同胞
「お前も……意識……があるのか?」
動揺のあまり、ケビンはまた舌が上手く回らなくなり、掠れた声を絞り出した。
だが、その問いを投げかけられた金髪の女性アンデッドもまた、驚きに目を見開いていた。彼女の喉からも、ケビンと同じように不器用で、壊れた楽器のような声が漏れ出す。
「わだじも……おなじ……でず(私も、同じ、です)」
そう言った瞬間、彼女の真っ赤な肌の頬を、きらりと光る液体が伝い落ちた。
一筋の――涙だった。
(アンデッドなのに、涙を流すなんて……!)
ケビンは激しい衝撃を受けた。
死体は水分が凝固し、涙腺など機能していないはずだ。だが、自分が無知なだけで、『アンデッド』という大まかな括りで彼らを固定してしまっているだけで、彼女のように高い知性を残したまま、何らかの変異を遂げた「別個体」なのかもしれない。
何はともあれ、お互いに意思の疎通ができる「同胞」であることは間違いなかった。
ケビンはこれ以上の不必要な戦闘を避けるため、左手で握っていた武器――木製のほうきをゆっくりと掲げて見せた。
「と、とりあえず、この武器……ほうきを置くか……ら。だから、もう切らないでくれよ?」
未だに油断はできない。ケビンは最大限の警戒心を解かぬまま、しかし敵意は一切ないことを示すように、ほうきを静かに床へと置いた。
赤い女性アンデッドは、ボロボロと大粒の涙を流し続けていたが、ケビンが武器を捨てたのを見ると、その鋭い5本の爪が自分の顔に当たらないよう、細心の注意を払いながら手の甲で器用に涙を拭った。ケビンは彼女が落ち着きを取り戻すまで、刺激しないように静かにその場で待った。
やがて、彼女はふぅと長い呼気を吐き出し、グシャグシャになった顔のまま、ケビンを真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「わだじは……ゲフン! ――失礼、私は、ライ。ライ・スキンティラ。……あなたは?」
喉の調子を整えるように一度大きな咳払いを挟むと、彼女の言葉はわりかし流暢で、落ち着いたものになった。よく見ると、彼女は非常に端正で綺麗な顔立ちをしており、生前は育ちの良い、自分よりも幾分か年上の女性であったことが窺えた。
「俺は、ケビン・アドマイヤー。……この仮面はさっきつけたばっかりで、今はちょっと、固定されちゃって取れないんだ」
ライの鋭い眼光が、自分の頭部から生えた2本の禍々しい「角」を完全に凝視していたため、ケビンは(化け物だと誤解されないよう、化け物には違いないが…)慌ててそれを訂正した。
しかし、ライは不思議そうに首を傾げ、信じられない言葉を返した。
「そうなのね……。でも、とても『仮面』には見えなかったから……」
「え?」
ケビンはまた素っ頓狂な声を上げてしまった。
ヴィネルバの店で手に入れた時、確かにそれは騎士の兜のような仮面だったはずだ。だが、顔面に無数の管が突き刺さって生体接続された瞬間、まさか自分の頭骨や皮膚と完全に「同化」して、仮面っぽく見えないということだろうか?
自分の異形ぶりに恥ずかしさを隠せないケビンだったが、今はそれ以上に気になることがあった。
「……そんなことはないとは思うけど。それより、ライはどうして、あんなに他のアンデッドを切り裂いていたんだ?」
その質問を口にした瞬間、先ほどまで涙を流していたか弱い女性の気配は一瞬で消え去った。
ライの瞳に、あの凍りつくような冷酷な眼光が戻る。彼女の全身の皮膚が、まるで怒りの火を灯したかのように、さらに濃い、不気味な赤色へと血色を変えていく。
「……奴らのせいで、私の家族は……!」
ライは、怒りと憎しみに声を震わせながら、この王都が崩壊したあの日、自分自身の身に起きた「すべての始まり」の出来事を語り始めた。




