11話
「あ、おはよう朝比奈さん」
「おはよう」
楓が玄関の鍵を閉めていると隣の家のドアが開き、中から明照が姿を表す。
「いやー、奇遇だね」
「そうね」
(どんな偶然だよ!)
再び家を出たタイミングで彼と出会った楓は、もしかしたらこの男は自分のストーカーなんじゃないかと疑った。
「それで、風邪はよくなったの?」
「うん、おかげ様で元気になったよ」
「なら、よかったわ。私も看病した甲斐があるもの」
「本当にありがとう。助かったよ」
軽快な笑顔で感謝の言葉を伝えた明照は流れるような動きで彼女の頭をサラッと撫でた。
「は……! ちょっと! 何してるの!」
急な出来事に楓は動揺したが、すぐに抗議の言葉を送る。
「あ、ごめん。つい」
(ついってなんだよ! 普段から女の子の頭を撫でまくってるってこと!? うらやまけしからん! イケメン爆発しろ!)
明照からの釈明の言葉を聞いた楓は嫉妬のあまり激怒した。
「私に軽々しく触らないで!」
「ごめん。次は許可が出るまでやらないように気をつけるよ」
「気をつけるとかじゃなくてやらないで。あと私が貴方にそんな許可を出すわけないじゃない」
「それは分からないよ」
「分からなくないわよ」
「でもいずれは僕の彼女になるんだし」
「は……?」
そこで彼女は思い出した。看病したりなんなりで忘れていたが、楓が明照に告白されていたことを。
「あれ? もしかして僕が告白したの忘れてた? それは凄くショックだなあー」
「う……」
彼があまりにも悲しそうな表情を浮かべるので、彼女は罪悪感を覚えた。
「ご、ごめん」
「じゃあお詫びに俺と付き合って」
「嫌よ。貴方とは付き合わないって前にも言ったじゃない。あと調子に乗らないで」
「えー」
「えーじゃない」
「いいじゃん。お試しでもいいから付き合ってよ」
「絶対に嫌!」
「僕のこと嫌い?」
「嫌いだしウザい!」
「口悪! そんなじゃ友達できないよ」
「余計なお世話よ。それに大丈夫。貴方限定だから」
「僕限定か…いい響きだね」
(キモ…!)
「あ、今キモイって思ったでしょ」
「お、思ってないわよ」
「図星じゃん。傷つくなー。お詫びに俺と付き合ってよ」
「嫌よ」
「じゃあ、代わりにご飯奢らせてよ。この前のお礼もしたいし」
「まあ、それぐらいなら」
「やった! 約束だからね!」
「う、うん」
そして彼女は気がついた。まんまと明照に乗せられていることに。
気がつけば楓は彼とデートすることになっていたのだ。
(これがモテる男……! なんというテクニック!?)




