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エンド・オブ・ファンタジア〜異世界人にアンデッドにされたので元凶を全て滅ぼします〜  作者: 古木花園
王国壊滅編

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青天の霹靂、肉塊の断末魔


刃と爪が正面から衝突した瞬間、路地裏に硬質な金属音が木霊した。

ヘリオスは、自身の愛用する鍛え上げられた鋼の剣が、まるで同等の鋼鉄に弾かれたかのような確かな手応えと衝撃に、隻眼の目を大きく見開いて驚愕した。


「おいおい! その爪は、鉄で出来てんのか!?」


驚きを口にしながらも、熟練の冒険者の身体は淀みなく次の最適解へと動いていた。ヘリオスは即座に手首を返し、弾かれた反動を利用した鋭い切り返しから、赤い肌のアンデッドの脳天を貫く直突きの点穴を打ち込む。

しかし、赤いアンデッド――ライは、人間以上の反応速度でその刺突に反応した。長く強靭な爪を巧みに交差させ、迫る切っ先をガチリと正面から受け止めたのだ。そればかりか、彼女は剣を噛み合わせた体勢のまま、軸足を鋭く跳ね上げ、ヘリオスの脇腹に向けて容赦のない蹴りを叩き込んできた。


「ぐっ……!?」


アンデッドらしからぬ流麗で的確な格闘技術。まさかの行動の連続に不意を突かれたヘリオスは、脇腹に直撃を喰らいながらも、瞬時に後方へと自ら大きく跳ぶことで衝撃を緩和させた。

石畳に歪な足音を立てて着地したヘリオスは、苦虫を噛み潰したような顔で、未だにジンジンと痛む脇腹を片手で押さえる。

彼の背後では、黒いローブをなびかせたメイデスが、額に汗を浮かべながら多重詠唱の術式を猛烈な勢いで編み上げ続けている。ヘリオスは彼女の前に立ちはだかるように再び剣を構え直した。


「お前ら……アンデッドにしちゃあ、いくら何でも賢すぎるってな……!」


目の前の2体が、知性のないゾンビとは根本的に異なる「思考する怪物」であると確信し、ヘリオスの声音から軽薄さが消え失せる。彼は剣を一度鞘へと戻し、深く腰を落として抜刀の構えを取った。


「――『一閃』」


刹那、納刀状態から放たれた極速の抜刀術。風を切り裂く鋭い風切音と共に振り抜かれた刃は、目にも留まらぬ速度の斬撃となって赤いアンデッドの胴を正確に捉えた。

だが、危機を察知したライが僅かに重心をずらして跳躍したため、刃は皮膚と肉を深く割いたものの、その胴を完全に切断して奪い去るまでには至らなかった。

ヘリオスの神速の一撃に意識が奪われていた、まさにその瞬間。

もう一体の『角のアンデッド』――ケビンが、唯一の左手に握った細い木杭を、グッと背後へ大きく振りかぶった。その体勢は、重力に逆らうように後ろへ大きく倒れ込むような、一見すれば不自然極まりないフォームだった。

しかし、ヘリオスはその姿勢が次に見せる「結末」を、最悪の形で予感し得た。

ケビンが狙いを定めている直線上――その射線上にいるのは、今なお無防備に呪文を唱え続けているメイデスだった。

ケビンは、自らの不完全な死者の肉体を限界まで「たゆませる」ことで、人間には不可能なレベルのバネを生み出していた。そして、後ろに倒れ込んだ反動を爆発的に解放し、まるで強靭な鞭の先端がしなり戻るかのような運動エネルギーをその左腕へと集中させた。

放たれた木杭の投擲。

それは音速を超えるソニックブームの衝撃波を巻き起こし、空気を引き裂く。あまりの摩擦熱に、到達する前から先端が削れて火花を散らすほどの凶器となった木杭は、メイデスに命中するその瞬間まで、確実にその絶大な殺傷力を失わないであろう速度で直進していく。


「嬢ちゃんッ!!」


横にすっ飛ぶようにして射線へと割り込んだヘリオスは、空中での無理な体勢から必死に剣を振るい、迫る木杭へと斬撃を激突させることに成功した。

大音響と共に木杭の大部分は粉砕されて弾け飛んだ。しかし、粉々に砕け散った鋭利な木破片の雨までは防ぎきれず、その一部がメイデスの防壁を突き破って彼女の身体を襲う。


「ああっ……!」


破片が肉を裂き、メイデスの華奢な肩から鮮血が飛び散った。

激痛に僅かに顔を歪めるメイデス。しかし、彼女の瞳から術師としての光は消えず、その唇が紡ぐ多重の詠唱が止まることは決してなかった。


「ヘリオスさん!!」


彼女の短い叫びだけで、ヘリオスは彼女が何を仕掛けようとしているのかを完全に理解した。ヘリオスは着地の勢いのまま前方に地を這うように疾走すると、迫り来る赤いアンデッドの頭部を躊躇なく踏み台にし、高く上方へと跳躍した。そのまま驚異的な身体能力で近くの高級店の屋根の縁へと手をかけ、一瞬にして安全圏へと身を躍らせる。

視界が開けた。メイデスの前に遮るものは何もない。

展開された三重の魔法陣から、彼女の怒りと共に極大の魔力が解き放たれた。


「「「――『ライトニング・レイ(三連雷線)』」」」


通常の『ライトニング』であれば、対象を焦がす一筋の鋭い稲妻が放たれるのみ。しかし、生活魔法による並列処理を用いた彼女の三重詠唱は、大気を引き裂く3本の青白い巨雷を同時に奔らせた。

それらは空間を歪めながら、互いに絡み合い、弾かれ合い、威力を増幅させながら、路地裏に佇む2体のアンデッドを目掛けて一直線に貫いた。

光速に近い雷の速度からは、いかに驚異的な身体能力を持つライやケビンであっても、避けようがなかった。

凄まじい閃光と爆音。二体の怪物の身体は、骨まで焼き尽くさんばかりの凶悪な電撃に包まれ、焦げ付くような凄惨な煙を上げてその場に沈んでいった。




 一方、大通りに位置する正面戦線では、戦況はさらに混沌を極めていた。

機械義手を持つカシウスのフルスイングによって片目を完全に叩き潰された巨大な球体アンデッドは、その狂気的な激痛によって、大地を揺らすほどの咆哮を上げて激昂していた。

白銀の鎧を纏うサイマンは、その怪物の巨体が、先ほどまでとは「明らかに異なる軸」で回転を始めた瞬間を見逃さなかった。

球体が、自身の傷口からドクドクと流れる血を利用し、滑り込みながら摩擦を無視した異常な全方位回転へと移行したのだ。


「みんな、下がれッ!!! 離れろ!!!」


サイマンの決死の叫び。しかし、その警告はすでに遅すぎた。

周囲で群がる雑多なアンデッドと近接戦闘を繰り広げていた、神聖魔法に特化した聖騎士たちが、退避行動を取るよりも早く――球体はその巨体を猛烈に回転させながら、内部に溜め込んでいたあの「腐肉と臓物のゲロ濁流」を、遠心力に乗せて大通り一帯へと文字通りブチ撒けたのだ。


「うわああぁぁぁッ!?」

「ひっ、来るな――っ!」


絶叫と悲鳴は、容赦なく肉塊の質量にかき消されていく。

最前線にいた聖騎士たちは、逃げる術もなく球体の破壊的な回転に巻き込まれていった。バリバリと骨の砕ける不快な音が響き、一気に十人以上の精鋭たちが、その巨体の下敷きとなって押し潰され、僅かな悲鳴を残して無惨な肉塊の敷物へと変えられていく。


「おのれぇぇぇっ……!」


一瞬にして部下を失ったサイマンの胸に、激しい後悔と怒りが燃え上がる。だが、今は感傷に浸っている暇などない。こいつを今ここで仕留めることこそが、死んでいった者たちへの唯一の報いだ。

サイマンは血の海を蹴って跳躍した。朝日に白銀の鎧をギラつかせながら、彼はダメージを受けて未だ機能していた、怪物の『残されたもう一方の瞳』を目がけて、渾身の力を込めて剣を突き刺した。


「うごぉぉぉぉぉ!!!!」


両目を完全に失った球体アンデッドが、鼓膜が震えるほどのけたたましい絶叫を上げながら、その悍ましい回転をようやく停止させた。

しかし、その急停止の凄まじい衝撃波と、激しい身震いの余波にサイマンもまた巻き込まれてしまう。


「がはっ……!」


激しく弾き飛ばされたサイマンの身体は、街道沿いにある店舗の分厚い扉へと背中から猛烈に激突した。あまりにも強い衝撃。しかし、激突したその店舗の扉はどういうわけか異常に頑強な構造をしており、びくともしなかった。サイマンはその場に崩れ落ち、頭部に受けた衝撃のせいで、そのまま深い意識の闇へと突き落とされ、気絶してしまった。

完全に視界を奪われ、動きを止めた肉塊に対し、今度はカシウスが獰猛な獣のごとく肉薄した。


「うおぉぉぉぉ!!! このクソ野郎がぁぁぁッ!!!」


カシウスは激怒の咆哮を上げながら、機械の義手でメイスを握り直し、回転の止まった肉塊の皮膚へと無数に、文字通り狂ったように叩きつけ始めた。

ドゴッ! グシャッ! と重苦しい破壊音が連続して響き渡り、肉塊はカシウスの滅多打ちによって激しく潰れ、至る所から大量の血を吐き出していく。

生き残っていた他の聖騎士たちも一斉に加勢し、声を揃えて「ターンアンデッド」を連唱。聖なる純白の光が肉塊の巨体を次々と焼き焦がしていく。

球体のアンデッドは激しい打撃と神聖魔法により、段々とその醜悪な形を変形させていく。しかし、これほど肉を削られてなお、その生命力の根源は未だに尽きようとはしていなかった。


「くそっ、これでもまだ動くのか……!」


カシウスが歯噛みした、その時。

ぐちゃぐちゃに変形した球体の中央から、あの悍ましい『大口』が、再びカシウスたち生存者に向けて大きく開き始めようとした。三度目の濁流ブレスの予兆。


「やらせるかぁぁぁッッッ!!!」


その時、石畳の激痛から驚異的な精神力で意識を取り戻したサイマンが、叫びながら正面から飛び出してきた。

彼はふらつく足に力を込め、開きかけた怪物の大口を目がけて、自らの剣を縦一閃に激しく振り下ろした。それと完全に呼吸を合わせるように、カシウスの巨大なメイスもまた、上空から縦に真っ直ぐ振り下ろされる。

白銀の斬撃と、鉄の質量による完璧な同時波状攻撃。

二人の凄まじいコンビネーションが直撃した瞬間、開きかけていた怪物の大口は強引に叩き閉じられた。

その結果――怪物の内部で、まさに今吐き出されようとしていた膨大な「腐肉と臓物の濁流」は、行き場を完全に失い、球体の内圧を爆発的に跳ね上げた。

内部からの大爆発。

行き場を失った濁流は、閉じられた口の隙間を破壊し、さらには潰された両目の穴からも、限界を超えて一気に外部へと弾け飛んだ。

プシューーーッ!!! と、まるで地獄の噴水のように大量の臓物と暗黒の血が上空へと高く噴き出し、高級街の石畳へと激しく降り注ぐ。

すべての肉を内側からブチ撒け、スカスカの肉の抜け殻となった巨大な球体は、今度こそ完全にその機能を停止し、ピクリとも動かなくなるのだった。

大通りに立ち込める、圧倒的な死臭と臓物の雨。

サイマンとカシウスは肩で息をしながら、ようやくこのエリアの支配者を討ち取ったことに安堵した。

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