第13話 「勝てるわけがない相手でした——黒幕の一撃で全てが崩壊する」
「いいだろう——試してやる」
黒い霧が、膨れ上がる。
その瞬間。
——ドンッ
空気が“落ちた”。
「……っ!?」
体が、重い。
立っているだけで、全身に圧力がかかる。
「な、に……これ……」
リリアの声が震える。
剣を構えているはずなのに、その手がわずかに揺れていた。
⸻
「これが……お前たちと俺の差だ」
黒い存在が、一歩踏み出す。
それだけで——
地面が軋んだ。
⸻
「……上等だ」
俺は無理やり口角を上げる。
「フェン」
「グルルル……!」
神獣の姿で並ぶ。
だが——
さっきまでとは違う。
警戒どころじゃない。
完全に“危険”を感じている。
⸻
「行くぞ!!」
俺は地面を蹴った。
全力で。
今出せる、すべての力を込めて。
⸻
一瞬で距離を詰める。
拳を振り抜く。
「はああああっ!!」
⸻
——スカッ
「……は?」
当たらない。
いや——
「遅いな」
目の前にいたはずの黒い存在が、消えていた。
⸻
「なっ——」
気づいた時には——
「後ろだ」
耳元で、声。
⸻
——ドゴォォォンッ!!!!
衝撃。
体が宙を舞う。
「がっ……!!」
地面に叩きつけられる。
呼吸が、一瞬止まった。
⸻
「レイン!!」
リリアの叫び声。
視界が揺れる。
体が動かない。
⸻
「……こんなものか?」
黒い存在が、ゆっくりとこちらを見る。
「神獣と契約したところで——この程度とはな」
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「……っ」
歯を食いしばる。
悔しい。
だが——
事実だ。
まったく、届いていない。
⸻
「ワアアアアッ!!」
リリアが突っ込む。
全力の一撃。
「はあああっ!!」
⸻
——キィン
弾かれる。
「うそ……!」
剣が通らない。
いや、それどころか——
「無駄だ」
軽く払われただけで、リリアの体が吹き飛んだ。
「きゃあっ!!」
⸻
「リリア!!」
叫ぶ。
だが、動けない。
⸻
「グルルルルッ!!!」
フェンが飛び出した。
怒りの咆哮。
神獣としての力を、最大まで解放する。
⸻
「ほう……」
黒い存在が、わずかに興味を示す。
「それが本来の姿か」
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フェンが突撃する。
圧倒的な速度。
爪が閃く。
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——ガキンッ
止められた。
「……なっ!?」
俺の目が見開かれる。
神獣の一撃が——
片手で、止められている。
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「悪くない」
黒い存在が呟く。
「だが——足りん」
⸻
次の瞬間。
フェンの体が——
弾き飛ばされた。
「ワンッ!!」
地面に叩きつけられる。
⸻
「フェン……!」
頭が真っ白になる。
⸻
「これが現実だ」
黒い存在が、冷たく言い放つ。
「お前たちは、まだ“ここ”に来るには早すぎた」
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悔しさが、込み上げる。
何もできない。
守れない。
届かない。
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「……まだだ」
それでも、声を絞り出す。
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「ほう?」
黒い存在が、わずかに目を細める。
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「まだ……終わってねえ」
体が震える。
立ち上がる。
ボロボロでも。
限界でも。
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「……面白い」
黒い存在が、わずかに笑った。
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「だが——ここまでだ」
手が、ゆっくりと上がる。
その動きだけで、空気が歪む。
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「次に会う時までに——」
低い声。
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「少しは強くなっておけ」
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次の瞬間。
黒い霧が、霧散した。
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静寂。
何も残っていない。
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「……逃げた?」
リリアが、かすれた声で呟く。
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「いや……」
俺は拳を握る。
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「見逃されたんだ」
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悔しさが、込み上げる。
今のままじゃ——
届かない。
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「……強くなるぞ」
俺は呟いた。
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フェンが、ゆっくりと立ち上がる。
「ワン……」
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「次は——勝つ」
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その決意だけが、確かに残っていた。




