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砂漠の町 そのろく

 街道を歩くパセリは失望していた。

「なんでどこの店もやってないんだようぉ……」

 宿周辺の建物を巡った二人だったが、ついぞ営業中の店を見つけることができなかった。大抵のところはシャッターが降りていて、『クローズ』の立て札がかかっていた。『オープン』と出ている店もあるにはあったが、中に入っても店員が誰もいない。客もいない。それどころか商品と呼べるものがなかった。両肩に乱立するシャッターの降りた建物の並びは、地方のうらぶれた商店街じみていた。無軌道な若者がペイントする、同じ穴のむじなにしか理解できないシンボルマークが描かれていたら完璧にシャッター街の様相だった。


「おかしいですね。さすがにこうも人がいないと怖いですよ」

 ゴーストタウンのような町を歩く二人は、やがて先ほどの死体があった場所へと着いた。すでに死体は片づけられて警察も撤収し、人垣は消えていた。

「おや。仕事の早いこと」

「手際がいいですね。ここでは茶飯事なんでしょうか?」

「おっそろしい町だねえ。頼りになる警察がいれば安心だけど」

 パセリは水筒を取り出して水を口に含んで飲み込む。水は大切なものだから節約して飲むように心がけている。

 水筒のキャップを閉め、空を仰いだ。太陽が傾き、西日のオレンジの光が天を染め上げる。こんな時にはハッカをくわえたいものだ、と思ったが残りの数を思うとそうやすやすと手を伸ばすわけにはいかない。あきらめて心の中だけでハッカの爽快感を味わうことにした。

「あー疲れた。宿に戻ろっか、エスタちゃん」

 隣にいるはずのエスタシアに声をかける。しかし返答がなかった。不審に思ったパセリは顔を向けるが、そこにエスタシアの姿はない。

「エスタちゃん?」

 きょろきょろと辺りを見回してみると、彼女は一軒の建物の前に立っていた。窓から中を覗いている。

「なにしてんの?」

「いえ、ちょっと気になりまして。なんだかどこの家にも生活感というか、人の気配を感じないんですよ。ほら、この家も誰もいません。おかしいと思いませんか?」

 言われてパセリは建物内を覗いてみる。確かに誰もいない。少なくともここ数日、誰か人の手が加わったようには見えない。遠目からでも埃が被っていることがわかる。

「旅行に行ってるんだよ、きっと」

「そうでしょうか……。ドリガルさんが言ってたように、この町はちょっと不気味ですね。明日すぐに出発しましょう」

「あたしたちが明日の太陽を拝めたら、ね」

「え、縁起でもないこと言わないでくださいよー……」

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