答えた。
「報酬もしっかり支払うとも。それにワーウルフの討伐で追加報酬も出るからね。そのギルドカードは、これからも君の物だよ。……この魔族と瘴気のせいで殺伐としている時に、君のような優秀な人材を手放したとあっては、私はギルド本部から大目玉さ。」
「それは何よりです。ありがとうございます。」
「ただ、昨日登録したばかりの君のランクを上げることは難しくてね。そこは了承してもらいたい。いらないやっかみをもらうよりはいいでしょう?まぁ、君の実力ならすぐにランクアップ出来るからこれからも期待しているよ。」
「お気遣い感謝いたします。」
それとなんだけど……と、ギルド長は目で扉の側に立つ茶髪の受付嬢に、退出するよう促す。
受付嬢が退出した事をしっかり確認してから、笑顔のまま前のめりになる。
「君の実力を見込んで今後、“特別な依頼”を君に紹介していきたいと思っている。私は男爵家の出でね。それ故に、この王族や貴族、大きな商会ともとても仲が良くてね。仲が良すぎて色んな相談を受けたり、お願いされたりするんだよ。話を聞く限り、君の戦い方は“その”方面向きのようだし…もちろん、報酬も弾むよ。いいかな?」
「……善処します。」
「ありがとう、とても助かるよ。報酬以外にも、君がこの町で生活しやすいよう、私の方で計らうよ。必要なら君の魔力無しの件を、ギルドの不具合と公言して、カードを作り直してもいいし……」
「偽造するという事ですね。いえ、それには及びません。」
「そう?他の冒険者に絡まれるようだったら、私に言っておくれね。……では、もういいよ。受付でオークの買取料と農場の報酬を受け取ってね。」
ヤマダ(仮)は一礼して、静かに執務室を出ていった。
残ったギルド長とコーラクは、ふっと息をついて緊張を解く。
「見たかい?コーラク君。報酬の有無の話の時……。もし支払わないなんて言ってたら、今頃私と君の命なかったよ。あの歳で、達人ばりの殺意の飛ばし方……やば〜!とんでもない逸材が、私の前に転がり込んできたよ!」
「どう見ても、手に負えない厄介なヤツだと思うが……」
「あの子を上手く使えば、私の地位も安泰……いや、本部の椅子も夢じゃないね!」
古い付き合いではあるが、出世欲が強く野心家のギルド長アシュトンに、一抹の不安を覚えるコーラク。
しかし、この不安は杞憂に終わる。
何故なら翌朝、この執務室のギルド長のデスクの上には…
パッキリ半分に折られ、全ての情報が消えた鉄ランクのギルドカードがあった。




