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神に愛されし魔女

 翌日は朝からよく晴れていて、私は動きやすいワンピースに着替えると早速庭に出ました。眩しいくらいの陽気だったので帽子も被ります。


 薬草やハーブを摘み、バスケットの中へ次々と【収納】し、朝ごはんができるまでリビングで【調薬】します。その頃、日頃の疲れがあったのか、少しお寝坊に起きてきたポールさんにおはようございますと挨拶しました。


 ブルーが洗面所まで案内し、顔を洗ってすっきりしたポールさんは相変わらず無精髭のままです。曰く、毎日剃ってもすぐ生えてくるから、とのことでした。それを無精と言うんですよ、というのは黙っておきます。


 朝ごはんを食べる為に机の上を片付けていると、ポールさんは薬袋を一つとってしげしげと眺めていました。


「どうかされました?」


「いや、よくできてるなと思いましてね。アッシにも幾つか卸してもらえりゃ、クリス神様の事も広められますよ」


 なんと! 私の行動圏内は非常に狭いので、行商人さんに卸せるのなら卸したい所です。


「どんなお薬がいいでしょう?」


「アッシは食料品はスパイスくらいしか扱わねぇんで貴族の方にご贔屓にしてもらってんですが……ここいら一帯は、確かドラゴンの咆哮が凄かったでしょう。アッシも何度か来ましたが、今はそれが無い。でも不眠症を患ってる方は多いでしょうしね、よく眠れる薬なんかいいかもしれねぇです」


「分かりました、ポールさんが出立されるまでにはご用意しておきます」


「あとは、クリス神様の小さな彫像なんかご用意できます? あれだけ見目がいい神様の像なら引き取りたいって方もいるでしょう」


「本当ですか? それは嬉しいです。クリス神様はお優しい神様なので、信者が増えてくださればこんなに嬉しいことはありません」


 ポールさんは苦笑して頰をかきました。


「ま、信仰するってより、貴族のお嬢さん方が入れあげるって感じでしょうけど」


「神様に入れ上げる……妙齢の女性がそれでは行き遅れてしまいません?」


「なぁに、現実にいる男と実在するかわからない神様なら、現実の男に最後は惹かれるもんですよ」


「そういうものでしょうか」


「そういうものです」


 私とポールさんは目を見合わせてクスリと笑うと、いよいよ机の上を片付けて朝ごはんにしました。来客中はアニマルな皆さんはご遠慮くださるようです。主にブルーが使用人として働いてくれます。


 確かに、客人の前で呼び捨てと「〜さん」と呼ぶのは混乱の元ですし助かります。イグニスさんも、獲物は持ってきてくださってるようですがリビングに顔を出したりはしません。


 ……ちょっぴり寂しい気もしますが、ポールさんは話が上手くて、私もいろんな話を聞けるのが楽しくて、この時間を大切にしたい感情もあるので助かります。


 ご飯の後は、ポールさんは昨日の鑑定作業の続きです。私もテーブルの空いたところでせっせと不眠症のお薬を作ります。


 鑑定の合間にもポールさんのおしゃべりは止まりません。私より少し年上なだけでしょうに、本当にいろんな国を見て回ったのだと、そしていろんな経験を積んでこられているのだと実感しますね。


(追放という形で私は国を出たけれど……馬車の中で一泊した位の距離しか移動してないのよね)


 外の景色を楽しんでは居ましたが、どこかの街を見たりという観光気分ではいられませんでしたから。


 ポールさんのお話は本当に楽しくて、そしてちょっぴり羨ましいです。


 ブルーという監視役が居ますから、日を跨ぐような距離まではとても行けません。その監視役を受け入れたのは私ですから仕方ないんですけど。


 あっという間に午前は過ぎ去り、お昼を食べる為に机の上を綺麗にします。ポールさんが手元に残すようにと分けてもらった装飾品はバスケットに入れて、売りに出してもいいと言った品物は【創造】した柔らかい天鵞絨の袋に入れておきます。


「マリーさんは幾つの二文字魔法が使えるんです? アッシは鑑定しか使えないんで、魔力量もそれなりですが……」


「えぇと、創造、修復、収納、調薬の四つですね。全部神様が与えてくださった力なので」


 ね、お優しいでしょう? と笑うと、ポールさんは考え込みました。


「なんというか、愛されてるんですなぁ、神様に」


 と、言われた私はぼっと真っ赤になってしまいました。


 それはクリス神様はいい人ですし、転生させてくれた事から感謝もしてますし、他にもいろいろありましたけど、あ、あ、愛されてるとかそういう訳じゃ……無いですよ。ないない。違います!


 赤くなった頰を両手で押さえて俯く私に、ポールさんは笑いました。


「いいじゃねぇですか、神に愛されし魔女ってのも。それに報いるのに布教してらっしゃるんでしょう?」


「まぁ、そうですけど……」


「薬の売り文句にしてもいいと思いますがね。二文字魔法をそれだけ授かるってのは栄誉あることだと思いますし」


 何か言い返したいのにうまく言葉が出てこない私たちの前に、ランチが運ばれてきました。オムレツとサラダ、ベーコンと野菜のスープにかた焼きのパンです。


「……とりあえず食べましょう?」


「あ、逃げましたねマリーさん。でも食べるのには賛成です、冷めたらもったいねぇんで」


 お互いカトラリーを手にいただきます、と挨拶をして食べ始めました。今日も塩梅がよくて大変美味しいです。


 食事中は揶揄うのをやめてくれたので、むせずに食べ切ることができました。


 さて、午後はもう少し薬を作ったら、クリス神様の彫像作りにいそしみましょう。

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