第十四話 公園のスライム
活動休止に入った朝浦の生活は、崩れた。朝、うまく起きられない。起きても、食欲が湧かない。食事を用意されるから、なんとか口にする。
一日中ベッドに横たわり、ひなから連絡がないか確認する。……それしか、できない。精神科からもらった薬を飲む。
今日も、昼頃にのろのろと起き出す。伊藤母に声をかけられて、なんとか部屋を出た。
食卓に用意されていたのは、うどんだった。
「……食べられそう?」
「……頑張る。……何か、分かった?」
「……連絡は、ないわ」
ひなの両親も、目を伏せる。
「……その」
口を開いたのは、朝浦父だった。
「……外に、出たほうがいいのではない、かな? ……日の光を浴びるだけでも、違うはずだよ。……伊藤さんたちも」
「……そう、ね……」
「……近所の散歩……はあまり、かな……。ばれちゃう、し……。それに……あんまり、動けない」
「ベランダは?」
「……近所の、噂に、なるかも」
「……車には、乗れるかな」
「……がん、ばれば……」
「……少し離れた、大きな公園はどうかな。……レジャーシートでも敷いて、スライムになっていればいい。……今のジャージでも、行けると思うよ」
「……そう、しようかな」
伊藤母は、ほんの少しだけ笑う。
「……じゃあ、この公園は? 近くにカフェがあって、気になってたの」
「……分かった」
「車は僕が出すよ」
朝浦父は微笑む。伊藤母は「お父さんも呼ぼうかしら」と呟いた。
家事を朝浦母に任せ、四人は公園へ向かう。公園に着くと、ひなの両親は近くのカフェへ向かった。朝浦父は芝生の上にレジャーシートを敷く。朝浦はその上にごろりと転がった。
日の光が暖かい。瞼が少し重くなる。
「……寝ててもいいよ」
「……でも、起きれない、かも……」
「その時は運ぶから」
「……分かった。……記者とか、写真……撮る人が来たら……追い払って。……事務所の、名前を出しても……いいと思う……」
「任された。おやすみ」
「……うん」
すう、と寝息が溢れる。柔らかい風が、そっと朝浦の髪を揺らした。
◇
朝浦が眠り出してから小一時間経った頃。ひなの両親がぱたぱたと走ってきた。
「湊くんは、寝てるの?」
「ああ。何かあったのかな」
「今、警察から連絡が来て。ひなが、保護されたって!」
「本当かい? 湊、起きれるかな」
朝浦父は朝浦の肩を叩く。ややあって、彼のまつ毛がぴくり、と動いた。
「……どう、したの?」
「ひなちゃんが、保護されたって」
「っ、ひなが?」
朝浦はすぐに体を起こす。
「今は病院にいるって。ちょっと錯乱してるけど、面会はできるそうよ」
「錯乱?」
「ええ。不安そうに湊くんの名前を、呼んでるって」
「すぐ行く。お父さん、車出して」
「動けるかな?」
「人間に戻った」
「分かった。行こう」
「うん」
朝浦は自分の足で立ち上がる。その足取りは、軽やかだった。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。




