しばしのお別れ
あれから数日、彫像造りも終わり、ポールさんも全ての鑑定を済ませました。今日も良い天気です。旅に出るには絶好の天気かと思われます。
鑑定して魔法効果の付いた装飾品の詳しい効能を聞き、使えそうな物は個別に出しておきました。
主に魔力を高めたり、身体能力を向上させたりする物ですね。他は属性魔法の威力を上げたり、今身につけている身代わりの腕輪みたいな効果のものだったのでしまっておきます。攻撃力があがるものもありましたが、私は物理攻撃したりしませんよ?
他の、普通の装飾品は委託販売という形でお預けしました。全体の半分くらいは魔法効果の付いた物でしたので身に余るほど手元には残りましたが、イグニスさんのお礼の品をいつまでも放っておくのも忍びないので。
お金に換えた分の2割をポールさんにお渡しするという事にしました。ポールさんの勧めで契約書も作りました。これは祈りの間に納めておきましょう。
彫像と薬はポールさんの買取です。商人さんだけあってそれなりの手持ちがあるようで、石膏は1体当たり銀貨5枚、木像は銀貨1枚での買取となりました。広まってくれたらありがたいので、なるべくいろんな方の手に届くように取り計らってくださるということで。ありがたい事です。
「これは滞在させてもらった分の宿泊費って事で」
そう言ってポールさんは沢山のスパイスを分けてくださいました。
この辺りでは手に入らない珍しい物が沢山です。もちろん薬効もありますが、一番はこれでカレーライスが食べられることでしょうか!
「こんなによろしいんですか?」
「南国でたっぷり仕入れてあるんでいいですよ。また足りなくなったら買い付けに行きますし、その時にはまた泊めてくだせぇ」
数十種類の瓶に入ったスパイスの山を前に、私は目をキラキラとさせてそれを眺めました。シェルさんなら調理方法も心得ているかもしれません。楽しみです、カレー。
全ての荷物とお金のやり取りを終えて、ひと息つくのにお茶を飲みました。
何だか今日はあまりお喋りをしていません。私からも、ポールさんからもです。
今日からしばらく、彼は行商に出ます。2週間程でまた訪ねてくださると分かっては居るのですが……寂しいです。
「さて……」
カチャ、と茶器を置いたポールさんが目を伏せて笑います。
「こんな根無し草でも、ここの居心地が良すぎて根をはっちまいそうでさぁ。そうなる前に出ることにしましょう、また戻ってきますしね」
上着を羽織り、帽子を被って。私はぼうっとそれを見ていましたが、ハッとして立ち上がりました。
ブルーと一緒に見送りに出ます。
馬を出し、馬車を出して、いよいよ旅立つポールさんを見て……何だか寂しいだけではなく、胸の奥が締め付けられるような気持ちになります。
アニマルな皆さんはここに住み着いたり、毎日のように顔を見せに来てくださいますが、ポールさんは行商人です。これがお仕事ですから、留まることはありません。
「ま、また、また来てください」
御者席に収まったポールさんを見上げて言うと、ポールさんは帽子を押さえて笑いました。
「もちろんでさぁ。売り上げも土産話も楽しみにしといてくだせぇ、マリーさん。それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい……!」
ポールさんは馬を繰って馬車を出発させました。
いってらっしゃい、と言えた事で、少しだけ胸の痛みが和らぎます。
また戻ってくる、ただいまと帰ってくる。
その日が待ち遠しくて仕方ありません。
それまでは、また卸すための薬作りでも行いましょうか。村に卸す分もありますし。最近構ってなかったので、今日は私がみなさんのお手入れをしたい気分です。
「あら…….?」
家に戻る最中、そんな事を考えていたらぽろっと涙が溢れました。
私の体はどこがおかしくなってしまったんでしょうか。たった2週間です。そんなのあっという間なはずなのに。
「……落ち着いてから戻られますか?」
ブルーが後ろから肩に手を乗せます。ですが、私は首を横に振って涙を拭いました。
「いえ、大丈夫です。これが普通で、さっきまでが夢のような時間だっただけですから」
追放され、辺境の地に止まって暮らすのが私の日常。他国の、他の地域の、いろんな人や場所について思いを巡らせる事ができた。それだけでも充分に楽しかった。
夢はいつか醒めるものです。初めての事なので涙が出てしまいましたが、これにも慣れなければなりません。
いつか、本当にずっと先の話ですが、監視の目が無くなった時。
アニマルな皆さんと諸国漫遊、なんて楽しそうだなと思うのです。
だから今は、日常に戻りましょう。不老不死なのですから焦ることはありません。
ただ少しだけ自分を甘やかすのなら……ノートの端に、ポールさんが戻ってくる日を数えるのは、……許してあげましょう。




