第9話 「その犬、やっぱり神獣ですよね?——隠しきれない最強の正体」
「……ねえ、レイン」
リリアの声が、やけに静かだった。
戦いが終わった森の中。
倒れた魔物の残骸が、まだ煙を上げている。
「なんだ?」
俺は何食わぬ顔で返す。
だが——
「ごまかさないで」
鋭い視線。
完全に見抜かれている。
「さっきの、見たわよね?」
「何のことだ?」
とぼける。
「……あれを“何でもない”で済ませる気?」
リリアが一歩近づいてくる。
逃げ場はない。
⸻
「……フェン」
「ワン?」
足元で首をかしげる相棒。
「……やっぱり、その子よね」
リリアがじっと見つめる。
「神獣」
その一言で、空気が止まった。
⸻
「……だったらどうする?」
俺は、あえて否定しなかった。
「……!」
リリアの目が見開かれる。
「やっぱり……!」
確信に変わる瞬間だった。
⸻
「驚かないのか?」
俺は聞いた。
普通なら、もっと取り乱すはずだ。
だが——
「そりゃ驚いてるわよ」
リリアは苦笑する。
「でもね」
一歩近づく。
「それ以上に、納得したの」
「納得?」
「あなたの強さ」
迷いのない目。
「普通じゃないって思ってた」
⸻
「……そうか」
俺は小さく息を吐いた。
「で?」
腕を組む。
「誰かに言うのか?」
これが一番重要だ。
神獣の存在は——下手すれば面倒なことになる。
⸻
「言わないわよ」
即答だった。
「は?」
思わず聞き返す。
「そんなの、言ったら大騒ぎになるじゃない」
リリアは肩をすくめる。
「それに——」
少しだけ、表情を緩めた。
「面白そうだから」
⸻
「……は?」
予想外すぎて、間抜けな声が出る。
「神獣と契約してる冒険者なんて、前代未聞よ?」
楽しそうに笑う。
「こんなの、関わらない理由がないでしょ」
⸻
「……物好きだな」
呆れながらも、少しだけ安心する。
「よく言われる」
リリアが笑った。
⸻
「まあいい」
俺はフェンの頭を撫でた。
「改めて言うが——」
「ワン!」
フェンが元気よく鳴く。
「こいつが、俺の相棒だ」
「……よろしくね、フェン」
リリアがしゃがみ込む。
フェンは少し警戒しつつも——
「ワン」
小さく鳴いた。
⸻
その時だった。
——ズズン……
遠くから、重い振動が伝わってくる。
「……なに?」
リリアが顔を上げる。
「今の……」
俺も同時に気づいた。
これは——
「さっきの魔物とは違う」
明らかに、もっと“やばい何か”だ。
⸻
「ねえ、レイン」
リリアの表情が真剣になる。
「これ……ただの異常発生じゃない」
「ああ」
俺も同意する。
「裏で何か動いてるな」
⸻
フェンが、低く唸った。
「グルルル……」
その反応が、すべてを物語っていた。
⸻
「行くか?」
俺は聞く。
リリアは一瞬だけ迷い——
そして頷いた。
「ええ」
その目に、覚悟が宿る。
⸻
「ここからが本番ね」
「ああ」
俺は笑った。
⸻
——最強の相棒と。
——新たな仲間と。
そして——
“本当の敵”へ。
物語は、さらに大きく動き出す。




