第10話 「規格外の敵出現——最強の俺でもさすがに苦戦する相手でした」
——ズズン……
大地が、揺れる。
「……来るわ」
リリアが剣を握りしめた。
その表情は、これまでで一番緊張している。
「ただの魔物じゃない」
「ああ」
俺も同じ感覚だった。
空気が違う。
圧力が違う。
そして何より——
「フェンが警戒してる」
「グルルル……」
低い唸り声。
今まで見せたことのない反応だ。
⸻
「……面白くなってきたな」
思わず笑みがこぼれる。
「余裕ね」
リリアが呆れたように言う。
「余裕じゃねえよ」
俺は肩をすくめた。
「ただ——逃げる気がないだけだ」
⸻
その瞬間。
——ドォォォンッ!!!
森の奥から、巨大な影が現れた。
「……なんだ、あれ」
思わず息を呑む。
今まで見てきた魔物とは、明らかに格が違う。
黒い霧をまとった巨体。
異様なまでの圧迫感。
そして——
「グォォォォォッ!!」
咆哮が、世界を震わせた。
⸻
「……嘘でしょ」
リリアが小さく呟く。
「こんなの……聞いてない……」
その声には、明らかな恐怖が混じっていた。
⸻
「下がってろ」
俺は前に出る。
「レイン!?」
「大丈夫だ」
軽く手を上げる。
「まずは様子を見る」
⸻
魔物が、ゆっくりとこちらを見た。
その瞬間——
ゾクッ
全身に、寒気が走る。
「……やべえな」
本能が告げている。
——こいつは、今までとは違う。
⸻
「フェン」
「グルルル……!」
神獣の姿へと変わる。
だが——
いつもより、慎重だ。
⸻
「……本気で行くぞ」
俺は拳を握る。
体の奥から、力を引き出す。
今まで以上に。
限界まで。
⸻
「レイン……無茶よ」
リリアの声が聞こえる。
「それでもやる」
即答だった。
「ここで引いたら、終わりだ」
⸻
次の瞬間。
魔物が動いた。
——消えた。
「はっ!?」
視界から消失。
「速すぎる……!」
リリアが叫ぶ。
⸻
「——後ろだ!!」
俺は咄嗟に振り返る。
振り下ろされる巨大な腕。
「くっ!」
受け止める。
——ドゴォォンッ!!!
衝撃が、体を貫く。
「がっ……!」
吹き飛ばされる。
地面を転がり、なんとか体勢を立て直す。
⸻
「……マジかよ」
腕が痺れている。
今までの敵とは、比べ物にならない。
「これが……本気の敵か」
⸻
「レイン!」
リリアが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「ああ……なんとかな」
だが、正直——
「キツいな」
初めてだった。
ここまで“通じない”と感じたのは。
⸻
「ワン!!」
フェンが前に出る。
そして——
圧倒的な力を解放する。
「グルルルルルッ!!!」
今までで一番強い咆哮。
空気が震える。
⸻
「……いいね」
俺は笑った。
「やっと“本気”出せそうだ」
⸻
魔物が、再び動く。
フェンも、迎え撃つ。
そして——
俺も走った。
⸻
「ここからが勝負だ」
拳を握る。
全力で。
限界を超えて。
⸻
——最強の敵。
——最強の相棒。
そして——
“まだ見ぬ力”。
戦いは、次の段階へと突入する。




