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エンド・オブ・ファンタジア〜異世界人にアンデッドにされたので元凶を全て滅ぼします〜  作者: 古木花園
王国壊滅編

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激闘

「……さすがに仕留めたか」

ぐちゃぐちゃに内側から爆散し、完全に動きを止めた超巨大肉塊の残骸を見下ろし、カシウスは激しく息を荒らげながらも、血塗られたメイスを握る手を微塵も緩めようとはしなかった。


「サイマンさん! やりました、終わりましたね!」


周囲にいた聖騎士たちから、歓声が湧き上がる。押し潰された同胞たちの仇を討ったのだという安堵。サイマンもその言葉に僅かに表情を和らげかけたが、隣に立つカシウスが「待て」と低く重い声でそれを制した。カシウスの目は、なおも肉塊の残骸を凝視したままだ。

異変はすぐに訪れた。

先ほどまで巨大な球体に文字通り「巻き込まれ、付着していた」数々のアンデッドの死体。そして――たった今、その肉塊に押し潰されて命を落としたばかりの、サピエンティアの仲間たちの死体が、グラグラと不自然に四肢を蠢かせ、一斉に起き上がり始めたのだ。


「う、うそだろ……。たった今死んだばかりの奴らまで、もう……!?」


聖騎士たちがにわかに動揺を見せる中、サイマンは怒りに眉をピクピクと震わせ、激昂に近い怒号の号令を放った。


「総員、構えッ!! 目標、起き上がったアンデッドどもを再討伐せよ!!」


サイマンが握る剣の切っ先は、細かく震えていた。それは恐怖によるものではない。あまりの理不尽に対する、猛烈な「怒り」の震えだった。握りしめる拳の圧が強すぎて、鋼の剣の柄がミリミリと音を立てて破壊されてしまいそうなほどだった。

他ならぬ、つい数分前まで背中を預け合っていた仲間の死が、目の前で、怪物どもの手によってこれ以上ない形で冒涜されたのだ。

しかし、異変はそれだけに留まらなかった。起き上がった死者たちは、皆一様に、通常のアンデッドとは明らかにその肉体が異なっていた。

彼らの身体は、内側からブクブクと肥大化した脂肪のような皮膚で腫れ上がり、まるであの球体アンデッドの特性を引き継いだかのように、ある者は足が不自然に膨れ、ある者は頭部が巨大化し、またある者は手や腹が歪に膨張していく。死体の変異種――多種多様な『膨張型アンデッド』が、そこに瞬く間に形成されていた。


「どうやらこいつらも普通じゃねぇみたいだ! 警戒を怠るな!!」


カシウスがメイスを大きく振り上げ、かつて仲間だったはずの、無惨に膨れ上がったアンデッドの脳天へと叩きつける。その顔は、顎に刻まれた3本の古い傷跡よりも深く、引き裂かれるような悲しみに暮れていた。

ドシャッ!! と、骨の砕ける音と共に頭部を完全に叩き潰す。

カシウスの真横を他のアンデッドに追撃しようとした兵士が映った。


「ど阿呆!近寄るな!」


その瞬間だった。潰された頭部、そして膨れ上がっていた肉の部分が、まるで信じられない威力を秘めた爆弾のように、激しい爆風を伴って四方に弾け飛んだのだ。


「っ……!?」


長年の戦勘により、カシウスは叩きつけた直後に鋭いバックステップを踏んでいたため、間一髪でその肉色爆発の直撃を避けることに成功した。しかし、運悪く切り込んでいた一人の聖騎士が、その至近距離での爆発をまともに顔面に喰らってしまった。


「ぎゃああああぁぁぁっ!!」


顔面を血まみれにして絶叫する聖騎士。だが、驚愕すべきはその後だった。爆発の肉片を浴びた彼の顔面が、その場でブクブクと一瞬にして腫れ上がり、人間の理性を失った狂乱の瞳となって、瞬時にアンデッドへと転化したのだ。傷口からウイルスの如き魔素が超高速で脳を書き換えたのだ。


「なっ、なんと……言うことだ……っ!」


そのあまりにも異常な転化の速度に、百戦錬磨のカシウスが驚愕に目を見張る。


「近接戦闘は避けよ!! 全員、後退しながら遠距離魔法で仕留めるんだ!!」


サイマンが即座に戦況を判断し、生存している聖騎士たちへ命じる。彼らは涙を呑んで、かつての同胞に向けて神聖魔法の呪文を唱え始めた。サイマンもまた魔法を扱えるため後方に下がり魔術を構築する。


傷つき、死んでいった仲間が、容赦なくその場で悍ましい怪物に成ってしまう。そして生者である自分たちは、その仲間だった動く肉塊を、自らの手で容赦なく殺さなければならない。

ここは、なんという地獄か。

サイマンは白銀の剣を血に濡らしながら、心の中でこの狂った世界そのものを深く、激しく呪った。





 一方、路地裏にてメイデスの三重雷線――『ライトニング・レイ』をまともに浴び、地面に突っ伏していた2体の新種アンデッド、ケビンとライ。

その様子を屋根の上から厳重に窺っていたヘリオスは、完全に動きを止めたと見て、肉のカーペットが敷き詰められた路地へと静かに降り立ち、折れた剣の残骸を構え直した。


「おい、油断するなよ。まだ呪文を唱え続けろ、嬢ちゃん」


背後の物陰に向かってヘリオスが指示を飛ばす。言われずとも、肩を負傷したメイデスは脂汗を流しながら、必死に多重の術式を編み込み続けていた。ヘリオスは内心で「よくやってる」と彼女の根性を褒めておく。

普段の小規模な索敵であれば、アンデッドなど最初の一撃で完全に沈んでいるはずだった。今回は特大の高位魔法をすでに二撃。ドラゴンやトロールの討伐戦をやっているわけでもないのに、これほど骨を折る相手は初めてだった。だが、倒れたこいつらの脳天を完全に潰して破壊するまでは、絶対に安心はできない。

ヘリオスが息を整え、地に伏したライの頭部へ向けて、残された刃を垂直に突き刺そうとした――まさにその瞬間だった。

激しい雷撃によって全身を黒焦げにされ、完全に沈黙していたはずの『角のアンデッド』――ケビンが、あり得ない速度でガバッ、と立ち上がったのだ。

それも、アルフレッド爺さんとの戦闘で失った、欠損した右腕を「完全に再生」させて。


「しまっ――」


ヘリオスの全身に、これまでに経験したことのないほどの強烈な悪寒が走った。彼は本能的に突き刺そうとした剣の軌道を強引に戻し、眼前に迫るケビンの反撃に対して防御の型を図る。

しかし、立ち上がったケビンの尾骨から、鞭のように鋭く伸びた一本の「尻尾」が、ヘリオスの防御を外側から強烈に跳ね除けた。

パキィンッ! と軽い音を立ててヘリオスの鋼の剣が真っ二つにへし折れ、その凄まじい肉体の質量による衝撃で、ヘリオスの頑強な身体はゴミ屑のように後方へと吹き飛ばされた。

ドガァァンッ! と、民家の石壁に背中を強く打ち付けられながら、ヘリオスは地面を転がる。

視界の先、立ち上がったケビンの右腕は、先ほどまでの人間のそれとは完全に異なり、真っ黒な禍々しい鱗に覆われ、関節の至る所から鋭利なトゲのような骨が突き出していた。さらに、先ほどまで胸にポッカリと空いていた生前の空洞は完全に筋肉の繊維で埋まり、その代わりとして、鈍い輝きを放つ、ド派手で巨大なクリスタルのような『真っ赤な魔晶石』が、心臓の位置から脈打つように突き出していた。

まるで、お伽話に出てくる黒い悪魔そのものの出で立ち。

ヘリオスは口内から溢れ出た赤黒い血飛沫を地面に吐き捨てながら、折れた肋骨の激痛に耐えて何とか立ち上がる。

同時に、赤黒く肌を焼かれていたライもまた、不気味に立ち上がった。彼女の口元は真っ赤な鮮血でドロドロに濡れ、その鋭い牙の隙間には、千切れたアンデッドの「肉片」が残されていた。

彼女の口元が汚れているのは、周囲の肉のカーペットのせいではない。彼女は先ほどの雷撃のダメージから回復するため、周囲に転がっていた他の死者の肉を、貪り「食って」いたのだ。それも同類どもの魔晶石を捕食したことにより、まるで失った全活力を強制補給したかのように、その身体には先ほど以上の禍々しい力が漲っていた。


「ちっ……はぁ……はは……。再生かよ……。いくら何でも、反則だろ……っ」


自身の呼吸が上手く続かないことから、ヘリオスは確実に肋骨が数本へし折れていることを痛感していた。


「――撤退だァァァー!!! 総員、これ以上の交戦を禁ずる! 直ちに撤退せよ!!!」


その時、遠方の正面街道から、限界まで声を張り上げたカシウスの地を這うような号令が響き渡った。あの豪傑のカシウスが、全軍撤退を選んだのだ。

その声を聞いた瞬間、ヘリオスは残された僅かな力を全身の筋肉に込めた。

ヘリオスの動きと同調するように、物陰のメイデスが即座に手にした杖から呪文を放つ。放たれたのは、重ねがけの時間を省略した、通常の単発『ライトニング』。

だが、その雷線が空中を走るよりも早く、捕食を終えたライの身体が爆発的な速度で動いていた。彼女の十本の凶爪が、路地裏の木箱や石壁を豆腐のように切り裂きながら、凄まじい突進力で迫り来る。

ケビンは己の右腕のトゲを誇示し、鞭のようにしなる尻尾を周囲に激しく振り回してヘリオスの退路を断つ。ヘリオスは全集中力を限界まで保ち、紙一重の境地でその死線の攻撃をかいくぐるが、彼らの本当の狙いはヘリオスではない。その後方にいる、術師のメイデスだった。

単発のライトニングなど微塵も効いていないかのようなライの猛烈な突進に対し、メイデスは完全に慌てふためきながら、必死に高速で次の防御呪文を詠唱しようとする。しかし、ライの凶爪が彼女の喉元を切り裂く寸前、ヘリオスが間一髪のところでその間に自らの身体を割り込ませた。


ザグゥッッッ!!!

ライの5本の長い爪が、ヘリオスの無防備な背中を深く、容赦なく引き裂いた。美しいはずの彼の紫色の長い髪が、飛び散る鮮血と共にバラバラと大空へ舞い散っていく。


「が、はっ……!」

だが、ヘリオスは止まらなかった。背中をズタズタに裂かれながらも、彼は前方のメイデスの身体を両腕でしっかりと抱き上げると、人間の限界を超えた脚力で迫り来る死者の追撃を拒絶し、民家の壁を次々と蹴りながら、血の尾を引きつつ退避ルートへと走り去った。

運が良かったのは、ケビンとライの2体が、これ以上の深追いをしてこなかったことだろう。彼らもまた、人間を喰らう衝動と、内なる理性の崩壊に必死に抗うため、その場に留まるしかなかったのだ。


「へ、ヘリオスさん……! そんな、嘘です、私のせいで、背中が……!!」


腕の中で恐怖と罪悪感に顔を真っ白にするメイデスに、ヘリオスは途切れ途切れの息で呟いた。


「気にするな……嬢ちゃん……。俺は、これくらいじゃあ……」


なんとかサピエンティアの防衛陣地まで走り抜けた二人を、血まみれのカシウスが抱きかかえるようにして受け止めた。


「ヘリオス! クソ、お前ほどの男がここまでやられるなんて、一体向こうで何が起きやがった!! おい! カイン! アベル! ジュドー! こいつらを今すぐ馬に乗せてやってくれ! 重症だ!!」


カシウスの怒声に、待機していたカインとアベルがすぐさまヘリオスの巨体を担ぎ上げ、ジュドーがメイデスの身体を横抱きにする。


「わっ、私は大丈夫です! 私は歩けますから、ヘリオスさんを先に!!」


メイデスは必死に叫ぶが、彼女の肩もまた先ほどの木杭の破片によって深く裂け、尋常ではない量の出血をしていた。


「そんなわけにいかないでしょう。あなたも大怪我だ、早く手当てを!」


ジュドーが怖い印象の瞳を真剣に歪め、彼女を諭すように馬の背へと乗せた。

彼らは馬の腹を激しく蹴り、血の跡を残しながら、元冒険者ギルドの駐屯地へと全力で引き返していった。


「直ちに負傷者の手当てを開始せよ!! 応急班、急げ!!」


ギルドの内部では、帰還を待ち構えていた救護部隊の応急班が、血相を変えて天幕で区切られた臨時治療所へと負傷者たちを運び込んでいた。

すでに作戦室の一階は、正面戦線で爆発に巻き込まれた数多の聖騎士たちで埋め尽くされている。阿鼻叫喚の地獄の中、衛生兵たちがヘリオスとメイデスの傷口に、すり潰した特製の薬草を大量に塗りたくっていく。

患部がジクジクと焼けるような、悶絶するほどの激痛が伴うが、戦場では仕方のないことだった。さらにその上から、衛生兵たちが「浄化」の呪文を唱える。生者には一切の危害を加えないはずの聖なる浄化の炎が、傷口に付着したアンデッドの穢れた魔素を焼き尽くすように、温かく、そして激しく患部を包み込んでいった。

あとは、清潔な布で患部を厳重に包み、静かな場所で安静にさせておくことで、人間の持つ本来の自然治癒力に頼るしかない。

この世界において、肉体の欠損や致命傷を一瞬で繋ぎ合わせるような『回復魔法』は、世界の在り方や生老病死の理を歪める「神への冒涜・禁忌の行い」として、サピエンティア教会の厳格な教義により固く禁止されていた。そもそも、その術式を使える者自体が、全大陸を探してもほとんど存在しないのが現実なのだ。

よって、この原始的な医療措置が唯一の方法だった。幸いにも、現在の王都内は魔素濃度が異常に高いため、正しく処置さえすれば、生者の細胞の活性化による自然治癒力の向上が見込めるはずだった。

しかし――ヘリオスの負傷は、そんな生温かい措置でどうにかなるレベルの状況ではなかった。


「うぐっ……ヘリオスさん……! ヘリオスさん!!」


自身の肩の傷も十分に深いはずのメイデスだったが、天幕のベッドから無理やり立ち上がると、フラつく足取りで隣のベッドに横たわるヘリオスの元へと駆け寄った。


「…………っ、……あ、は……」


ヘリオスの全身は、傷口からの感染と、急激なショックによって恐ろしいほどの高熱を発していた。隻眼の目は虚ろに濁り、胸の上下も今にも止まりそうなほどに浅い。

患部にすぐさま浄化の炎が当てられたものの、ライの5本の凶爪によって切り裂かれた背中の傷はあまりにも深く、広範囲の筋肉だけでなく、脊椎の骨までをも無残に叩き切っていた。この状態で、よくメイデスを抱えてあの距離を走り抜けることができたものだと、奇跡と言うほかない絶望的な状態だった。


「そんな、ダメ……嘘です、ダメです!! ……ヘリオスさん! ひ、死んじゃ、死んじゃダメです!!」


メイデスは目から大量の涙を溢れさせ、鼻水を垂らしながら、だらしなく顔をクシャクシャにしてヘリオスの固い肩を激しく揺さぶる。


「……揺らす、な……。俺なら……大……丈、夫……だ……」


死の淵に瀕したヘリオスは、もはや正常な言葉を紡ぐことすら満足にできなかった。

周囲で同じように治療を受けていたサイマンも、カシウスも、動かないヘリオスの姿を見て、かつて多くの戦場を共にした冒険者の「死」を、直感的に悟らざるを得なかった。

カシウスは悲痛に満ちた表情のまま、ゆっくりと傍らに置かれたメイスの柄へと手を伸ばす。万が一、彼ほどの男がアンデッドとして転化してしまえば、この駐屯地は内側から壊滅する。その前に、介錯をしなければならない。


「メイデス。……悪いが、どいてくれ」


言いかけたカシウスに対し、メイデスは激しく首を振り、泣きじゃくりながらも、その顔を真っ赤に変えて猛烈な拒絶と怒りの声をぶつけた。


「そんなの、絶対に嫌です!!! やめてください!!! ヘリオスさんは死にません! アンデッドになんて、絶対にさせません!!! 私を守ってくれるって……守ってやるって、さっきそう言ったんです! 言ったんですよぉぉぉぉっ………!!」


ベッドの傍らでうなだれ、激しく咽び泣くメイデス。カシウスは溢れる涙の跡をそのままに、静かにメイスを持ち上げ、悲壮な覚悟を決めた顔でヘリオスを見つめた。

ベッドの上で消えかけていたヘリオスの隻眼が、ゆっくりとカシウスを見る。ヘリオスもまた、己の最期に対する覚悟は決まっていた。彼は僅かに残された視線だけで、カシウスに向かって「頼む」と頷いてみせた。

カシウスが、友の頭部を叩き潰すべくメイスを振りかぶろうとした、まさにその刹那。

メイデスは、その哀しい生者たちの覚悟を、自らの「全存在」を懸けて絶対に許さなかった。

彼女は、サピエンティア教会の数多の魔魔術書を読んだ。普通ならば読むことかなわないはずの禁忌の魔法も最も古い文献を数々あさり、数少ない資料を全てパズルのピースのように繋ぎ合わせてその禁忌とされる魔術を組み立てしまっていたのだ。教義が何だ。神の冒涜が何だ。目の前で自分を命懸けで守ってくれた男が死のうとしているのに、そんな世界のルールに大人しく従う女がどこにいる。

メイデスは両手をヘリオスの引き裂かれた背中の上へと翳し、喉が張り裂けんばかりの声で、禁断の呪文を紡ぎ、その名を叫んだ。


「――此の者の肉体を繋ぎ、命を癒し給え。……『リライフ(再構築)』ッ!!!!」


瞬間。臨時治療所の天幕の内部が、昼間のような圧倒的な閃光によって埋め尽くされた。

それは、アンデッドを焼き払うあの冷酷な「浄化の光」とは根本的に異なるものだった。どこまでも神々しく、世界の理そのものを力尽くで書き換えるような、圧倒的な慈愛に満ちた「生命の黄金光」が、ヘリオスのボロボロの肉体を完全に包み込んでいく――。


どうも古木花園です!

もし少しでも面白い、面白く成りそうやね!と思った方は是非、ブクマ、高評価等して頂ければ超嬉しいです!

よろしくお願いします!

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