第十六話 眠るきみの手を握って
湊は毎日、ひなのお見舞いに行った。
「……湊、おかえり……。……夕飯の……カレー……できてるよ……」
「ありがとう」
「……まだ……スライム……?」
「……そう、しようかな」
次の日も。
「……あれ……ここ……どこ……?」
「ここは病院」
「……そっか……。……眠い」
「寝てていいよ」
その次の日も。
「湊、おはよう……って時間でもないね」
「お昼過ぎてるもんね」
「うん。……体、起こしたい。手伝って」
「いいよ」
またその次の日も。
「……そういえば、連日来てるけど、仕事は?」
「……活動、休止中」
「あれ、夢じゃなかったんだ」
「夢?」
「……ニュースで、聞いた」
「……そっか」
そして、しばらく経った頃。朝浦がいつものように病院を訪れると、ひなは医者と何かを話していた。
「……バイタルも安定し、意識も明瞭ですね」
「……じゃあ」
「はい。そろそろ退院の時期を決めましょう」
「お願いします」
「……退院、するんだ」
「わっ、湊、来てたの?」
「さっき来た」
「ごめん! 本当に気づいてなかった」
「ひどいよ」
朝浦は唇を尖らせて見せる。ひなはくすくすと笑った。
「湊は今どこにいるの?」
「おばさんち」
「そうなんだ。じゃあ、私もそっちに帰ろうかな」
「いいと思う」
朝浦は笑いをこぼす。ひなは「……ふう」とため息をついてベッドにもたれた。
「……みんなから、いっぱい連絡来てた」
「みんなから?」
「うん。ほとんど会社の人。あと、長原さん。……迷惑かけちゃった。湊も、ごめんね」
「気にしなくていいよ」
「……うん、そうする」
ひなは布団をぎゅっと抱きしめた。
「……ニュース、見た?」
「何の話?」
「……見てないなら、いいや」
ひなは視線を彷徨わせる。ややあって、ゆっくりと口を開いた。
「……麻辣湯って美味しいのかな」
「一度食べたけど、辛いよ。ひなは食べられないかも」
「うわ、ずるい」
「元気になったら食べに行こう」
「……辛いんでしょ?」
「お店によっては、辛くないのもある」
「……そっか」
ひなは少しだけあくびを漏らす。
「……疲れた?」
「ちょっと」
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「……わがまま言っていい?」
「なあに?」
「……眠るまで、手を握っててほしい」
「もちろん」
朝浦はひなの手をそっと包み込む。ひなはゆっくりとまばたきしながらぽつりとつぶやいた。
「……キスして」
「珍しいね。いいよ」
朝浦はそっと自分の唇を、ひなのと重ね合わせる。ひなはふっ、と口角を上げ、そのまますぅ……と寝息を立て始めた。
「……ニュースか」
朝浦はひなの頭をそっと撫でた。
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