第六話 救世主
私が死を覚悟したその時――
「させない」
そう、声がした。私が慌てて目を見開くと、
男が一気に吹き飛んでいた。近くの柱に衝突していた。
「え?」
私はその光景に目を丸くする。
「助かった?」
でも、誰が?憲兵?
「大丈夫か? リエラ」
そこにいたのはリデアス様だった。
「どうしてここに?」
「今日も出かけてたんだ。だけどよかったよ。君のピンチに駆け付けられたから」
「リデアス様!!」
「名前は呼ばないで欲しい。今日もおしのびなんだ。今日の俺はヒロインのピンチにさっそうと駆けつける王子様ってところかな」
王子様って言ってるじゃん。なんて野暮なツッコみはしない。
この世界で言う王子様という言葉はイケメンのような意味合いで使われるのだ。
少女漫画でいう王子様キャラとかみたいな意味合いの物だ。
「貴様、邪魔をするな」
「邪魔なのは君だ。君はいい加減この世から消えたほうがいい。人に迷惑をかけているのが分からないのか」
「貴様」
リデアス様は手を前にかがす。そしてその手から炎の塊が出て来る。
「あまり手荒な真似はしたくなかった。俺が来たタイミングで諦めて欲しかった。それも今となってはかなわない願いだが」
そして放たれた。その炎は男の体全体をあぶった。
そして、無抵抗となった男対し、とどめとばかりに最後の一撃を繰り出した。拳だ。
その攻撃をくらった冒険者の男は、そのまま気絶した。
「やれやれ、冒険者の品格を落としてほしくないんだが。……さて、こいつは後で憲兵に突き出すとして」
リデアス様は私を見る。
「また会えてよかった」
そう言って和やかに微笑むのだった。
ああ、ずるい。本当にずるい。その笑顔の破壊力は果てしない物だ。
だって、わたしは今結構ドキドキしてるんだもん。
その様子をじっと見られ、気恥ずかしい。話題を変えようと、私は口を開く。
「そう言えばね、この前言ってた子。紹介するね」
そう、私は言った。
「ここじゃ、だめだ」
しかしリデアス様は小さくそう言った。
「ここは目立つ」
確かに、私たちは注目の的になってしまっている。
「場所を変えようか。……とりあえず俺の家に来てくれ」
「え?」
リデアス様の家ってことは、王宮なんじゃ。
でも、元々王宮には行きたいとは思っていた。
紹介するためにこの後王宮に行きたいとシエルに言おうと思ってた。その手間が省けたみたいなものだ。
「分かりました」
そう、私は頷いた。
そして、私とシエルとリデアス様とスザンヌの四名で馬車に乗り込む。リデアス様が普段使っている馬車だ。
緊張する。リデアス様が私の目の前に座っている。
……馬車が走り出しておおよそ10分。
互いに沈黙の時間が流れる。
気まずい。何とか会話をひねり出さなくては。
「お姉ちゃん」
だけど、沈黙の時間を破ったのは私ではなくシエルだった。
「なに?」
「一個訊いてもいい」
「なんでもどうぞ」
「なんで急に私に優しくなったの?」
それは前も言った気がする。
だけど、やはり納得がいかないのだろう。
「普通、あんなに命を懸けて助けないよ。なのにお姉ちゃんは命をなげうって助けに来た。正直嬉しかったの」
「そう」
そう言われて正直嬉しい気持ちでいっぱいだ。
「わたしがお姉ちゃんを怖がるターンは終わったと思うの。お姉ちゃんがわたしの事をまたいじめるなんことないと思うし、それにまず性格が違うもん」
わたしとリエラの性格は全然違う。そのことはシエルも分かったようだ。
「うん。私はあの日変わったの。だからもうシエルを虐める事もないし、今までの償いに、シエルをめいっぱい愛するの」
「そればかり言ってるよね」
「ええ、それが今のわたしの使命だから」
途端、額に痛みが走る。シエルがデコビンしたのだ。
「使命なんて言わないで。わたしはお姉ちゃんとまた一緒に仲良くしたい」
「はいはい、分かったわよ」
そう言って、シエルを膝の上に置く。
「うぅ、え?」
「え?」
「流石にそれは、恥ずかしい」
シエルは顔を真っ赤にしている。あれ、こんなはずじゃなかったのに。
「お嬢様、おろしてあげてください」
「分かりました」
渋々な気持ちではあるけども、シエルを膝の上からおろしてあげた。
「恥ずかしいよお」
その顔を見て、可愛いと思った。
「ほほえましい光景だな」
リデアス様がくちを開く。
「勝手にのぞき見なんてしないでください」
「ここは俺の馬車だよ」
「そうでした」
それにしてもなんでだろうか。リデアス様と話しているとなんとなく和む。
本来は、敬語で話すべきなのかもしれない。
だけど何となく。
私が本来この世界の人間ではないからだろうか。それともリデアス様が優しいからだろうか。
まあ細かい事はどうでもいい。
「それで、詳しい話を聞かせてくれないか? 今の話からしてその子がそうなんだろ」
「はい、そうです」
私はそう答える。シエルがこちらを何事!?みたいな目で見る。
「シエルあのね」
「なに?」
「この人は協力者なの」
「協力者?」
シエルは首をかしげる。
「そう、わたしたちが闇の力について調べてたらリデアス様が協力してくれたの。だからこそあんなデータを手に入れられたの」
そう、私が言うと、シエルは少し笑顔になる。
「それは事実?」
「ええ」
「ああ」
そうリデアス様は頷いた。
「そう言う事だ」
「ありがとうございます」
シエルはそう頭を下げる。礼儀正しい子だ。
顔をちらっと見る。
怯えて顔を下げている感じが軽くした。そう簡単にトラウマは取れないらしい。
そんな時だ。ようやくリデアス様の家、王宮に着いた。




