悪夢
一太は昨日の出来事が頭から離れずにいた。俺がもっと強ければ、あの時の「やめろよ!嫌がってるだろ!」も決して恥ずかしいフレーズに収まらずに済んだのに。「あのー、どうかなさいましたかぁ?」くらいにして話し合いで解決するように持って行った方がよかったのかな。いや、そもそも俺は、父さんと母さんを殺したやつに復讐してやると誓ったはずだろ。あんな不良相手にやられて、女の子一人守れないようでは、復讐なんて無理だ。よし、強くなろう。でもどうやって?筋トレ?格闘技のジムに通う?そもそも健は何であんなに強いんだ?格闘技とか武術をやってたとか聞いた事ないし。才能?才能ならズルいとしか言いようがないな。明日聞いてみよう。ん?外が明るいな。
「健!一太!雫!朝ご飯よー!」
寝られなかった。
一太の顔は昨日殴られて口元は切れ、頬は腫れ、目の下には熊ができていた。
その顔を見て、健と雫は笑った。
正次郎には、不良に負けてんじゃねぇ!と喝を入れられ、陽子には喧嘩なんてしないでーと泣かれた。
この日の陽子はいつもの涙と合わせて四回泣いた。
喜怒哀楽がいっぺんに揃う朝も珍しい。
熱々の味噌汁が、切れた口元と心に染みた。
そんなこんなで登校し、教室に入ろうとすると後ろから、
「健くん!お連れの方!」
と呼ぶ声が聞こえた。一太には振り返らなくてもわかった。美央だ。
今日は恥ずかしさは消えている。顔を見れる。振り返って初めて美央の顔を見た瞬間、ベタではあるが一太は全身に電気が走った。クリっとした綺麗な瞳、シャープな鼻にちょうどいいサイズの口。艶のある黒髪、セミロング。一太は、天使ってホントにいるんだと思った。
「昨日は助けてくれてありがとうございました!これ、昨日のお礼です。マドレーヌを作ったので二人で食べてください。」と言うと美央は一太に絆創膏を渡して隣の教室に入って行った。
一太は美央の姿が見えなくなってもまだずっと美央の去った方を見ていた。
「一太!何やってんだよ。早く教室入れよ。」と言う健の声も聞こえなかった。
一太は恋をした。
健はすぐにマドレーヌを食べていたが、一太はもったいなくてまだ食べていなかった。絆創膏は家の自分の勉強机の引き出しに締まった。
その日の夜、一太は美央のことが頭から離れなくて一睡もできなかった。
ニ日寝ていない一太は39度の熱を出した。
あまりのしんどさにやっと眠る事ができた。
眠れなかった分を取り返すように三日間眠り続けた。結果的には寝過ぎた。
三日間のうちにいくつか夢を見た。父と母の夢、美央の夢。マドレーヌを雫に食べられる夢。
そして最後に不思議な夢を見た。
どこか見覚えのある大きな城。行ったことがあるのかテレビか何かで見たことがあるのかはわからない。その城の広場で、なぜか大人になった健と向かい合って立っていた。相変わらずイケメンだ。お互い日本刀持って構えている。健の目は殺気に満ちていて、今にも攻撃をしてきそうだ。健は一太にギリギリ聞こえるくらいの声で
「一太。俺はお前が憎い。お前さえいなければ。す○?△□ん!」
と言った。最後の方は言葉になっていなかった。全く聞き取れなかったが、雰囲気的になぜこうゆう状況になっているのかがわかるような大事なことを言っていたのだろう。
そして、刀を振りかぶり一太目掛けて一太刀!!
と行く直前で目が覚めた。
一太は何故か泣いていた。
目の前には健と雫がいた。
「お兄ちゃんが起きた!!えっ?なんで泣いてるの?」
と雫が不思議そうに見ていた。
「よくわかんないけど、ほれ!これを食べな。」
と健は一太に美央からもらったマドレーヌを渡した。
夢で見た殺気は全くない、中学生の健。そんな健を見て安心した一太はマドレーヌを一口食べた。
三日経ってパサパサになったマドレーヌが渇いた口の中のわずかな水分をも奪い、喉に詰まっていった。
急いで水を口に含み、ことなきを得たが本気で死ぬかと思った。
マドレーヌの味は三日も経つと正直美味しくなかった。
マドレーヌはもらったらすぐ食べる。あと、寝起きには食べない!一太はそう誓った。




