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その召喚聖女はちょっとヤバめです。  作者: ハラ カナウ
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9・ヤマダ(仮)は仕事に忠実である②

「あの遠吠えは狼だッッ!こっちにくるぞ!!」


 誰かが叫んだと同時に、林から一斉に狼の群れが飛び出してきた。

 あっという間に柵を越え、冒険者達と戦闘になる。

 ヤマダ(仮)の近くにいた背の高い女冒険者が、二刀の剣を振るいながら、どう見ても戦闘向きに見えない少女にこの場から逃げるよう指示を出す。


「お嬢ちゃん!アンタは雇い主の所まで下がり……あれ、どこ行った!?」


 女冒険者がヤマダ(仮)を探して、辺りを見まわしている隙に、距離を詰めた狼が首元に向かって飛びかかってきた。


「しまっ……!」


 喉を食いつかれる瞬間、打ち込まれた細い棒のようなものが狼の脳天に突き刺さる。

 続いて向かってくる別の狼の横腹に、ヤマダ(仮)はチェックの長いスカートをなびかせ、蹴りを入れた。

 狼は骨が砕ける音をさせながら、川の方に吹っ飛んで転がっていく。


「ふはは、オークの時はしらばっくれようとした癖に、急にやる気だな!」

「今は仕事なのでしっかり頑張りますよ。そもそもあの時は、私の獲物ではなかったので、配慮しただけです。結果的にどこかの金◯のせいで、仕留める羽目になりましたが。」

「若い娘が、言って良い言葉ではない!」


 懐に入れた魔王に叱られつつ、麦畑に押し入ろうとする狼を次々、仕留めていくヤマダ(仮)。

 それをポカンと見守る、冒険者達。

 狼達は、無表情で黙々と自分達を殺傷していくヤマダ(仮)を恐れて後退していく。

 その背後から獰猛な唸り声と共に、後退した狼達が殴り飛ばされた。


「ワーウルフだと……!?しかも3匹もいやがる……。」


 何処からか漂う腐臭と共に、柵を薙ぎ倒し農場へ入ってきた、三頭のワーウルフ。

 口から涎を垂れ流して異様にギラついた目で農場内を見渡し、大きく吠えた。

 ワーウルフのスキル“威嚇”。その声にその場にいた冒険者達は戦意を喪失し、震え上がった。

 この魔物は二足歩行ながらトップクラスの俊敏性を持ち、オークほど耐久性はないが、全身に生えた太く分厚い体毛と筋肉は、並大抵の武器ではダメージを通さない。

 討伐推奨ランクは銀以上となっており、ここにいる冒険者は銅ランクと真鍮ランクがほとんどで到底、太刀打ち出来るレベルではない。

 また、たとえ唯一の銀ランクを持つ赤い鎧の冒険者がここに居ても、三頭のワーウルフを同時に一人で相手をするのは不可能である。


 終わった……。誰もがそう思い、絶望に膝をついた時、


「お、見よ。ヤマダ(仮)よ。あのワーウルフ共、完全に瘴気に侵されているな。」

「ふむ、その根拠は?」

「まず“目”だな。眼球の濃い血走りに加え、黒いシミが滲んでいる。瞳孔も開きっぱなしの上、あの滝のような唾液、とても正気とは言えまい。そして腐臭だな。瘴気に深く蝕まれるとはらわたから腐り始める。全てが瘴気の毒に満たされるので、爪や牙に気をつけよ。喰らえば瘴気の毒で貴様も腐るぞ。殺るなら首を落とすか、脳を破壊せよ。」

「なるほど。理解しました。」


 物騒な内容なのに、何処か呑気な雰囲気の会話が聞こえる。

 ヤマダ(仮)は、手に持った長く細い鉄の棒を構え、静かにワーウルフを見据える。

 ワーウルフ達も威嚇を受けてなお、平然としているヤマダ(仮)に、身を低く構え攻撃姿勢に入る。


 一頭のワーウルフが一気に間合いを詰め、渾身の力で殴りかかった。ヤマダ(仮)はその手をスルッとかわし、スパンと足を払って、自分の倍以上あるワーウルフの体をキレイに一回転させた。

 地面に叩きつける直前、素早く鉄の細棒をワーウルフの耳から深く刺し入れ、細棒を回転させ脳を破壊する。


 間髪入れずに、耳に入れた細棒を引き抜き、飛び掛かろうと力を込める二頭目の目に向けて打ち込む。

 目に深く刺さった痛みと衝撃で、バランスを崩したワーウルフとの間合いを詰めるヤマダ(仮)。

 そのヤマダ(仮)に、三頭目のワーウルフが覆い被さるように襲いかかる。

 ヤマダ(仮)は二頭目と三頭目の間を、小柄な体を活かし転がるようにすり抜けて回避する。


「おっと、危ない危ない。」


 体勢を立て直すと同時に、背中に隠していた片刃の真っ直ぐな短刀を引き抜く。


「刃物は嫌なんですよね。せっかくの制服が汚れそうで。」

「ふふん、ヤマダ(仮)。苦戦しているようだな、手を貸してやらんでもないぞ。」

「特に苦戦はしてませんが、貸してくれるならお借りましょう。お手を拝借。」


 三頭目のワーウルフが、俊敏性を活かして、爪を剥き出しての連続攻撃を繰り出す。

 それを最低限の動きで、スルスルと避けながら、懐の魔王を差し出す。

 ワーウルフの顔面に、炎が爆ぜた。

 初級魔法の火球とは言え、顔面に直撃したため悶絶して仰け反ると、ヤマダ(仮)は短刀でワーウルフの左右の指を切り落とした。

 ワーウルフは、指を失った両腕を振り回し、ヤマダ(仮)に食らいつこうとする。


「涎、涎はちょっと。」

「ん、おい?」


 涎を撒き散らし、噛みつこうとするワーウルフの顔面に魔王を投げつけた。

 衝撃に怯んだワーウルフの首を、ヤマダ(仮)は短刀でサクッと刎ねた。


「こらぁーー!!!ヤマダ(仮)、我を投げるとは何事かぁ!?」


 コロコロと転がる魔王。

 片目を細棒で刺し潰された、二頭目のワーウルフの足に当たって止まる。

 喉を唸らせ、ヤマダ(仮)を威嚇するワーウルフ。

 その背後で威勢のいい声が響き渡る。


「ぅおらぁーーーーーーッッ!!」


 大剣に炎を纏わせ、高く跳躍した赤い鎧の冒険者がワーウルフを頭から真っ二つに裂いた。


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