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砂漠の町 そのなな

 日が暮れた頃、パセリとエスタシアは宿に戻って来た。カウンタに店主の姿はなかった。部屋に入った二人がまず目撃したのは、一心不乱に脇目も振らず、ただただ拳銃を磨きながら鬼気迫る表情で笑っているドリガルだった。エスタシアは目を丸くして固まり、パセリはやれやれまたか、と肩をすくめる。


 食事は魚の缶詰を開けた。早くに食べ終わったパセリがドリガルの魚を取ろうと十重二重の手を講じて挑んだが、そのどれもがドリガルの完全無欠なガードの固さの前には無意味だった。しかし意外なことに、今まで静観していたエスタシアがここでついに挙兵し、正面からドリガルに挑んだ。まさかエスタシアが参戦するものとは思っていなかった彼女は虚を突かれた形となり、あっさりと懐への侵入を許してしまう。そして見事ドリガルから魚を奪取することに成功した。


「こういうのなんて言うんだっけ。岩海苔?」

「たぶん漁夫の利って言いたいんだろうな……」

 がっくりとうなだれたドリガルは、力なく突っ込んだ。


 食事の後はそれぞれシャワーを浴び、眠った。砂漠の夜は太陽の出ている昼間からは考えられないほど寒くなる。しっかりと防寒しなくてはとても寝ていられない。


 皆が寝静まった頃、パセリはひとり目を覚ました。エスタシアのベッドに潜り込もうという算段だ。ここから隣のベッドまでの距離、エスタシアの体勢から自身が取るべき最良の移動ルート、侵入経路をシミュレートする。

(よし、準備完了。これより作戦名『エスタちゃん抱きしめ作戦』を決行する――――)

 心の中でそう意気込んで、いざ行動開始、

「ん?」

 というところで、パセリの動きが止まった。

(部屋の外から話し声? 一体誰がこんな時間に)

 ぼそぼそと低い声が聞こえる。言葉までは聞き取れないが、音の違いから二人以上いると断定する。

(魚人の街だったら強行突破してくるんだろうなあ)

 いつだったか視た映画の内容を思い出して苦笑しつつ、静かに枕元に置いてあるガンベルトへ手を伸ばす。彼女の手には口径の大きいリボルバーが握られていた。ベッドから抜け出し、そろそろとドアの影へ中腰で移動する。ドアを貫通するものを突き刺してくるかもしれないので、真正面には立たない。男の声はさっきよりもよく聞こえるが、何と言っているかはわからない。知らない言語を使っているのだろうか。

(どうしたもんか……。こっちから仕掛ける?)

 外開きのドアだったので、ケンカキックでこちらから先手を取ることができる。だが、もしも自分たちに害意のない人間がいた場合は被害を与えてしまう。

(…………)

 数秒考えた後、

(まあいいか!)

 答えを放棄した。

「フリイイイイズ! 誰ひとり動くな! これは訓練ではない、脅しだ!」

 素早く銃を構え、左右を見渡す。

「な、なんですかぁ!?」

「うきゃあああ!」

 エスタシアが驚きの声をあげ、ドリガルはソファから転落した。

「…………あれ?」

 誰もいない。窓から入る淡い月の光が廊下を照らすが、どこにも異物は認められなかった。ただ冷たい空気が静寂と闇を湛えるのみ。

「何事ですか?」

「いたた……。あれ、真っ暗だ。何も見えない!」

「あー、うん。気のせいだったのかな。やけにリアルな気のせいだったみたい」

「はあ」

「うわー! うわー! 敵襲を受けている! HQHQ、至急増援を送りたし!」

「とゆーわけで寝よ寝よ。ふあー、無駄に睡眠時間を削っちゃったよ」

「何もないんならそれでいいですけど。……ドリガルさん、大声出さないでください。周りのお客さんに迷惑ですよ。いるのかわからないけど。あと頭にタオルケットが被っているだけですよ」

「あれ?」

 再び静寂が訪れる。パセリはしばらく警戒を解かなかったが、これ以上起きていても無駄だと判断して眠りに落ちた。

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