第十二話 青いゼリーの檻
暗い居間で、テレビが光る。
『続いてのニュースです。人気俳優の朝浦湊さんが、当面の間、芸能活動を休止することが分かりました』
ひなは重い瞼をなんとかこじ開け、テレビへと視線を向ける。ニュースキャスターが重い声色で、公式SNSのお知らせを読み上げていた。
『いつも朝浦湊を応援いただき、誠にありがとうございます。
このたび、朝浦湊は諸般の事情により、当面の間、芸能活動を休止させていただくこととなりました。
また、現在出演中の連続ドラマにつきましても、関係各所との協議の結果、主演を降板させていただくこととなりました。
応援してくださっている皆様、ならびに関係者の皆様には、多大なるご心配とご迷惑をおかけいたしますこと、心よりお詫び申し上げます。
活動再開の時期につきましては、現時点では未定となっております。
何卒ご理解賜りますよう、お願い申し上げます。
今後とも朝浦湊への変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます』
(……湊)
わずかに身じろぎをする。結束バンドで縛られた手首が痛む。……だるい。壁にもたれかかり、重い瞳をこじ開け続ける。
「……これで……黒瀬さんが……」
女の声が響く。その時、スマホのアラームがぴぴぴっ、と時間を告げる。女は立ち上がり、冷蔵庫へと歩いていった。
ひなは目線を動かして女を追う。彼女が取り出したのはゼリー飲料だ。封を開け、錠剤を溶かし込む。よく混ぜて薬を行き渡らせたそれを持ち、ひなの前に立った。
女はひなの口を指で開けようとする。ひなは必死に口を閉じる。それでも、あっけなく唇は開いてしまう。
彼女は不自然な青さを帯びたゼリー飲料——たっぷりの睡眠薬を溶かし込まれたそれを、ひなの口へ流し込む。反射的に、ごくり、と喉が動いた。
全身がずっしりと重くなる。壁の角を利用して、なんとか体を支える。瞼が落ちるのを、止めることはできない。
(……湊……)
テレビから朝浦の甘い声が聞こえる。
……そういう時の湊は、もっと……蕩けてる……な……。
意識は睡魔に絡め取られる。ひなの体は、べしゃり、と畳に崩れ落ちる。重力すら、重い。
(……スライムって……こういうこと……か……)
世界が急速に狭まっていく。沈み込む体の妙な心地よさだけが、救いだった。
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