#10風来石
ガヤガヤと様々な音が混ざり合って響いている。
そういえば僕の名前、嵐山光迅っていうですけど、そのままだなってよく言われるんですよ、なんでだとおもんます?
自分の漢字をふらふらと空で書く。
名が体を表している。
破天荒で人を振り回す。そして嵐のように跡だけ残して去っていく。
はっ
鼻から息が漏れ出た。
んな笑いはりましたね。なにが面白いんですか。
そうですよ、光に迅とか速いと速いの組み合わせですよ。
親どれだけ急かせば済むんや。
空気読めねえって言われるし、
遊びに誘ったのに帰られるし、
ゆっくりと下に首が垂れていく。
沈んだ気持ちを鼓舞するように、両手でテーブルでリズムを刻んでいる。
だんだんと周りの騒音と溶け込んでいく。
悪気があったわけではない。
そのままだったからだ。身をもって表されている。
異世界の住民のような人と違うと無意識にわからせられる。
そのままなんですね。
あーもうみんなそう言う、
お兄さんはなんなんですか、
目を回して、這いつくばって、挙げ句の果てにはちょいとついただけで内側から崩れるような
やわやわ人間じゃないんですか。
‥違うとは言い切れませんね。
そう言いながらポケットを探ると、タバコの箱があった。
勢いのままに一本取り出して、テーブルにあるマッチで火をつけようとした。
あなた酒だけじゃないんですね、
次は煙に巻かれるってか。
生き生きとして指をさす。
命令されたペットのように、一瞬怯んで持ち上げたマッチ棒が空中で止まった。
その視線はついに自分の全てを見透かしてきた。
背筋が冷える。
同時に自分の部屋の風景が頭をよぎった。
隅にある空き缶の山、
灰皿に溜め込まれた殻、
鬱々とした感情が張り付いた換気扇。
人の手が加われば、跡もなく消し去られる自分を証明する物たち。
反論はできなかった。
決まりが悪く、マッチを元に戻した。
火がついていないタバコも戻そうとしたが、彼がじっと見つめてくる。
思わず手を止めた。
なんですか。
いやなんもありまへんよ。
なんもないんで出ますか。
言い終わるのと同時に席を立った。
酔いが覚めたように、スタスタと伝票を持って会計を済ませに行った。
目で追うだけだったが、置いていかれるわけにはいかないので、
急いでタバコをしまって席を立った。
先に外に出ると夜風が髪を撫でた。
引き戸が大きな音を立てて勢いよく開いた。
あー美味しかった。
お兄さんまた僕に借りができましたね。
重力を持たない声が、真後ろから飛んできた。
振り返ると、灰色の上着を羽織った別世界の住民が立っていた。
街灯に照らされて、うっすらと笑みを浮かべた口の中には、亜空間が広がっている。
自分はただそれを見つめていた。
何が面白いんですか。
そう言ってまた違う笑みを浮かべたあと、二人で明るいほうへ歩き始めた。
店を出てからしばらく無言で歩いていると昼間に行った公園が見えてきた。
ポツンと立っているライトは一番大きな遊具を優しく照らしている。
ここらでほなさいならしましょか。
道路の真ん中でいきなり立ち止まった。
その後、自分の返事を待つことなく体を翻して去っていった。
お疲れ様です。タケノハラです。
10話です。二桁行きました。




