第二話 おかえりのある日常
「……お風呂行ってくる……」
「最後だから抜いといて」
「……分かった」
朝浦はのろのろと浴室に向かう。シャワーを浴び、全身を洗った。浴槽に浸かりながら、ぺたぺたとスキンケアをする。その後、また瞬きがゆっくりになる。
「湊〜、寝てない〜?」
「……ぎり……」
「溺れるよ。出てきたら?」
「……そうする」
彼は浴槽から上がると風呂の栓を抜く。タオルで全身を適当に拭き、パジャマに着替えた。部屋に戻れば、座卓の上に肉じゃがが乗っている。ひなの前には、紅茶の入ったマグカップが置かれていた。
「肉じゃが……」
「一昨日、牛肉安かったから」
「気にしなくていいのに」
「節約はただの趣味」
ひなは笑い声をこぼす。朝浦は彼女の隣に座ると、「いただきます」と手を合わせる。
その後ゆっくりと箸を動かした。
「……いつも、ありがと」
「別に? 一人分も二人分も変わんない」
「……そっか。……でも」
「気にするんだったら、誕生日にでも自動調理機かロボット掃除機買って」
「ほっとクッキングとドゥンバね。他には?」
「どっちもは悪いよ」
「……僕も使うから」
「……使える?」
「……使い方は、教えて」
彼は笑いをこぼす。
「今度の土曜日、オフ」
「じゃあ、電気屋さん行こうか」
「分かった。……あとは何する?」
「映画でも見る?」
「……悪くない」
「アニメ映画にしよ? 一緒に見たいし」
「……いいね。俳優として見なくてすみそう」
朝浦はそう言いながらもあくびをこぼす。
「……ご飯食べながら寝ないでよ」
「……子供じゃないんだから」
「子供? 一週間前も……」
「やめて」
「湊は昔からだもんね。小学校四年の頃だっけ? ミートパスタに顔突っ込んだの」
「だからやめて」
「ごめんごめん」
ひなは笑い声をこぼす。肉じゃがの汁まで飲み干した朝浦の頭はゆらゆらと揺れる。
「先に寝たら?」
「そうする」
「……配信見てていい?」
「……イヤホンだけお願い」
「分かった」
朝浦はろくに立ち上がることもせず、アイマスクを手にベッドに移動して布団を被る。その後、イヤホンをつけ始めたひなへ視線を向ける。
「……ひな」
「なあに?」
「こっち」
ひなが顔を近づけると、朝浦はその唇に自身のそれを重ね合わせた。ひなは一瞬だけ目を丸くしたあと、「もう」と笑い声をこぼす。
「明日は?」
「六時」
「早いね。朝ごはんはギリギリでいい? おにぎりにして渡すから」
「……逆にいいの?」
「朝はいつもそれくらい。……代わりに、湊のお弁当はちょっと無理」
「……朝ごはんだけでも助かる。いつもありがと。……おやすみ」
「おやすみ」
朝浦はそう言って、アイマスクをつけた。そのまま、すぅ、と寝息を立てる。
「湊ったら」
ひなはベッドに腰掛けたまま、その指でそっと朝浦の髪を撫で、そのままテレビへと視線を戻した。
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