第九話 急襲
その時に、急な爆発が起きた。セリナの新入生挨拶の途中だ。
これもゲームシナリオ通りだ。入学式は突如中止され、セリナはその爆発の原因を探るために自ら危険に飛び込んでいくという、ストーリーだ。
そしてここで、チュートリアル戦闘が行われ、ようやくオープニングムービーが終わりを告げる流れになる。
そして、この爆発を通じて。
――窓ガラスが割れる。
そしてそこに飛び込んできたのは。
来た。魔物だ。
大量の魔物が窓を突き破り、講堂内に飛び込んでいく。その数およそ50。
ゲームでは大変だなーなんて他人事だったけれどいざその姿をこの目に移すと、
怖い。怖さで体が震える。
分かっていたこととはいえ、死ぬ可能性も十分にあるのだ。
だけど、震えていたら皆を守れない。私一人のミスで皆が死んでしまう可能性だってあるのだ。
私はすぐに、シエルを抱きかかえる。
シエルを抱きかかえながら、魔法を放つ。火の魔法だ。
火の魔法は即座に魔物に当たり、焼かれていく。
「お姉ちゃん、私戦えるよ」
シエルは叫ぶ。
「そう。でもとりあえずはお姉ちゃんに任せて」
そして、炎球を何個もぶつける。複数個投げるのはあまり慣れていない。だけど、十分に扱えるようで、敵にどんどんと命中していく。
この一か月の間、練習し続けてきた成果が出た。
火球は無事に敵に命中していく。その炎で魔物は奇麗に消滅した。
複数個の火球を見事に命中させられるなんて。私も全然捨てたものじゃないみたい。
メインシナリオではあれらの魔物をセリナが倒して称賛を受け、聖女としての道を歩むというのがメインだ。
そこで、私も関与するのだけど、そこは今はどうでもいい。
本筋と同じ――セリナに対して嫌ないいがかりをするルリア――ことはしない。
問題はこのシナリオで、黒幕がいる事だ。
その黒幕は、この騒ぎを起こし、戦力を確かめるために送った。
そして学院の生徒を幾人か滅ぼすためという目標もある。
さて、今回はその黒幕を捉えたいところだ。
何しろ、ここで倒しておくと些か楽になるのだ。
そして、セリナの方も動き出したみたい。
★
「ジャガーにコブリン!!」
セリナは叫ぶ。
「シャイングバースト!!」
セリナの手から光の光線が放たれる。
その光線は魔物達を次々に捕らえていく。
そして命中し破裂していく。派手な魔法の連発で魔物の数を着々と減らしていく。
そんな中セリナは私の方をちらりと見る。
どういう意図だろうか。分からないけれど、今はそれでいい。
「お姉ちゃん、私も戦えるから」
シエルが言う。
セリナと私。そして、シエルがいれば百人力だろう。
ここで人を死なせるなんて言うへまはしないで済むだろう。
そして、私の手の中から抜け出し、闇の魔力を飛ばす。
その魔力もまた魔物達を次々に倒していく。
私もそれに続き、魔力を飛ばしていった。
それを契機に先生方が飛び出し、「魔物は我々が受け止めます。生徒たちは迅速な避難を」
そう言われ、私達は避難を開始する。
先生の指示に従い、列に並び講堂から出ていく。その流れに続いてわたしたちも避難を開始する。
私は犯人を知っている。でも、その証拠を私は持っていない。
だから、先回りして捕まえる必要がある。
メインのストーリーでは犯人は捕まらない予定だ。裏でチラッと黒幕たちの姿が映り、そのまま消えていく。そんな感じのストーリーだったと思う。
ここで変に解決してしまって、バタフライエフェクトみたいなことが起きたら、どうしようかとは思う。だけど、ここで倒してしまって困る未来があまり見えない。
それこそ派手にバタフライエフェクトが起きるということ以外では。
そう、備えあって憂いなしだ。
この先の戦いで鬱展開もそれなりにある。
それを無くすという意味でもいい効果をもたらすだろう。
「シエル、少しいいかしら?」
「なに?」
「おそらくこの戦いの黒幕がいると考えているの。だから、それを私達で突き止めない?」
提案だ。報連相が大事なのだ。報告相談連絡だ。
シエルの了承を得ずに動くわけにはいかない。
「どういう事?」
そうなるのもうなずける。というよりもこの反応が普通だ。
「私は知ってるの。今とめないと悲惨なことになることを」
多少誇張した表現だ。
だけど、良くはない出来事が起きる事を私はよく知っている。
「なんでお姉ちゃんにはそれが分かるの?」
「なんとなくね、手を打っておかないとって思ったの」
「未来が見えてるでしょ」
「そんなものね」
シエルは押し黙る。
「わたしね」そして小さな声を発す。「お姉ちゃんがただものじゃないこと知ってるよ」
「どういう事?」
「あの日から性格が変わったんだもん。私を助けてくれたあの日から」
わたしがリエラではない事を気が付いているのだろうか。
「でもそんなのどうでもいい。今のお姉ちゃんが言う事は絶対に正しいんだもん」
「買い被りすぎじゃ」
「大丈夫、今のお姉ちゃんと前のお姉ちゃんが同じ科は分からないけど、今のお姉ちゃんの事わたし大好きだから」
健気ないい子だ。
そして問題点がある。
悲惨なというのは未来というのは
避難先に魔物達が現れ、先生が一人殺される。
しかし、セリナと私とシエルで協力して魔物を倒すというシナリオだ。
だが、魔物を呼び出している黒幕。それを先に倒せればこの事態も起きなくなる。
私達は避難先に着いた後、暫くその場で立ち留まった。
そして、じっと向こうを見て、
「あれかしら」そう呟く。そこにいたのは、魔物だ。
こちらを監視しているようだ。私はこれでも図書館で色々と魔物の生命についても調べた。勿論こういった事件が起きた場合のためだ。そこで調べた内容によると。魔物は一部を除いてそこまでの知能はない。
上位種の魔物に限れば、知能は高い。例えばドラゴンなどだ。
だけど、たいていの魔物は、人とは意思疎通を撮る事すら難しい。
この世界のジャガーなどは脳が発達していない。
向こうでこちらを見張っているジャガーもおそらくそんなに知能がないはずだけど。
やはり、本編のストーリー通りに操られているのだろう。
私は少し身を乗り上げる。
そして、ジャガーを睨んだ。
「あれを倒す必要があるのね」
私は呟き、先制攻撃とばかりに攻撃を放つ。
炎弾だ。炎は真っ直ぐにジャガーに飛んでいき、弾けた。
そしてその後には、ジャガーの焼死体が一つ。
更にぞろぞろと出て来る。
私は手をかざし、狙いをつける。
「何をしているの?」
先生が叫ぶ。だけどその生死を無視して私はとにかく魔法を放つ。
ここで援助なんて待っていたらあの先生は死んでしまう。そう言うシナリオなのだ。
私は闇だとか光だとかそんな崇高な魔法は使えない。
だけど、こういった簡単な魔物を屠る力は十分に持ち合わせている。
「何をしているの!!」
先生がまた叫ぶ。
「見てわかりませんか? 魔物を屠っているんです」
「魔物?」
先生が目をやる。
そして、魔法の着弾部分をじっと見る。
「あそこに魔物が」
「魔物なんていないじゃない」
私にしか見えない魔物?
いえ、この先生は確かそこまで魔力のない。学術の先生だ。魔力量の少ない人には見えない魔物なのかもしれない。
ただのジャガーと思わせておいて、ある程度以下の魔力量の人間には見えない様に細工がなされているのかもしれない。
「ハギ先生、実際に魔物が」
そう、生徒の一人が叫ぶ。
「魔力が少ない人には見えないのかもしれません」
良かった。解説してくれた。
「そんな魔物見たことはないのですが」
そして、生徒は呟く。
「という事は、私の周りに魔物達が、どうしましょう」
先生がナーバスに叫ぶ。ヒステリックだ。
そこで大量の魔物がおびき出される。
数が多い。またまた百匹を超えそうな勢いだ。
「私に任せて」
セリナがそう叫び光魔法を放つ。
そして光に魔物達が包まれる。すると次の瞬間、魔物達は消え失せていた。
セレナがいるなら安心だ。本編では不意打ちにより先生一人だけでなく多数の生徒たちが犠牲にあった。鬱シーンだ。
だけど、セリナが本気を出してくれるのなら安心だ。彼女なら油断など無いだろう。
ゲームでの彼女の性格はよく知っているのだ。
彼女に任せれば間違いはないだろう。
「シエル、今の間に」
「うんっ!」
そして私たちはその場を急いで離れる。運よく誰にも見られることはなかった。




