偶像崇拝
「とりあえず木製を10体、石膏のを10体作れますかぃ?」
お昼を食べてからお互いの作業に戻っていたものの、ひと段落ついたところで休憩中です。
卸す分の不眠症のお薬は出来上がりましたし、ポールさんは魔力切れらしく、売りに出す装飾品をしげしげと観察していらっしゃいました。
お茶を口に運びながら、神様の彫像についてご意見を貰っているところです。
「貴族にご贔屓にされてるとは言っても街で屋台なんかもするんでね。他にも店に卸したりもするもんですから、安価で像を買い取ってもらう時とそれなりの値段で引き取ってもらう時があるんでさ。で、その時にお出しする商品が一緒ってわけにもいきませんからね」
ポールさんの言葉には説得力があります。
お金を払う方だって、これにはその価値がある、と思って払うのです。木像でも石像でも私が【創造】する分には何の違いもありませんが、買う人にとっては「こっちなら手が届く」「こっちなら買う価値がある」という判断基準になります。
貴族が木像を好まないという訳では無いでしょうが、平民と同じ物を違う価格で買うより、商売としては正しいと思います。
「貴族の方向けにそんなに必要なんですか?」
「そうですねぇ、またここに戻ってくるまでには2週間は掛かりますが、自分の分だけでなく友人の貴族にも……ってお方は結構いますからね」
「まぁ……あぁ、でも分かります。うちもそうでしたね。まずは自分がどれだけ良い物を持っているかを語ってから、それと同じ物を譲ってくれと言われたら譲ったり、製造元をご紹介したりしてました」
虚栄心としてクリス神様の像が使われるのは微妙な気分ですが、それで信者が増えるなら私としては願ったり叶ったりです。
とはいえ、それを面白く思わない方が約1名いらっしゃいまして。
「マリー」
そっと背後からクリス神様の腕が、お茶を飲んでいる私を抱きしめました。驚いて茶器を取り落としそうになったのを、ガチャっと音を立てて辛うじてテーブルに置きました。
ポールさんがポカンとしてます。ですよね、昨日見た彫像が生きて目の前に(それも唐突に)現れたら誰だってビックリします。
今日は神様然としたお姿のクリス神様は、見上げると拗ねた子供のような顔で私を見下ろしています。腕も当然巻きついたままです。一体どうしたというのでしょう?
「……あの、どうなさいました? クリス神様」
私の名前を呼んで、そのまま拗ねた顔をしたままのクリス神様に、私は恐々と訊ねました。どうにも様子がおかしいです。
「私は貴女の友達ですね?」
「はい、友達第一号ですよ。当たり前じゃ無いですか」
契約上だけでなく、私がとても苦しんだ時に抱き締めてくれたのは他でも無いクリス神様です。それを友達じゃないなんて言う程薄情ではありませんよ。
「なら、彫像を売るのはやめませんか?」
「? どうしてです? 私はクリス神様の存在を確固たる物にしたいです。偶像崇拝は効果的ですよ、こんなにお美しいんですから」
ポールさん、置き去りですみません。ですけどモデルがどうも拗ねているのでまずはこちらを何とかしないとなりません。
「貴女が信じてくれていれば私は充分です。それではいけませんか?」
「いけませんねぇ。私に何かあった時にクリス神様が消えてしまうのはあまりに悲しいですから。お金は全てクリス神様にお供えするか、何処かに教会を建てるのに使いますから」
ぽんぽん、とクリス神様の腕を叩いて宥めます。不老不死とは言え、私が消えたら消えてしまう(アニマルズがいるので必ずしもそうとは限りませんが)のは、後味が悪いです。
「私がクリス神様の像を作るのは、お嫌ですか?」
「そういうことでは無いんですけど……」
そこでクリス神様はポールさんを見ます。視線が合ったポールさんが少しわたわたとして姿勢を正します。
何秒位でしょう、二人が見つめ合ったのは。
折れたのはクリス神様でした。
「……仕方ありませんね。貴女は国外追放されていますから、そう大々的に動けませんし。此方の御仁に任せるのが、貴女の選択なら」
「ポールさんはいい方ですよ? 大丈夫です、昨日一緒に祈ってくださいました。クリス神様の味方です」
それにはクリス神様は何か言いたげにしましたが、結局は黙って腕を解いてくださいました。どうしたんでしょうね? 私を見守ってくださっているのですから、昨日からのポールさんの様子も知ってるはずです。悪い人な所ありましたっけ?
「ポール、貴方の事を、私は見ていますよ」
「へ、へい。そりゃ、もちろん神様ですから……」
「マリーを困らせる事だけはしないでくださいね」
「へい、もちろん」
私にはこのやり取りの意味は、この時には分かりませんでした。
クリス神様は口約束とは言え、これで一先ず満足したようです。
お邪魔しました、と言って消えられました。現れるのも突然なら、消えられるのも突然です。今度何かお供えしてゆっくり歓談する時間でも作りましょう。私からお呼びする事はあまり無かったのでいいかもしれません。
「怖くなってしまわれてはいませんか?」
「いや、怖いとかよりも、実際いらっしゃるんだなぁとビックリしちまいまして……ははぁ、こりゃ、信仰を広めるに足る奇跡ですわ」
ポールさんは、その後他の国での神様の存在なんかを語ってくださいました。中には偶像崇拝をさせてお金を巻き上げるだけ巻き上げる酷い宗教の存在もあるそうで、思うにクリス神様はそうなるのを恐れて降りてこられたんじゃないか、とのこと。
たしかにそれは本末転倒ですし、私としては心から信じてもらいたいと思うので薬袋なんかを使って草の根活動していたわけで。
でも、偶像崇拝は悪いことばかりでは無いと思うんですよね。心の拠り所として、しっかりとしたイメージがあるのと無いのとでは違いますし。
せっかく行商人さんと知り合えたんですから、草の根活動を拡大する良いチャンスの筈です。
とんだ乱入もありましたが、ポールさんとしっかり話し合い、適切な値段で売るという事で話は纏まりました。
……今となっては、私は愚かだったと思います。でも、この時は……、良い事だと思ったんです。




