黒い雨
一歩、前へ。
「わぁ……」
…夜空に、星が見える。
風が顔に当たって、空気が身体に入って…
当たり前のことだけど…
息を吐く時に、実感した。
これが……
「…自由。」
いや…まだだ。
外に出られたからといって、自由になれた訳ではないんだ。
これからなんだ…行かなきゃ!
でも、その前に…
「あの…助けてくれて、ありがとう。」
彼の勇気がなかったら…
今頃、僕は…
「ごめんね。君の対価に見合ったことを僕には、できないけど…」
何か…僕にできることはないだろうか…
『キイテ…クレタ。』
「え……?」
『…アリガ…トウ。』
僕…
聞いた…だけだよ?
「待っ…て…」
でも、それで…
「賢斗?…誰か居るの?」
君の胸に…つかえていたものが、少しでも和らいだなら……
「…ありがとう。お母さん、来てくれて。」
君も、前へ進めたのかな…
…………………………………………
『ミユキ………巫幸?何故…見つかった?早すぎる…』
『…いえ。もしも…あれが追っ手だとしたら…考えられるわ。…あなたも気をつけて!』
『……既に遅し。』
ザァ ────────────────ッ
部屋中に…黒い雨が降っている。
これは…追跡者が現れる兆候……
どこまで…食い止めることができるか…
私の…力で…
………ゴオオオォォォォ……
『賢斗……くっ…』
乗り…越えろ…
ゴオォォ…ォォオゴオォォ…ォォオオォォ…
……ォォオゴオォォ…ォォオオォォ ……
─────── ドォンッ ───────
「やだ…雷?賢斗、車に乗って。急ぎましょ!」
星空に、一筋の稲妻が…
地面を突き刺したように…
───── ズキッ……
運転席に……誰?
「お母さん…その人は?」
「あ……友人の……」
「吉岡です。…賢斗くん、よろしくね!」
…友人。
夜中に、車を出してくれる…友人?
「…………。」
僕の中にも…
稲妻が…落ちたような気分だ。
「賢斗?あのね……吉岡さんは…レストランを経営していて……」
お母さん…
恥ずかしそうに、顔が赤くなってる。
「…色々と、相談を聞いてくれたり…」
僕の知らない……女の顔をしている。
「えっと…賢斗くん。高速を使えば、1時間と少しで着くみたいだよ?深夜だし…」
───── ズキッ……
名前を呼ばれただけなのに…
心臓を鷲掴みされたような…圧迫感。
…息が苦しい。
………ゴオオオォォォォ……
「…そうですか。」
さっきまで、あんなに前向きに考えられていたのに…
「ねえ…賢斗。お母さん…吉岡さんに、無理を言って車を出してもらったの…だから…」
分かってるよ。
僕の態度、悪いよね?
本当は、感謝するべきだって…分かってるさ!
でも…
どうしようもなく、イライラする。
お母さんの顔を…見たくない程にね…
……ゴオオオォォォォ………ォォ…
「お母さん…」
だから、敢えて困らせたい。
「………好きなの?」
…ゴオォォ…ォォオゴオォォ…ォォオオォォ…
いつの間にか、車窓から星が見えなくなって…
黒い雲が…
段々と、近づいて来るように…
「な…賢斗?そんな……」
僕の心にも…
ドロドロとした…何かが広がって…
「賢斗くん。…お母さん…いや、紗希子さんのことが……好きです。」
黒い………
「僕は、お母さんに…聞いているんだ!」
ザァ ────────────────ッ
黒い雨が…
「…好きなの。」
………降っているようだ。
ザァ ────────────────ッ




