7.受験勉強とケンカ。
少しずつ寒くなってきた11月。
本格的に、受験勉強に取り組む颯斗。
颯斗は頭がいいから住んでる場所から少しだけ離れてはいるけどこの辺りでは1番偏差値の高い国立大学を受験する。
そして予備校にも通い出し、本格的に勉強を頑張っている。合間に車校も通っていて颯斗は、大忙し…。少しだけ寂しいけど…応援している。
放課後予備校に行く颯斗を見送り、あたしは愛ちゃんと遊ぶ予定があるので待ち合わせの場所に向かっている。
先に着いたあたしはベンチに座り愛ちゃんを待つ。
「君、一人?」
と見知らぬ人が話しかけてくる。
いつものことながらとても面倒臭い…。
「違います…友達を待っています」
早くどっか行ってくれないかなぁ〜なんて思いながら返事をする。
「ベンチに座っているだけなのに君絵になるね?可愛いなぁ〜。俺も遊びまぜて欲しいな〜」
としつこい…。
友達待ってるって言ってるのに…愛ちゃん早く来ないかなぁ…。
「あたし彼氏いるので無理です。ごめんなさい。他の人を誘ってください。失礼します」
と頭をペコリと下げて立ち去ろうとすると…
パシっ…あたしの手を握り離さない…。
「…や、やめてください!ほんと無理です」
と、少し怖くなってうるっとするあたしに
「え〜超可愛い」
と全然話が通じない。
こんな時、颯斗がいてくれたら…颯斗の優しさを思い出すあたし…。
そんな時
「ごめんだけど俺の彼女に何してるの〜?」
とこの爽やかな話し方は…三井先輩だ!!
「チッ…友達じゃなくて男かよ。萎えた。じゃーなー。」
とその男は去って行った。
去って行く男の背を見送り
「三井先輩…ありがとうございます!助かりました…はぁ…少し怖かったです…。」
とあたしは本当に心の底からホッとした。
「いーよいーよ。颯斗忙しいもんな?颯斗いない時が増えるだろうから気をつけるんだよ?」
と和かに笑う三井先輩。
「はい…気をつけますね。ありがとうございますっ」
と疲れた笑顔を見せると
「一瞬だけ唯ちゃんの彼氏になれて光栄だったから気にしないで〜?」
と相変わらずな三井先輩がヘラりと笑う。
「ふふふ。相変わらずですね?三井先輩は受験勉強はしなくていんですか?」
「あ〜俺は、専門学校行く予定だから大丈夫〜!今から車校に行くとこだから、俺はもう行くけど、大丈夫?」
と心配そうに笑う先輩。
「はい!大丈夫です!頑張ってください、いってらっしゃい」
とニコリとあたしが笑うと、なんかあった時は電話して〜すぐ行くからと三井先輩は爽やかに去っていった。
すると…
「ごめーん!!唯!遅くなっちゃった!」
と通りの方から走ってくる愛ちゃんが見えて、ホッとする。
「もーう!遅いよぉ!ナンパがしつこくてたまたま通り掛かった三井先輩が助けてくれたよぉ」
と、あたしがムスッとすると。
「わぁ〜ごめんね?カフェでケーキでも奢るから機嫌なおしてちょーだい!」
と手を合わせてニコリと笑う愛ちゃん。
「しょーがないなぁー」
と甘い物が大好きなあたしはチョコケーキをご馳走になる。
「椎名先輩はやっぱり忙しいのー?」
と愛ちゃんがコーヒーを飲みながらあたしを見る。
「うん…最近は忙しすぎて学校帰りに予備校まで一緒について行ったらばいばいが毎日かなぁ…でもしょうがない。受験生だしね〜。わりとギリギリの時期までは常に一緒にいてくれたからあと少しは我慢しなきゃね!」
とあたしは意気込む。
「愛ちゃんは直樹先輩と、どーなの?」
と聞くあたしに
「直樹も予備校三昧よ!椎名先輩みたいにあそこまで頭いい訳じゃないから必死こいてるわね〜。でもあたしたち幼馴染だから家も隣同士だし自由に行き来してて特に寂しいとかはないかしら〜」
と答える愛ちゃんにすごいなぁ…。と感心するあたし。
「そっかぁ…あ、そうだ!土曜日は予備校いつも夕方ぐらいまでなんだけど、夕飯用にお弁当を差し入れに持って行ったら迷惑かな?」
と言うあたしに
「あらぁ〜!それいいじゃない〜!」
と目をキラキラさせる愛ちゃん。
「毎日夕飯一緒食べてたのに最近は家に来れないからさぁ〜、きっと毎日買い弁してるはず…心配になっちゃうよね」
とションボリするあたしに
「持って行ってあげなさいよ〜そんな可愛い差し入れ迷惑なんて思わないわよ」
とあたしの背中を押してくれる愛ちゃん。
「うん!そーする!それに少しでも会いたいし…」
と照れ笑いするあたし。
そして土曜日がやってくる。
お弁当を紙袋につめて、あたしは颯斗が予備校が終わるであろう時間に合わせて家を出た。
そして予備校の出入口が見えるところで待機している。
颯斗には黙ってきちゃったけど…喜んでくれるかな?と一人でワクワクしているあたし。
少しすると予備校の出入口に人がチラホラと現れて、まだかなまだかな?とソワソワしていると…
さっきまでのワクワクは一瞬で消え去り目の前の光景にあたしの胸がズキッ…と音を立てた。
見知らぬすごく綺麗な女の人と話しながら出てくる颯斗。しかもその顔は、珍しく無表情じゃなくフッと笑っている…。
少し笑う颯斗を同じ予備校の人達がキャッキャ言いながら颯斗を見ている。
胸が痛い…。その人は誰…?あたし知らない…。胸がどんどんズキズキとしてくる。
「……。」
声を掛けられなくてその場で立ち尽くすあたし…。
その女の人と話が終わったのか軽く手を上げ、颯斗は予備校の出入口を出る。
そしてスマホを手に取ると耳に当てる
〜〜〜♪〜〜♪
あたしのスマホが鳴り出す…。
あっ…と思った時には既に遅くて颯斗と目が合う…。あたしの姿を見た颯斗は目を見開き、スマホをポケットにいれるとあたしの方に駆け寄ってくる…。
知らない女の人と親しく笑いあってたくせに…あんな姿見たくなんてなかったよ…こっちにこないでよ…。
「唯!一人で来たのか?あぶねぇよ」
と駆け寄ってきた颯斗。
「…うん…。」
俯くあたし。
「なんか用だった?用がある時は俺に言えよ、俺が行くからここまで来るのはあぶねぇから本当に。」
とすごく心配してくれている颯斗。
でも今のあたしにはそんな言葉なんてなにも響かなくて、黒い物が胸の中で溢れる。
なに?用がないと来ちゃダメだった?女の人といるの見られたら困る?だからそんな事言うの?
胸が苦しくて颯斗を見たくなくて顔をあげれないあたし。
手に持つ紙袋を強く握りしめる…。
「唯…?なんかあったのか…?」
と顔をあげないあたしに、颯斗は綺麗な顔を歪ませ、そのサラサラな黒髪の隙間から優しい瞳であたしを見つめる。
その綺麗な顔で優しい瞳であの女の人を見て、いつも無表情の癖にあたしじゃない女の人に優しく笑って、学校でもそんな姿あたしにしかしないし見たことないのに、あの女の人にはするの?特別なの?
「…いやだ……颯斗なんか…きらいだ…!」
と涙が溢れる。苦しくて悔しくて悲しくてあたしは手に持っていたお弁当を颯斗に思いっきり投げつけると走った。
「おい!唯!!!」
といきなりの事に颯斗は目を見開き驚いて立ち尽くしていたけどそんなの無視して走り去った。
ハァハァハァ……。こんなに走ったのは初めてかもしれない…。愛ちゃんの家の近くまで来てしまった…。
スマホを取り出すと颯斗からたくさんの不在着信…。あたしは無視をする…。
そして愛ちゃんに電話をかけた。
「もしもし〜、珍しいわね?どうかしたの〜?」
と陽気な愛ちゃんの声に少しだけ気持ちが落ち着いた。
「愛ちゃん…会えないかな…」
「ちょ、どーしたのよ?そんな暗い声して。今日椎名先輩の所に行くんじゃなかった?」
「…ぐすっ…」
思い出してまた涙が溢れる。
「今何処にいるのよ」
「愛ちゃんちの近くだと思う。──町のコンビニ…。」
「わかったわ。すぐ行くから動かないでね。あんた可愛いくて目立つんだから店の中にいなさい。」
そして電話を切った。
少し待っていると急いできたのか息を切らした愛ちゃんが現れた。
「あ、愛ちゃん…ごめんね…」
とあたしが申し訳なさそうにしていると
「こんな時ぐらい気にしなくていいわよ」
とあたしにニコリと笑うとあたしの手を引き愛ちゃんの家に連れて来てくれた。
そして愛ちゃんの部屋に入り、愛ちゃんが用意してくれた温かい紅茶を飲むと少し落ち着いた。
「で…なにがあったのかしら?あたしが唯のところに向かってる間に直樹、蓮先輩、椎名先輩から着信がきてるのとなにか関係がある?」
と愛ちゃんは大量の不在着信をあたしに見せてきた。
「…あるかも…」
と落ち込むあたし。
「聞いてあげるから話しなさいよ。その為にここまできたんでしょ?」
優しく笑う愛ちゃん。
あたしは先程あったことを頭に浮かべて整理する…紅茶と優しい愛ちゃんに落ち着きを取り戻し冷静になってきた頭で愛ちゃんに話をする。
「うん…ありがとう愛ちゃん…。実は、颯斗が予備校から女の人と出てきたの…」
と思い出してまた涙で潤むあたしに
「え?あの椎名先輩が?…信じらんないわね」
と愛ちゃんもびっくりした様子だ。
そうなのだ。そのぐらい珍しいことなのだ。
「だよね…?あたしも最初ビックリしちゃって…そしたらその女の人と普通に笑いあったりしちゃってて親しげだったの…。あたし以外の女の人にあんな顔してる颯斗初めて見たから…びっくりして…動揺して…」
とさっきのことを思い出し落ち込むあたし…。
「まぁそうよね。あたしだって想像できないもの。唯の気持ちもわかるわね〜」
と納得顔の愛ちゃん。
「それでね…あたしが予備校に来たのを喜んでくれなくて…今思えばたぶん心配してくれてたんだけど…女の人がいるからなんじゃないか…とか、見られたくなかった?とかその時はあまりにも動揺しちゃって…色んなことが頭をよぎっちゃって…悲しくて酷いこと言って逃げてきちゃった…。あたしが悪いよね…。」
冷静になれば何も聞かずにただ一方的に泣いて怒って逃げたあたしは最低だ…。
と、反省する…。
あたし、颯斗が他の女の人と仲良くしている姿に免疫が無さすぎるんだ…。
と冷静になればなるほどあたしが悪い…。
「そうね、ちゃんと話はするべきだと思うわよ?しっかり解決させなさい?」
と優しくニコリと笑うと愛ちゃんは立ち上がり扉を開いた。
そこには直樹先輩と颯斗がいた…。




